善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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レディ・ベス ~家庭教師は恋人に勝てるか~

生きてます!


……と挨拶しなければならないほど御無沙汰している緋翠です、こんばんはー!
長々と更新がない間も、様々なコメントや拍手をいただきまして本当にありがとうございます(*´▽`*)
あれこれあれこれで5月半ばからほとんどパソコンで文章を打っていないので、どーしたものかと悩みつつ、あんまり放置しているのはあんまりなので、一ヶ月ほど前に勢いで書いたきり、放置していた「レディ・ベス」の感想+αを更新します。一ヶ月放置していたことからもお察しいただけるかと思いますが、ものすごい文句たらたらの感想なので、何とぞ何とぞ寛大なお心で読んでいただけると助かります…!(いやその、『善徳女王』以来女王ものにはうるさくなってしまって、今回も異様に熱い気持ちで観劇したのです(;´∀`))




***


●主人公:レディ・エリザベス(ベス)
19歳とか20歳なのに自称「少女じゃなくて王女」な主人公。宇宙と交信する家庭教師曰く、イングランド1教養ある女性らしいが、スペイン語の挨拶が出来る以上の教養は作中では見られない。完全なる巻き込まれ型主人公で、能動的な行動と言えば、アーティストを寝室に入れたことぐらいじゃなかろうか疑惑。でも可愛いからいいのだ! 主人公だからあれこれ歌っているが、「私だけに」的なインパクトのある曲はない。
余談になりますが、ベスを見ながら思い出したのは、『王家』のアムネリス。あれもまあ父親大好きで、最後は強制的に恋を切り離して王になるわけですが、途中経過としてアムネリスには例え惚れた相手であっても政治的に納得のいかない部分には妥協しない強さが描かれていたからこそ、最後に彼女が即位して、物語のテーマを体現するのが納得出来るわけです。
でもベスにはそういうところはないんだよなー。寛容かと言われると、悪役が死んだら「当然の報い」と切り捨てる冷酷さがある以上そうとは見えないし、かと言って譲れない信念があるわけでもない。信仰にも「父上の形見だから」以上の理念は描かれない。つーか「この話のテーマってなんなの?」という疑問が拭えないんですよねー。ベスに投影されているのが「等身大の少女」であるだけで、彼女を描くことで何を描きたかったのかが伝わってこなかったし、そもそもベスが何をしたいのかもわからんかった。「運命を受け容れる」だけの少女で、それはまあ大変なことだとは思うんだけど、肝心のその部分がまるで家庭教師に言われたから受け容れた的な感じで、一人で決断したわけじゃないところが物凄く嫌でした。あと、ベスが自分を支持する民衆に対して常に無関心で、扇動者がどんな目に遭おうと気にもとめなかったり、哀れみもしないし、彼らが何故自分を支持するのかについて全く考えないのもどうなんだと思いました。
というかだ、どうしてあの父親をベスが大好きなのか、それが有り得ないと思う。自分を異母兄弟の侍女にしたような父親を大好きな娘とか、普通じゃないですよ。それに、言いたいこと言ってたら生き残れなかったくらいエリザベスの幼少期は過酷だったはずなのに、そういう苦労が何も見えない感情丸出しの性格設定もどーなの。このベスが後々海賊まで利用する女王になるなんて、全然見えてこなかったです。私には。

●ヒロイン:アーティスト(ロビン)
小池せんせーの英単語並べました歌の犠牲者その1。かっこよく言えば孤独な旅の吟遊詩人だが、何で食べているのか若干不明(どうやってお金稼いでるんだ…?)。森で出会ったお姫さまが民衆に人気のあるレディ・エリザベスと知って以来惚れちゃったらしく、なんやかんやで口説き落とす。ただし、ロンドン塔にベスが幽閉されても飲んだくれてるだけ。歌って演じるといった平和的な方法で民意を煽ってベスの解放運動をとか、ミュージカルなのにミュージカルならではな活躍場面はない。マジか。しかもついにカッコいい場面はなかった。マジか!

●メアリー
ベスの異母姉。といってもめっちゃ年上。小池せんせーの残念な台詞の犠牲者その1。基本的にヒステリックでおバカなおばちゃん役設定のため、ベスにとって非常に重要な役で、はっきり言って二番手でも遜色ない役柄なのに陰影に欠ける。歌はド迫力だが、同じことを違う曲で歌ってたりする。なんでメアリーの心をもっと早い段階で描かないんだろう。というか、あんな謎の和解をするぐらいなら、どこまでも相容れないけれど共に王女であるというベスとメアリーの二重唱を聞いてみたかった。歌詞の内容はともかく、トートとフランツが皇帝対決したみたいに。そうすれば、まだベスの内面が見えたんじゃないかと思う。というか、そもそもカトリックとプロテスタント(というかイギリス国教会じゃね?)の対立も、メアリーとベスに置き換えれば自分の正統性(庶子か否か)を立証する上で非常に重要な根拠となる問題なのだから、二人を「神様の教えが~」なんて暢気なこと言ってるキャラクターにせず、きちんと政治的に宗教を扱える女性にしてもよかったのではないかとつくづく思うんです。

●亡霊かーちゃん(アン・ブーリン)
この物語にはファザコンベスが母親への憎悪を如何にして克服するかという面もあったわけですが、結論から言って、「それ必要だったのか?」と一番思ったのがこの部分でした。亡霊は面白いんですけど、とにかく出番が多く、出番毎に同じよーな演出で色んなことを全部歌で言っているもんだからただでさえわかりにくいのに、ベスのマザーコンプレックスはロンドン塔に幽閉されただけで「ああ、お母様も私と同じように無実だったのね!」となって終わるわけです。別にベスは「身分違いでも貫きたい、死んでもいい」と思える愛を知ったから母親を理解したわけではないのに、亡霊は「愛に生きるのよ」と歌い続けてる。なんていうか、亡霊はベスの夢の中に出てくる、つまりトート的な側面がある役なのに、ベスとは呼応していない以前に話がかみ合ってないのが物凄く気になって仕方ありませんでした。むしろ死の恐怖は首切り男に一任して、亡霊はベスの恋愛場面にのみ登場して、恋の幸福に酔いしれているはずのベスが見てしまう「恐怖」として愛と死の紙一重さを演出する存在になれば話がすっきりしたんじゃないかなーと、和音みおーちゃんの歌声が素晴らしいだけに、あれこれ妄想してしまいます…。

●悪代官ズ(スペイン大使と大司教)
このわけわからんキャラだらけの物語で、一番まともなことを言ってた人達。「エリザベスは生きているだけで反メアリー派の旗頭になる存在だから、罪の有無はともかく殺すに限る」という主張は非常に明快かつ理に適っていて、「うんうんそうだよねー」と頷けました。演技も歌も楽しかったし、申し分なし!

●クールヘッド(フェリペ)
海馬に乗った征服者のファンの皆様、お待たせしました! 今回の小池せんせー語録は「クールな頭脳、クールヘッド」です!!…というとってもおバカな(しかもスペイン人だっつって劇中でスペイン語喋らせてるのに、英語かよ!というw)歌詞を割り当てられたフェリペですが、なかなかどーして、役柄は面白いです。腹黒で、マイペース。ぶっちゃけるとベスの危機を救うのは全部この人で、フェリペ以外の人はベスもベスサイドの人も含めて全くベスの危機脱出に貢献していないのですが(この点が酷過ぎる…)、だからといって、ベスに甘いわけではないのがいいところ。最後にベスが即位すると決まった時、「忘れてないだろうね。君は私に借りがある」とやらしー感じで迫ります。まあここまで来たら、このラスボスをベスがどう攻略するかが一山…にはならず、あっさりさくっと終わります。せっかくベスの即位が(たぶん)テーマの一つなんだから、即位を巡るフェリペとの攻防とか、即位した後にフェリペが求婚してくる事実とかを利用して、ベスの即位に対する不安を多面的に描いてもよくね?と思うのでした。(何せこの物語では、即位はベスの責任であって、ベスが「いくら教育を受けたからと言って、これまで一度も政治の表舞台に立ったことのない私なんかが即位してイングランドは大丈夫なの? 姉上だって翻弄されている」的な不安に苛まれることは皆無です。いくら家庭教師があーだこーだ誉めてるとは言え、「どんだけ自信家なんだよ!?」というキャラなのです)

●ポスターに入る程の役だったのかな…?(キャット・アシュリー)
涼風さんが演じてるキャットは、なんか色々都合があって大幅に場面・台詞・歌がカットになったのか?と思うしかないくらい、しどころも見せ場もないというか、もはや乳母なのか侍女なのか家庭教師なのかそれすらもわからないくらいのポジションでした。で、のわりに、この作品の唯一のテーマと言えそうな「大人になる過程の葛藤」みたいなことをこれまた謎のタイミングで歌っていて、「??」となること多数の役…という印象です。や、ポスター詐欺じゃないかなーこれ。
キャットがより謎になるのは、ロンドン塔にベスがいる時は傍にいたのに、ラブシーン小屋…もとい、ウッドストックの門番小屋になった途端急に消えてしまうせいもある気がします。ずっと傍にいればまだ「ベスを支える人」的な役割が見出せるのに、それすらもない…という…。また、キャットがベスの恋愛に対して反対している以上、家庭教師とキャラが被ってしまうし、かといって家庭教師以上にベスの心に立ちいるシーンがあるわけでもないし、そもそも二人きりでちゃんと話すシーンもない。現時点では、本当に必要な役だったのか、それすらも不明な役柄に見えてしまいました…。(「大人になる過程の葛藤」は、家庭教師が歌っても問題ないと思います)

●宇宙と交信する家庭教師(ロジャー・アスカム)
そもそもこの家庭教師の台詞が物語を安っぽくしているのではないかと、開始5分で思うくらい、酷い台詞を言ってます。曰く、「ベスは私の賢い教え子。星はベスが女王になる運命だと告げている。だから絶対ベスは女王になってイングランドを愛と平和のワンダーランドに育て上げる!」と(このうち、ワンダーランド以外はほぼ台詞そのままで間違いないです)。
頼むから「愛と平和」と連呼せんでくれ。頼むからベスのことを「賢い」と連呼するのもやめてくれ…とげんなりするのは、ベスのところで書いたように、ベスは別に「愛と平和」と理想とはしていないし(あんだけ母親に深い根拠のない憎悪をぶつける娘が愛と平和に生きるか?)、「賢い」と称えられるほどの智略を劇中では一度も発揮してないからだと思われます。そもそもベスは考えなしに思ったことは口にする性格ですし、捕まっても自力で脱出したことがありません。これをどう「賢い」と見ればいいんじゃ!というキャラクターな上、この家庭教師と来たら、ベスがロンドン塔に幽閉されても宇宙と交信するばかりでベスを解放させる手立てを打ってる描写がない(かといって、家庭教師自身が幽閉されているという描写もない)。本当にベスを大切に思っているのかもわからないから、最後に「責任があるでしょ!」とベスをお説教して即位させても、「なんだかなあ…」という気持ちになりました。
なんだろう。クライマックスに近くなってから、亡霊と家庭教師で「愛と責任」みたいな二重唱を歌うぐらい大きなキャラクターだったなら、もっとしっかりナレーションするか、キャットをなくしてベスの側近として一本立ちさせるか、アーティストに対して「お前控えろ」的な教育的指導をしに行くシーンを作るとか、なんかこう、なんでもいいのでどーにかして欲しいな…と思ってしまう役ですねー。



****


というわけで、文句たらたらの観劇記録で申し訳ありませんー!汗
こんなものを最後まで読んでくださった方へのお詫びというかお詫びにもなっていませんが、二度目の観劇でなんとなく妄想したベスとフェリペのお話を。(これまたどこに需要があるのかわからんものをすみませぬ…)
一応、舞台のキャラを元にしていますが、二回しかみていない上にどーにもこーにもあやふやなので、「なんじゃこりゃw」と笑っていただければ幸いですw



* *



 エリザベスが与えられた私室に戻って間もなく、そこには予期せぬ来訪者があった。

「ブエナス・ノーチェス、レディ・エリザベス」

 いくらエリザベスがこの宮廷で厄介者扱いされているとは言え、監視役の女官やキャット・アシュリーを退けてこの深更にその寝室に入れる人物はそうはいない。だがその数少ない例外であるその人は、夜目にも煌びやかな夏草色の装束を纏い、極上の微笑をその端正な貌に湛え、ワインとグラス二つを掲げる従者一人を従え入ってきた。

「お前は下がれ」

 その上、その従者も早々に追い出すものだから、何事かとエリザベスは気が気でない。けれども表面上は動揺を見せず、姉の夫たるその人、フェリペに微笑を返した。

「御目にかかれて光栄です、陛下。何事でございましょう」
「もちろん、君の自由を祝福するために来た。おめでとう、ベス」

 エリザベスの挨拶に目もくれずワインをグラスに注いだフェリペは、一つをエリザベスに差し出しながら応えると、微かに瞠目する彼女に口の端を上げた。

「聞いていらしたのですか、陛下」

 フェリペは公式には英語がわからないということになっている。だから、公の場ではスペイン語、フランス語、ラテン語でその意志を表示するが、1年半もイングランドにいた彼が、英語を理解していないはずがない。それどころか、頭脳明晰な彼は今では会話には全く困らない程に英語を話す。メアリーの前では違っても、何人かの女官の前では流暢な英語で彼女達を籠絡しているという話も、エリザベスはキャットから耳にしていた。そして、今。その噂を確かめる為にも英語で語りかけたエリザベスに対して、フェリペは隠しもせず自身の英語を披露した。

「クイーンの寝室は、私の寝室だ。当然だろう?」

 その言葉が、何を意味するか。すでにスペイン皇帝に即位した男が久方振りに訪れたこのイングランドで何を求めているか? 勧められたワインを口にしながら、エリザベスは微かに睫を伏せた。
 ――この男。姉の寝室だけではなく、私の寝室も……いいえ、この宮殿全てが我がものだと言いたげね。
 姉は不治の病だという。そしてエリザベスほどではなくとも狡猾な姉は、このフェリペとの婚姻の際、フェリペがイングランド王であるのはメアリーが生きている間だけだと契約させた。その契約期間が終わろうとしているのが目に見えた今、フェリペが何を望むかは、誰しもが類推するところだ。だが、フェリペは賢明にも何も語らない。彼がメアリーに要求したのは、派兵だけだ。
 31歳のフェリペと、25歳のエリザベス。二人は互いに子供ではなく、さりとて若くないわけではない。グラスを干し、視線を交わすと、フェリペはエリザベスの手からグラスを取り、テーブルに置いた。

「君は頭がいい」
「光栄です、陛下」
「だから、余計な助言かとも思うが……」

 それは一瞬のことだった。瞬きする暇もなく踏み出したフェリペの宵闇よりも黒い双眸が、エリザベスの瞳に映る。彼はエリザベスが羽織っているマントに手をかけ、それごと彼女を引き寄せた。

「陛下……!?」

 さらに、イングランド王の形見であるそれすらまるで大したものではないと言わんばかりにフェリペはそれを剥ぎ取り、躊躇いなくエリザベスの背に腕を回した。それはあっと言う間の出来ごとで、抱きしめられたのだとエリザベスが悟ったのは、深紅のワインで濡れた唇が耳をかすめ、聞き捨てならない言葉を残した時だった。

「――まさか、忘れていないだろうね。君は私に借りがあることを」

 フェリペの声は、これまでになく甘く響く。けれどもその響きがエリザベスに伝えているのは、愛情でもなければ、これまで垣間見せていた哀憐でもなかった。彼は、命じているのだ。

「クイーンが君を殺そうとする度、私は何度も君を救ってきた。ロンドン塔から、ウッドストックから、私は幾度も君を救い出した。……この細い頸が血で染まることのないように」
「っ」

 熱い唇がそこに一瞬だけ触れたのは、偶然ではないだろう。ただ、フェリペはそれ以上のことはせず、柔らかな手つきでエリザベスの髪を撫でた。

「美しい髪だ、ベス」

 その声は深い思慮があるようには感じられない程気紛れに聞こえる。だというのに、まるで相手を金縛りにかけるような力があるのが、スペイン皇帝の威厳というものなのか。あるいは、重病の妻をさしおいてその異母妹を口説こうとする無神経さが女性としてのエリザベスを硬直させるのか。

「……恐れ入ります、陛下」

 何はともあれ、この男を無碍には出来ないことだけは確かだ。下手に機嫌を損ねては、この男に殺されかねない我が身なのだ。この男と対峙出来るのは、王冠がこの頭上に輝いてから。今はまだ、その時ではない。
 けれどもエリザベスが自身を撥ね退けなかったことを、フェリペは受容と受け取ったらしい。ついに顎に手がかかって、俯いていた彼女の顔を仰向かせる。

「さて、美しいレディ・エリザベス。君はどうやって私に借りを返してくれるのだろう」

 間近で見るフェリペは、不思議なことにどこか姉に似ていた。顔立ちは全く違うように見えるのに、同じ血がそうさせるのか、瞳の色だけはそっくりだった。
 ――嫌なこと。この男を見る度に、きっと私は姉を思い出す。
 そして、姉を思い出し、この男が姉の夫であることを思い出すのだろう。魅力的な笑みの影で、この男が姉と己を重ね、イングランドが女王を仰ぐ幸運に……イングランドという莫大な持参金を持つ女が、この世に二人も存在するという幸運にほくそ笑んでいるに違いないということを。

「……陛下」

 心の中では嫌悪すら感じる相手であるのに、その時、エリザベスは不思議と微笑んでいた。

「陛下のご厚情に、心より感謝致しております」

 ふむ、と声に出さずフェリペは軽く頷いた。彼は生まれながらの王だ。条件とは臣下から提示されるものであって、それをどう選び取るか、それが彼の仕事だ。
 ただ、忘れてはならないのは、エリザベスもまた、王たるべく育ったことだ。エリザベスは条件を提示するつもりなど端からなかった。

「願わくば、陛下が御健勝であられますように。私にはなんの力もありませんが、朝に夕にお祈り申し上げます」
「――」

 すでに王たるフェリペは、エリザベスがその微笑の中にフェリペに対する何の恐れも畏怖も感じていないことを覚った。さらに仕事に忠実な彼は、決して無能な王ではない。提示される条件が気に食わなかった時、あるいはその条件すら提示されなかった時。その時こそが、フェリペが牙を剥く瞬間であることを、エリザベスはわかっていなかった。
 事実、フェリペの腕の中から逃れたエリザベスをはじめ、フェリペは彼女を追わなかった。そうしてエリザベスが油断した隙を、フェリペは逃さなかった。

「きゃっ」

 背後からエリザベスを抱き寄せたフェリペは、今度は止まらなかった。エリザベスを振り返らせ、一息に吐息を感じるほどの距離まで漆黒の双眸は迫った。

「陛下! 何をなさいます……っ!?」
「順番が逆になったが」

 優しげな色を湛えたその双眸は、しかし、微笑んではいなかった。ただそこに映る明るい瞳の揺らぎ一つすら見逃さぬよう、じっと彼女を見下ろしている。

「――私はあなたに結婚の申し込みをする」
「なっ」

 その瞬間、思わず溢れ出そうになったエリザベスの叫びを封じ込めるかのように、豪奢な絹を纏っているにしては硬い指先が彼女の顎を捕えた。

「安心したまえ。今すぐにではない。君の美しい瞳の上に王冠が輝く時、君の夫に名乗り出よう。……私たちが、スペインとイングランド、二つの国の王となるために」
「――」
「ブエナス・ノーチェス、レディ・エリザベス。柔らかなベッドでゆっくりと眠るといい」

 エリザベスの瞳から感じ取った感情に満足げに微笑んだフェリペは、いとも容易く獲物を解き放つと、足取り軽く寝室から立ち去った。振り返りもせず、まるで先ほどの求婚など些末なことだとでも言わんばかりになんの執着も見せずに。
 そして、エリザベスが初めて受け取ったこの求婚こそが、これから先、永遠にも思われる時を宿敵として過ごすこととなる二人の、最初で最後の直接対決となったのだった。




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  1. 2014.06.11(水) _23:27:44
  2. 宝塚とかドラマとか。
  3.  コメント:0
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