善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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連載『再来』第5話

明日はクリスマスイブ!……んが、気になるのは、フィギュアスケートのロシア選手権というあたり、何か終わっている気がしてなりません…(笑)

続きはダーク連載版ピダムの乱『再来』の続きですv




* *



 スンマンが内省大舎チュクパンからその一報を耳にしたのは、誘いを受けて内省私臣チュンチュの宮にいる時だった。

「下将軍が?」
「はい、公主様。下将軍ウォルヤ公が、司量部に逮捕されたのですが、先に投獄されていた隊大監ソルチと共に逃亡なさったということです。ユシン公も投獄されました」
「そんな……」
「……」

 神国の軍部の中心核である将軍二人が相次いで逮捕され、その上、一人が逃亡したとなれば、それはもはや政変に等しい。思わずリボルを振り返ると、彼も父から何も聞いていなかったらしく、驚きを顕にしていた。
 対するチュンチュは、切れ長の双眸をきつく細めたものの、驚いた様子もない。その表情を見て取ったスンマンは、チュンチュを仁康殿に送り出した後、リボルに向かって密やかに呟いた。

「……チュンチュ公は、陛下の後継者でいらっしゃる。そのはずよね?」
「はい、公主様。皆、そのように申しております」
「しかも、ユシン公の妹を正室にしている。つまり、ユシン公とは一蓮托生のはずだわ。そうよね?」
「はい」
「……それなのに、どうしてあのように……まるで他人事のように冷静でいられるのかしら。焦るものではなくて?」

 その問いにどう答えたものか、判断しかねたリボルは代わりにスンマンの横顔を見つめた。すると、これまで飽きるほど見続けてきた横顔だというのに、その時初めて、二人の間に確かに存在する何かを感じざるを得なかった。
 ――最後の聖骨。
 その身分からして、スンマンがいずれは権力闘争に巻き込まれることはわかっていた。幼い日、まだこの公主を名指しで呼んでいたのを父アルチョンに知られ、「例えお前より幼くとも、公主様だ。常に敬意を払い、お前の命に代えてもお守りせよ」と叩き込まれた時から、スンマンはリボルにとって唯一にして絶対の主だ。……だというのに、それを忘れかけていたのかもしれない。幼馴染のように暮らしてきたけれど、スンマンとリボルでは生まれも課される使命の重さも全く違うのだということに。
 尤も、リボル自身にはこのような意識も自覚もないし、彼自身、細かいことを考える性格ではないから、今はただ幼い日に得た使命を全うしているだけだ。スンマンとの違いについて考察するような無駄を、彼は好まないし、考察すること事態を考えつかない。
 だからこの時も、リボルは二人の間に存在する明確な差を突きつけられても、少しも動揺せずに常の通りに任務を続けた。

「公主様。宮にお戻りになりますか?」
「……いいえ。私、行きたいところがあるわ」

 一方で、そう言って振り返ったスンマンは、不思議なほど活き活きとした眼差しで彼を見ていた。



 不覚にもウォルヤとソルチに脱獄されてしまったヨムジョンは、司量部の獄舎の外で主の帰りを待ち構えていた。この失態をどうすべきか、遅れて密偵を放ったのはよいものの、相手が復耶会ではそれも役に立たない可能性が高い。
 ――女王より、復耶会への潜入を最優先すべきだったか。
 しかし、復耶会は用心深く、伽耶人は伽耶人にしか秘密を明かさない。しかも、伽耶人のうちでもウォルヤの大伽耶人とユシンの金官伽耶人の間には落差があって、前者は後者をあまり信用しない。後者は新羅人と婚姻するが、前者は否だ。それほど念入りにこの新羅社会で浮いている存在が、大伽耶人だった。
 やがてピダムがユシンの尋問を終えて出てくると、ヨムジョンは一目散に駆け寄った。

「ユシンはどうです?」
「ユシンは何も知らなかった。どうやら、復耶会はウォルヤが独りで動かしていたようだ」
「困りました。それでは、捜し出すのは難しくなります。私の密偵ですら、復耶会の痕跡を捕らえるのに苦労しました。復耶会が本気で潜伏してしまえば、二度と捕らえることは出来ません……」

 それもこれも、俺の失態か――。ヨムジョンが唇を噛みしめそうになったところで、ピダムがふっと蠱惑的な微笑を漏らした。

「捕らえる? 誰が捕らえると言った?」
「司量部令?」

 てっきりピダムは復耶会を捕縛、撲滅するつもりだと考えていたヨムジョンは、思いもよらぬ答えに眼を丸くした。
 ――こいつはまた、何を考えている?
 言いたくはなかったが、ヨムジョンは時折、ピダムといると己が馬鹿になったように錯覚することすらある。それがヨムジョンを惹きつけた最大の所以でもあるが。
 すると、その時軽やかな衣擦れの音と共に、一輪の花が舞い降りた――と、ヨムジョンは思った。

「――そちらにいらっしゃるのは、司量部令ですか?」

 声と共に現れたのは、スンマンだった。女王から贈られた蒼穹の色をした衣を纏い、頬は化粧もろくにしていないのに薄紅に輝いている。司量部にはまるで不似合いな公主の登場に、ヨムジョンは瞳を白黒させながら頭を垂れた。まさか、気付かれてはいないだろうが、こんなところに来るほど行動力のある公主だったとは意外なことだった。
 ピダムはスンマンから見れば鬱陶しそうに双眸を細めた後、柔らかく微笑して公主へ向き直った。

「公主様、このようなところへおいでとは」
「司量部令にお伺いしたいことがあって参りました。……よろしいですか?」
「ええ。どうぞこちらへ」

 実は、ピダムとスンマンが面と向かって話をしたのはこれが初めてのことだった。これまでにも顔を合わせたことはあったが、実の父娘だと公表していない以上、女王の配偶者に過ぎない司量部令が公主と個人的に接触することは憚られたし、ピダム自身、接触する機会を持とうと思わなかったからだ。
 それが、こうしてふいにスンマンが訪ねてきた。それが、ピダムの中に古い記憶を呼び起こさせた。
 ――トンマンも、臆すということを知らない奴だった。
 どうやら、離れて育っても、血には抗えないらしい。

「司量部令」

 その時、ピダムの懐旧を遮るようにリボルが一歩前に出た。

「恐れ入りますが、臣の入室もお許しください」
「リボル郎、大丈夫です」
「いいえ。侍衛府令より、一時たりとも公主様をお一人にしてはならぬと命じられております」
「……」

 ピダムはやたらと自己主張の強いスンマンの『影』を一瞥すると、そこに確かにアルチョンの、そしてムンノの血を嗅ぎ取って微かに眉根を寄せ、すぐに口の端を上げた。確かに、かつては四六時中トンマンから離れないアルチョンに苛立ったこともあった。だが今となっては、その護衛がどれほど彼の助けになるかは知り尽くしている。スンマンにとってのリボルがそうであるなら、文句はない。

「好きにしろ」
「はい」

 暫くは、打つべき手もない。閑を潰す相手としてスンマンはなかなか興味深い存在だったから、ヨムジョンを追い払うと、ピダムは機嫌よく司量部令の椅子に腰を下ろした。

「それで、公主様は私に何をお尋ねになりたいのですか?」
「先程、内省私臣の宮にお邪魔していた時に、復耶会のことで司量部に逮捕された下将軍が、隊大監と共に逃亡したと聞きました」
「はい」

 ――スンマンが、チュンチュの宮に?
 ピダムとしては、スンマンが訊きたいということよりそちらの方がよほど重要だったが、それは面に出さずに軽く扇を揺らした。チュンチュの意図を探るのは後でいい。今は、スンマンが何を考えているのか、それを知るべきだった。

「下将軍ウォルヤ公は、上将軍ユシン公の盟友。上将軍は、内省私臣の外戚。つまり、下将軍と内省私臣は、同じ勢力のはずです」
「ええ」
「私は陛下が即位された頃から、内省私臣は陛下の後継者になる御方だと教えられてきました。陛下が即位なさる際も、陛下と並ぶ有力な王位継承候補だったと聞いています。それほど有力な内省私臣を擁しているはずの下将軍が、何故復耶会を存続させるばかりでなく……その罪を証明するかのように逃亡したのでしょう」

 黙って神国に忠節を尽くしていれば、いずれチュンチュが即位した時、ユシンとウォルヤが大権を手に出来ることはほぼ間違いない。だというのに、何故ウォルヤは復耶会を手放さないのか。

「下将軍は、自ら王になるつもりなのでしょうか」

 かつて、ウォルヤの父は大伽耶の太子だったという。ならば、その嫡子であるウォルヤが大望を抱いていたとしても驚くことはないのかもしれないが……。

「ですが、宮中の者で、下将軍に賛同しようとする者は見当たりません」

 現に、ユシンは司量部の獄舎に大人しく入っている。こうなっては、ウォルヤがこれまで神国に尽くした忠節も全く意味を成さないではないか。
 スンマンの疑問を聞き終えたピダムは、一度瞼を下ろした。それから、扇を揺らしてスンマンから視線を逸らした。その口元には微笑が湛えられていて、それを目の当たりにしたスンマンは瞳を望月のように丸くした。
 ――司量部令は冷徹だと聞いていたけれど……。
 こんな風に微笑む人だったのか。けれども驚きを言葉にする前に、ピダムはじっとスンマンを見据えた。その眼光には、確かに人をひれ伏させることの出来る人間だけが持つ力がある。

「公主様は不躾でいらっしゃる。それを、司量部の長である私にお聞きになりますか」
「……はい」
「お答えする前に、私も一つお伺いしましょう。何故、私にお訊ねになろうと思ったのですか?」
「何故……?」

 そう聞かれると、スンマンは弱い。何故なら、彼女がここに来た理由は、昨日の女王との会話を経て、目の前にいるこの人物の話を一度聞いてみたいと強く感じたからだ。そして、女王から聞いた話が自分の名前の由来であるなら、司量部令に訊ねるのは、これがよいと直観した――それだけだ。つまり、纏めるなら、

「……他に、どなたも浮かばなかったので」

 と、言うしかない。
 ――こんな理由じゃ、答えてもらえないかもしれない。
 心持肩をすぼめたところで、司量部令の扇がまた動いた。そして、その扇の持ち主は簡潔に応じた。

「なるほど。では、私もお答えしましょう」
「えっ? 答えてくださるのですか?」
「ええ。そういう約束でしょう?」
「はい……」

 ――私が想像していたより、ずっと接し易い方なのかしら……?
 リボルの反応も見てみたかったが、せっかくの機会に司量部令から目を離したくない。結局、スンマンは居住まいを正して答えを拝聴した。

「問題は、下将軍ではないのです。ああ、付け足すなら、内省私臣でもありません」
「はい?」

 では、誰が問題だというのか。思わず視線を落としたスンマンに向かって、司量部令は悪戯っぽく口の端に笑みを刻んで告げた。

「それ以上のことは、国の安危に関わることですから、私からは申し上げません。ご自分でお考えなさい」

 そうして、困惑するスンマンを、ピダムは丁寧に、けれども付け入る隙を与えず追い払った。



 スンマンが去った後、ヨムジョンにこれからのことを説いて聞かせたピダムは、一度執務室を出た。
 チュンチュがトンマンに対して情勢は常に明白であると告げたのと同じように、ピダムからすれば、ウォルヤの考えることは手に取るように読めた。ウォルヤは変わらない。彼の望みは、伽耶勢力を最大限強大化することなのだから、最終的には伽耶人の血を引く王を求める――ウォルヤの行動は全て勢力争いに端を発するもので、だから予測し易い。
 問題は、ユシンだった。ユシンは勢力に従わない。いや、従わないのではない。ユシンはその頑固さゆえに、勢力を支配せず、また、支配されない。その一方で、ユシンは勢力を守り抜く意志を内に秘めている。
 ――私とは、まるで反対だな。
 ピダムは勢力を支配し、また、支配されもする。だが、支配されると言ってもそれは彼にとって都合のいい時だけで、腹の内では勢力に対する保護義務など感じたこともないし、勢力が邪魔になれば、その瞬間に斬り捨てるだろう。

「陛下。ユシンは首肯しましたか」

 獄舎から出てきたトンマンに一礼すると、ピダムは答えのわかりきっている問いを投げかけた。そして、何も答えないトンマンを見下ろして、口角を上げた。

「私の予想が当たりましたね。ユシンが復耶会を討つなど、有り得ぬことです」
「……そうだ。お前の望みが叶ったな」

 よほどユシンとの会見で不愉快なことがあったのか、疲弊しきった様子のトンマンはそれ以上のことは何も語らずに仁康殿へと帰ろうと踵を返す。ピダムはその背に振り返らざるを得ない言葉を口にした。

「先程、スンマン公主が司量部にいらっしゃいました」
「――何?」

 どうやらこの餌にはトンマンも喰いつかざるを得ないらしい。トンマンは仁康殿へとピダムを連れて帰り、女官のいない寝所にまで彼を連れ込んだ。スンマンのことは、女官の前では迂闊に話題に出来ないからだ。

「スンマンが、何故司量部に?」
「私にお尋ねになりたかったようです。一体、ウォルヤの意図はどこにあるのかと」
「……お前に?」
「ええ。他に誰も浮かばなかったそうです」

 ――まさか、気がつかれたのか?
 トンマンの危惧を察したピダムは、微笑して軽く首を振った。

「気付いてはいませんね、あの様子では」
「では……」
「本人の言う通り、一度、私の話を聞いてみたかったのではないでしょうか」

 ――最後の聖骨として、己を脅かすであろう王配がどういう男であるのか、それを確かめたのでは?
 眼差しで問いかけると、トンマンは承諾し難い様子で沈思した。トンマンから言わせれば、ピダムのスンマンに対する見解は楽観的過ぎるように思われた。

(スンマンは、自分の出生に関して一度も疑いを抱いたことはないのだろうか)

 トンマンの場合は、始めから母親しかいなかったから、父親が誰かはずっと疑問に感じていた。スンマンの場合は両親共に揃っているから、単純に比べることは出来ないが、疑念は抱かないのだろうか。
 スンマンの養父母となったククパン葛文王とその正室ウォルミョン夫人には、実子がいなかった。いなかったからこそ、スンマンが生まれた時、すでに不惑を迎えていた葛文王夫婦にスンマンを引き取ってもらったのだが、物事がわかる年頃になれば、十代で婚姻した二人がその年で第一子を得ることは、有り得ないとは言えないが非常に稀なことだとは判断出来るはずだ。
 いや、それ以前に、最後の聖骨として、そのつもりがなくとも王位継承争いに関わらざるを得ないことをスンマンはどう考えているのだろうか。

(スンマンはもう十八……王位継承問題だけでなく、婚姻についても考えなければならない年頃だ)

 チュンチュは、十五の歳には婚姻していた。スンマンにも、そろそろ夫を探してやらなければならない頃合いだ。そしてスンマンの夫を探すということは、同時に王位継承問題に一定の答えを出すことも意味した。
 その時ふと、体の奥底にふわりと灯りが点った気がして、自然とトンマンは掌を下腹部に添えていた。

(……そして、もし本当に私の体が子を宿しているなら……この子を、どう護ってやればいい?)

 復耶会のことも、スンマンのことも、新しく生まれる子のことも。全てが一つに繋がっていて、切り離しては考えられない。
 だが一方で、トンマンの周囲は、決して彼女の答えを待ってはいない。それを証明するかのように、翌日、司量部が護送していたユシンが復耶会に拉致され、トンマンは一層窮地に立たされることとなった。



 扶余、所夫里。王宮の玉座の前で跪くのは、ユンチュン、ケベクの二将軍。そして、玉座には、黄金に輝く鎧を纏う於羅瑕ウィジャ。諸外国から百済と呼び習わされる扶余は、今、新王に依る初めての遠征を始めようとしていた。

「必ずや新羅を滅ぼし、女王の首をこの手で斬ってくれよう」

 ウィジャは、今年四十四歳。脂の乗った新たな於羅瑕は、太子時代からの宿願である新羅滅亡の大志を胸に、その剣をかざした。
 それを見上げるユンチュンとケベクは、共にウィジャの太子時代からの兄貴分、あるいは弟分だ。彼らは於羅瑕の最も忠実なる僕であり、右腕と言える。そして、彼らもまた、この時を心待ちにしていた。心技を磨き、体を鍛え、戦に勝ち抜くために知恵を絞って来たのだ。

「於羅瑕、万歳! 大扶余、万歳!!」

 ケベクが咆哮すると、後に従う全ての者が雄叫びを上げた。先王時代、何年にも渡ってその宿命を果たせなかった兵達は、今まさにその野望を果たさんと血を滾らせていた。










百済は、『近肖古王』設定から、「扶余」としています。また、サビ城のある都は「所夫里」、王のことは「於羅瑕(オラハ)」と呼んでおります(・∀・)


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  1. 2013.12.23(月) _18:00:00
  2. 迷宮版ピダムの乱『再来』
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<<2013年もありがとうございました~! | BLOG TOP | 12月16日から20日にいただいた拍手コメントへの返信>>

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