善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 成均館(ユニとヨンハ)

ジェシン編に続いてヨンハ編です(・∀・)

※管理人はドラマを途中まで、それもカットバンバンのを早送りしながら見たりもしてるので、内容はめちゃめちゃです。





* *


 成均館は東斎、中二房。ジェシンを捜してやって来たヨンハは、目的の人物の代わりにぽつんと座って書籍を捲るユニを見つけ、眩しげに双眸を細めた後、口の端を上げた。
 ――コロもイ・ソンジュンもいないだなんて、全く珍しい時に出くわしたもんだ。

「師兄」

 ヨンハを見上げたユニは、白玉のような頬をふわっと綻ばせると、素早く立ち上がって近くなった距離で彼を見つめた。その瞳は化粧っ気もないのに美しく整っていて、心地好い。

「コロ師兄なら、だいぶ前に出掛けましたよ。イ・ソンジュンは――」
「ああ、いいいい。イ・ソンジュンには用事はないからさ。そっか、コロはまた外泊か」
「そうかもしれません」
「で、テムル、お前は?」
「見ての通りです」

 彼女の言う通り、眼下には尊経閣から拝借したと思しき書籍が広がっている。少なくともヨンハの見るところ、このユニとイ・ソンジュンには在学中に尊経閣の全ての書籍を読破しようという野望があるらしく、暇さえあれば二人はそれぞれに読書に勤しんでいる。ヨンハはそれに感心する反面、多分にその努力を妨げてやりたい気持ちにも駆られた。

「テムル。お前、少しは遊びたいとか思わないのか?」
「いいえ、全く」

 しかし、返す刀であっさり斬られて、言葉もない。ただこのまま引き返すのは癪に障るので、ヨンハは迷惑だとわかっていてわざと几の前に座り、パッと扇を開きながらそのうちの一冊を手に取った。

「師兄?」

 つられてユニも座り、若干の驚きを込めて彼を見た。ヨンハがこんな風にユニの勉学に興味を示すなど、初めてのことだ。

「ふうん。ここまで勉強してるわけか」
「えっ? 師兄、わかるんですか?」

 口にしてから失言と気がついて慌てて唇を覆ったが、もう遅い。きっちりユニの失言を耳にしたヨンハは、手にしていた書籍をユニに渡すと、ちょうど今開かれている頁の一節をあっさり暗唱してみせた。
 そして、それをぽかんと眺めるユニの隙を衝くように一気に距離を詰めた。

「秘密だぜ?……これでも、昔は『神童』と呼ばれたんだ」

 耳朶をかすめ、鼓膜を震わせる声は低く響く。咄嗟にユニが振り返ればヨンハはいつになく愉快そうに彼女を見つめていた。

「それ、本当ですか?」
「ああ。だから、親父は俺を成均館に入れたのさ。こんな、女のいない牢獄にね」
「でも……」

 ユニの知る限り、ヨンハは神童と讃えられたほどの秀才ぶりをこの成均館では発揮していなかった。勿論、落ちこぼれではないが。

「どうしてって顔だな」
「……はい」
「じゃあ聞くが、お前はイ・ソンジュンを打ち負かしてまで成均館一の秀才になりたいか?」
「いえ」
「どうして」
「それは、目立ちたくないから……あ」
「ま、そういうことだ。まあその道の達人たる俺から言わせると、テムル、お前は悪目立ちし過ぎだな。ただでさえ、こんなに美しいってのに」

 こんな時、ヨンハの手は雄弁だ。いつの間にやらユニの柔らかな頬には男のわりには細い指が触れていて、指の背で羽のように微かな感触だけを残していく。ついでに彼女を見つめる切れ長の双眸からただならぬ気配を感じたユニは、今度こそ無礼を承知でヨンハの腕を掴んだ。
 ヨンハはその行動に少しばかり瞠目したが、その表情はすぐに意地の悪い微笑に取ってかわった。

「ん? どうしたテムル」
「師、師兄。う……腕に虫が」
「へえ? そりゃ大変だ。俺なんかより、柔らかそうなお前こそ危ないな。どれどれ、虫がいないか探してやろうか」
「い、いいですいいです! っそんなことより!!」

 ――とにかくなんとか師兄の気を逸らさなければ!
 その一身で思考を加速させると、折よくヨンハに聞きたかったことが見つかって、ユニは「あ」と居住まいを正した。

「師兄。前から一つ、疑問に思っていたんですけど」

 その鮮やかな変化は、勿論ヨンハは少々お気に召さない。
 ――ちっ。せっかくイイトコロまで追い詰めたのに。
 とはいえ、こんなところでこれ以上悪戯も出来ない。ジェシンが戻ってきたならどうとでもなるが、イ・ソンジュンや他の儒生達に見られれば一巻の終わりだ。

「何を?」

 あまりそのように見られることはないが、結局用心深い性根のヨンハは自身の理性に従ってうさぎを手放した。すると、うさぎはあっさり警戒心を解いて膝を寄せてくる。

「師兄って、コロ師兄のことをとても大切に思ってますよね。……紅壁書のことも、知ってたのに黙ってました。どうして、そこまでコロ師兄のことを?」

 ――ここでコロの名を出すか。
 どこまで意識してやっているかはともかく、あくまでヨンハにつけいる隙を与えないユニに対する愛しいやら小憎たらしいやら整理のつかない気持ちに蓋をして、ヨンハはその身に纏う空気を若干冷たくした。

「お前こそ、急にどうした?」
「だって、もし男色と間違われたら……とかって考えないのかなって。僕とコロ師兄の時みたいに」
「ああ」

 ――なんだ。そんなことか。
 いや、聞く者によっては「そんなこと」などではないのかもしれないが、少なくともヨンハには「そんなこと」だった。

「おいおいテムル。忘れたのか? 俺はヨリムだぞ。誰が俺の男色を疑うって言うんだ?」
「でも、師兄にはこの人って言う恋人もいないじゃないですか」
「あのなぁ、テムル。どうせいつかは妻と言う名の一人の女に縛られるんだ。だったら、今は自由を謳歌すべきだろ」

 しかし、ユニが見るに、そう語るヨンハの瞳はさほど愉しそうでもない。
 ――師兄と一緒にコロ師兄を匿った時は、もっと眼差しに熱があった気がする。

「ねえ、師兄」
「ん」
「師兄とコロ師兄って、昔からの友達なんですよね? どうやって仲良くなったんですか?」
「別に、出会ったその日から仲が良かったわけじゃないよ。俺はコロが嫌いだったしな」
「えっ!?」

 ユニの表情はころころ変わってゆく。その変化に気を良くしたヨンハは、いつの間にやら言うつもりのなかったことまで口にし始めていた。

「俺とコロが初めて会った時、あいつはもう今と大して変わらない暮らし振りだったんだ。反抗の為に生きている、まさにそうとしか表現出来ない奴だった」
「それなのに……嫌いだったんですか?」
「ああ。バカだなコイツって思ったよ。親父の苦労もなんもわかんねぇで、バカしてやがるってね。軽蔑した」
「――」

 ――軽蔑。
 その言葉は、好悪とは桁違いの重みを聴く者に伝える。そして軽蔑の重みは、ユニも体感したことのあるものだった。
 ――女が学問なんて。
 その言葉に込められている感情は、大概が侮蔑だった。蔑み、軽んじ、侮る……まさにそれこそがユニの人生において最も彼女を苦しめる檻と言っていい。
 対するヨンハはユニの顔色が若干青褪めたことを感じ取ってはいたが、敢えて言い訳しなかった。何故なら、ヨンハは当初はユニに対しても軽蔑とまではいかないまでも、気持ちのいい感情などは抱いていなかったのだ。いや、さらに言うなら、ヨンハは成均館の全ての儒生に対してまず負の感情を抱いている。それが好転することは滅多になく、その貴重な例がジェシン、そしてユニだ。イ・ソンジュンは感情的には仲間に入れてやってもいいのだけど、彼が左議政の息子である限り、可もなく不可もなくといったところが望ましい。

「でも、ある時気付いたんだ。バカはバカでも、コイツは命懸けでバカをしてるって。……だから、好きになった。あいつがどこまでバカをしていられるか、俺がどこまであいつを助けられるか、試したくなったのさ」

 だから、ヨンハが語っていることはジェシンへの想いであり、それと同時にほんの少しだけユニへの想いでもあった。が、生憎とまだユニにはジェシンほどの思い入れはない。ないはずだ。

「まぁ考えてもみろよ、テムル。すでにヨリムと称賛される俺にとっては、女を口説くよりよっぽどやりがいがあるだろ?」

 ひどく真面目な話のはずなのに、そう言いながら片目を瞑るヨンハからはそのような固さは感じられない。代わりに、暖かなせせらぎが一筋流れ落ちてきたようにユニの胸に灯を点した。その灯が総身を巡る頃には、自然とユニの頬にも微笑が広がっていた。

「師兄。僕、師兄を見直しました」
「おいこら、テムル。生意気な口を利くなよ」
「ふふ。ねえ師兄、今のお話って、もしかして僕と師兄、二人だけの秘密ですか?」

 ――秘密?
 そんなことは考えていなかったけれども、言われてみれば確かにその通りで、ヨンハは扇でわざと影を作ってユニに囁き返した。

「ああ。これは俺とお前の秘密だ。このヨリムとテムル、二人だけのな」

 何がそこまでお気に召したのか、その言葉にすらユニは本当に嬉しそうに笑って頷いている。そして困ったことに、ヨンハはその笑顔に美しく装った妓生にも感じたことのなかったときめきを覚えてしまう。
 ――おいおい。俺はコロとイ・ソンジュンの二の舞にはなりたくないんだけどな。
 しかも、ユニの想いがどこに向いているのかも察しはついている。第一、南人とはいえ両班の娘なのだ。間違いなく、この女は己のものにはならない。本当の紫禁城が決して彼のものにならないように。
 ――だから、俺はあいつらの二の舞にはならないよ。キム・ユニ、お前を欲しがったりしない。
 だが、ここは成均館。ここにいるのはキム・ユニではなくキム・ユンシクで、優位にあるのはヨンハだ。というわけで、ヨンハはその優位を存分に利用した。

「知ってるか? テムル。秘密を交わしたら、お互いの手をちょっとばかり切って、その血を吸うんだ」
「えっ! そ、そんなことを……!?」
「ああ。相手が秘密をばらさないようにな。ま、俺もこの玉の肌に傷をつけたくないから、切るのはなしだ。代わりに――」

 そこで逃げる隙を与えずユニを捕まえると、ヨンハはさっさとその細い手首を掴んでそこに口付けた。

「師、師兄っ」
「ん? どうせなら、わかりやすく跡でも――」

 が、ヨンハが好き勝手に動けたのもそこまでだった。大きな音を立てて戸が開いたかと思うや、暴風のようにジェシンが二人の間に割って入ったのだ。

「何してる!!」

 隣に丸聞こえだぞお前、と内心突っ込みつつ、ヨンハはわざとらしく不貞腐れた。

「ちぇっ。もう少し遅れて戻れよ」
「テムル、大丈夫か?」
「は、はい」

 が、ジェシンは全く聞いていない。こんな時でもユニ、ユニで、ヨンハを殴り飛ばそうとか、そんな考えは浮かばないらしい。
 広い背中をつまらなそうに眺めていると、その肩越しにユニと目が合った。その目が、何やら語っている。それが、
 ――師兄、さっきのことはともかく、秘密は守ります。
 と言っているように見えて、ヨンハはついつい愚行を働きたくなった。

(やっぱり、これぐらいは……俺はお前が好きだな)

 そう思って身を屈めたヨンハの唇がかすめたのは、白桃の色をした頬。そこにほんの刹那だけ触れて、ユニの瞳を見て終わろうとしたのに、残念ながらジェシンに突き飛ばされてしまったヨンハが見たのは、慌ててユニを背後に匿う大親友の怖い顔だけだった。







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  1. 2014.02.19(水) _19:00:00
  2. 成均館スキャンダル
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