善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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連載 蕾の開く頃30

怒濤の残暑更新は、これでラストです。
今回こそは真打ちならぬ、隠居連載を…!お楽しみいただけますように(;´人`)




* *


 まだまだ残暑厳しい晩夏の黄昏時、推火郡の山奥に暮らす夫婦は一つの桶に仲良く足を入れながら虫の音を聴いていた。桶の中には、ピダムが川で汲んできた水が入っている。要するに、二人は今、夕涼みの真っ最中なのだ。

「ピダム、りーん、りーんは?」
「虫かな」
「ミーンミーンは?」
「蝉」
「なるほど」

 何がなるほどだ、と言いたくなるような幼い会話だったが、トンマンはピダムの適当な返事に怒ることはなかった。そもそも、本当に虫について詳しく知りたいなら、ピダムよりトサンの方が遥かに詳しい。

「意外だなぁ」
「何がです?」
「お前は植物や獣に関する知識が豊富だから、虫にも詳しいような気がしていたんだが、違った」

 庭に向けていた視線を対座しているピダムにやると、彼はずっとトンマンを見ていたのか、嬉しそうに口角を上げた。

「全く知らないわけじゃありませんが、興味はさほど」
「ないのか?」
「ない」

 きっぱりと言い切られたトンマンは、ぱちぱちと二度ほど瞬いた。

「じゃあ、退屈だっただろう」

 実は、もう半時近く二人はこうしていたし、同じ時間だけトンマンは黙りこくっていた。
 別にピダムに不満があるとか、喧嘩をしているわけでもない。ただ、これまであまりきちんと耳を傾けてこなかった虫の音に興味が湧いて、そちらに意識を集中していたのだ。
 ところが、ピダムはトンマンの気遣いにむしろ驚いたらしい。

「まさか! ちっとも退屈しませんでしたよ」
「そうなのか?」

 他に何か面白いことがあっただろうかと背後を振り返ったが、あるのは家の壁ばかりだ。書物もないし、いったい何で暇を潰していたのだろう。
 トンマンの疑問は、すぐに解消された。

「脚を見てました」
「ん?」
「トンマンが明るいところでこんなにじっくり脚を見せてくれることって、そうそうないだろうから」
「――」

 はたと視線を落とせば、確かに膝上まで……それも、裾が桶に入らないよう太股の半ばまで裾をめくっていた。幸い脚を開いてはいなかったが、十分過ぎる、いや過剰な露出であることは間違いない。頬が熱くなるには十分なほどには。

「そういうことは早く言えっ」

 慌てて膝まで裾を下ろすと、ピダムは至極残念そうに眉を下げた。

「……だから言わなかったのに」
「誰か来たらどうする!」
「ちゃんと見られるより先に気がつきますよ。だから、もう一回」
「だめ!」
「綺麗なのに……」

 そう言いつつ、諦めの悪いピダムはトンマンが握りしめている裾に手を伸ばした。先刻までは触れもしなかったのに、いざ隠されてしまうと、めくりたくなったらしい。
 その手を、冗談じゃないぞとばかりにトンマンは叩いた。

「ピダム、位置を変わってやるから庭を見ろ」
「こっちは背凭れがないからだめです」

 実を言うと、ピダムは椅子ではなく木箱に座っている。よって、彼にはそんな座り心地のよくないものにトンマンを座らせるという選択肢はない。

「もうすぐ日も沈むから、それまで」

 近頃、トンマンに対して敬語とくだけた口調とがざっくばらんに入り交じるピダムは、この時は後者でトンマンに目の保養を求めた。

「それに、もうすぐ涼しくなるだろ? そうしたら、こんな寒々しい格好はさせられないじゃないか」
「……だから、今のうちに眺めておきたいのか?」
「ん」

 もしかしたら、怒るべきところだったのかもしれない。けれども、軽く頷くピダムを前にトンマンが抱いた感想は、
 ――理屈は通っているな。
 だった。確かに夕涼みの間、ずっとピダムに娯楽を与えないのは悪い気もするし、見せたからといって、悪戯をしてくるわけではないのは証明済みだ。それなら、夫の細やかなおねだりくらいは叶えてやるべきか――というわけで、トンマンは危うく桶の中の水面に触れそうになっていた裾をちょっと上げてみた。また、せっかくだからと、自分でも眺めてみる。

(…………面白いのか? これが)

 見てみてわかったのは、郎徒だった頃に比べて自分の太股の筋肉が衰えていることや、全く日に当たっていないためか、肌が生っ白いことぐらいだ。特に、色黒のピダムばかり見ている今は、本来なら喜ぶべき雪色の肌も真っ白すぎて気味が悪い。
 対するピダムは、笑み崩れるわけでもなく、鼻歌でも始めそうなご機嫌ぶりだ。

(可愛いなぁ。白くて、華奢で)

 そもそも、トンマンの脚の触り心地なら、ピダムは今更焦って触らなくてもよく知っている。例え目隠しをされて同じような脚を並べられても、触りさえすれば「これがトンマンの脚」と断言できるくらいには。
 つまり、本当に触る必要もなければ、どうせろくに触らせてもらえないだろうこんな場所での接触も望んでいなかった。それよりも、まるで仔鹿や仔犬でも前にしているかのような心地でピダムはトンマンの脚を眺めていた。同じ脚でも、ほとんど筋肉で構成されている己の脚とは全く異なる白い脚は、綿雪で作った芸術品に近い――というのが、ピダムの観賞の理由である。ピダムは美術品にはこれっぽっちも関心がないが、トンマンという自然美の至宝についてはたっぷりじっくり見ていたい。
 それはトンマンがピダムの剣を眺める時の感覚に少し似ていたけれども、トンマンはそこまでは思い至らない。というより、見られていると意識してしまった途端に例えようもなく羞恥が込み上げてきて、それどころではない。まだ虫はりんりん鳴いているけれど、正直、頭に入ってこない。
 どうしようかな、と気詰まりになってきた時、はたとトンマンの脳裏に「名案」が閃いた。

(そうか。ピダムが私の脚を眺めているんだから、私もピダムの脚を眺めればいいじゃないか)

 よし早速、とトンマンはピダムの膝を見物してみた。ピダムもまた、膝までは裾を折りめくっていたのだ。
 しかし。

(………………ちっとも愉しくない)

 現実はそう甘くはなかった。ピダムの膝が悪いわけではないし、ふくらはぎの逞しさなど、羨ましい点はある。……あるのだが、だからといって、それを眺めて愉しくなれるわけではなかった。
 思わずへこたれそうになったトンマンだったが、「ピダムが愉しいのに私が愉しくないわけがない」と気を取り直して、じっとピダムの膝小僧を見た。……すると、視線は徐々にその膝に置かれた手に移っていった。

(ピダムの手は、きれいだな……)

 掌が剣胝で硬いことは重々承知していたけれども、甲や指がとても繊細なつくりをしていることを、トンマンはまじまじと確認した。
 また、ピダムの手はつくりが繊細なだけでなく、ことトンマンに触れるとき、とても柔らかで、丁寧だ。特に目許に触れるときは、指の背でふわ、とそよ風が吹いたよう。

(私も……そんな風にピダムに触れているのかな……?)

 以前よりは遥かにトンマンから触れることも増えたが、今でもやはり十のうち八、九はピダムから触れられているような気がする。そして、残りの一、二は、愛撫というより、髪を直してやったり、ごみを取ってやったり……いや、そもそも二もあっただろうか?
 考えれば考えるほど、自分はまるでピダムに優しい愛撫をしていない気がして、トンマンはちょっと青ざめた。

(ピダムの脚を見ても愉しくない上、優しく触ってやってもいないなんて……)

 ――もしかしたら、とんでもなく薄情な妻になってしまったのだろうか。



 他人が聞けば惚気もいいところな悩みを抱えてしまったトンマンは、その宵、さっそく愛情深い妻になるべく、湯を使ったばかりのピダムの髪を優しく優しく拭ってみた。ちなみに、日頃はさっさと乾くように聊か手荒く水気を取ってやっている。

「トンマン?」

 しかし、いつまで経っても乾きそうもない拭い方に、ピダムは喜色よりも疑念を見せた。

「トンマン、疲れてるんだろ? 自分でやるから、先に横になってて」
「あ」

 早合点ついでに額に唇がついて、反論の機会を奪ってしまう。おまけに頬にも同じように唇が落ちて、反対側の頬も硬い掌でそっと撫でられた。ということは、やはりいつものように、ピダムが十のうち九は触れたということになる。
 仄かに紅潮してそれを受け入れたトンマンは、顔色とは裏腹に、少しばかり落ち込んだ。

(喜ばれなかった……)

 出来るだけ似せたつもりなのに、どうやら二人の間には明らかな落差があるらしい。
 とぼとぼ寝台に潜り込んだトンマンは、しかし、次なる一手を考えた。

(よし。今日は、ピダムにしがみつかないようにしよう)

 閨を共にするとき、トンマンは大概、最終的にはピダムにすがり付いてしまう。首の根を抱きしめたり、寝衣を掴んだりとやり方は色々だが、まあ、優しくはない。むしろ、ピダムを命綱扱いしていると言ってもいいくらいだ。柔らかく抱き寄せ、それを貫き通した記憶などはない。
 対するピダムは、力強い抱擁をすることもあるけれど、同じくらい、トンマンを優しく抱き寄せた。いつも……いや、大体はトンマンの身体を気遣って、優しい。

(目指せピダム、だ)

 というより、己がいつも感じている幸福を、ピダムにも是非味わってほしい。堪能し、満喫してもらいたい。
 ……というわけで、トンマンは早速、現れたピダムに近寄って彼の背を柔く抱き寄せようとし――失敗した。

「……違う」
「ん?」

 そう、ピダムはすぐに腕をトンマンの背に回し返したのだが、トンマンの柔な力ではどうやら抱き「寄せる」という行為にはなっていなかったらしく、逆にピダムに抱き寄せられてしまっていた。
 おまけに、トンマンのその行動は、ピダムには「熱烈なお誘い」として映ったらしい。

「ピダムっ」

 あれよあれよという間に寝台に押し倒され、すっかり主導権を奪われてしまったトンマンは、夕暮れ時には見物するだけで満足していたはずの場所に触れた硬い掌の感触をどうにかすべく、腕を突っ張った。このままでは、名誉挽回どころか、汚名を重ねてしまう。
 けれどもトンマンのささやかな抵抗を、ピダムは酷く深刻に受け止めた。

「もしかして……嫌……なんですか?」

 さらには夕涼みが長過ぎて身体の具合が良くないのかと明後日の方角から心配するものだから、トンマンは言葉に詰まった。
 ――そうじゃなくて、今夜はピダムに優しくしたいだけなんだが……。
 今断れば、ピダムは確実に落ち込むか、宮医を呼びに走るだろう。優しくしたいだけ、と言えば、自分は乱暴だったのかと勘違いしかねない。どちらもトンマンには容易く想像がつくだけに、下手なことは言えなかった。

「……嫌じゃ、ない」

 結局、こういう時に他にどう言えばいいのか上手い言葉が見つからず、トンマンはそれだけ言って視線をさ迷わせた。

「……」

 ピダムはそれでもまだ訝しげにトンマンを見下ろしていたが、言葉数が少ないのは、照れてしまうと無口になるトンマンなりの賛意の現れであることは知っている。よって、そろりと顔を近づけ、つるんとした額にご機嫌伺いを試みた。

「……ピダム」

 すると、吐息がちな応えと共に柔い腕が巻きついてきて、彼を閉じ込める。そして、その間違うことなき愛情の表れである優しい檻に囚われてしまえば、ピダムの不安は霧が晴れるように消えていく。何を隠そう、ピダムにとっては、この檻こそが我を忘れさせる最大の誘惑だ。
 とどのつまり。トンマンが考えたような不満とピダムは、全くもって無縁だ。けれども、トンマンがそのことに気がつくには、やはりもう少し時薬が要りそうだった。







***

久々の隠居連載…って、一年ぶり!?
と、自分でもビックリしながら書きました(;゚∀゚)
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  1. 2013.09.05(木) _20:00:00
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
  3.  コメント:2
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管理人のみ閲覧できます

  1. 2013/09/07(土) 10:25:06 
  2.  
  3.  
  4. [ 編集 ] 
このコメントは管理人のみ閲覧できます

urekat様へ

  1. 2013/09/08(日) 21:36:11 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
urekat様、こんばんは~v

合宿に研修、懐かしいですー(*´∀`) 野球合宿、お子様がいない間はちょっと楽かもしれませんが、帰宅後は大量の洗濯物が大変ですよね…!お疲れ様ですv

今回の隠居連載はちょうど物語の中の時間と現実の時間がリンクしたので、CMになりそうな画を狙って夕涼みにしてみました。
トンマンの美脚はリンク先でも度々触れられていますし、私も常々「うるわしや…(*´Д`)ハァアア」と思っていたのでw、今回はもうピダムになったつもりで書きました!お楽しみいただけてめちゃめちゃ嬉しいです~vv

一年ぶりの連載、私の方こそ、楽しんで書くことが出来ました(*´∇`*) また次もお言葉に甘えて(すみません。汗)、マイペースに頑張ります!
urekat様、優しいコメントをありがとうございました!v


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