善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 今も昔も

さえ様リクエスト「アルチョンが来た後、トンマン達の生活を知って愕然とするユシン」でした。……が、か、かなり本題がずれています(汗) ユシンがメインと言うよりは……う、うーんな感じですが、お楽しみ頂ければ幸いです!


***

「何書いてるの?」

 ぴょこっと飛び出た頭に、アルチョンはごつんと拳骨を落とした。

「いてっ!!」
「何度も言ったはずだ。師には言葉を正すよう。それから、勝手に師が書いている物を見ようとするな」

 この家に来た頃はまだまだヒョンジョンに遠慮していたアルチョンも、今はヒョンジョンをトンマンの子供と言うよりはピダムの子供と見なしているらしく、容赦がない。ヒョンジョンが悪戯をすれば拳骨、悪口雑言を叩けばトンマンがしていた洗濯を彼にさせた。教育方針は、違うことなき花郎時代のものだ。
 当初はかつてない厳しい躾にヒョンジョンも反発もしたし、逃げ出したりもしたが、アルチョンは厳しいだけではなかった。ピダムと違って丁寧にヒョンジョンの武術を見て悪いところは直していったし、今一番ヒョンジョンが興味を持っている兵法についてもきちんと説明し、朝晩には一緒に野山を走って、時に足を止めて色んな話をした。
 ヒョンジョンは両親が半生を知られたくないと考えていることを敏感に感じ取っていたので自分から両親に昔の話をせがんだりはしなかったが、知りたくなかったわけではない。両親の親しい友でもあるアルチョンの話は、幼いヒョンジョンの胸を思う存分躍らせてくれた。
 だからだろうか、ピダムがいくら怒っても反発するだけ、トンマンが怒れば萎れるだけだったヒョンジョンは、アルチョンが来てからは怒られれば反省もするようになった。

「何を、書いて、いらっしゃるんですか」

 何度も何度もアルチョンについて習った敬語を、一語一語丁寧に口にすると、満足げにアルチョンは微笑んでヒョンジョンを見た。ヒョンジョンは知る由もなかったが、その顔は、かつてまだトンマンが郎徒だった頃にアルチョンが彼女に向けていたものとそっくりだった。

「古い友への文だ。落ち着いたら近況を知らせると約束していた」
「師匠のお友達なら、お母さん達のことも知ってますか?」

 好奇心でいっぱいになったつぶらな瞳を見て、ふっとアルチョンは笑った。

「……ああ、よく知っている」

 それどころか、その友がかつて、その母と駆け落ちしようとした男だと知ったら、ヒョンジョンは何と言うのだろう。恐らくトンマンにしろ、ピダムにしろ、ユシンのことはほとんど口にしてはいないはず。年甲斐もなく幼い嫉妬を繰り返すピダムを見ていれば、アルチョンでもそれくらいのことは想像がついた。

「へえ! じゃあ、僕も一言書いてもいいですか」
「何?」
「お母さんが前に話してくれたんです。昔、来世を誓った友達が二人いたんですって。その友達のうち一人は今はいないけど、もう一人は生きてるって。でもそれが誰だかお父さんや師匠に聞いちゃ駄目って言うんです。内緒だって。でもせっかくだから、その人に聞きたい」

 ヒョンジョンの話に、アルチョンは目を丸くした。
 ――来世を誓った友人?
 長年トンマンの傍に仕えていたが、そんな話は聞いたこともなかった。それに、まさかトンマンがそんな話をしているとは……。……ピダムが知れば嵐が来そうだったが、アルチョンもそれが誰だか気になった。
 きっとアルチョンよりも前からトンマンと付き合いのあるユシンならきっと、それが誰だか知っているに違いない。アルチョンはヒョンジョンに筆を持たせた。

**

 月城の隣には広大な敷地を持ち、その権勢を誇っている館がある。いざ入ってみればその質素さに驚きすら覚えるほどに広大なその屋敷は、三国にその名を轟かせる大将軍キム・ユシンの屋敷だった。

「お帰りなさいませ」
「ああ」

 近頃は戦もなく、日々兵の調練と訓練に明け暮れているユシンは、出迎えるヨンモと子供達に微笑みかけると、太刀をヨンモに渡して中に入った。かつてはぎこちなく、ヨンモの前ではろくに笑いもしなかったユシンも、今では、邸に帰ればまずヨンモの顔を見て顔を綻ばせるまでになっていた。
 トンマンの『崩御』後、逆賊となったハジョンの娘であるヨンモは一時はユシンに対し離縁を申し出た。ミシルの乱でユシンが兵部に逮捕された時も祖父セジョンや父ハジョンに必死で助命を嘆願したヨンモは、美しいだけでなく、聡明で芯の強い女性だったのだ。ユシンの未来を常に慮る彼女の姿は妻に無関心だったユシンをも変え、今では二人は子宝に恵まれているだけでなく、夫と妻としての情愛にも満ちた家庭を築き上げていた。

「アルチョン公からお手紙が届いています」
「アルチョンから?」

 ユシンの着替えを手伝ったヨンモはたおやかな仕草で文を手に取ると、そっとユシンに差し出し、席を外そうとした。
 彼女はトンマンとピダムが生きていることは知らないはずだったが、何もわからないほど愚かではない。恐らくトンマンとピダムのことも察しているだろうに、それでも何も言わずにヨンモはユシンに接していた。

「ヨンモ」

 そんなヨンモを、いつも寡黙なユシンが珍しく呼び止めた。ところが何事かを振り返った彼女の瞳に映ったのは、大将軍としての威厳に溢れる厳しい顔をしたユシンではなく、目尻を下げて寛いだ微笑を浮かべるユシンだった。

「初めて見る色だが、その色がよく似合っているようだ」

 一瞬、ヨンモは何を言われたのかわからなかった。けれどもユシンが照れ臭そうに少しだけ視線をさ迷わせたので、ヨンモにも伝わった。ユシンが、ヨンモの服を見て、それを誉めようとしたことが。

「ありがとうございます、あなた」

 幸せいっぱいの微笑が、ヨンモの華やかな美貌をさらに輝かせた。

 嬉しそうにきらきらとした風を残していったヨンモを見送ったユシンは、アルチョンの文を開いた。
 落ち着いてから文を書くと言った言葉通り、アルチョンから文が届くのはこれが初めてだった。もうアルチョンがトンマンとピダムのところへ赴いてから半年近くが経っているが、果たしてどのような暮らしをしているのだろうか。便りがないのは元気な証だと言うが、やはり気にはなるものだ。
 文を開いたユシンは、そう言えばアルチョンから私的な文をもらうのはこれが初めてではないだろうかと笑みを深めた。

『ユシン。元気にやっているようで何よりだ。ここは片田舎だが、お前の話は自然と聞こえてくる。奥様……陛下も、満足げだ』

 角ばった物言いではなく、思いついたままに書きなぐったような文体を見て、ユシンは少し噴き出した。もしかしたら、アルチョンは一杯飲んだ後にこれを書いたのかもしれない。

『今、私は離れに陛下の息子であるヒョンジョンと暮らしている。やんちゃで知恵が回り明るいヒョンジョンは、郎徒であった頃の陛下を見るようで不思議な心地だ。ただ、ピダムに似たのか、少し礼儀と言うものに欠けているのが心配なので、教育している。だが何はともあれ、良い子供だ。成長すれば、素晴らしい花郎になるかもしれない』

 トンマンやピダムのことを語る前にヒョンジョンのことが来ていることからして、恐らく現在、アルチョンはこのヒョンジョンに夢中なのだろう。すでに我が子は手を離れてしまったアルチョンだから、案外再びの子育てを楽しんでいるのかもしれない。
 ――しかし、ユシンが和やかに読んでいられたのは、そこまでだった。

『陛下は元より気丈な方だったが、今では伝説の真興大帝よりも恐ろしいのではないかと言う迫力を備えられている。昨日も、ピダムとヒョンジョンが陛下の切った桃の最後の一欠片を巡って口汚い喧嘩を始めた途端、それを一喝して黙らせた。ちなみにその一欠片は私に転がり込み、不本意にも二人の恨みを買った。よくこのようなことがある。ヒョンジョンは幼いのだから我侭であるのもまだわかるが、ピダムはあまりに以前と変わらないせいか、時折気味が悪い。よく陛下は十年もあれに付き合っていられたものだと感心する』

 ……アルチョンが毒舌なのはわりと昔からだったが、それにしても赤裸々だった。

『しかし、ピダムが陛下に言われた通り、真面目に町の診療所で医師として働いていることは賞賛に値する。毎朝陛下に要求している見送りとそれに付随する鬱陶しいしきたりについては呆れるばかりだが、陛下も慣れているのか、私の目があっても気にすることもない。ヒョンジョンの目の毒だと思ったが、ヒョンジョンですらしれっとしている。さすが陛下の息子だが、たまにあれで良いのかと首を傾げたくもなる。村人ですら、ピダムの陛下に対する偏愛を知っているようだ。陛下がしっかりピダムを掌の上で転がしているのであまり心配はしていないが、ヒョンジョンの教育の為にはやはり母屋では寝かせられないと考えている。これからも離れで寝起きを共にするつもりだ』

 ……一体、どんな夫婦生活をしているのだろう?
 至極真っ当な夫婦生活をヨンモと営んでいるユシンには、アルチョンが呆れる夫婦生活がどう言うものなのやら、よくわからない。そう言えば、ユシン自身は特にピダムとトンマンが接しているところを見たことがあるわけではないのだ。
 少しばかりトンマンの隠居生活に夢を見ていた頃を懐かしんだ後、ユシンはその後も延々と続くアルチョンの愚痴ともぼやきともつかぬ文の最後に記された質問を目の当たりにして、目を細めた。アルチョンのきっちりした手蹟とは違う、踊るような飛び跳ねるような元気な文字がそこには並んでいた。

『はじめまして。母から「昔、来世を誓った友達が二人いた」と聞いたのですが、おじさんはご存知ですか』

**

「ねえねえ、なんて言ってた?」

 またしてもうっかり敬語を忘れたヒョンジョンを叱ってから、アルチョンはユシンからの文を開いた。叱られてもまだ縋りつくヒョンジョンの為に他の部分は飛ばして最後を読んだアルチョンは、ユシンらしくきちんと記された答えを読んで、少し言葉をなくした後、染み渡るように微笑んだ。

「師匠、誰なんですか?」

 かつてトンマンがそうしたようにアルチョンにせっつくヒョンジョンを愛情に満ちた眼差しで見下ろすと、アルチョンは静かに答えた。

「……昔、ヒョンジョンの母上が仕えていた人だ。その人は、立派な花郎だった」
「花郎……」

 神国に生まれた者として花郎と言う存在は知っていたが、それが母親と結びつくとはヒョンジョンは考えたこともなかった。布団に寝転ぶと、それ以上アルチョンにちょっかいを出すこともなく、ヒョンジョンは物思いに耽り始めた。
 ――トンマンにとってもアルチョンにとっても忘れられない花郎と言う言葉がヒョンジョンにとっても大切なものになり始めたのは、その時だった。



 が、ヒョンジョンが花郎に興味を持ち始めたことが嬉しかったのか、アルチョンはその後、一つ余計なことをしてしまっていた。……ピダムと二人で月を見ながら酒を飲んだ時、うっかりその文のことを口にしてしまったのだ。

「ユシンと来世を誓った?」

 アルチョンとヒョンジョンが離れに去った後、ヒョンジョンとトゥジョンをし終えたトンマンを掴まえたピダムは、早速ユシンが疑問に思った『ヒョンジョンの目の毒』になるしつこさを発揮し始めた。

「いきなりどうしたの?」
「ヒョンジョンに話したんだって? 来世を誓った友達がいるって」
「……ヒョンジョンがそう言ったの?」
「いや。アルチョンがヒョンジョンから聞いて、二人でユシンに手紙で聞いたんだと。……で、ユシンがそれは自分だと答えたって」
「そう」

 日頃は悪酔いしないものの、今夜ばかりは嫉妬が良くない方向に作用したのか、ピダムは酷く酔っていた。苦い笑みを浮かべながらトンマンは部屋に入ると、寝台に座ってぽん、と自分の膝を叩いた。不満げなピダムも、それには大人しく従う。

「ピダム、本当は違う風に聞いたでしょう? 私はユシンと来世を誓ったんじゃなくて、姉上とユシンと、来世も友人でいることを誓ったんだもの」
「……でも、誓ったんだ」
「だって、掛け替えのない友達だったから」

 トンマンの腿に頭を乗せ髪を撫でてもらっていると怒りは萎れたが、それでも寂しいことには変わりない。ピダムは対抗心を燃やした。

「ユシンとは友達なら、私とは来世も夫婦になってくれるよね?」

 しかしピダムの希望は、あっさりポッキリ折れた。

「……それはわからないな」
「なんで!」
「だって、あなたは誓える? もし来世も私が王だとして、反乱は起こさないって」
「………………誓うよ」
「破るかもしれないなら、誓わなくていいのに」

 ぷすっと笑って、トンマンは目蓋を閉じた。

「まあ、もし来世でも夫婦になるなら、私は王族ではなく、平民に生まれたいな。タクラマカンでそうしていたように、旅人を迎える宿屋の主人になるんだ。ピダムは?」
「私は……トンマンと夫婦なら何でもいい。何でも出来るし」
「厭味な奴」

 ピダムの髪を撫でるトンマンは、言葉とは裏腹に、嬉しそうに笑っていた。

「ピダム」
「何?」
「夫婦になるとは誓えないけど……来世もきっと、出会うと誓う。そうしたら……きっとまた、色々あっても、愛し合えると思う」

 その言葉を聞いたピダムはむくっと起き上がった。これまでもそうだったように、トンマンの言葉には過剰なまでに反応する彼は、今回も嬉しさを表現するのに労力を惜しまなかった。――結局、トンマンが「酒臭い」とからかうまで、ピダムは何度も来世を誓った。


****
ユシンとヨンモの夫婦についても書きたかったので、ちょっぴり入れてみました(笑) また、トンマン、ユシン、チョンミョンの『来世の誓い』も好きな話なので、ネタに出来て良かったです。
話としてはいつにも増してまとまりに欠けていますが(汗)、さえ様に楽しんで頂けたら嬉しいですー^^
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  1. 2010.07.30(金) _01:20:27
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
  3.  コメント:1
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comment

緋翠さま今晩は~。

  1. 2010/08/07(土) 23:47:38 
  2. URL 
  3. りば 
  4. [ 編集 ] 
らちもない感想コメントをお初に投稿させて頂きます。

このお話、ぎこちなく妻の服をほめてみるユシンの姿に涙が・・・!
いや正確にはそんな言葉をかけられるようになったヨンモに良かったね、と涙が。

結婚式でのユシンの魂の抜けっぷり(笑)があまりにもハンパなかったもので、
奥さんはなんも悪くないのに、大丈夫か新婚家庭と心配になったものでした。
(まあ魂は抜けててもしっかり子作りなさってた訳ですが)

ユシンもこうして実際に妻に声をかけるまでは、それとなく部下の夫婦生活とか
夫婦の会話ってどんなん?と聞き耳をたてて情報収集していたのでは?
次は記念日の贈り物に挑戦してほしいものですユシン様。
それにしてもヨンモって令毛って書くんですね。毛・・・?

そしてなにげに手紙ではけっこう饒舌なアルチョンに乾杯。
そのうち田舎暮らしブログとかやるといいんじゃないでしょうかアルチョン。
一部にマニア受けしそうです。

で、やっぱりピダムは「来世の誓い」に嫉妬する訳ですね。お約束ですね。
ピダム、友達もいないですしね~~(遠い目)。

けど39話じゃトンマンとユシンが郎徒時代の話をして入り込めない雰囲気を出してた時も、
寂しいから置いてかないでのけものにしないで、こっち見て俺もいるでしょオーラを
目一杯出すだけで黙ってたピダムを思い出すと、図々しくなってくれて良かった気もします。

そんなピダムを納得させる言葉をかけられるトンマンが凄い。
来世も夫婦になってくれるよね?以降の二人の会話、大好きです!
確かに、出会えさえすればピダムまっしぐらという感じでトンマンにむしゃぶりついてくれそうな勢いです。

逆にピダムが誰かと、トンマンも入り込めないような絆を結んでいたら
トンマンはどういう反応を示すんだろう、とか思うのですが
絆を結ぶ相手がいないですね。ムンノとの昔話くらい?トンマン嬉しそうに聞くだけっぽいんですが。


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