善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS ユシン

友情出演はチュンチュです。
あ、SSはみんな大体連載の番外で、連載の進行に合わせて書いていきます……ので、そのうち被るかもしれません。アルチョンもあの短いのだけでは到底管理人のアルチョンラブが表現できないもので……(笑)


***

 数多の傷を負い、鈍った光を放つ黄金の鎧を揺らめく蝋燭の灯りが厳かに辺りを照らしている。荘厳な空気を纏ってその霊廟の中心に座していた人物は、近付いてきた気配にゆっくりと瞼を上げた。

「…………ユシン公は、何かことが起きる前にはこちらにいらっしゃいますね」

 さらさらと衣擦れの音をさせて進み出た青年は、供も連れず、東海(日本海)のような美しくも人を寄せ付けない微笑を浮かべている。

「チュンチュ公」

 けれども確かに青年――チュンチュが醸し出す薄い水の膜を張ったようなピリピリとした緊張感を感じ取ったユシンは一歩後ろに退いてチュンチュを霊廟に招き入れた。
 チュンチュはそれに仄かに笑みを深めて霊廟の奥に鎮座する位牌を、絵姿を見上げて、丁寧に手を合わせ、頭を下げた。『生前』はあまり見られなかった微笑を湛えている女王の絵姿は、威厳と美しさ、そして民に慕われた彼女らしい慈悲深さで二人を優しく見下ろしている。
 その絵姿を見上げたまま、チュンチュが滑らかに切り出した。

「チュクパンが、『彼』に追い返されて戻ってきました」

 頭を垂れて視線を落としていたユシンの双眸が、瞬間、微かに蠢いた。
 刹那の蠢きを見逃さなかったチュンチュは畳み掛けるように言葉を投げかけた。

「火急の用件がなければ先に邸に帰り疲れを取るよう進めたのですが、報告をすると言って聞かぬそうです。彼らしからぬ熱心さですね」
「……は」
「ユシン公も、彼の話を聞きたいのではありませんか?」

 僅かな沈黙の後、ユシンは首を振った。

「いえ。もう……私があの方にして差し上げられることは何もありません」
「本当にそのように思っているのですか? 彼に全てを任せて、不安ではないのですか?」
「……不安です」

 『善徳王』と諡された彼女の絵姿を見上げて、ユシンは懐かしそうに目を細めた。だが彼が見ているものはその絵姿ではなく……その向こうに見える、よく喋り、よく頭が回り、何かと突っかかってきて足に砂袋をぶら下げている郎徒だった。

「ですが……私は三韓一統を目指し、覇業を進む方を選んだのです。あの方は……もはや、ただの女人です」
「…………」
「ただの女人ならば……その方だけを慈しみ、守る者を必要とします。神国の為、陛下と……そしてチュンチュ公の下で覇業を追い求める私があの方にお目に掛かることは、ただ恐れ多いばかりです」

 彼女を王として選んだあの時、ユシンは『王』である彼女に全てを託した。恋心も忠誠も、自身と一族の運命も。
 そうして、『王』たる彼女の片腕となる道を選んだ。彼女の隣に立つのではなく、彼女の前に立ち、全ての敵を薙ぎ伏せ、ただ叶わぬ夢を共に見ることを選んだ。……彼女の手を取ることでも、慰めることでも、抱きしめることでもなく。
 今もまだ、ユシンの胸の中には確かに彼女への想いが残っている。年月に色褪せることのない、きらきらと輝き燃え続ける恋慕が彼の心を焼いている。
 けれど、もうその恋慕の為に全てのものを投げ出すには、ユシンはあまりにも未練が多かった。血湧き肉踊る戦場も命を絆に手を取り合う友も新たに生まれ出る子らの命も、それらを慈しみそれらと戦ってきた年月も、その全てがユシンには掛け替えのないものだった。ただ一つの恋とも代えられないほどに、大切なものだった。
 ――彼のようにも、彼女のようにも、ユシンは生きられない。だが、彼らもまた、ユシンのように生きることは出来ないのだ。
 日食で人々の目を眩ませて公主の座を奪い取った彼女は、彼女らしく、死においても人々を欺いた。そのことを責めるつもりはない。彼女らしい選択だった。
 だがそれは、覇業を進む王たる者の姿ではなかった。哀れで切なく、ただ愛しい女の姿だった。二十年近くも前に、彼が涙を涸らして望んだ姿だった。だから……彼女を送り出した時、ユシンの中で、彼女はもう触れてはならない存在となった。
 彼女が言った。覇業を歩むことと人の道を歩むことは、決して共には成り立たないと。どちらかを選ぶしかないと。
 ならば、もはや人の道を選んだ彼女に、覇業を選ぶユシンはあってはならない存在だった。彼女が人の道を行く姿を、ユシンはただ見守るだけ。これまでもそうであったように、これからも……ただ心を秘めて、彼女の幸せを祈るだけ。

「ユシン公は、真に損な性分です」

 どこかかつての彼女を髣髴とさせる悪戯っぽい笑みを浮かべるチュンチュに、ユシンもまた、その口の端にほろ苦い笑みを浮かべた。

「私は……愚かで、無礼なものですから」

 いつだったか。まだ花郎であった頃に、恭順を迫るミシルにも同じことを言った。……もう、遠い遠い昔に。

「いいえ、私はそのような意味で言ったのではありません」

 ふわりと扇を揺らしてチュンチュが低く笑った。

「本当に愚かで無礼な男は、今やその名を貶め、流された血の重みも、その罪深さも知らずに……私達から道標を奪っていきました」

 その涼しげな双眸の奥で、蒼い焔が灯るのを、ユシンは僅かに眉を顰めて眺めた。……この方は、まだ『彼』に執着しているのだろうか?

「ご存知ですか? ユシン公は……人を懐に収め、巧みに用いることに優れたあの方が信じ、崇めるただ一人の方なのです。人を慈しみ、人から学ぶことはあっても、人を信仰することなどなかったあの方が無条件に信頼を寄せる、ただ一人の方なのです」
「過分のお言葉です、チュンチュ公」
「そうですか?」

 ふっと笑うと、チュンチュは袖を払って霊廟を去った。
 頭を垂れてチュンチュを見送ったユシンは、再び絵姿の前に座り、じっとそれを見上げて目を細めた。

(彼は……道標を奪ったわけではありません、チュンチュ公)

 ユシンに、チュンチュにとって道標となっていた存在は、彼らの胸の中に残っている。身をもって覇業と言うものを彼らに教えてくれた女王は、例えその身体が徐羅伐になくなっても、永遠に彼らの胸に宿り続ける。――闇夜に旅人を導く、開陽星の主人として。


****
ユシンは戦に出る前にはトンマンに勝利を誓って、戦から帰って来た時はトンマンの前で一人色んなことを反省してるとイイな……と言う妄想から生まれたSS。
実は、最終回、トンマンとピダムもあまりのショックに何日も泣くくらい凄かったのですが、時間が経つにつれ、ユシンの悲哀と、ひたすら重い鎧を纏って立ち続ける姿がより胸に迫るようになってきました。トンマンも凄いけど、やっぱりユシンは三国一です。
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  1. 2010.05.02(日) _10:32:20
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
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