善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 避けられぬ道

↓のSSのトンマンバージョンです。二つで一つ、と言うことで、一度に更新してみましたv
どちらから読んでも問題はないと思いますが、良かったら両方ともどうぞー(笑)
避けられぬ道






* *


 ――哀れみません。私の祖父、父、そして母は、ピダムの母に殺されました。何より、ピダムは私の政敵です。

 チュンチュの残した言葉に、トンマンは何も反論出来なかった。何故か? それは、チュンチュの言い分に理があると、ずっと知っていたからだ。

『お前がくれる安らぎが、私には必要だ。だが、それは正しいことなのだろうか……?』

 ピダムにその身を委ねると決めたあの夜、トンマンはそう訊ねた。女王たる者がその心身を一人の男と分かち合うことを、果たして天は許すのだろうかと。
 その問いに、ピダムは何も答えなかった。それは、答えるまでもなく……互いに、答えは否だとわかっていたからだ。

(そうだ。チュンチュの言葉は、正しい。ただ、心からの哀れみを……国益にならない哀れみを振りかざすことは、王には許されない)

 チュンチュは、王権の掌握に関しては誰よりも鋭敏だった。だからこそ、これまでずっとトンマンの影に甘んじてもきた。トンマンの王としての権威を、権力を損なわせない為に、彼は長い間辛抱し、敢えて楽をしてきたのだ。それを思えば、今や皇婿となり、上大等となって皇位継承権を獲得したピダムに対してチュンチュが戦意を燃やすことは、間違いでもなければ見当外れな望みでもない。……けれど。

(チュンチュは、始めから攻撃的過ぎる。毒をも吸収してこそ人材は得られるのだと言うことを、受け入れようとしない。些細な汚点すら見逃さずに、全てに白黒をつけて、罰すべきか否か裁断しようとする……)

 それでは、従う者は少なくなるばかりだ。トンマンには、それが恐ろしかった。
 確かに、手っ取り早く王権を確立するには、チュンチュのやり方こそが一番の手だろう。しかし、少なくともそれは、三韓一統の後に考えるべきことだ。神国はまだ、ちっぽけな国に過ぎない。高句麗が、百済が、虎視眈々と神国の領土を狙っている。人材を大切にしなければ、この苦境を勝ち残るなど不可能だ。
 もし、トンマンにピダムを生かす大義名分があるとすれば、それだった。

(チュンチュ。お前は、ピダムを使いこなそうとは思わないのか? ピダムほどの器量を持つ右腕を、惜しいとは思わないのか?)

 チュンチュに対して、もしピダムが盟約を破れば刺殺してよいと命じたのは、言い換えれば、ピダムが盟約を守ったなら、ピダムをもう一度登用してみろ、と言うことだ。ユシンやアルチョンと同じように、ピダムは必ず三韓一統の力になる。だからこそ、チュンチュの為にも……神国の為にも、ピダムを助けなければならない。
 その想いを託した指環を握りしめて、トンマンはピダムを庭園に呼んだ。私は間違った道を選んではいないはずだと確信して。

「お前が関与していないのは知っている」

 トンマンが開口一番そう口にすると、ピダムは微かな驚きを見せ、少し哀しげに「陛下」と彼女を呼んだ。
 ――ピダム。どうして哀しげに笑う。どうして……どうして、いつものように「お任せください」と言わない?
 トンマンには、すぐにわかった。ずっと彼と一体になって政務を執ってきたのだ。ずっと、ずっと彼を見てきたのだ。わからないはずがないではないか。……ピダムは、もう諦めていると。
 それを認めたくなくて、トンマンはピダムから視線を逸らした。
 ――違う。ピダム、お前もチュンチュも間違っている。

「だが、お前は失敗した。勢力を掌握出来なかった」

 ――そう、確かにお前は失敗した。だが、お前が掌握出来ないなら、私が掌握してみせる。だから、だからお前も、諦めるな。諦めないでくれ。
 しかし、ピダムはトンマンと一体ではなかった。一度は逃げたユシンよりもさらに容易く、ピダムは生を諦めていた。

「そうです、陛下。もう、私の手には負えません。調査し、真実を明確にして、私を国法に従い厳格に処罰なさってください」
「そうすればお前は傷つく。責任は免れられない」
「ええ、そうなります。ですが、構いません。他に道はありません」

 ――どうして。どうして、そんなに簡単に諦めてしまうんだ、ピダム。
 許されるなら、かつてそうしたように、声を大にして……ピダムの胸ぐらを掴んで、トンマンはそう詰め寄りたかった。どうして諦める。どうして、「生きたい」と言わない。どうして、死んで名誉が獲られるならそれでいいと考える。

「陛下。私は覚悟が出来ています」
「――私が……!」

 ついに堪えきれなくなって、トンマンは叫ぶようにピダムの言葉を遮った。けれども、同時にどこかで何かが告げた。
 ――ピダムを生かそうとするこの想いは……大義名分のない、トンマンと言う女の感傷に過ぎないのではないかと。

「……覚悟が出来ていない」

 もはや、叫ぶことは出来なかった。声高に彼を生かしたいと主張することは、酷く躊躇われた。
 ――それでも、私はピダムを生かしたい。私の……女王の、最後の仕事として。

「陛下……?」

 訝しがるピダムに、トンマンは無理矢理指環を手渡した。彼女がしているものと同じ、女王の指環を。

「……私達は、一つのものを二人で分け合ったことがない」

 一体になって、政務を執ってきた。けれど、いつもいつも、彼らは主従だった。二人の間には身分と言う絶対に消えることのない壁があって、それを消してしまうと言うことは、二人が共に女王でなくなり、上大等でなくなると言うことだった。
 ――私には名がない。そして、ピダム。お前には、家族がない。
 彼の家族となるべき妻が、女王だから。だから、ピダムは一生彼だけの家族を得られない。……それが、トンマンにはとても淋しかった。彼の家族になれない自分が、歯痒かった。
 ――だから、分け合いたい。私は女王だが、同時に、お前の家族なのだと示したい。例え、離れてしまっても……お前は私の家族なのだと。

「どうして……こんなことをなさるのです? まるで……私が遠ざからねばならないような……」

 ――ピダム。そうする以外に、私はどうやってお前を護ればいい?
 皮肉なことに、トンマンはこの時ようやく、父真平王が生まれて間もない自分を王宮から出した時の心情が理解出来た気がした。
 ――哀れなのだ。父上は、私が哀れだから、必死で逃がした。そして……家族の証にと、ソヨプ刀を持たせた。
 結局、トンマンがしているのは、あれほど不甲斐ないと憎んだ父と同じことだった。違うのは、不甲斐ない、何故戦わない……その思いをまだ打ち捨てていないことだ。
 ――私は、父上とは違う。私は諦めない。皆が諦めようと、決して諦めない。

「お前を、推火郡の戦線で山城を建てる責任者に任命する。すぐに出立しろ。そして、徐羅伐のことは、私が処理する。その後で呼び戻す」
「陛下……」
「お前が徐羅伐にいると、事件に関わってしまう。だから、お前がいない間に、全てを終える。私が、解決してみせる。世論が騒いでも、すぐに静まる。そして、お前を呼び戻す」

 トンマンは決意を揺るがさず……いや、敢えて自分が揺らがないように、ピダムが諦めてしまわないように、強く語った。自然と手にも力が入ったが、ピダムは握り返さなかった。
 ――ピダム。お前は、諦めてしまうつもりなのか。私は真平王のようにはならないと……そう、信じてはくれないのか。

「私を……信じるか?」

 トンマンは、じっとピダムを見つめた。ピダムの僅かな瞳の揺らぎも見過ごさないほどに。
 だから、わかった。
 ――ピダムは、私を案じている。
 思えば、ミシルの乱の時も、ピダムには王宮に戻ると告げられなかった。復耶会に潜入する時も、そうだった。何故だか考えたことはなかったけれど。……もしかしたら、わかっていたからかもしれない。ピダムには、ただ私を見送ることなど出来るはずがないと。

「……もちろんです」

 沈黙の後、ピダムはやっと答えを示した。信じる、諦めないと誓ってくれた。
 しかし、時間をかければピダムの考えは変わる可能性が高かった。初めてピダムに助けられた時も、比才の時も、ピダムは彼女の為に、彼女の予想を裏切る形で自ら危険に飛び込んだ。今度はそうはならないと、どうして言えるだろう。放っておけば……徐羅伐に置いておけば、ピダムは必ず自ら刃の群れに突撃していく。
 ――だから、私はお前を遥か彼方に追いやる。
 近くでは、いつ戻ってくるかわからないから。いつ戻ってきて、トンマンの預かり知らぬところでその命を危険に晒しているか、わからないから。だから、彼に役目を与えて、命令を下して、遠ざける。

「急いで出立しろ。皇命は後で位和府に下しておく」

 ところが、トンマンがそのまま離そうとした手を、ピダムは反射的に掴んだ。ピダムの双眸は、強くトンマンに訴えかけていた。
 ――私を遠ざけたら、誰があなたの為に泥を被るんだ?
 そう、訴えているようにトンマンは感じた。長年、トンマンに代わって悪役に徹してきたピダムなら、そう思うだろうと。
 だから、トンマンはほんの少しだけ微笑んで、その問いに答えた。
 ――私が、泥を被る。
 どうしてと訊かれれば、こう答えただろう。
 ――ピダム。お前にミシルの残党を任せたのも、お前に貴族勢力の掌握を託したのも、私だ。私の決断が、お前を窮地に追いやった。ならば、今こそ私はお前への借りを返す為に、泥を被るべきではないか。

「早く行け」

 そして、トンマンは敢えて自分から手を離した。
 ――この十年、私はこの手に頼り、慰められて生きてきた。お前は、本当に、私に楽をさせてくれた。

(だから、ピダム。私は今、お前の手を離す。お前に甘えず、頼らず、この手でお前を護ってみせる。お前の主として。お前の妻として。……お前の、家族として)

 去り行くピダムを見つめながら、トンマンは誓った。絶対に父のようにはならない。ピダムを遠ざけなければならないと判断した以上、決して諦めないと。

「ピダムはどうなさるのです、陛下。何故彼に逮捕命令を下さないのですか」

 その夜、矢傷による苦痛にも負けずに鋭く斬り込むチュンチュを前にしてもトンマンが揺るがずにいられたのは、その決意があればこそだった。

「お前は、今回の件にピダムは関与していないとよく知っているはずだ」
「お言葉ですが、今回の件は、ピダムがいなければ起こらなかったことです。今ピダムを排除しなければ、いずれピダムは大きな脅威になるはず」

 チュンチュはあくまで攻撃を緩めるつもりはないらしく、トンマンに対して同情的な素振りは一切見せなかった。それどころか、チュンチュはまるでトンマンがピダムを逃がしたことを見透かしているかのように、憎悪に満ちた眼差しでトンマンを睨み付けていた。
 ふと、トンマンにはそれが可笑しくなった。何かと無気力を装い、「全力」と言う言葉がおおよそ似合わない素振りを示してきた甥が、初めて全力で彼女を憎み……ピダムを敵視していることに。

「お前はピダムが恐ろしいのだろう。違うか?」
「――」

 口達者なチュンチュは、その問いに対しては、珍しく返答に窮した。それが答えだった。――チュンチュは、ピダムの才覚と器量……そしてトンマンが彼を決して諦めないと言うことを、誰よりも痛烈に理解していた。

「だが、今、ピダムは勢力を失おうとしている。勢力を持たない人間が、何の脅威になると言うのだ。どうして、無実の人間を破滅させなければならないと言うのだ。チュンチュ、お前は何を恐れている?」

 ――私はピダムを諦めないが、同時に、三韓一統を成し遂げることが出来る王はピダムではなくチュンチュだと考え、その意を繰り返し示している。それなのに、何故チュンチュは私をより憎悪するのだろうか。

「私の命令なしに、ピダムに手を出すな」

 チュンチュは、またしても何も答えなかった。トンマンもまた、その為に我が意を曲げるつもりは更々なかった。
 二人は共に、自らの王権を懸けて、避けられない道を行くことを決していた。



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  1. 2013.04.22(月) _18:00:01
  2. SS(ドラマ準拠)
  3.  コメント:2
  4. [ edit ]

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comment

緋翠さんへ

  1. 2013/04/24(水) 22:22:21 
  2. URL 
  3. あき 
  4. [ 編集 ] 
緋翠さんこんばんは(^w^)……ああもうご無沙汰過ぎてなんて切り出していいやら迷います(゜∇゜)
実は何度かコメントを書き込んだ事があるんですが、組織の陰謀により(笑)拒否られたり、せっかく書いたコメントを自分のミスで消してしまったり←書いてる途中で電話がかかり慌ててセーブし損なったという(笑)……どうもタイミングが悪く、今更ながら今年初めてのコメントとなってしまいましたf^_^;すみません!

『進むべき一本の道』『避けられぬ道』どちらも素敵なお話でした。素敵だけれど悲しい…あの指輪の別れのシーン。
ドラマの展開が早すぎて、二人の気持ちが寄り添いあって結ばれてからwあっという間にあのシーンになってしまったので、初見の時は何で?どうして?と驚くばかりでした。でも今になって、緋翠さんのSSで補完して下さったたくさんの言葉のおかげで二人の気持ちに近づけました。

『だから、分け合いたい』『お前の家族なのだと示したい』そんなトンマンの気持ちがその指輪に込められていた事、ピダムに伝わっていたらなあ…(ToT)
あと一言ずつ二人が自分の気持ちを言葉にしていたら結末は違っていただろうに……。最終回のあとの何とも言えない気持ちを思い出しました。でもこの焦燥感が善徳熱のきっかけになったので、初心を思い出させて頂く事にもなりましたwありがとうございます(^w^)

いろいろご心配おかけしていますが、今年もどうぞよろしくお願い致しますw←今頃ですが(笑)

あきさんへ

  1. 2013/04/28(日) 11:04:44 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
あきさん、こんにちうわーいvvv

> 緋翠さんこんばんは(^w^)……ああもうご無沙汰過ぎてなんて切り出していいやら迷います(゜∇゜)

そんな御無沙汰でしたっけ…!!? あれ、なんだか普通にコメントをやり取りしていたような気がしていました(爆)←週に何度もあきさんのブログを見ているので、そこら辺の記憶が曖昧ですw
そして、まだ組織の陰謀があきさんを阻むんですかー!・゚・(ノД`;)・゚・なんでしょう、何がいけないんでしょう…!?(迷惑コメント防止の為に、幾つか禁止ワードを設定しているので、それが原因かもしれませぬ…)
あきさん御自身も大変な中、何度もチャレンジしてくださってありがとうございますー!めちゃめちゃ嬉しいです(*´∀`*)ノ

> 『進むべき一本の道』『避けられぬ道』どちらも素敵なお話でした。素敵だけれど悲しい…あの指輪の別れのシーン。

素敵ですよねー、あのシーンv 何度でもテーマにしたくなるシーンです(笑)
そして、このSSを書いた後であきさんの

> ドラマの展開が早すぎて、二人の気持ちが寄り添いあって結ばれてからwあっという間にあのシーンになってしまったので、初見の時は何で?どうして?と驚くばかりでした。

と言う文章を見て、ふと「あ、ドラマの展開が速すぎるのって、正しかったんだ」と思いまして。
SSを書いていて思ったんですけれど、トンマンとピダムって、もう十何年(下手したら二十年w)の長い時間をずーっと『主従』ベースで過ごしてきて、『夫婦』ベースで二人が接した期間って、本当に短い間のことなんですよね。だから、どんなに二人がお互いのことを思い合っているとしても、その考え方には、『主従』ベースの部分がかなり強いんじゃないかと思ったんです。
特にピダムは、ピダムの愛を受け容れる為に一大決心をしたトンマンと違って、それまでと同じようにトンマンを愛し続けているわけで、両思いになったからと言ってトンマンが女王であることは変わらないわけですから、トンマンがいきなり「国法を曲げてもピダムを生かしたい。一緒にいたい」な境地に至るなんて、考えもしなかったんじゃないかなーと…。
そもそも、ピダムがトンマンにくっついていったのは、トンマンに護られたいからではなく「かわいそうなトンマンを護ってやりたい」からですし、そんなわけで、ピダムの反乱に至るまでの決断は、トンマンへの不信感と言うより、トンマンへの忠義を主体とした愛情と、彼の矜持によるものなんじゃないかなーと思いながら今回は書きましたv 

あきさんに楽しんで頂けて、ついでに初心まで思い出して頂けて、もー光栄です!!(*゜∀゜)テンション高い休日になりそうですww

私も今更ですが(笑)、あと半年強、あきさんが楽しく元気に充実した一年を過ごせますようにーvvv


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