善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

.

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --.--.--(--) _--:--:--
  2. スポンサー広告
  3. [ edit ]

SS くちびるの余韻

SS 犬も食わない』の続編(オマケ)です。合わせてお楽しみいただければ幸いです!v
タイトルがちょっとやらしーですが、内容はどこもやらしくないです。たぶん。←






* *


 ピダムが模範回答に辿り着くには、ちょっと時間がかかった。何故なら、ピダムの口にする「愛している」は、トンマンが思うほど甘美な意図をもって口にしている言葉ではないからだ。
 ちなみに、ピダムがそのようになった原因の大半は、トンマンにある。

『私を愛しているのか? 答えろ』

 ピダムが初めて「愛しています」とトンマンに告白したのは、仁康殿の執務室だった。寝所でもなければ、私的な時間でもなく、トンマンはその告白に対して「神国はどうだ」という、とんでもなく色艶のない返事を寄越した。
 だからピダムは、トンマンが「愛している」という言葉に対して女心をときめかせているとは、考えたことがない。ただ、「愛している」と言うことで、トンマンから「私もだ」と返してもらえたり、頷かれたり、たまには「愛している」と言ってもらえるから、己を歓ばせたい時の睦言の一つに加えてやっているだけだ。決してトンマンのためではないし、トンマンがそれで歓ぶとも考えていない。
 ではトンマンのための睦言は何か。……と言えば、それは勿論決まっている。

「トンマナ。俺のトンマン」

 と、手を変え品を変え名前を呼び、彼女が神国の女王ではなく「ピダムのトンマン」なのだと言い聞かせること――ピダムの考えでは、これに限る。
 この際の重要な点は、身体の接触を伴うことで、それは抱きしめたり口づけをしたりあるいはそれ以上だったりと様々だが、名前を呼び、確かに触れることで、トンマンは神国という翼、あるいは檻から解放されて、ピダムのものになる。それは同時に、彼もまたトンマンのものになるということだ。だから、ピダムがトンマンの名前を呼ぶ時というのは、ただ彼女を呼んでいるのではなく、大概はそこに「愛している」という意を加えている。
 物事には例外もあるので付け加えておくと、ピダムはその他の言葉――例えば、好きだとか欲しいだとか――も、実は睦言の列には加えていない。ピダムに言わせると、「愛している」にときめかないトンマンがそれらにときめくはずはなく、よって、それらはいわば合図として使っている。戦いにおいて、矢を放つ時、突撃する時など、新たな動きがある際には将軍は必ず合図を出す。それと同じことだ。手を握られただけで驚き、抱きしめられると固まってしまうトンマンのために、今からそういったことをするという合図を出してやっているのだ。何せ、合図さえ出せば、トンマンも心構えが出来るからか、ちゃんと反応を返してくれる。
 しかし、それも過去のことだ。トンマンはもう合図を出さずとも意図を察するようになったし、ピダムもいきなり力任せに抱きしめたりはしなくなった。

「トンマン」

 と、いつもより低く艶のある声音で名前を呼び(愛しているの意がここに含まれている)、あとは指先から絡めあって、必要に応じて攻め手を変えていけばいい。トンマンも、彼が馴れてなめらかに触れられるようになってから、喜悦が増したように感じていた。

 ……というわけで、やっと正解に辿り着いた後、トンマンの欲しがった言葉について、ピダムは物申さずにはいられなかった。

「昔は、俺が愛していると言っても、顔色一つ変えなかったくせに」

 先刻、なかなか正解に辿り着かないピダムに呆れ、苛々といじってしまったために乱れた髪を結い直しているトンマンの姿を寝台に座って眺めながら、ピダムはチクリと口にする。トンマンは、手を休めることなく反論した。

「状況が違う」
「心は同じだろ」

 が、ピダムも負けてはいない。トンマンが彼の愛情を欲しがっている――そう確信した今、ピダムはなんとしてもトンマンの心情の変化について詳しく知りたかった。

「じゃあ、あの時も少しは動揺してくれてたのか? 全然そうは見えなかったけど」

 ピダムとしては、現在口にする「愛している」と、あの時覚悟をもって告げた「愛しています」とでは、全く重みが違う。重いのは当然後者で、ピダムとて、それは一臣下が口にしてはならない言葉だという常識くらいは持っていた。

「……」

 トンマンはそこで、少し言葉に詰まった。ピダムには言っていなかったが、トンマンはソルォンに言われなければ、あの質問をしてはいなかったからだ。ソルォンに、

『ピダムのことは陛下次第です。陛下がピダムを揺さぶり、動かしているのです』

 と、あのよくものを言う眼差しで語りかけられなければ、トンマンはピダムの恋心に気がつくことなど生涯なかっただろう。何故なら、ピダムはそれくらい、慌てることなく、淡々と日々の執務をこなし、女王の有能すぎる右腕であったからだ。
 つまり、顔色を言うなら、トンマンのそれが変わったのはソルォンの言葉によってだった。その時初めてピダムの恋心に――彼が独身を貫く理由や、公主だった頃に見せた様々な気遣いに思い至り、トンマンは頬を染め、狼狽えた。ピダムを呼んだ頃にはそのことについて散々考えた後だったので、「愛しています」と言われても、心が乱れることはなかったのだ。
 が、さすがにトンマンも、正直にその辺りのことを話すのは躊躇われた。ピダムがそうと聞くなりまた拗ねて……もしくは拗ねたふりをして、昨夜のような『おねだり』を繰り返されるのは困る。

「動揺した。当たり前だろう」
「『神国は?』って即答したくせに?」

 ――細かいことまで覚えていやがる。
 と、郎徒時代に覚えた悪態と共に内心舌打ちしながら、トンマンは立ち上がった。こうして昔のことでねちねちねちねちとイヤミを言われるのは、さすがに御免被りたい。

「ピダム……」

 ピダムの隣に腰かけ、顔を覗き込む。忽ち目尻を下げるピダムに大いに溜飲を下げながら、トンマンは敢えて唇をほんの少しだけ尖らせた。

「今、愛しているのは、私だけか? お前は私を愛していないのか?」
「まさか!」

 これも一緒に暮らし始めてからトンマンが気がついたことだったが、ピダムには、まず彼が愛されているという事実を突きつけ、その後に要求を口にした方が通りが良かった。

「じゃあ、ちゃんと口にしてくれ。そうじゃないと、私を愛しているのか、ただ傍にいるだけなのか、わからなくて不安になる」

 口を酸っぱくして注釈するが、この暮らしを始めてから、トンマンはピダムの愛情を疑ったことはない。ピダムの熱愛の対象が自分であることは、疑いようのない事実だと思っている。本当は、「愛している」とピダムが口にしなくても、彼を疑ったりはしない。
 それでも、トンマンがピダムに睦言を囁かれたいのには、ピダムの昨夜のおねだりと同じようでいて、ちょっと違う理由もあった。
 トンマンは、ピダムが彼女に愛を囁き、それにトンマンが応えた時、照れ臭そうに一瞬はにかむのが好きなのだ。瞬きをすれば見えなくなってしまうほどあっという間の、無防備な少年の顔が、愛しくてたまらない。それは、トンマンから愛を囁いたときに見せる顔とは少し違っていて、だから、ピダムからも囁いてもらわなければ見られない姿でもあった。

「愛してる、ちゃんと愛してるよ、トンマン」

 そんなわけで、疑われていると思ったのか、慌てて告げるピダムをじっと眺めた後に、トンマンは彼女が見たい顔を引き出しにかかった。

「うん。私も、お前が好きだ。……ピダム、愛してる」

 すると、ピダムはその顔を見せた後、さっさと彼の歓喜を引き出す唇を奪った。彼が思うに、言葉が消えた後も、唇にはまだ言葉の余韻が残っている。その余韻すらも愛しいのに、大気に消えてゆくことがどうしても許せなくて、ピダムはやわらかな唇に宿る言葉を奪い尽くした。












****

短めですみません(汗)
続きをリクエストしてくださった皆様、ありがとうございましたー!(*´∇`*)


関連記事
スポンサーサイト
  1. 2013.10.19(土) _08:46:05
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
  3.  コメント:0
  4. [ edit ]

<<10月19日から25日にいただいたコメントへの返信 | BLOG TOP | 10月1日にいただいた拍手コメントへの返信>>

comment


 管理者にだけ表示を許可する
 




PAGE
TOP

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。