善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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連載 蕾の開く頃8

『美男ですね』、とうとうあしながイケメン(『あしながおじさんっぽいイケメン君』の略)がポニョを抱きしめました!頑張れイケメン君!

と言う呟きとは全く関係のない、善徳女王連載第8話です。


****

 相手はどうだか知らないが、ピダムにとってその顔は、生涯二度と見なくとも全く問題のない顔であった。……しかし、決して忘れることの出来る顔でもない。

「ヨンチュン……公」

 決して歓迎する様子ではないピダムを前にしても、全くめげることなくにこにこ微笑んだままヨンチュンは言葉を継いだ。

「陛下と……と言うとややこしいが……つまりは、今上陛下とチュンチュ公から、贈り物を届ける役目を仰せつかって来た。陛下は……こちらは先の陛下のことだが……お健やかにお過ごしだろうか?」

 とりあえず今、一糸纏わぬ姿で眠っているぐらいには元気なので贈り物だけ置いてお帰り下さい――と言い掛けて、ピダムはぐっと詰まった。チュンチュ。チュンチュめ!! 余計な『気遣い』は要らんと言ってやったのに、最大級に忌々しい『気遣い』を寄越しやがった!…………いや、ユシンでなかっただけマシだろうか?
 片や、ヨンチュンは久方振りにトンマンに会えると言う嬉しさが作用してか、ピダムから迸る殺気にも気付かぬ様子でいつピダムが家に入れてくれるのだろうとホクホクと待っていた。
 そんな、能天気なヨンチュンと殺気立ったピダムに挟まれた宮医こそ哀れだったが、どちらも彼のことはさほど……いや、全く気にしていない。それでもヨンチュンが「道案内ご苦労」とでも言いたげに「帰って良い」と彼に言い放つものだから、宮医は落雷寸前の黒雲のようなピダムから逃げるようにあっと言う間にその場を去った。「また往診に参ります」と、かろうじて叫んでから。

「せっかく訪ねて来たのに宮医がいては、水を差すようなものだからね。寛いだ話もしにくい」

 ――水を差しているのは、お前だ! お前も帰れ!!
 ……そのように腹の底から思っていても口に出せないのは、なんだかんだ言ってもヨンチュンはピダムの異母兄だからであろうか。

「…………暫しお待ち下さい。陛下に申し上げて参ります」

 山盛りの苦虫を噛み潰したような顔で、ピダムもまた、家の中へと戻った。
 今日一日、トンマンと二人、ころころ転がって戯れ合って過ごそうと言う計画は、終わった。それが残念でならなくてピダムの心は沈むところまで沈んだ。……トンマンはきっと、ヨンチュンが訪ねて来たと知ったら喜ぶだろうことも目に見えていただけに、さらに落ち込んだピダムは、項垂れながらトンマンの部屋に入った。

「陛下、実は……」
「わっ!」
「え?」

 そこへ、なんだか随分らしからぬ悲鳴が聞こえたような気がして顔を上げれば、ピダムの目に白い蓑虫……ならぬ、布団をぐるぐるに身体に巻きつけ、床に転がっているトンマンが映った。

「陛下、ど、どうなさったのですか!?」
「いい、いいから戸を閉めろ、来るな!」

 来るなも何も、明らかに尋常な様子ではない。もこもこの布団の中で真っ赤なトンマンの顔があたふたと逃げを打っていたが、構わずにピダムは布団ごとトンマンを抱き上げた。
 ところがピダムの焦りは、そのトンマンを巻いた布団の下に現れた服を見た途端に消え去った。一瞬、状況を把握する為に沈思した後、ピダムの頬が徐々にむずむずと痙攣し始める。まさか、と言う思いと共に、彼は悪戯っぽくトンマンを見た。

「陛下……この服を取ろうとなさっていたのですか?」

 必死で堪えたが、声に笑いが滲んでいたのだろう。鋼をも突き通しそうな眼差しでトンマンがピダムを睨んだ。尤も、その目とは裏腹に、狼狽しきった顔が真っ赤になっていた為に、全くピダムには応えなかったけれども。

「仕方ないだろう、手が届かなかったのだ!」
「すみません、陛下。昨夜は、どうも……その、気が逸っていたせいか、ついこんなところまで投げてしまったようです」

 思い返してみると、確かに邪魔だからとトンマンの服も自分の服も思いっきり投げ捨てた。
 だが、さすがに服を破ったら怒られるだろうと少しは気を遣って、ちゃんと丁寧に脱がせた後に、投げたのだ。よくもまああれだけ焦って切羽詰った状況でそこまできちんと対処したものだ、とピダムは今さらながらに昨夜の自分を賞賛した。トンマンが褒めてくれないので、代わりに。

「わ、わかったから……だから、外に出ていろ。着替える」

 子供のように、それも布団ごと、抱えられているのが悔しいやら恥ずかしいやら、トンマンはわざとつっけんどんに告げた。
 しかし、ピダムも譲らない。

「着替えようとして、布団に脚を取られて転んでしまわれたのでしょう?」
「……そんなことはない」
「じゃあどうして床に転がっておられたのですか。もしまた転んでしまったら、今度こそお怪我をなさるかもしれません。お手伝いします」

 誓って、下心が主な理由ではない。本当にピダムは心配で、トンマンに「手伝わせて下さい」と申し出た。そして半ば、無理矢理手伝った。手伝いながら、気付いた時には必要のないことを――主に、口付けたり、現れた肌を撫でたり、きゃっきゃっと抱きついてはしゃいだり――したりもしたけれども。
 いつもより数段疲れる着替えをなんとか終えて、いつも通り、上の方の髪を一つに束ねて流したトンマンは、へらへら顔を蕩けさせているピダムを恨みがましく睨んだ後、早く雰囲気を変えようと話題を転換した。

「そう言えば、先ほどの客人は誰だったんだ?」
「え?」

 ……そして、そこでようやくヨンチュンのことを思い出したピダムは、そのことを知ったトンマンから、特大の雷を落とされたのだった。



 恥ずかしいやら申し訳ないやら、初めてトンマンはヨンチュンの前で消え入りたい思いを味わっていた。あのようにピダムと騒いでいる時に家の外にヨンチュンがいたかと思うと、どうしようもないぐらいに追い払っても追い払っても羞恥心が戻ってくる。国婚のことを御前会議で宣言した時でさえ、これほど恥ずかしくはなかったのだが。

「すみません、ヨンチュン公」
「いいえ、陛下、前触れもなしに参りました私に責があります」
「そのようなことはありません」

 悪いのは、ヨンチュン公のことを忘れてスケベ心を出したピダムです――とは言えなかったが、トンマンに台所へと追い遣られたピダムを心の中でもう一度足蹴にして、トンマンはヨンチュンになんとか微笑んで見せた。すうと息を吸って落ち着けば、なんとか女王時代の威厳を取り戻せそうな気がした。
 対座するヨンチュンは、女王時代よりも遙かに血色の良いトンマンを見て、ほっと詰まっていた息を吐いた。最後に見たトンマンは三日も目覚めなかった上に、すぐにも儚くなってしまいそうなほどに弱々しかった。さらに、先ほどもピダムが呼びに入ってからあまりに長く出てこなかったので、もしかしたらよほど具合が悪いのだろうかと心配になっていたのだ。
 予想を遙かに上回る回復を目にしたヨンチュンは、嬉しそうに女王やチュンチュは元気にしていることを伝えた後、挨拶がてら切り出した。

「では、忘れぬうちにお渡し致します。陛下がお求めのものです」
「!」

 昨夜から宮医に頼んだもののことはすっかり忘れていたトンマンは、ヨンチュンが卓の上に置いた箱を見て、しまったと顔を凍らせた。

「あ……の、ヨンチュン公、これは……」
「こちらの箱には宮医に用意するようお命じになった品が入っております。こちらの包みは、今上陛下とチュンチュ公から承って参りました」

 無事役目を終えたことに安堵と満足感を漲らせて微笑むヨンチュンを前に、トンマンは言えなかった。もうそれは必要ありません、とは。

「……ご苦労でした、ヨンチュン公」
「はい」

 それでも、さすがにピダムに紅やら白粉だけでなく、酒まで欲しがったことが知れれば絶対にからかわれるに違いないと、トンマンはヨンチュンに手伝ってもらって、箱を開けもせずに自分用の箪笥にそれらを仕舞い込んだ。ヨンチュンにも、ピダムには言わないで下さい、と堅く口止めしながら。



 いつまでもトンマンをヨンチュンと二人きりにしておけるか、と急いで朝食を準備したピダムは、恥ずかしがるトンマンと、ピダムの氷の眼差しに若干表情を凍らせたヨンチュンに構わず、トンマンのすぐ隣に腰掛けた。しかも、遅い朝食を取るトンマンに、たびたびあれも食べて下さいだの、これは美味しいですだのと口を出しては、直接トンマンに食べさせようともする。
 さすがにそこまではされたことのなかったトンマンは、いきなり何をするのかと懸命にピダムを押し出そうとしたが、なかなか上手くいかなかった。何せ、ヨンチュンの目がある。二人きりだったら遠慮なく怒鳴れるものの、ヨンチュンの前ではさすがにそれは躊躇われた。……ヨンチュンの後ろにスンマンやチュンチュがいるかと思うと、躊躇われる上に、恐ろしくもある。
 そんな二人を眺めるヨンチュンは、仲睦まじい様子に温かな微笑を浮かべていた。
 幼い頃から男装をして、拷問を受けたことも、戦場に出て死の淵に立ったこともある義妹と、生まれてすぐに捨てられて、その上勢力が違うことからろくろく兄弟としての付き合いも出来なかった異母弟。どちらも、幸せになって欲しい存在だった。
 ヨンチュン自身、兄ヨンスと義妹チョンミョン夫婦の幸せが如何に儚かったか、その悲劇を間近で見ていただけに、一刻も長くトンマンとピダムの幸せが続くよう、祈らずにはいられなかった。
 が、その一方で、あまりに放っておかれているのが少し寂しくもある。
 それでも幸せな姿を見ているのは心和むものでもあるので、今度はご飯のお代わりを巡ってやいのやいのと言い合う二人を見ていたものの、とうとうその可笑しさに耐え切れなくなって、思わずヨンチュンは噴き出した。
 それを耳にしたトンマンが、ぴたっと口を噤む。思わず恨めしげにピダムを睨むが、ピダムは何が悪いのやらさっぱりわかっていない様子だ。それよりもご飯をお代わりして下さい、もっと食べた方が身体の為です、と言い掛けたピダムの口を塞いでから、トンマンはもじもじとヨンチュンに向き直って頭を下げた。……女王の威厳は、昨夜のうちに消えてしまったのかもしれない。

「……みっともないところをお見せしました、ヨンチュン公」
「いいえ。お懐かしいです。昔の陛下は、とても溌剌として、先ほどのように賑やかでいらっしゃいました」

 昔、と言う言葉にトンマンとピダムがそれぞれに反応したので、ヨンチュンはさらに言葉を継いだ。

「覚えていらっしゃいますか? 万弩郡で初めて陛下にお目に掛かった時から、陛下は本当に凛々しく、堂々としておられました」

 ムンノを探しに鶏林へとやって来た頃、チュクパンとコドを助ける為にユシンに談判して、しかし、当時はトンマンのことも盗人だと思い込んでいたユシンには信じてもらえず、危うく捕らえられそうになったトンマンを助け、彼女の話を聞いてくれたのは、ヨンチュンだった。その後、ミシル宮に乗り込んだトンマンを引き取りに来て、さらにはチルスクのことを教えてくれたのも、ヨンチュンだった。
 それらはトンマンにとって印象深い出来事だったが、まさかヨンチュンが覚えているとは思わなかった。トンマンが瞳を丸くしていると、照れ臭そうにヨンチュンは続けた。

「まさかあの頃は、チョンミョン王女の妹君だとは考えず……こうして今になって考えてみますと、随分と無礼な物言いを致しました」
「いいえ。宮中の方ではじめから私の言葉を疑わずに聞いて下さったのは、ヨンチュン公だけです」

 姉上もユシン公も、出会ったばかりの頃は私の言うことを疑いました、と苦笑するトンマンの瞳は、古い思い出への懐かしさで一杯になっている。
 そんなトンマンの茶色い瞳を、深い深淵の色をしたピダムの目が静かに捉えていた。
 ピダムの知らない、ピダムに出会う前の記憶。ユシンに、アルチョンに対して常々ピダムが羨ましく、妬ましく思っていることが、ヨンチュンにも言えたとは。
 ……わかっている。出会うのが遅かったなどと言っても、どうしようもないことは。けれど、もし赤子の時から一緒に暮らせたら……そうしたら、きっと、このような不満はなかっただろう。ずっとその手を取って、他の誰にも触らせなかっただろう。自分だけの宝物として、ひとかけらの記憶でさえも他の者には譲らなかっただろう。

「そう言えば、陛下は西方からお出でになったと伺っておりますが……」
「はい。十五の年までタクラマカンで育ちました」
「では……海を渡ったことはございますか?」
「海は……見たこともありません、ヨンチュン公」

 何の話をしようとしているのだろう。ヨンチュンの真意を探ろうと真っ直ぐ彼の爽やかな双眸を見詰めるトンマンに、僅かに表情を引き締めたヨンチュンが静かに、囁くように呟いた。

「実は、チュンチュ公が間もなく倭へ赴かれるのです」


***
このお話は『善徳女王死後』と言うことで、西暦では647年として書いています。ドラマ年数は違いそうですが(笑)
また、当時、日本はすでに日本と名乗っていたような気もしますが、朝鮮半島からは千年後も「倭」と呼ばれているので、そのようにしています。
チュンチュの日本行きは三国史記には書かれていませんが(『日本書紀』に書かれています)、翌年に唐に行っていること、642年には高句麗に言って危うくゲソさん(ヨン・ゲソムン)に殺されかけていることから、日本行きもあっただろうと推測しています。三国史記の頃、わりと三国とも日本とは交流が多かったので。
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