善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

.

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --.--.--(--) _--:--:--
  2. スポンサー広告
  3. [ edit ]

連載 蕾の開く頃5

今回はオリジナルキャラクター……と言うか、エキストラのような子供達が出てきます。その子供達はこの間見た『はじめてのおつかい』に出てきた兄妹を参考にしてみました。ヘタレで優しい兄と、しっかりものな妹。……確かテレビに出てきた兄妹は、5歳と3歳ぐらいだった気がするので、その通りに(笑)


*****

 その日も推火郡は麗らかな春の日差しに恵まれて、青々と爽やかだった。
 桜はもう緑が目立つようになり、日向ぼっこをするトンマンは壁に寄りかかりながら、少しばかりうとうとしていた。
 彼女が外で居眠りするなどと、聞いただけでも仰天して真っ青になりそうなピダムは、少し前に嫌々ながらも山に入っている。ひっそりとではあるが、トンマンが毎日毎日出される鶏料理にさすがに飽きてきて、他の物もたまには食べたいな、とお願いしてみたからだ。
 その時のピダムの、「鶏がお嫌いなんですか」と、まるで天地がひっくり返ったかのように驚き震えていた声を思い出して、自然とトンマンの口元が緩んだ。
 なんだかんだ言っても、ピダムのああ言った可愛げが、ピダムに腹が立っていても、彼を嫌いにはなれない理由だろう。
 相変わらず凄まじく奥手であることは変わらず、その解決方法には頭を悩ませているトンマンだったが、次に宮医が来るまではとりあえず休戦だと肩の力を抜いていた。
 それに、その根元にあるものが何であれ、ピダムがトンマンを大切に思ってくれていることは確かで、それは疑いようがない。丁寧に扱い過ぎているきらいはあるが、徐々に雑草並みの生命力の持ち主であることを教えていけば、彼も変わるだろう。……例えそう長くは生きられないとしても、まだ、数年は余裕があるように思われるのだ。
 穏やかで優しい春の陽気がそうさせるのか、朗らかな気分になってトンマンは春の昼下がりを楽しんでいた。

「……あの人?」
「うん」

 その時、かさかさと草が風に揺れる音と混じって、愛らしい子供達の声がトンマンの耳に届いた。ピダムと二人で暮らすようになってからはピダムと宮医の声しか聞いていなかったトンマンは、久しく聞いていなかった子供の声にぱっと顔を上げた。

「……誰だ?」

 トンマンとしてはかなり優しい声で問い掛けたつもりだったが、子供達はぴゅっと頭を引っ込めてしまった。
 思わずその可愛さに頬を緩めたトンマンは、ゆっくりと歩いて行って、子供達が隠れている草むらの前まで来ると、ちょこんとその場にしゃがんだ。

「怖くないから、出ておいで」

 トンマンの声に先に応じたのは、まだ三歳ぐらいの少女だった。
 ゆっくり顔を上げた少女は、トンマンを見て、ぺこっと頭を下げ……そして兄の手を握ったまま立ち上がると、しゃがんだままのトンマンを見て、ぽっちゃりとした頬を綻ばせた。

「この近くに住んでいるのか?」
「はい」

 物怖じせずに答えた少女とは裏腹に、少女よりは幾つか年長に見える少年はもじもじと少女の隣で蠢いている。

「……兄妹か?」
「こっちがお兄ちゃんです。あたしが妹です」
「そうか」

 はきはきした妹と、少しどん臭く見える兄――。
 形が違えど、確か昔はユシンとはこんな関係だった気がする。
 懐かしさに瞳を和ませたトンマンは、はたと思い付くものがあって、立ち上がった。

「ちょっと待っていてくれ」
「はい」

 きちんと返事をする妹とは対照的に、突然のトンマンの動きにびくっと驚いた兄にも微笑みかけてからトンマンは慌てて家の中に入った。こんな風に走るのは、かなり久し振りだ。
 そのまま転がるように台所に入ったトンマンは、戸棚を漁って目的の物を探した。目的の物。子供にあげる物。それはピダムが、あるいはチュンチュが、スンマンが、彼女の為にと用意してくれた菓子だった。無論、用意してもらったことにはとても感謝しているのだが、そもそもトンマンはさほど甘い物が好きではない。どちらかと言うと甘い物より酒が好きだ。
 なので、トンマンはせっかくの菓子を無駄にしない為にも、子供達にあげることにした。わざわざ広い敷地をあの小さな足で歩いてきてくれたことに対する感謝の気持ちを示したかったからでもある。
 菓子をもらった子供達は、途端に瞳を輝かせてその場で菓子を全て頬張った。内気な兄も、幾らか砕けた顔をするようになった。
 それから大量の鶏にわあわあ騒いで駆け回った妹に巻き込まれるようにして鶏小屋に飛び込み、半泣きになった兄を妹が慰めたり、トンマンが鶏を追っ払って二人を小屋から救出したり、一緒に雑草を抜いたり、草笛を吹いたり。
 暫く遊んだところでさすがに疲れを覚えたトンマンは、こちらも少し遊び疲れたような二人の頭を撫でて告げた。

「今日はもうおうちに帰った方がいい。また遊びにおいで」
「はい。お姉ちゃん」
「私はもうおばさんだ」
「お姉ちゃんです」

 きっちりと答えながらも、眠くなったのか、ごしごしと目を擦る妹の手を、今度は年長らしく兄が引っ張っている。その兄はやはりトンマンが頭を撫でてやると恥ずかしそうに逃げたが、最後にはトンマンにきちんとお辞儀をして、彼は妹の手を引いて帰っていった。
 二人が見えなくなるまで見送っていたトンマンは、こんなにはしゃいだのはいつ以来だろうと心を躍らせながら、ピダムの帰りを待つ為に家に入った。



 ムンノと旅をしていた頃のように山中を駆け回ったピダムは、籠いっぱいの土産を背負いながらも走って帰ってきた。
 勿論、偏にトンマンが心配で、彼女に早く会いたかったからでもあるが、もう一つ理由があった。家の前で籠を下ろすと、ピダムは籠の一番上に大量に載っている赤や桃色や黄色の花々を適当に一つに纏めてその手に握った。

(女は花が好きだって言うし……前にあげた時も、喜んでくれたしな)

 家の中にいるトンマンにはわからないかもしれないが、山には山の花が咲いている。二人の家には咲かない花を選んで集めてきたピダムは、意気揚々と家の中に入った。

「陛下?」

 ところが、家の中は暖かい空気とは反対に、凍えるような沈黙が支配している。
 沈黙。ピダムにとってそれは、あまり良い思い出と結びつくものではなかった。欲しい言葉をくれない者達の沈黙は、いつも彼を苦しめてきたから。何も語ってくれないそれを、ずっと恐れてきたから。
 けれども居間に入ったピダムは、小さくなってすやすやうたた寝をしているトンマンを見た瞬間、ほっと息を吐いてその場に座り込んだ。

「陛下……」

 それでも彼女の身体が案じられてそっと頬に手を伸ばすと、体温の高いピダムの手が心地良いのか、トンマンがすり寄ってくる。その様子があまりに可愛くて顔中の筋肉を下げて笑った後、ピダムは慌ててトンマン用の簡素な寝台に蒲団を整えた。このまま床で寝ていては、風邪を引くかもしれない。
 珍しく眠りが深いのか、抱き上げられても目覚めないトンマンを丁寧に布団に寝かせながら、ピダムはふと彼女から離れ難くなって隣りに横になってみた。
 まだ、トンマンと同じ床で眠ったことはない。おまけに誰かと一緒に横になるのも、幼い頃にムンノと共に休んでいた時以来だ。
 もぞもぞと蒲団に入り込んだピダムは、まだ冷えている蒲団よりも暖かいピダムが良いのかころんと彼に転がって来るトンマンを見詰めて涙が滲みそうに幸せな微笑を浮かべた。
 ――暖かい。とても、とても暖かい。
 そうして、荷物を片付けることも忘れて、花も放りっぱなしで、トンマンの匂いで肺がいっぱいになるほど彼女にくっ付いていたピダムは、思わず調子に乗った。いや、彼に言わせるなら、もうピダムの全身に積もりに積もって飛び出しそうなトンマンへの愛しさを、抑えられなくなった。

「…………」

 今なら。今なら、許されるのではないだろうか。眠っている彼女になら、許されるのではないだろうか。
 すうと息を吸い込んだピダムは少しずつトンマンに顔を寄せると、二人の他は誰も聞こえないような微かな声で、そっと囁いた。

「…………………………トンマン」

 とても、とても重い名前。全てを賭けなければ、口にすることすら許されない名前。
 その名を紡ぎながら、ピダムはかつては思い止まるしかなかった願望と溢れる愛情のままに、どんな花よりも美しく咲いて香ばしくピダムを誘う唇を食んだ。彼だけの花を、彼だけのものだと刻印するように。



 その後、後ろ髪を引かれること五度、ようやくトンマンから離れてピダムは荷物を片付けて夕餉の支度を終えた。
 彼が起こしてようやく目覚めたトンマンは、子供のように午睡をしていたと知って決まり悪さに唇を尖らせたものの、一緒に箸を進める頃にはいつになく元気そうな様子で昼間の出来事を語り始めた。ちなみにそんな二人の食卓には、ピダムが積んできた花がきちんと花瓶に生けられていて、部屋の雰囲気をさらに明るくしている。

「今日は客人が来た」
「客人……ですか?」

 川で釣ってきた魚を突っつきながら、ピダムは眉根を寄せた。

(……村外れになら滅多に人も来ないから、とここに暮らすことにしたが…………もっと山奥にでも暮らすべきだったか?)

 山に深入りすればしたで、今度は獣に襲われるかもしれないと心配をしなければならないが、ピダムとしては獣よりも、トンマンに何を言い、何をするかわからない人間をこの家に入れたくなかった。宮医だけはトンマンの健康の為だと眼を瞑っているが、本当は彼だって追い払いたい。……トンマンの身体の為にも、門前払いなど口に出来るわけもないが。
 一方トンマンは、にこにこ嬉しそうに顔を綻ばせてピダムの心をさらにささくれ立たせている。

「可愛い客人だ」
「女ですか」
「いや、男と女が来た」
「男?」

 女が来るのも嫌だったが、男はもっと嫌だ。いや、嫌どころか、トンマンの姿を見た、彼女と言葉を交わしたと言うだけでとりあえずその男を殴り飛ばし、二度とこの家に来るなと脅す権利はある。
 ……と、ピダムの思考が聊か物騒な方向へ流れていることは露知らぬトンマンの話は続いた。

「それで、色々遊んだ後、帰り掛けに戸棚に仕舞ってある菓子をあげた。子供の方が私よりも菓子を喜ぶし、菓子も喜ばれて幸いだろう」

 菓子は人を選びません――とひっそり心の中で話の腰を折ってから、ピダムは首を傾げた。………………子供?

「子供が……来たのですか?」
「そうだ。三つぐらいの妹と、少し年長の兄が仲良く手を繋いで遊びに来てくれた」
「…………陛下と遊びに、ですか」
「いや、うちの敷地が広いから、迷い込んだのだろう。この近所に住んでいる子供らしい」
「……そうですか」

 どこの子供だろう。無作法にも人様の庭に迷い込んで、陛下の御手を煩わせるとは。とりあえず見つけ出したら「二度と来るな」と親にでも灸を据えておかねばならない。

「それで、また遊びに来るように言って別れた。きちんと家に帰れていればいいが……私も少し疲れたからと、見送るだけだったのだ」

 ――今思い返してみると、幼子だったのだし、送ってやるべきだった。そう呟こうとしたトンマンの前で、ピダムはがちゃんと箸と茶碗を置いた。

「今、なんと仰いました」
「え?」
「また、遊びにですって?……いけません。お身体に障ります!」

 トンマンは突然勢い込んで、切羽詰った表情で迫ってきたピダムをいつもの通り真っ直ぐ見返して静かに告げた。

「何故だ。郎徒として龍華香徒の仲間達と遊んでいた頃が思い出されて、とても楽しかった」

 とても楽しかった。
 その一言に、先ほど味わったピダムの幸福感は崩壊した。……じわじわとピダムの瞳に涙が浮かんだ。

(……山になんて行くんじゃなかった! そんなもの、他の奴に任せれば良かった。幼子のように遊びたいと言うなら、幾らでも俺が相手になったのに!!)

 そんなピダムをじっと見て、トンマンもまた申し訳なくなった。そう言えばピダムはチュンチュとも昔は仲が良かったのだし……ひょっとして、子供が好きなのだろうか? 彼が帰ってくるまで待ってもらうべきだったか。

「ピダム、その……ごめん。お前が子供がそんなに好きだとは……」

 しかし、そんなトンマンの頓珍漢な言葉にピダムの涙はあっと言う間に引っ込んだ。

「…………ええ?」

 子供が好き? そんなこと、言ったことも、思ったこともなかったが。

「涙が滲むほど子供と遊びたかったのだろう? すまない。ただでさえお前ばかり働いているのに、お前を山に行かせておきながら、私だけ子供と遊んで……」
「何を仰るのですか、陛下!」

 そんなことをトンマンは思っていたのか。ピダムは吃驚して立ち上がってトンマンを見下ろした。
 お前ばかり働かせて申し訳ない? 申し訳ないどころか、他の誰かがトンマンの世話をするのが嫌で、自らこうしているのに。トンマンに関わる者は私だけでいいと、こうしているのに。なのに、トンマンはピダムが無理矢理彼女の世話を押し付けられていると考えていたとは。
 慌ててトンマンの手を取ると、ピダムはぶんぶん首を振りながら主張した。

「陛下、私は働かされてなどいません。陛下の為になることでしたら、何でもして差し上げたいのです。陛下のお傍にいて、何もかもをして差し上げたいのです。陛下と一緒にいたいから……だから、私の出来ることをしているだけです」

 ピダムらしい、率直で、何の衒いもない言葉。
 いつもピダムは彼の心を表現する時、思いの丈をそのまま言の葉にのせた。いつも彼の言葉は、彼女が張った氷壁を突き抜けて彼女に切なく温かい心を呼び戻した。

「……ありがとう、ピダム」

 ほんの少し瞳を潤ませてピダムの手を握り返したトンマンの清らかな微笑に励まされるように、ピダムの手がまた暖かくなった。それでも食事の途中であったので止むを得ず手を離して席に戻るピダムの残念そうな顔が可笑しくもかわいそうで、トンマンはまた言葉を継いだ。

「また次に子供達が来た時には、ピダムも一緒に遊ぼう」
「私もですか」
「うん。話をしなくても、見ているだけで、子供と言うものは微笑ましく、愛らしい。ピダム、お前もきっと良い気分になる」

 そう言うものだろうか。これまで子供と言えば…………憎らしいチュンチュぐらいしか思いつかないが。
 その時、はたとピダムは箸を止めた。
 まさか。もしかして、ひょっとしたら。子供を見て良い気分になると言うのは、それは、子供が……子供が、必要だと言うことなのだろうか。

「陛下」

 真剣な顔をして急に声を掛けてきたピダムに、トンマンもまたぱくっと一口ご飯を口にした後、箸を下ろした。今日はどうも、色々と話題が多い日のようだ。

「…………あの、もしかして……御子が、欲しいと……お思いですか」


*****
5000字とか言いつつ、いつも5000字オーバーです。おおう。
しかし書いていると、トンマンからは女王様っぽさがなかなか抜けませんし、ピダムは「お前ホントに40歳か」ってレベルで独占欲の塊です。幼児に嫉妬するって、お前!!……と思いつつ、なかなか広い心のピダムも、乙女モード全開のトンマンも思いつきません。そんな時期が、今のところドラマにないからでしょうか(笑)
関連記事
スポンサーサイト
  1. 2010.05.08(土) _16:27:32
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
  3.  コメント:0
  4. [ edit ]

<<5月8日に頂いたコメントへの返信 | BLOG TOP | 5月6&7日に頂いたコメントへの返信>>

comment


 管理者にだけ表示を許可する
 




PAGE
TOP

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。