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善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS やっとニコニコの日 (『ごくせん』のヤンクミと沢田)

※『善徳女王』に関係のない記事です。次の記事からは通常営業に戻ります!


この夏、久し振りにドラマ『ごくせん』の1と2をチラッと見たら、仲間ゆっきーがとにかく可愛くて(*´Д`*)になりましたw ついでに、松潤がわりとカメラ映りを気にしてないのか、イケメンというより個性的な顔という感じでウケました(殴)(いやその、成宮くんの方が美形に見えたんですよ…!)
『ごくせん』は漫画も大好きですが、ドラマの1と2も楽しかったですねー(・∀・)(3以降は見ていないのでわからないのです。汗) 特に1は結構知った顔があちこちにいて、そういう意味でも面白かったです!

そんなわけで、以下、長々と書き殴ったヤンクミと沢田のSSです。物凄く長いです。ついでにまんがと2の設定が入っているので、矢吹がちょっと出てきたりします。めちゃくちゃな話です。
……それにしても、違うキャラのSSを三本続けて書いたので、果たして書き分けられているのか謎です。←コラ



* *


「じゃ、テメーが見張れば?」

 始まりは、不貞腐れて、考えなしに発したこの一言。
 マジメに暮らして、マジメだからイラついて、休みになったらケンカして。それを弟から聞いて飛んできたヤンクミがあんまり煩いから、自棄になって言ったその一言。それが、所謂『見張り』の始まりだった。

「ハァ? お前、それなら小田切達に頼めばいいだろう」
「休み合わねーし。それに、竜といたら、竜も巻き込んで喧嘩すっけど」

 半分は嘘で、半分は本当。大学に行くと決めた小田切は、アルバイトをしながら浪人して、こつこつと勉強を続けている。予備校やら何やら、融通が利くような利かないような生活で、呼び出せば来るのはわかっていたが、わざわざ邪魔をするのはカッコ悪い気がして連絡は取らずにいる。武田達は、薄情にも仕事にやりがいを見出だしている。……いや、ヤンクミへの恩返しにやりがいを見出だしている、と言うべきか。
 どっちつかずの矢吹独りが、今もこうして問題を起こしている。

「お前なぁ……」

 元担任が小さく苦笑したのは、本気で小田切を巻き込もうとはしていないとわかっているからか。座り込む元生徒の短くなった髪をくしゃりと撫でると、女とは思えない力強さで彼を立たせた。

「スタントマンになりたいんだろ? 痣だらけじゃ腕が悪いって思われるぞ」
「まだ見習いの見習いだし」
「わかってるっての」

 ――スーツは合わない。手に職をつけたい。カッコ悪いのは無理。
 ワガママだらけの矢吹がやっと見つけた目標、それがスタントマンだった。報酬は良くないし、保険もきかない危うさだが、それでもやると言い切ったのは、持ち前の喧嘩っ速さだけが理由ではなかった。

『ハリウッドだったら、一攫千金あるらしーし?』

 オレならハリウッドでもやれるし、とどこから湧いてくるのか絶大な自信を見せて専門学校に入った矢吹は、彼なりに精一杯努力をしている。にも関わらず、未だに荒れている。その理由がわかる元担任は、苦い微笑を浮かべるしかない。
 ――淋しいんだな、こいつ。
 仲間と毎日つるむなんてことは、もう出来ない。仲間は未来に向かって真っ直ぐ走っている。なのに、独り、違うテンションで。それが悔しくて、イラついて。

「で、見張んの、見張んねーの?……白黒つけて下パイ」

 そんな時に現れたのが元担任だったら、甘えたくなっても無理はない。

「しょうがねぇなぁ」

 聞けば、週末、互いの学校が休みの日に顔を見せるだけでいいと言う。勿論、他に用事があれば、そちらを優先すると言う条件付き。だから、会わない可能性も高い。
 それならいいか、と承諾した元担任は、最後にもう一度くしゃりと柔らかい髪を撫でてから、兄を心配しきっていた健気な弟クンに電話をした。



 こうして『見張り』が始まったのが、ヤンクミが二十六歳になって間もない春五月で。それから三ヶ月後の夏八月、大江戸一家の重厚な門の前で、彼女は信じられないモノを見つけることとなった。
 そのモノは、驚きのあまり突っ立っている彼女を見つけるや、視線を逸らさずに歩み寄ってくる。跳ねた黒髪も、強い瞳も、何もかも変わらないまま。

「ヤンクミ、俺のこと忘れちゃったんだ?」

 その声まで、記憶の中に眠らせていたものと変わらない。気がつけば、言葉より先に、頬に雫が溢れた。

「なに泣いてんの」
「っ……沢田!!」

 その雫を拭こうと伸ばされた指が届く前に、久美子は沢田の肩を掴んだ。

「いきなり現れるんじゃねぇ! ビックリするだろ!? いつ帰ってきたんだ、お前!!」
「去年」
「はぁあ!? なんで言わねーんだよ!!」
「ま、イロイロあって」
「イロイロ?」
「そのうち話す。……それより、ヤンクミ、ツレほっといていいの?」
「え?」

 矢継ぎ早の応酬ですっかり沢田に引っ張られていた彼女は、そこでようやく彼の存在を思い出した。今日は日曜、『見張り』の日であった。見張りと言っても、つい一時間前に会って、コンビニで買ったアイスを食べて、それでおしまいという、ただそれだけのことだったのだけれども。

「あ、矢吹悪ぃ! 送ってくれてありがとな。またな!」

 見張れと言うわりには別れ際のあっさりした矢吹なので、彼女もいつも通りに挨拶する。しかし、矢吹は動かなかった。代わりに、「沢田」と呼ばれた男を睨め付けた。

「誰、ソレ?」
「ほら、前に話しただろ? あたしの最初の教え子で、アフリカに行っちゃってた沢田だ。懐かしいな~。二年振りだぞ!」
「二年四ヶ月振り」
「細かいなぁ、相変わらず!」

 どこまでも続いていきそうな会話は、第三者を寄せ付けないところがある。それを敏感に察した矢吹は、ここ暫く鎮まっていたモノが再び蠢くのを眼を細めて実感した。少し前なら、目の前の男にまずは喧嘩を売っていたかもしれない。
 ――けれども、こんなに元担任に面倒を見てもらっていて、今いるのがその元担任の家の前なら、手も出ない。というより、こんなに嬉しそうな元担任は見たことがない。となると、邪魔をするのはちっぽけな良心が痛む。

「……オレ、帰るわ」

 仕方がないから、素直に踵を返す。

「そうか。気を付けるんだぞ、矢吹」
「おりこうさんだから、安心して下パイ」

 いつもはしないけれど、今日だけはと長い黒髪を撫でて、冗談半分に別れを告げて。そのまま去ろうとしたのに、それを見た「沢田」の眼の色が変わったのを横目で見て、思わず噴出したくなった。



「全く、あいつはノリが軽いよなぁ」
「ま、いいんじゃねぇの」

 自分独りが特別だと思っていたら、そうじゃなかった――なんてことは、もうとうの昔に経験済み。それを乗り越えていかない限り、この女の側にはいられないと、嫌と言うほど知っている。

「どうする? うちに入るか?」
「いい。挨拶は済ましてあるし。……ヤンクミ、これから暇?」
「暇だぞ」
「じゃ、うちに来ねぇ? 俺、二十歳超えてるし」
「飲むのか?」
「そ」

 だから、会いたかった女の隣に誰かがいたって、動揺はしない。
 ただ、思う。――もう、猶予はないと。



「……お前、変わったな」

 玄関に入った久美子は、開口一番にそう呟くと、好奇心の塊になって部屋中を見回した。

「明るい部屋にお前が住んでるなんてなぁ」
「その方が便利だから」
「へ?」
「洗濯物が乾きやすいだろ。乾燥機買わずに済む」

 その、やけに所帯染みた理由が益々昔の姿とは違い過ぎてポカンとしていると、洗面所はあっち、と促される。

「ヤンクミ、手」
「……はい」

 オカンか、と内心突っ込みながら手を洗って、うがいも済ませてみれば、今度は冷蔵庫の中を見ていた。それも、缶数本でいっぱいになるような小さな冷蔵庫ではない。おまけに、ちゃんと野菜も入っている。

「……沢田、自炊してるのか?」
「してるけど。夕飯、何喰う?」
「……沢田の得意料理」
「じゃ、パスタだな」

 手馴れた様子でキッチンに立つ元生徒を見て、元担任は急に落ち着かなくなった。
 ――昔は、自炊なんてしてなかったぞ。洗面所だって教えてくれなかったし。
 それが、今では電子レンジまで使いこなして料理をしている。思わずじっと眺めていると、その視線に気付いた元生徒が唇を片端だけ上げた。

「ヤンクミ、グラタン作れるようになった?」
「あ、当ったり前だろ! 余裕綽々だ」
「そ? じゃ、次はヤンクミが作るってことで。材料も買って来いよ」
「ま……任せとけ」

 ――これで、次に会う約束は取り付けた。
 そうとも知らずに無邪気に料理が出来上がるのを待っている姿を見つめて、彼は数年振りに心の底から微笑んだ。

「うわぁ。お前、本当に自炊してるんだなぁ」

 ローテーブルに並んだ二人分の料理を前に、もう何度目になるかわからない呟きを漏らす。熊井や内山らと会う時にも感じていたことだったが、教え子の成長は、時に彼女の想像を大きく越える。
 一方で、教え子はと言うと、見直して欲しくて頑張るのだから、この反応は満更でもないどころか、心踊るものに思われる。日も暮れて、優しい色の光が照らすこの部屋に、初めて愛着が湧いた。

「そういや、お前、アフリカから帰って来てからはどうしてたんだ? 去年のいつ帰ってきたんだ」

 食事を終えて、食器も洗って、缶ビールで乾杯をしてから、元担任は漸く気になっていたことを口にした。聞かれた教え子は、乾杯はしたくせに、口はつけずにじっと彼女を見ている。

「詳しく訊きたい?」
「勿論だ」
「じゃ、言うけど……去年の一月には帰ってきた」
「えっ!? じゃ、じゃあ、お前、それからずっとこっちにいたのか!」
「基本的には」
「なんだよ薄情者~!!」
「やることがあったからさ」

 そこで手にしていた缶ビールをテーブルに置いて、一呼吸。その間に元担任がもう一口飲んだのを見て、語った。

「今、大学に行ってる」
「大学? え、W大か?」
「いや、国立。私大は金かかるし。政経じゃなくて法科に行きたかったから」
「……お前、親父さんの跡継ぐんじゃねぇのか?」
「継がねぇよ。やりたいことは決まってるし。まぁ、親父が納得したのは、最近だけど」
「へぇ……」

 ――これが、沢田?
 なんだか違う人間を見ているようだったが、顔は間違いなく沢田だった。少年の面影はだいぶ薄れてしまったけれども。

「やりたいことってなんなんだ?」
「弁護士」
「えっ! お前が!?」
「無理?」
「や、なれるとは思うけどよ。意外っつうか……アフリカで決めたのか?」

 思うことが多くて、人助けをしたいと願ったのか。くうぅ、やっぱりいい奴だ!……と早合点する元担任を、元教え子はあっさり切り捨てる。

「思いついたのは高三の時」
「え!? じゃあ、なんでそのまま大学に行かなかったんだよ」
「確かめる時間が必要だったから」

 もう手元にある酒は忘れて、言葉の応酬が続く。

「何をだ?」
「傍にいなくても変わらないか」
「んん?」
「んで、変わんねぇなってわかったから、弁護士になることにした」
「……よくわかんねぇけど……お前、慎重だったんだな」
「一生に関わる問題だし」
「うん、そりゃそうだな」

 頼もしいぞ、と頷く元担任は、さっきから全く酒を飲まない教え子のことを、真面目な奴だと誇らしく思っているらしい。
 そして、本当は、今日はここまでしか話をしないつもりだったものの。とりあえず必要なことを話し終えて緊張も解れるや、どうしても言わずにいられないことが次から次へと浮かんできた。

「……ヤンクミは今、何してんの?」
「あたしか? そりゃ勿論、先生だ」
「どこで?」
「……白金」
「白金?」

 そこで、ボソボソと黒銀を退職した話と、白金で急遽数学の講師が必要になって雇われた話をされた沢田は、細かいことまで想像がついて、思わず苦笑した。ついで、昼間一緒にいた青年の気持ちまでわかる気がして、何とはなく立ち上がった。

「沢田?」

 そのまま彼女が背凭れにしているソファーに座って、静かに掌を添えた。二度、三度と、労るようにゆっくりと頭を撫でる。
 ――ホントに、不器用なヤツ。
 誰よりも教師を辞めたくないだろうに、何度も退職に追い込まれるなんて、辛かったはずだ。その責任の一端が自分にあることがわかっているだけに……謝ったら、余計傷つくのがわかっているだけに、沢田は言葉を選びながら想いを伝えた。

「ヤンクミ。俺が弁護士になりたい理由、わかる?」
「……わかんねぇ」

 微かな涙声を隠すように鼻をかむのを見ながら、沢田は一語一語を明瞭に紡いだ。

「俺達のせいで、ヤンクミが理不尽な形で退職させられそうになったから。だから、ヤンクミがずっと教師やれるように、法律のプロになろうと思った」
「沢田……! お前、なんっって先生思いなんだ……!」

 可愛い奴め、と頭を撫で回されることには、やはり悪い気はしない。せっかくキレイにしておいた髪がくしゃくしゃになるのは困り者ではあるけれど。

「沢田が学校の弁護士かぁ」
「違うし」
「え? 学校の為に弁護士になるんだろ」
「俺が言ったのは、ヤンクミの為の弁護士。ま、敢えて言うなら……極道弁護士ってヤツ?」

 その言葉に驚いて振り返った瞳に向かって笑んだ沢田は、さらにとんでもない爆弾を落とした。

「それで、ヤンクミんち……大江戸一家を護る」
「お、お、おま……っ!!」

 あまりのことに咄嗟に言葉が纏まらないのか、何度か唇を閉じたり開いたりした後、ようやく元担任は教え子の為に説得を試みた。

「さ、沢田」
「ん」
「お前の熱ーい気持ち、あたしは生涯忘れねぇ」
「そりゃどうも」
「でもな、だからって、うちにお前が関わるのは許せねぇ。……極道ってのは、カタギの奴が足を踏み入れちゃあならねぇ世界なんだ。お前は、弁護士になれるくらい頭もいいんだ。真っ当な道を歩め」

 その話を、沢田は内心苦笑しながら聴いた。どうせ一蹴されるだろうと思っていたから、別に哀しいとか悔しいと言った感情は浮かばない。ただ、彼女の反応は如何にも昔と変わらなくて、それが心を捻る。
 ――ヤンクミ、俺、さっき一生お前の為に生きたいって言ったんだぜ。
 なのに、彼女の言う「熱ーい気持ち」には、彼の気持ちはほとんど入っていない気がした。

「言っとくけど、俺がヤンクミに会わなかった理由、それだから」
「へ? どういう意味だ」
「会ったら、絶対ぇ反対するってわかってたからさ。親父とやりあってヤンクミともやりあいながら勉強とか、マジで面倒だし」
「……ちょっと待て。じゃあ、お前の親父さんは納得してんのか!?」
「当然」

 ――正確には、一年激闘を繰り広げた末、「お前が何を言おうと、山口先生が反対すればそれまでだ」と半ば諦め、半ば息子の夢が達成されないことを想定した上での承諾だったが、承諾であることは変わらない。あの父親の性格からして日頃は考えられない譲歩だったが、息子が親の反対を理由に彼女に逃げられたくないが為に、承諾を得るまで引かない姿勢を示したのが、効を奏したのだろう。

「なっ、なんで承諾したんだよ! 第一、お前の親父さんは……!」
「代議士だけど」
「余計まずいじゃねぇか!」
「だから、俺は弁護士になって、大江戸一家を合法的な一家にしようと決めたわけ。間違ってるか? ヤンクミだって、昔、京さんがいなくて寂しいって言ってたじゃん。ムショとサヨナラ出来たらサイコーだろ?」
「そりゃ、そうだけどよ……いやでも、やっぱりおかしいだろ!! 沢田、お前なんで自分から要らねぇ苦労しょいこんでんだよ!」
「それは、俺がヤンクミにイカれてっから。今日、改めて確信したんだけど、俺、お前なしで生きるのが嫌みたいだな」
「何ガキみたいなこと言ってんだ。それにな、あたしはいつまでもお前の先生なんだから……ずっといるじゃねぇか」
「じゃあ、ヤンクミは俺がキスしても怒らないんだ?」
「あはは、そりゃ……おい、今なんつった?」

 ――なんか、変なこと言われたぞ?
 小首を傾げていると、すっと沢田が近付いてきた。

「キスして、押し倒して、触っても怒らないんだ?」
「……おい沢田」
「今はしねぇよ。殴られたくないから」
「おい待て、今「は」?」
「そ。まあ、いいって言ってくれるなら、今すぐでもいいけど」
「…………お前、変なモンでも食ったのか? おかしいぞ。なんで変なことばっか言うんだよ。先生をからかってんのか?」
「まさか」

 ここまでも、予想通り。……出来れば外れて欲しかったけど、悔しくも予想通り。
 だが、本番はここからだ。

「――俺、ヤンクミに惚れてんの」
「ゲホッ! な、ブホッ」

 沢田にとっては予期していたことなのか、噎せる背中を摩る手は逸早く差し出された。
 そもそも、彼が二年四ヶ月も再会を我慢したのも、未成年だなんて理由で逃げられたくなかったからだ。特に、去年は二十歳になるにはなったが、同学年にはまだ未成年がいたし、父親はアレだしと、不安材料が多かった。だが今年は違う。ついでに言うなら、元担任の年齢を考えるに、さすがに動き出さないとまずい気もした。

「そう言うわけで、これからよろしくな」
「よ、よろしくって、ゲホッゲホッ!」
「手加減しねぇからさ。俺も余裕ねぇし。……で、訊きたいことがあんだけど」
「なん、ゲホッ、だよっ」
「さっきの男、ヤンクミの何?」
「はぁ?」

 やっと噎せなくなった久美子を見下ろす沢田の眼は、全く笑っていない。明らかに冗談を言う眼ではなかった。
 ――マジ……なのか?
 が、未だに元担任にはピンと来ない。二年振りに会って、いきなりそんなことを言われても、冗談としか思えないし、冗談ではないなら困る。

「矢吹なら、教え子だ。黒銀の生徒だったんだ」
「それで、なんで二人で会ってんの?」
「そりゃ……見張り役になってくれって頼まれたんだよ、あいつに」
「なんの見張り?」
「あいつが自棄起こして喧嘩しないように」
「……なるほどね」

 確かに、考えるより先に拳が出そうなタイプではある。

「沢田、それより、おおお前、マジなのか? ささささっきの、ほ、ほほほほ……」
「惚れてるって?」
「そう! もしかして、アフリカンジョーク……」
「違ぇし。……何、ヤンクミ、俺のマジ話を疑うわけ?」
「べっ、別に、そう言うわけじゃないぞ! お前は頼りになる奴だってわかってるしな。でも」
「サンキュ。わかってくれてるならいいよ」

 どうせ、出てくるのは否定の言葉ばかりと決まっている。それなら、もうこの話題は打ち切ってしまった方がいい――。
 それに、始めから長期戦だとわかりきっていたから、今更どんな反応をされようと傷つかないつもりではいたけれど、やはり面と向かってふられるのは気分のいいものではない。また、そんな気分だというのに、こんなに近くにいても逃げられないものだから、ついつい触りたくもなってきた。いずれにせよ距離を置いた方がいいのだが、せっかく近づいたものをわざわざ遠ざかるのも面白くない。
 仕方がないので缶に口をつけた元教え子を、元担任はまじまじと見据えた。

(……こいつ、ホントに沢田なのか?)

 彼女の記憶に残る沢田は、もっと子供だった。二人の間には五歳の年齢差はきちんと存在したし、沢田は彼女に護られる生徒だった。……いや、護られる一方ではなかったことは否めないが、大事なところでは護ってきたつもりだ。それが先公という生き物だから。
 なのに、たった二年ばかり会わないでいるうちに、相手は生徒という枠に収まらない男に育ったと主張する。

(そういえば……沢田、がっしりしたな。前は本気出せば片手で折れるような身体だったのに)

 片手で、というのは勿論久美子の話だ。

(確かこいつ、八月生まれだったっけ? ってことは、ハタチか二十一か……)

 そこで、おや、と瞬く。……今は、八月ではないか。

「沢田、お前確か八月生まれじゃなかったか?」
「……そうだけど」

 ――まさか、覚えていたとは。
 高校時代、決して誕生日なんて主張しなかったのに元担任がそれを覚えていたことに、彼の鼓動は一気に速くなった。

(……ってか、反則だろ。今ここで、それを言うって)

 わかっているんだろうか。ついさっき、告白してふられたばかりの男に、そういうことを持ち出すことの惨さを。

(嫌でも期待するだろ、普通……)

 思ったより脈はあるとか、案外近いうちに口説き落とせるんじゃないかとか。単純と言われても仕方ないけれど、それぐらいは考えさせて欲しい。

「なあ、何日だっけ? 半ばだった気がするんだよな~」
「……十二日」
「あっ、そうそう! 『沢田がやっとニコニコの日』だ!」

 ――そんな覚え方してたのかよ。
 普段なら口に出して呆れるところなのだが、わざわざ語呂合わせまでして覚えてくれていたのかと思うと、嬉しくて口許が緩むのを堪えきれなかった。
 慌ててまた缶に口を付ける沢田の隣で、数学教師であるはずの彼女は指折り数えている。

「ちょうど一週間後か。プレゼントくらいは用意出来そうだな」
「……くれんの?」
「当ったり前だろ! お前が進路を……いや、まぁそれは考え直してもらいたいけど、決めはしたんだ。あと、入学祝も兼ねてな」

 なんだか祝い事のごった煮のようだが、「何が欲しい? やっぱご祝儀袋に入った諭吉さんか?」などと悲しくなるくらい現実的なことを言う彼女の好意に、ちょっとつけこんでみたくなった。

「じゃ、一日付き合って」
「は?」
「朝待ち合わせして、一日一緒にいたら、それがプレゼント」

 酔っているから言えたのだろうか。自分でもなかなか大胆だと思うその申し出に、しかし、元担任はあっさり頷いた。

「なんだ、そんなことでいいのか」
「……」

 ――そんなこと?
 言われて浮かんだのは、彼女と週末を過ごすのを当然のこととしている、可愛げのない『後輩』の顔。つまりは、自分とアレにさほど差がないのかもしれないという焦燥だった。
 そしてその焦燥は、すぐに怒りに化けた。怒鳴り散らしたり、物に当たるわけではないものの、隣にいる元担任が殺気を感じる程度の怒りには。

「……おい」
「何?」
「お前の欲しいプレゼントをあげようって話の途中で、なんで急に殺気をばらまいてるんだよ」
「……ホント、お前、そういうトコだけは勘がいいな」

 そうやって適当に茶化しはしたが、なぜという問いには、答えなかった。答えて構えられても困るし、まだそこまで独占欲を露に出来るほど深い関係でもない。

(っていうか、二年四ヶ月ぶりに再会してから、まだ数時間しか経ってねぇんだよな……)

 本当は、もっとぎこちない再会になるんじゃないかと恐れていた。話が合わないのはともかく、テンポが合わないのは困るなと思っていた。ところが、いざ肩を並べてみたら、毎日一緒にいた頃と変わらなかった。黙っていても、心が安らぐ。気持ちいい。……というか、こんなに人と喋ったのはいつ振りだろう。

「なあ、ヤンクミ」

 懐かしいあだ名を呼べば、殺気のことなんて忘れて振り返る。

「来週さ、おさげはなし」
「えー!? 暑いんだよ」
「涼しいところに行ってやるから。それと、メガネもなし」
「視力悪いんだぞ」
「メガネ外してケンカするくせに?」
「うっ……」

 あれはガラスが割れたら危ないから、とモゴモゴ付け足す元担任に、まだちょっぴり殺気を漂わせる元教え子は猶予を与えなかった。

「誕生日プレゼントなんだろ?」
「……まあ、そうだな」
「タダなんだから、それくらいの善意はありだろ」
「うー……わかったよ」

 渋々頷いたのに内心大いにホッとして、沢田は何気なく時計を見上げた。見上げて、瞠目した。

「……ヤンクミ」
「なんだ?」
「もう十一時近い」
「えっ!?」

 久美子も急ぎ腕時計を確かめるや、勢いよく立ち上がった。

「嘘だろ!? そんなに経ってたのかよ」
「悪い、気づかなかった」
「いやいやいや、あたしが悪い。悪いな沢田、空き缶任せていいか?」
「ああ」

 応じながら、彼も鍵と財布を掴んだ。いくら相手が、痴漢に遭えば相手の骨を数本折りかねない『ヤンクミ』だろうと、夜十一時に惚れた女を独りで帰宅させるような真似はしたくない。

「送る」
「いや、いいから片付けを頼む。ホントにごめんな」
「後でやるから」

 半ば無理矢理一緒に外に出れば、多少は過ごしやすくなった夜気が酔いを浚っていく。そのまま、一キロほどの距離を並んで歩いた。

「こんなに近くに住んでたのに、気がつかないなんてなぁ」
「最寄り駅が違うからだろ」

 人気のない道を二人きり、昔々にしたように、肩が触れない程度の距離を保って歩く。自然と元担任の脳裏には様々な思い出が去来した。

「懐かしいなぁ……」
「……ヤンクミ」

 けれども、感傷に浸ろうとした元担任とは反対に、元生徒は未来の話をしたかった。

「今日さ、俺がお前にした話の中で、一番大事な話がなんだったか、わかる?」

 真摯な声だった。だから、彼女も真面目に返した。

「進路の話だろ。任せとけ、来週からお前の未来を正しい方へとあたしが――」
「違う」

 珍しく鋭く久美子の話を切ると、沢田は一度立ち止まり、小さく息を吐いた。

「俺、お前に惚れてる。……それ、忘れないで欲しいんだけど……」

 ――元生徒からの愛の告白は、そんなにインパクトの小さい話なんだろうか。それとも、一度に色々と話し過ぎたのだろうか。
 心底落ち込みたくなったその時、何やらシャツが引っ張られた。

「お、お前、あたしに惚れてるから極道弁護士になるって言っただろ」
「……ああ」

 まさかそんなことをされるとは思ってもいなかったから、相槌が若干遅れてしまったが、そのようなことに気づく余裕は彼女にもないらしかった。

「だからな、進路の話には、お、お前のソレも……あるんだよ」

 別に忘れてるわけじゃない、と非常に小さな声で続けた元担任をじっと見下ろし、沢田は暫し黙りこくった。
 ――もしかして、今、何かすべきなんだろうか。
 抱き寄せてみたり、どこかにキスしてみたり。なんだかそんなことをしても許されそうな雰囲気が感じられて、心臓が騒ぐ。だが、何をするのが一番よいやら、肝心なところがあやふやだ。怒らせたら来週がなくなるかもしれないだけに、ことは容易くない。
 結局、沢田は試しに自分のシャツを掴む手を取り、それを握ってみた。

(……小せぇ)

 自分の肝っ玉か、あるいは握っている手か。どちらともつかぬ感想を噛み殺してまた歩き始めると、振り払われるでもなく、きちんと手の持ち主はついてきた。どうやら、手を繋ぐだけなら許容範囲であるらしい。
 今はその許容範囲が無性に嬉しくて、それからの道のりを、ゆっくりゆっくり歩いていった。







漫画のこの二人はなんやかんやで相思相愛で結婚したので(ヤンクミの告白が素晴らしかった!w)、ドラマでもそうなったら良かったのになーとつくづく思いましたv
なんで矢吹が出たのかは疑問ですが、なんとなく矢吹は無意識の内にヤンクミに母(というより女神とか聖母?)の面影でも見出してそうなイメージがあります(え)
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  1. 2013.09.05(木) _00:00:00
  2. 宝塚とかドラマとか。
  3.  コメント:0
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