善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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連載 蕾の開く頃4(※加筆修正)

スンマンの女優さんを思い浮かべたいのですが、韓国の女優さんがよくわからない…!
誰かいいお方はいませんか……(笑)

※少し加筆修正しました。


***

 振り返れば、ピダムが穏やかに微笑んで手を差し出している。その手にそっと手を重ねて、トンマンはピダムに引かれるままに布団に入り、ピダムもまた、すぐ傍に座ってトンマンの手を握って、もう片方の手を彼女の胸に置いた。

「寒くないですか?」
「……うん」

 とん、とん……と揺り篭に乗った赤子のように安らかな心地にしてくれる手。
 ところが、その手にも今日ばかりはドキドキして胸が落ち着かないのがばれてしまうのではないかとさらに焦る……はずが、ピダムの手がどれだけ優れているのか、あるいは緊張の為にいつもより疲れてしまったのか、それからまもなくトンマンはすうすう眠ってしまっていた。
 ――そして、そのような『穏やか』な夜が、暫く続いた。

***

 推火郡の村の外れにあるピダムとトンマンの家は、家屋自体はさほど大きくはなかったが、敷地は広かった。それは二人の生活が村人らの目に触れないようチュンチュが配慮してのことだったが、そもそもが野育ちの二人は、それぞれに有り余る土地を使って暮らしに役立つものを育てていた。
 その『暮らしに役立つもの』が、ピダムの場合は、とても二人用とは思えないほどに大量の鶏の飼育であり、トンマンが如何なる病になろうとも何の問題もないようにありとあらゆる薬草が植えられている薬草園だった。
 その薬草園の隅に座り込んで、トンマンはぷちぷちと雑草を抜いていた。
 砂漠育ちのトンマンにとっては植物は何であれ貴重だと言う刷り込みがあったが、ピダム曰く、そうではないらしい。なので、ピダムが鶏の世話をしている隙を狙ってトンマンは外に出て、こうしてピダムの仕事をこっそり減らしていた。
 いや、すでにピダムにばれている以上「こっそり」ではなかったが、止めに来るまではトンマンも譲る気はなかった。山のように積み重ねられる上訴文を読むのではなく好きな本を読むのは勿論楽しかったが、元より身体を動かすことも嫌いではないトンマンだ。重い王冠も、動きづらい礼服もなくなった今、犬でも飼って一緒にその辺を駆け回りたいほどトンマンは開放感にその身を疼かせていた。
 ところが、現在トンマンが雑草相手に晴らしている鬱憤は、そのような疼きから来たものではなかった。彼女を駆り立てているものは、もっと深刻で、馬鹿げていて、腹立たしくて、悲しいものだった。

「…………ピダムの馬鹿」

 郎徒時代にはそれこそ二日と開けずユシンに対して心の奥でぶつけていた言葉を、トンマンは口に出して、謂れのない雑草にぶつけた。
 ――人に期待ばかりさせておいて、結局裏切るのか。それともまた知らないところで何か誤解しているのだろうか。
 その時、悶々と考え込み始めたトンマンの耳を、軽やかな足音と風が撫でた。

「陛下、どうなさいました!?」

 生憎と「馬鹿」の部分は聞こえなかったようだが、それでも彼女が一声「ピダム」と口にすれば一里先でも聞き分ける――と当人が誇らしげに語った――ピダムが、いつも通りのとんでもない速さと勢いで彼女の前に現れていた。

「…………」

 よほど慌てていたのか、どうやらちょうど捕まえていたらしい鶏をぶら下げたまま彼女の前に跪いたピダムの憂い顔から視線を落とし、トンマンはコケッコケッと彼の腕の中で自己主張する存在を思いっきり睨みつけた。
 がしかし、人間ならばその恐ろしさに後退りしそうなトンマンの激烈な視線を受けても尚、コケッコケッと何食わぬ顔で『敵』はピダムにくっついていた。

「なんでもない!」

 ぷいっと顔を逸らして立ち上がると、トンマンは彼女の剣幕に茫然自失しているピダムを置いて、さっさと家の中に入った。パタンと戸を閉じた瞬間に胸の奥を嵐のように席巻するのは、彼女の自尊心にかけて決して口には出せない不満の山である。

(言うものか。いや、言えるものか。ピダムに、「鶏を抱っこするのと同じくらい私のことも抱きしめろ」だなんて、言えるものか!!)

 大体そんなことは、男の方が察してするものだろう。これまでだって、ずっとピダムから触れてきたではないか。それを、何故急に……それも、トンマンが今か今かと抱擁を待っている今この時になって、奥手になるのか。かつてはトンマンが離しても離しても、めげずに何度も握ってきた手を、何故今はピダムから離すのか。
 わからない。何がいけないのだろう。着飾っていないから? 化粧をしていないから? だから……もう、ピダムにとって魅力的な存在ではなくなってしまったのか?
 トンマンの中でめらめらと燃える怒りがとぐろを巻いて、焔のような大蛇となっていた。

(ふっ……こうなったら、ピダム。お前に目に物を見せてやる。私にまだ魅力があるかどうか、試してやる。お前が徐羅伐でただ一人、私を女として扱ってくれた。私を慕うと……私にときめくと言ってくれた。だからお前を選んだのだ! それが、今になって違う? そんなこと……許せると思うかピダム!!)

 違うと言うのならば、それは詐欺だ。詐欺は犯罪だ。罪を犯した者には、罰を与えねばならない。

(見ていろピダム! 伊達に璽主と……お前の母と渡り合ったのではないと思い知らせてやる。もう一度、お前に言わせてみせる。ときめくと……言わせてみせる!)

 トンマンは一人、うっかり捨てるのを忘れていた雑草を握り締めて気炎を上げると、筆と紙を手に取った。



 トンマンとピダムが二人で暮らし始めて、十日が経った。
 その間、ピダムは神経質なほどに、『清く正しい生活』を送ることを心掛けた。トンマンがたっぷりと眠れるように、晴れた日はいつも布団を外に干してほかほかにし、彼女が眠る時は乳母のようにきめ細かく寝かしつけ、食事は身体に優しく、美味しく、尚且つ食べやすいものを心掛け、埃が溜まることのないように毎日家の隅々まで丹念に掃除をした。
 今のところ、その成果は抜群だった。トンマンの発作が起こることは一度もなく、庭をぶらぶらうろつくことを除いては、トンマンはピダムの望み通りの生活を送っていた。
 ……しかし、ピダムはそうではなかった。
 夜明けから夜中まで、次から次へと家事をこなして本も読んで、暇な時などほとんどない生活を送っているにもかかわらず、夜が更ければピダムの身体は熱を持って、そう簡単には彼を解放してくれなかった。
 結局、トンマンと二人きりになった最初の夜、全く眠れなかったピダムは、翌日の夜になっても同じ状態になった時、箪笥の中に丁寧に仕舞っていた刀を手に取った。
 ――しっとりとした夜気を、冷たい刃が切り裂いていく。その夜も、一人、乱舞をするようにピダムは刀を手に広い庭を駆け回っていた。汗が散り、さすがのピダムも呼吸が乱れ、全身が重くなる頃、ようやくピダムは刀を置いてその場に寝転がった。
 曙が近付く薄墨色の空にぽっかりと浮かぶ月は、トンマンの愛らしい口元のようにふっくらと孤を描いている。その月を取って食べたい衝動に駆られて思わず空に向かって伸ばした手を、ぎゅっとピダムは握った。

「……幸せだ。幸せだろう、トンマンと二人っきりでいられて。幸せなんだ、俺は。……幸せだ」

 けれども幾ら言い聞かせても、握った拳はぶるぶると震えて大人しくならなかった。
 率直に言えば、狂ってしまいそうだった。
 彼女の吐息を、彼女の香りを絶えず感じながら、ただその周囲をくるくる回っているだけと言うことが、手足を切り落とされるより、目を抉り取られるよりも凄惨な拷問であることを、ピダムはようやっと身をもって実感していた。
 誰でもいいから、天女のように美しく清らかに眠りについているトンマンを守る存在が欲しい。月城にいた頃、トンマンに会おうとする度に一々「用件は」と訊ねてきて、その度にピダムの苛立ちと殺意を煽ったアルチョンでさえ今は懐かしい。……思わずそのように血迷うほど、ピダムにとって現実は過酷だった。

「なんであんなに無垢で純真で可愛いんだ……!」

 その『無垢で純真』なトンマンが黒い気炎を上げていることなど露知らず――いや、ピダムにとってはそんなところも『可愛い』ところなのだろうが――ピダムは、今日までに味わった拷問の瞬間を脳裏に描いて悶えた。
 恐らく何も知らされていないだろうトンマンは、ふとした瞬間にピダムの胸を鷲掴みにして、鼓動を奪って簡単には返してくれないのだ。世の全てが霞むような愛らしさでピダムを吸い寄せておいて、くらっと眩暈のするような誘惑でピダムを捉えて離さない。
 おかげで、そんな魅惑的な姿に囚われて何もかもを忘れて陶然と手を伸ばして、危うく理性を取り戻しては彼女から離れる、と言うことが、日を空けず繰り返されていた。

「ああもう!!」

 月に吼えて、ピダムはごろごろその場を転がった。
 面倒ながらもトンマンの為に宮廷生活で身に着けた慎ましさや礼儀は、やはりトンマンの為に、あっと言う間に雲散霧消していった。

**

 トンマンの主治医だった宮医は、高齢だったこともあって今では二人と同じ村に隠棲していたが、ちょうど市の立つ日になれば、必ずトンマンの診察をしに来ていた。市の立つ日にわざわざやって来るのは、トンマンを一人家に残して買物に出掛けることを躊躇うピダムが、自分の留守を彼に守らせようと考えた為だ。
 その一方で、彼はトンマンの診察をし、ついでに帰宅したピダムの怪我も見る日以外はほとんど無償で村人を診ているらしく、おかげで村外れに越してきた者達よりも、村人達はその慈悲深い医師を持て囃した。二人にとっても人の目に付かないことが一番だったので、特に何か申し立てることもなく、いつも有難く宮医を迎え入れている。
 その宮医は、トンマンから治療のついでに「これを用意して欲しい」と渡された紙を見て、腕組みした。
 ピダムには言うな、見つかるな、と言う『頼み』と言う名の命令と共に渡された紙には、単語が幾つか並んでいる。
 宮医が見るに、書かれている言葉は三つだった。紅、白粉……それと、酒。
 紅や白粉はまだ良い。陛下も女性だ、そう言うこともあるだろうと彼も納得した。
 しかし、酒となると話は違う。未だ身体の良くない陛下が酒を飲むことは、決して良いこととは言えない。
 王座に在った頃は宴など以外で酒を所望することなど皆無と言って良かった陛下が、一体どうしたことだろうか。もしかしたら陛下ではなくピダム公が飲みたいと思っているのに陛下に遠慮して飲まずにいるのを察して、密かに手配しようと考えられたのだろうか。

「…………」

 陛下に何かあれば必ず話せ、さもなければ殺す、と臆面もなく脅迫してきた『患者』の浅黒い顔を思い浮かべながら、果たして陛下の命令に従うべきか、あるいは何事があったのかピダム公に訊ねるべきか宮医は暫し思い悩んだ。

**

 五日に一度届く推火郡からの文は、意外なことにチュンチュではなく、スンマンの命令によるものだった。
 なんと王位に就いて間もない女王の唯一の楽しみは、姿を隠した従姉妹の近況を聞くことなのだ。
 ところがスンマンが推火郡に隠棲した宮医から文を得ていることをどこから知ったのか、いつの間にやらその席にはチュンチュもにこにこ笑って同席するようになっていた。

「あの方は如何お過ごしですか。お健やかにおられるでしょうか」

 スンマンが三度の飯よりも宮医の手によるトンマンとピダムの隠居生活日記のような手紙を楽しみにしていると知った時、かなり遠回しに「野次馬根性ですか」とからかったチュンチュを「あなたも気になるでしょう。貴い身分であった不惑の男女の新婚生活なんて、唐の書物にもありませんからね」とやり返したスンマンは、チュンチュの言葉に顔を上げることなく素っ気無く言葉を返した。

「チュンチュ公は文を読まずとも御存知だろう。あの方のことが気になって村に耳目を潜ませていること、朕が知らぬとでも?」

 先代と似ているようでいて、先代よりも彼に対して甘くない女王に負けじとチュンチュも笑みをぶつけた。
 互いにそっくりな微笑を湛えて暫し無言で鬩ぎ合った後、スンマンがふうと息を吐いてチュンチュに文を渡した。
 どうせチュンチュのことだ、望みの物を得るまで引き下がりはしないだろう。第一、これは絶対に譲れない案件でもない。甘えん坊のチュンチュだからな、と口に出さず、その笑顔にだけ出して、スンマンは文を読むチュンチュを横目に茶を飲んだ。
 ――どかどかと物々しい足音が近付いてきたのは、その時のことだった。

「陛下!!」

 明らかに眦に怒りを迸らせたアルチョンは、鮮やかな紫衣の袖をはためかせて雷光のように二人の間に割って入った。

「陛下、郎天祭のお時間が迫っております。チュンチュ公も、陛下をお連れする為に席を外されたものだとばかり……!」

 未だ鎧ではなく紫衣を纏う姿がしっくりこないのか、ほんの少しだけ微笑を深めたチュンチュを睨みつけて、アルチョンは女王に低頭している。
 物々しい上大等の登場に、ちらっとスンマンがチュンチュを見た。心得たと言うように眼で頷いたチュンチュが、アルチョンへと文を渡す。それに眼を剥いたアルチョンは、しかし文を読んだ途端、ほろほろと顔を綻ばせ……次いで、むうと眉根を寄せた。

(陛下が酒とは……)

 郎徒時代のトンマンを知っているアルチョンは、彼女がそれなりに酒を嗜むことを知っている。そして女王時代のトンマンは、私的には全く酒を飲まなかったことも。酒を飲むことで判断力が衰えることを危惧した為だと言うことも、わかっていた。
 そこまで考えて、はたとアルチョンは愁眉を開いた。
 そうか。きっと、やっと気が楽になって、以前のように酒も飲もうと思い立ったのだろう。酒は百薬の長だ。勿論飲み過ぎは良くないが、ピダムと差しつ差されつするのは陛下の為には良いかもしれない。

「では陛下、先頃唐の商人が持って参りました酒を推火郡に……」
「まあ待て上大等。ようく文を御覧あれ」
「そうです。御所望なのは、酒だけではないでしょう?」

 眦を緩めたアルチョンを遮り、そっくりな笑みを浮かべたスンマンとチュンチュがひらひら袖を躍らせた。

「紅と白粉も必要だと言うなら、酒よりももっとその二つに合うものがあるのですよ」
「準備を頼む、チュンチュ公」
「はい、陛下」

 ふふっと双子のようにそっくりなあくどいながらも妖艶な笑みを浮かべた二人を前にして、アルチョンは刹那の間、真っ直ぐで、色気の欠片もなかったけれども誰よりも懐かしい愛らしい笑顔を懐かしんだ。


****
スンマンはトンマンよりもチュンチュに似ている設定です。トンマンにはなかった色気とか女っぽさがある外見であるにも拘らず、腹黒く可愛げはない、中身は男……と言う。苦労もありますが、それよりも王座に在るのを楽しむタイプに設定してみました。
アルチョン頑張れー(笑)
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  1. 2010.05.07(金) _00:00:56
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
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