善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 三度目の正直(『遙か3』望美+泰衡)

自分の中でのプチ遙か3ブームに乗っかって、もう一本だけ、過去に書いたものを加筆修正してみました。



* *


「泰衡、話がある」

 言うなり、御曹司は勧めもされていない円座にドカッと腰を下ろした。
 そのいつになく腹を据えた様子から、平泉一の仕事人間泰衡は新たな仕事の出現を察したらしい。手にしていた書簡を机上に戻すと、躊躇なく振り返った。

「話とは?」
「泰衡、すまん。俺も手を尽くしたのだが、どうやらお前でなければ解決できない難題のようだ。実は――」

 御曹司こと九郎もまた、泰衡の邪魔をしたことを手短に詫びるや、さっさと用件に入った。そして、その『用件』を聞いた泰衡は、ただでさえ消えない眉間の皺をより深くして、軽く腕を組んだまま、静かに静かに瞼を閉じた。こめかみには青筋を立てながら。



 紅葉見物から始まった白龍の神子一行の平泉滞在は、早いものですでに半年以上の長きに及んでいる。その間、鎌倉と戦うという、かつてない切迫した事態に平泉と泰衡が直面したことや、その際に白龍の神子たる望美が大いに活躍したことは否めない。
 しかし、泰衡の考えでは神子と彼の間にはそれ以上の関わりはなく、数えるほどしか言葉を交わした記憶もない。だというのに、九郎が言うには、神子は仲間と共に己の世界に帰ることを拒み、このまま高館にいたいと主張しているのだという。しかも九郎がその理由を問い質したところ、神子が挙げた名は泰衡だった――となれば、泰衡が不機嫌なのも致し方ないだろう。因縁をつけられたも同然だからだ。
 誤解のないように付け加えておけば、泰衡としては神子が平泉に残ろうが残るまいが煩く咎めるつもりはない。客人を数人養うくらいは泰衡の身分なら当たり前のことだからだ。
 では何故泰衡がわざわざ政務繁多な折に神子を訪ねるべく丘の上の高館まで出向いているかと言えば、九郎に迫られたからだ。いわく、「まさかとは思うが、望美と言い交わしているのか」「望美がそう言ったわけではない。だが、あいつに残る理由を聞いたら、お前のためだというんだ」「いや、非難するつもりはない。だが、はっきりさせておいた方がお前のためにもよいだろう」云々。
 九郎が口にした内容には泰衡はやはり呆れるばかりだったが、彼の言い分もわからないではない。ことが言い交わしたなどという類いのものであるなら、神子のとんでもない思い違いの根拠を質さなければならないし、九郎に解決できる問題でもないだろう。ゆえに、

『一度、望美と話してやってくれないか』

 という九郎の言い分に従うのが、泰衡の弾き出した真っ当な結論だった。
 高館に到着すると、あらかじめ銀に訪れを告げさせてあったからか、門前で九郎が何かを小脇に抱えるようにして待ち構えていた。ちなみに、その何かとは問題の白龍の神子だったのだが、泰衡は元々険悪な眼差しを僅かに強めるだけに留めた。今更九郎に対して女人の扱い方について説教をするような無駄は好まない。

「泰衡、わざわざすまんな。望美」
「……こんにちは、泰衡さん」

 渋々連れてこられたことがあからさまな神子は、「そんな大したことじゃないのに」とブツブツ文句を言っている。おかげで、つい泰衡は手にしていた乗馬鞭を掌に当てて鳴らしていた。
 心なしか、神子の背筋がきっちり伸びた。

「御多忙の神子殿を煩わせるのは、私としても甚だ不本意なのだが」
「や、泰衡さん、すみませ」
「あなたが平泉の客人である以上、伺っておかねばならぬことがある。あなたさえよければ、ありがたくその暇を頂戴したいものだ」
「……はい」

 望美はたまに、泰衡はものすごく正直な人間なんじゃないかと思うことがある。言葉はひねくれているが、声音や態度、言葉の選び方には、否応なしに彼の機嫌が反映されているからだ。
 よって、現在不機嫌のパラメーターがぐんぐん上昇中の泰衡の機嫌をこれ以上損ねないよう、望美はさっさと馬に乗って前を行く泰衡に従った。後ろからは、泰衡の護衛役の銀がついてくる。



 泰衡の目的地は高館からそう遠くはない桜の樹だった。二人とも馬は銀に預けて、重たげな薄紅の枝に彩られた大樹の下、人気のないそこで望美に向き直った泰衡を望美は不思議な感慨と共に見つめている。

(泰衡さんと桜って、絶対似合わなそうと思ってたけど、こうして見ると案外綺麗かも……)

 顔面偏差値の高い八葉に囲まれてすっかり忘れていたが、泰衡の容姿は端麗だった。表情は最悪に近かったが、顔立ちも長く滑らかな黒髪も、こんなに整っている男の人ってそうそういないんじゃないかなと望美は思う。
 対する泰衡は、今更望美の顔を見て何らかの感慨を催すような人間ではない。よって、彼はさっさと本題に入った。

「まずは、神子殿はこの平泉にいつまで滞在なさるおつもりか、伺いたい」

 泰衡の尋問(望美はこれが質問だなんて可愛いものだとは到底認められない)にも嫌々ではあるが少しは慣らされてきた望美は、ここでちょっと減らず口を叩いてみた。

「まずは……ってことは、他にも質問がたくさんあるってことでしょうか……」
「あと一つだけだが、あなたが増やしたければ、御随意に」

 書面でなされるがよかろう、とこちらの文章に精通していない望美は見事に返り討ちに遭い、致し方なく望美は尋問に応じた。

「いつと言われても……」

 と、そこではたと望美の脳内で危険信号が鳴り出した。もしかして。もしかしてこれは、遠回しな退去勧告なのだろうか。さっさと出ていけという、泰衡の命令なのだろうか。

「や、泰衡さん!」
「……何か?」
「あの、私が居候だってことは承知してます。だから、家賃とか、お金を払う必要があるなら働きますから、出ていけというのは少し待ってくれませんか……!」

 すると、泰衡は一寸瞠目し、ついでそれはそれは大きな嘆息を漏らした。

「……神子殿。俺がいつ、あなたに高館を出ていけと言ったのだ」
「えっ?」
「言ったはずだが? あなた方は平泉の客人。そもそも神子殿は、この泰衡が無一文の落人から金銀を搾り取るほどの礼儀を知らずだとお思いか」

 泰衡の言葉の中には、無一文の落人とか、礼儀とか、聞き捨てならないものも山ほどあったが、ひとまず望美はポカンと間抜け面をさらした。

(え? これって、泰衡さん、私たちくらいは養うから心配するなって言ってくれてるの?)

 回りくどい言い方ではあったが、泰衡のくどくどしい台詞を纏めるとそういうことになる。
 理解するや、望美を言い知れぬ感動が襲った。

(泰衡さんって、本当に九郎さんの友達なんだ……)

 友達でなければ、友情がなければ、九郎たちはともかく、望美のような今や何の役にも立たない元神子にまでこんな風に自ら言い聞かせてくれるわけがない。泰衡は平泉を護りながら、九郎とその仲間たちまで護ろうとしているのである。
 やっぱり、と望美は思った。やっぱり、泰衡さんのために平泉に残りたいと。だから、望美は泰衡の問いに答えるべく意気込んで言った。

「いつまでかははっきりわからないんですけど、今、私は泰衡さんの力になりたいんです。まだ怨霊がいたらどこまででも追いかけて浄化しますし、泰衡さんが平泉のために戦うなら、私は泰衡さんを護ります。だから、高館にいさせてください」
「――」

 その瞬間の泰衡の顔は、なかなかの見物だった。驚愕と呆然が交差し、まるでこの世ならぬものを突然目の当たりにしたかのように上から下までまじまじと望美を見、どうやら彼女が本気で今の言葉を吐いたのだと確信するや、巨大な溜め息を容赦なく溢して眉間に亀裂を走らせたのだ。

「神子殿……」
「はい」

 にこっと笑って泰衡を見上げる神子を前に、泰衡は暫し言葉を探した。できるなら、
 ――神子殿は、私に恋でもしておいでか。
 と盛大に皮肉ってやりたかったが、眼下の神子を見るに、どうやらただならぬ好意を寄せられていることは疑いようがない。
 しかし、好意を向けられる理由がない。事実、泰衡はこの神子とほとんど話をしたことはないし、神子もわざわざ柳ノ御所まで来て泰衡と関わりを持とうとはしていない。いったいぜんたい、何故この少女はそのような希薄な関係しか持たない男に対して、我が命を賭けるようなことを口走っているのだろうか。泰衡には、その感情が、理屈がわからない。
 その時、ふと思いついたものがあった。

「……どうやら、神子殿は感傷に耽っておられるようだ」
「えっ?」

 泰衡の見るところ、神子という肩書きを持つこの少女は、よくいえば純真、直載にいえば気質が幼い。ものに感動するとそれを自制できず、熱情を行動に直結させる、そういう人間らしい――と、これまでの少ないながらもそれなりに濃密な付き合いの中で判断している。
 つまり、泰衡を護りたいなどという妄言も、大社での出来事があまりに刺激が強かったがために、泰衡を何かしら悲痛な生き物と勘違いしたのではないだろうか。神子の八葉への接し方を見るにそれは有り得ることだと泰衡は思い、彼なりにそう語った。
 望美は泰衡の言葉を咀嚼するのにやはり多少の時間を要したが、理解するや、真正面から泰衡を見返した。

「そうかもしれません。でも、私の気持ちは変わりません」

 今度は泰衡が驚く番だった。

「私はこれまでも、大切な人たちを護りたいから剣を持ちました。今、泰衡さんもその中に加わっただけです。っていうか、一番危なっかしいのは、やっぱり泰衡さんなんです」
「神子殿」
「だって、泰衡さん、自分のことはどうなってもいいって思ってるでしょう? 平泉さえ護れるなら、死んでもいいって思ってませんか」

 泰衡はついに押し黙った。それは、神子とはいえど所詮は小娘と思っていた望美の瞳から、思いもかけない色が覗いたからだ。

「八葉の皆も、そうでした。いつも、最後は自分の代わりに生きろって……」

 ――私は、そんなの、認めない。
 望美は穏やかに、けれども揺らがずに言いきった。不思議と、泰衡はその声音に、平泉を守護する雄大なる北上川が重なった。そして、唐突に理解した。望美が、八葉の死を経験しているということを。

(我ながら、呆れた考えだが)

 そもそも、望美はこの世ならぬ世界から現れたのだという。ならば、他の者が見れないものを見ているとしても、なんら不思議はないではない。
 この瞬間、泰衡は望美に宿る『奇蹟』を信じた。というより、信じてこそ、泰衡の中で白龍の神子なる奇蹟とこの望美という少女が結びつき、一つになった。瞼を下ろしてそれを確かめれば、これまで感じていた違和が、陽光に融かされる雪のように何処かへ流れていく。

「……承知した」

 泰衡にとって、一瞬にも数日にも思われるようなひとときの後、泰衡は初めて望美の言葉を受け入れた。受け入れ、「ならばこれ以上問うことはない」と言って踵を返した。

「えっ?」

 望美は、言い足りない。

「承知したって、え、泰衡さん? イヤミとかないんですか?」
「……」

 仕方なく、泰衡も嘆息と共に立ち止まる。想定していた時間よりもまだ早かったからだ。

「あなたは俺を護りたいと仰ったが、本心は違うようだな」
「そ、そんなことないですって! でも、あの、泰衡さん、大丈夫ですか。物わかりが良過ぎて怖いんですけど」
「ほう」
「あ、いえ、今のは失言でした」

 喋りながら、望美は戸惑いを隠せない。泰衡が望美のやることをあっさり受け入れたことも、こんな風に望美の軽口に付き合ってくれることも、白昼夢じゃないかとすら思う。
 だというのに、望美の口はせっかくの機会を逃して堪るものかと意味のない言葉を紡ぎ続けている。泰衡も、何故だかそれに適宜応じている。
 ――泰衡さんって、こんな風に喋る人だったんだ。
 実は望美にとって、ここにいる泰衡は三人目の泰衡だ。はじめは銀を助けたいとそればかり望んで、二度目の平泉でようやく望みを果たしたとき、夜桜の下でふいに泰衡の行く末が気掛かりになった。そして、結末を見た。彼の、死という結末を。
 だから、望美が三度目の冬を平泉で越したのは正真正銘泰衡のせいだ。なんで勝手に死んでしまったの、と泰衡に向かって憤りながら、望美は時の白波をこえた。こえて、今こうして泰衡と向かい合っている。
 ――なんか、不思議。
 と、望美は初めて自分の運命を客観視した。
 望美は確かに泰衡に怒っていて、それは彼の全てに対してで、だから死なせないわと必死で泰衡を護ってきたわけだが、考えてみればこんなおかしなことはない。むかっ腹の立つ男なんて、放っておけばよいではないか。死に物狂いで助ける理由などないはずだ。
 今の今まで、望美はその矛盾を無視してきた。というか、矛盾に気づかなかった。気づくより先に、泰衡がまあ上手いこと怒らせてくれるのだ。

(あれ? じゃあ私、なんで泰衡さんのことで、こんなに必死になってたんだろ)

 と、そこまで思い至ったとき、銀が静かに現れて、「泰衡様」と控えめに声をかけた。刻限なのだろう。それほど、望美と泰衡はとりとめもないお喋りをしていたらしい。

「それでは、神子殿。失礼する」

 泰衡はもう常の仏頂面に戻っていて、漆黒の外套が翻った。望美は思わず、その外套に手を伸ばした。

「あの、泰衡さん、一つお願いがあります」
「……まだ何か?」
「私、たまには柳ノ御所に行ってもいいですか? 泰衡さんに会いに行っても」

 泰衡は本日何度目かの瞠目をして、また嘆息もして、銀を見た。

「時が惜しい。私の馬をここへ」
「はい、泰衡様」

 暗に人払いをされたと悟らぬわけがない銀は、もうすぐ傍に馬を連れてきているだろうに、殊勝に引き下がった。
 そして泰衡は本当に時間が惜しいらしく、珍しく嘆息もせずに望美を振り返った。

「あなたがそう望むなら、好きにすればいい。必ず俺がいるとは限らないが」
「えっ? 泰衡さんって柳ノ御所で暮らしてるんじゃないんですか?」
「常の居所はそちらにあるが、伽羅の御所の他、居所は幾つかある」
「そうなんですか……」

 知らなかった、と呟くと、泰衡が何やら珍味でも食べたかのような顔をして、腕を組んだ。

「……神子殿」
「はい」
「あなたがお望みだというなら、柳ノ御所にあなたの居所を設えさせることはできるが」
「えっ?」

 柳ノ御所は、広大である。平泉の政庁と総領の御所を擁するのだから当然といえばその通りなのだが、ゆえに、泰衡の邸宅に当たる部分の殿舎も幾つか余っていた。そのうちの一つに望美の居所を設けようかと泰衡は言っているわけだが、言っている当人が、己の言葉に驚いていた。何せ、望美の居所を泰衡の邸宅内に設けるということは、内外に泰衡と望美がただならぬ関係にあることを触れ回るようなものだからだ。
 しかし、現実にはすでに問いは発せられたし、泰衡はそれを否定しようとはしていない。――泰衡自身まだ気がついていなかったが、毒舌家のこの男は、一度気を許した相手にはとことん溺れてゆく性癖の持ち主なのだ。現に今、彼は雪崩のように望美に全てを許しつつある。
 いや、全てを許すという言葉は、正確ではないかもしれない。泰衡のしていることは、言ってしまえば、望美を生涯手元に置いておくための一手に過ぎないからだ。
 彼はこの短時間の問答で、望美という人間を欲した。ゆえに、それを我が物とすべく頭を働かせ、弾き出した答えを羞恥も躊躇もなく実行に移しにかかっているだけなのである。そこには、あるべき睦言も告白もない。泰衡からすれば、望美が頷けばそれでよし、拒むのなら次の一手を考えるまでである。とにかく、泰衡はそういう人間だった。

「か、考えさせてください」

 望美は泰衡のそのような性格を全て理解しているわけではなかったが、泰衡の言っていることが何やらただならぬ様相を呈していることはわかる。迂闊に頷いたら、朔や九郎に怒られそうなことも。

「高館の皆にも聞いてみます」
「そうか。では、失礼」

 重大すぎる発言をしたわりには、泰衡は今度こそあっさり引き下がった。銀に、「神子殿を高館までお送りせよ」とは言ったが、それは以前からあることなので、望美もその好意は素直に受け取った。
 ただし、泰衡と別れて少し経つと望美は銀を振り返って言った。「ごめんね、銀、泰衡さんのところへ戻って。高館まではもうすぐだから」と。渋る銀も、九郎の姿を認めれば否はない。

「失礼致します、神子様」

 と、泰衡より何倍も優美に望美に会釈して、銀は去った。

「泰衡はなんと言っていた」

 九郎は高館に入るなり、望美を円座に座らせて問い質した。ずっと気になっていたのだろう。
 その九郎ではなく、床を睨みながら熟考中の望美は、「うーん……」と唸りながら、先刻の泰衡を思い浮かべた。泰衡の発言に含まれた意を望美が知るまでには、些か時を要しそうだった。









銀BAD→銀ED→平泉EDな感じです。(銀マジでごめんなさいすみません。というか、この望美ちゃんは銀と一緒に泰衡のために時空を越えたつもりで書いています。銀は結構泰衡好きだし(え)、ぜひぜひ現代より平泉EDでお願いしたい…!)
ここでは望美ちゃんと泰衡ばっかりですが、銀も含めて複雑怪奇な三角関係になったらいいなーと。んで、重衡さんに戻りつつある銀が望美ちゃんも泰衡も好きすぎて困ればいいじゃないか!…と、ただいま大変アホなことを考えていますw


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  1. 2013.10.05(土) _23:06:26
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