善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 愛を犯した者達

※本日二本目の記事です。


ちっちき様リクエストの、「(連載の)ピダムが死んだと思ってから隠居生活を決意するまで」です。
切ない系の話なので、管理人のように「切ない話は落ち込むから駄目!」と言う方には、あんまりオススメ出来ません。また、いつも通りネタバレし放題ですー。
…………ああ、幸せなトンピダ(略し始めた!)が書きたい。ギャグものが書きたい。次は『絵姿女房』にしようかな!……と迷っています(笑) でも次はリレー連載ですね! はよ書かなければー。


****

 死ぬ、と言う意識はなかった。

 ただ前へ前へと進んでいた。
 そして、いつの間にか進めなくなった。
 伸ばしているはずの腕が、落ちた。
 狭まっていく赤い視界に最後まで映っていたのは、止めどなく流れていく大粒の涙。
 ……笑った顔が、見たかった。ただ、それだけだったのに。

「……聞こえるか、ピダム」

 一筋の光もない暗闇に、掠れた声が落ちた。

「陛下が、目覚めない。お前が死んだその時から、陛下が目覚めない」

 その声は、静かに波紋を広げていった。

「――生きろ。陛下を道連れに黄泉路へ去るなど、許さない」

 熱い手が、消え去りそうな意識を引き摺り上げていく。――ピダムは、ゆっくりと目蓋を上げた。


***


 さく、さくりと雪を踏み分ける音が近づいている。誰だろう。……いや、誰でもいい。この音は、彼女のものではないから。それなら、誰だって構わない。そう、誰でも――。

「斬死出来ぬなら、次は凍死か? つくづくお前は獣じみているな」

 彼を黄泉路から引き摺り戻した声が、さやさやと揺れた。ピダムは振り返りもしなかった。

「お前が野垂れ死ぬのは構わないが、すでに晒し首になった反逆者の死体が、首と胴が繋がったまま人目につくのは困る。死ぬなら復耶会で死んでもらいたいものだ」

 ピダムの真下に立った青年――チュンチュは、木に登り、太い枝に腰掛けているピダムを見上げると、すうと眼を細めた。その口元には、笑みを湛えたままで。

「死にたいなら、殺してやる。私が助けたのだから、それくらいはしてやろう」
「…………」
「だが、叔母上を連れていくことは許さない。叔母上には生きて頂く」

 チュンチュは肩に落ちた雪を掴んで、ぐしゃりと潰した。

「……叔母上が、お前の姿が見えないと案じておいでだ」

 その時初めて、黒々とした瞳でただ降り積もる雪を見ていたピダムの双眸に、光が宿った。

「二度も叔母上を殺したくなければ、さっさと戻れ。発作が起きた」

 次の瞬間には、ピダムの姿はもう消えていた。
 粉雪が触れ合い、ぶつかり合って大きな雪へと変わっていく中、チュンチュは暫くの間立ち続けていた。


**


 ピダムが起こした反乱が鎮圧されてから、はや一月が経っていた。
 そんな中、元が頑強な肉体の持ち主であったピダムの傷が癒えた一方で、トンマンの病はなかなか治らずにいた。一日の大半は、チュンチュがわざわざ運び入れた立派な寝台で横になっていたし、ふとしたきっかけで発作が起きた。眠っている間も痛みに苦しめられ、安らかではいられない。
 明らかに乱の前よりも悪化している病状を目にして、ピダムは自らが犯した罪の報いが彼ではなく、トンマンを襲っていることを確信した。そしてそれは、どの傷よりもピダムを苦しめた。痛くて、痛くて、耐え難かった。

「ピダム」

 それでも、トンマンが彼の姿を見て微笑めば、ピダムの唇も弧を描いた。
 寝台の上に座ったトンマンは、疲れた様子は欠片も見せずに、少しばかりはにかみながら話し始めた。

「その、ピダム」
「はい」
「実は……チュンチュが、家を用意してくれた」
「家……ですか?」
「ああ」

 推火郡に、とトンマンが付け足すと、初めてその意を理解したらしいピダムの口元から微笑みが消えた。

「春が近付いて、雪が少なくなったら……私はその家で暮らそうと思っている」
「…………ですが、お身体が……」
「それまでには良くなる。大丈夫だ、毎日少しずつ良くなっているのがわかるのだ」

 トンマンは嬉しそうに微笑んだ後、ふいに表情を引き締めてピダムをじっと見た。

「その家で、ピダム、私はお前と暮らしたい。最初の頃は無理かもしれないが……出来れば、お前と二人で、つつましく暮らしていきたい」

 ぎゅっと布団を掴んだ指を震わせながらも、トンマンはピダムを見つめ続けた。彼から視線を外すことなく、落ち着いた声で問いかけた。

「……一緒に来てくれるか? ピダム」





 太白山は、雪に閉ざされていた。けれどもしんしんと降り積もる雪がピダムの行く手を阻むことはなかった。まるで導かれるかのように懐かしい大木の前に立ったピダムは、深く被っていた笠を取り、その場に膝をついて雪を掻き分けた。
 真っ白な雪の中から現れた石は、彼が心をこめて集めた物だ。ムンノを想う気持ちの結晶が、その石であり――。

「師匠……」

 ――美しく並べられた石達は、ムンノを守る為の物でもあった。

 トンマンから共に推火郡へ下ることを切り出されたピダムは、その返事をする前に、この場所へとやって来ていた。ムンノが眠る、太白山へと。

『一晩考えて、答えをくれ』

 トンマンは、すぐに彼に答えを求めなかった。ピダムが言葉に詰まったことを鋭く見抜いた彼女は、気まずくなる前にピダムに猶予を与えた。他にピダムの進める道がないと知っていながら、考える時間をピダムに授けた。彼が自分の意志で未来を選べるように、嫌だと思ったならその一晩で消えてくれ、と悲しい優しさを見せた。

 ――すでに傷の癒えているピダムなら、どこへでも行けるだろう。どこでも、生きていけるだろう。私に縛られることもなく。
 トンマンがそのように考えているとは思いもよらないピダムもまた、トンマンが思いもよらぬ苦悩を抱えて復耶会の砦を抜け出した。そうして辿り着いた場所が、ここだった。
 もう、何年も来ていなかった場所。
 司量部令となってからは、トンマンの傍を離れることなど考えられず、一度もやって来なかったこの場所。
 何故。どうしてここを忘れていたのか。何故、来ようとしなかったのか。

「師匠……申し訳ありません」

 忘れていたわけではなかった。何度も何度も、師の夢を見た。……良い夢は、一度もなかった。
 だからだろうか。微笑んでいる母の遺影に縋り、厳しい顔をしている師からは逃げた。死ぬ間際まで愛情を見せなかった母への未練を捨てきれない一方で、剣を向けたピダムを許し、最期まで彼のことを案じ続けてくれた師の愛情を顧みなかった。自分に都合の良いものばかりを選んで、それに囚われていた。
 ……そうして、トンマンを追い詰めた。彼女を殺しかけた。
 求めるべきは。見習うべきは、母の姿ではなく、師の姿であるべきだったのに。彼を捨て、認めなかった母ではなく、彼を拾い、育て、思い続けてくれた師にこそ、問いかけるべきだったのだ。

「――私は、陛下を殺しました」

 からからに乾いた喉から、ピダムは搾り取られるように声を出した。

「陛下を信じませんでした。そして、陛下を追い詰め、死に追い遣りました。…………それなのに……」

 握りしめた拳が、激しく痙攣して、ピダムの身体も震えていた。

「…………トンマンは、私と暮らしたいと……二人で、つつましく暮らしたいと言いました」

 トンマンからそう告げられた瞬間、ピダムを襲ったのは、負の感情ではなかった。あんなにも酷い裏切りをしておきながらも、トンマンが彼に「二人で暮らしたい」と告げた瞬間、ピダムは喜びに震えていた。凍りついた肌の下では、歓喜が駆け巡っていた。
 しかし今のピダムは、それが如何に愚かで罪を忘れた所業であるかを、知っていた。もう、無知ではなかった。――恋しただけ、愛しただけ、罪も犯したことを知っていた。

「トンマンは……トンマンは、今にもまた…………師匠のところへ行ってしまいそうな身体です」

 そして、すでに罰は下っていた。ピダムの傷が完全に癒えた今も、トンマンは病魔に苦しんでいる。

「それでも…………私は、トンマンを愛しています。トンマンが恋しいです。トンマンと……トンマンと、二人で暮らしたい。一緒に暮らして、夫婦になって、愛し合いたいです。でも……」

 玉のような涙が、片目から流れ落ちた。

「私がいる限り……私が、愛している限り、また、トンマンを殺してしまうのではないかと…………陛下を殺したように、今度はトンマンを殺してしまうのではないかと………………恐ろしくて堪りません」

 トンマンを愛している。
 トンマンを傷つけている。
 その二つに、一体、何の違いがあるのだろう。……ピダムには、わからなかった。





 師の前で悩んでも、答えは出なかった。
 ――トンマンを愛している。
 それが、トンマンを傷つけることと同義にならない為にはどうすれば良いのか、その問いへの答えは、一晩経っても見つからなかった。
 そして、その問いの答えを見つけない限り、ピダムはどこにも進めない。すでに自らの死がトンマンをも巻き込んでしまうことを知った以上、死ぬことも出来なかった。九泉へと堕ちるのは彼一人で良かった。トンマンには、トンマンにだけは、天寿を全うして欲しかった。

「陛下……!」

 チュンチュの言っていた通り、トンマンは横になったまま、苦痛に顔を歪めていた。室に飛び込んだピダムはトンマンに駆け寄ると、掛け布団を握りしめている手に自分の手を重ねた。

「……ピダ、ム……」
「お話しにならないで下さい。申し訳ありません、陛下……!」

 トンマンは強く握っていた手をほどくと、ピダムの手を弱々しく握り返した。

「どこに……行って、いた……」
「陛下、まだお話しになっては……」
「いい、から……!」

 どこに行っていたのだと、宮医を追い払った途端にトンマンは子供のように癇癪を起こした。

「本当に……いなく…………なったのかと……思ったでは、ないか……!」

 しゃくり上げるようにして叫んだトンマンは、ピダムの手を握ったまま、彼から顔を背けた。ピダムが悩んでいた間、彼女も同じように……もしかしたら、それ以上に悩んでいたのかもしれないことを示すかのように、繋がれた手は震えている。それは、ピダムにもはっきりと伝わった。

「陛下――」
「出ていくなら……! 出ていくなら、私に、一言ぐらいは何か言うべきではないのか。私は……私は、お前を追い出したくて、あんなことを言ったわけでは……」
「陛下」

 震えを吸い込むように握った手に力を込めると、ピダムは腰を上げて寝台に座り直した。苦しんでいた証か、少し乱れているトンマンの髪を撫でて、凛とした声で囁く。

「……私は、陛下のお傍にいなければ、生きてはいけません」

 その言葉にトンマンの身体が僅かに強張った。

「連れていって下さい。陛下のいらっしゃるところなら、どこへでも。どうか、お供をさせて下さい」

 恐る恐る振り返ると、トンマンは真っ直ぐに彼を見上げた。

「…………私は……もう、富も名誉も……何も与えられないぞ。それでも、構わないか」
「いいえ」

 無垢な瞳を見下ろしながら、ピダムは髪を撫でていた手をトンマンの胸へと下ろした。そして、いつかそうしたように、胸元に手をあてて誓った。

「……愛しています」

 その誓いは、罪を重ねることを意味しているのかもしれなかった。けれど、ピダムは誓った。愛している――それが、彼の全てだった。師が彼を愛したのと同じように……いや、誰とも比べることは出来ないほどに、トンマンを愛していた。
 トンマンの問いへの答えは、トンマンに触れたその瞬間に、迷いなくピダムの心を占めた。

「愛しています」

 ――富や、栄誉。そんなものは要らない。要らなかった。欲しいものは、一つだけ。それは、「陛下」が与えるものではない。トンマンだけが、与えることの出来るものだ。欲しくて堪らなくて、けれども要求するにはあまりに罪深くて、受け取るには恐れ多いものだった。
 ……一人で悩んでも、答えが出るわけがなかったのだ。彼が愛しているのは、トンマンだけなのだから。トンマンだけが、彼の答えたり得るのだから。

「……ピダム……」
「はい」
「一緒に暮らしたら……カリバンを一緒に作ってくれ。西方の食べ物なんだ」
「はい」
「ピダム……」

 涙の滲む瞳を綻ばせて、トンマンは微笑んだ。

「……ありがとう」

 安心した為か、今度は穏やかに眠り始めたトンマンを見つめて、ピダムは呟いた。

「……愛してる、トンマン」

 また、彼女を傷つけることのないように。また、罪を犯すことのないように。――ピダムは巧妙に自らの心を紗で覆った。



****

以上、連載のプロローグ?でした。
ちっちき様、お待たせしました! 正解は、ユシンやチュンチュではなく、ムンノとトンマンでした。私の趣味です(笑)
なんと言うか、ちょっとわかりづらくてすみません。会話が成り立っていない部分がありますが、(多分)わざとです。違ったらお恥ずかしいです…!
ちっちき様、今回も書き応えがあって楽しかったですv リクエストありがとうございました!
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  1. 2010.08.22(日) _11:23:20
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
  3.  コメント:3
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<<8月21日と22日に頂いたコメントへの返信 | BLOG TOP | チュモンとイ・サンと善徳女王とキムシン。>>

comment

広告が「ペットと住めるマンション」て(笑)

  1. 2010/08/27(金) 00:31:28 
  2. URL 
  3. りば 
  4. [ 編集 ] 
緋翠さまこんばんはー。

このお話、ピダムもまだ生き返りきってないみたいな・・・体は元気でも魂はまだちょとさ迷ってる感じで、朧というか静かというか、半分凍てついてるというか・・ただトンマン絡みの時だけぽっと色が灯る、みたいな。画面としても雪景色にピダムの黒衣と、水墨画みたいな渋い雰囲気がまた好きです。

それと、最近1~3話をレンタル完全版で見て、首都では大変な事になってるのにいつまでも啓示受信中のムンノとか、この国仙に敵うと思っているのか!てキメてる間にマヤを人質にとられちゃってるムンノとかを見て、ムンノ愛がこみあげてた所なので、ピダムがムンノを思い出してくれて、墓参りもしてくれて嬉しいです。

ああいう形で逝ったムンノが、もし答えてくれるとするなら、何て言うでしょうね。思えばムンノもピダムとうまいこといったとは言えませんが、それでもムンノは、ピダムを育てて良かったと思ってくれてるんじゃないかと。答えは添い遂げてから出してみろってことですかね。

トンマンプロポーズでピダム連れていって下さい、て応じるってほんと主従というかトン×ピですねー。連載のプロローグでもあり、ピダム、大人への道のプロローグ!(今頃?)でもあるような気がします。

管理人のみ閲覧できます

  1. 2013/03/17(日) 20:42:09 
  2.  
  3.  
  4. [ 編集 ] 
このコメントは管理人のみ閲覧できます

すず様へ

  1. 2013/03/28(木) 19:49:09 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
すず様、はじめまして!緋翠と申します。(お返事が遅くなってすみません…!)

ピダムにハマるお気持ち、わかりますvv私もピダムは凄く面白いと思いますし、好きです(*´∇`*)
そして、ドラマの最後の衝撃も、私自身が三年前に経験したことなので、「わかる…!」と頷きながらコメントを拝見しました。かくいう『蕾の開く頃』も、最終回のショックから抜け出す為に書き始めましたものです(笑) そんなわけなので、安心して頂けて本望です!
あの瀕死の状況からどうやって元気になったのか……は、番外編でちょっと書きましたが、チュンチュとチュクパンと復耶会のおかげですねー。あとは……ピダムは生命力強そうだ、と言う書き手の思い込みです(笑)

あ、コメントは、どうかお気になさらずー!気が向いた時に、お時間があれば……なものですので!来ていただければカウンターが回ってわかりますから、来ていただけるだけでも嬉しいですv(・∀・)v

最後に、優しい応援をありがとうございます~!これからも、ほのぼのだったり幸せだったりそうでなかったり(笑)するトンマンとピダムを目指して頑張ります!
こちらこそ、ありがとうございますv(*´∇`*)


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