善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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連載 蕾の開く頃12

連載とは全く関係ないですが(笑)、美男ですね、段々のめり込んできました。面白い。いやはや面白い。……でも二次創作する気にはならないのは、多分、ドラマの中で満足出来るくらい登場人物の心情が書き込まれているからかなあと。
あ、いえ、「美男ですね 二次創作」で検索して当ブログにお越し下さっている方がたまにいらっしゃいまして、その度に申し訳なくて……。すみません、美男は感想オンリーの予定です(汗)


***

「……え?」

 ピダムは自分は聞き間違いをしたのだろうと思った。少なくともピダムと向うを張るくらいは腕の立つユシンを、かろうじて剣を持てはするものの、その扱いと言ったら……言葉は悪いが、酷いとしか言いようのないトンマンが滅多打ちに? 無理だ、とピダムは頭の中で即答した。

「陛下、その……それは」

 夢ではないのですか、と続けようとしたピダムの顔に浮かんでいる苦笑から、彼の考えていることを読み取ったのか、トンマンがムッとした顔つきになった。

「これでも百済との戦にも出たことがあるし、殿にもなって、それでも生きて帰った戦士だ、私は」
「――陛下、戦場に出たことがあったのですか!?」
「当たり前だ! 私は郎徒だったんだ。出陣命令があれば、当然戦場に行く」

 先ほどまでの物静かな空気はどこへやら、ぎゃあぎゃあ騒いで起き上がったトンマンは、ピダムが解いた紐をそのままにして、自分の箪笥の引き出しを開けた。その手が握るのは、龍華香徒の青い鉢巻だ。

「これを巻いて戦ったんだ。でも、ちゃんと生き残った」
「…………陛下。どうやら私は、ユシンに心から感謝しなければならないようです」
「何故だ! あの時、確かにユシンの教えも役に立ったが、百済兵に殺されそうになったユシンを助けたし、アルチョンだってあの時は私に命の借りが出来たと言ったんだぞ」

 この機に、如何に自らが昔は勇ましかったのかピダムに伝えようとトンマンは意気込んだ。ところが戦でのことを話そうとするトンマンを押し留めるピダムは真っ青になったままだ。

「それは……大体予想がつきます。陛下はあの二人よりもよほど知恵が回りますから、恐らく花郎らしく死のうなどと言ったアルチョン達を、上手く導いてやったのでしょう?」
「そうだ」

 しかし、わかっているじゃないか、と満足げなトンマンにピダムは首を横に振った。

「そうではなく……激戦となれば、あとは個人の力と運がものを言います。あの、私の知る限り、陛下の剣では、到底生き残れるはずはないのです」
「生き残っているではないか!」
「だから、他の者に感謝しなければならないと…………ああもう、陛下といると、心の臓が幾つあっても足りないような気がしてきます」

 まるで今、死地から戻ったかのようにピダムは背後からトンマンを抱きしめた。これまでもトンマンが死んでしまうのではないかと幾度か慄いてきたが、まさかこのような形でも心を脅かされるとは考えてもいなかったのだ。
 あまりにピダムの言葉が真に迫っていたので、自分の力を信じようとしないピダムが不満ではあったものの、さすがにトンマンも黙ってピダムの腕に自分の腕を重ねた。不安だと言うことを示すように、ピダムの腕は僅かに震えていた。唇を尖らせつつも、仕方ないとゆっくりトンマンは彼の腕を摩ってやった。
 ややあって、トンマンの肩に顔を埋めて彼女の脈を直に感じようとしていたピダムも落ち着いてきたのか、怒らせたのではないかと心配になって、そっとトンマンの横顔を覗いた。

「あの……」
「なんだ?」
「……その………………本当に……ユシンを木刀で滅多打ちにしたんですか?」

 「よりにもよって何故その話題を!」と口にしてから後悔したが、今更どうしようもなくて、ピダムは大人しくトンマンの答えを待った。トンマンは、龍華香徒の鉢巻を見ながら懐かしい思い出に浸っているのか、楽しそうに目を細めている。

「うん。いつも、ユシンに散々砂袋をつけられたりしていたから……だから、厳しい訓練に耐え切れなくなった時は案山子をユシンに見立てて、鬼、生意気な奴、馬鹿ユシン、と頭の中で悪態をついて力を取り戻した。『砂袋なんかに負けるか! お前なんかこうしてやる! くたばれユシン!!』が一番効いたな」

 ふふっと笑いながらとんでもない過去を告白するトンマンは、客観的に見れば、愛らしいと言うより、恐ろしかった。
 が、彼女の傍にいるのは、主観性の塊ピダムである。まさか、ピダムと初めて出会った時には駆け落ちしようとしていた二人にそんな時代があったとは考えたことすらないピダムは、途端にトンマンが三割増で可愛くて堪らなくなって、わっと彼女を抱きしめて頬に唇を寄せた。

「うわっ!? ど、どうしたピダム」
「くたばれユシン!……と、思っていたのですか?」
「ま、まあ……そうだな。昔はユシンはひたすら私に厳しかったから……」
「それで、訓練用の案山子をユシンに見立てて滅多打ちに?」
「そうだ。そうでもしなきゃ、訓練についていけなかった」

 それほどに厳しかったんだ、とぶつぶつ不平を漏らすトンマンを見詰めながら、ピダムは喉の奥で笑った。
 ――陛下、ご存知ですか。そうでもしなければ、きっと陛下は死んでいました。戦場は、厳しいから。だからユシンは、必死になって陛下を鍛えたのでしょう。弱いままでは、守る前に死んでしまうから。
 でも、そんなことは知らなくて良いのだとピダムは思った。いや、もしかしたらトンマンも知っているかもしれない。知った上で、それでも憎らしかったと言うなら、それこそ万々歳だ。ずっとユシンとトンマンは互いを思い合って愛情を抱き合っていたと思い込んでいたピダムにとっては、それだけで十分だった。

「陛下」
「うん?」
「これからも、時々昔のことを話して下さい」
「……昔のこと?」
「はい。前に……砂漠にいた頃は、毎日次の日が楽しみで眠れなかったと仰っていたでしょう。あの時のように、陛下が鶏林に来る前のことや、郎徒だった時のことをまた聞きたいです。……駄目ですか?」

 顔色を伺いながら問うピダムに、トンマンはあっさり頷いた。

「わかった。じゃあ、ピダムお前も……昔のことを話してくれないか? たまにでいいから」
「私のこと……ですか」
「うん。私も、お前がどんな子供だったのか、会う前まではどうしていたのか、ちっとも知らない。だから、教えっこしよう」

 家に二人きりでいるとどうしても話題が限られがちだ。日々の小さな出来事も面白いが、昔話も楽しめる。我ながら良い案だと思ったのか、子供のようにトンマンは明るく笑った。
 ピダムは、トンマンの提案に僅かに戸惑った。トンマンと出会う前のことと言えば、即ちムンノのことになる。あまり……良い記憶ばかりとは言えなかった。……いや、そう思い込んでいるだけだろうか? あの事件の前は、毎日毎日ムンノとあちこちを旅して、夜は一緒に手を繋いで眠って……とても楽しかったではないか。

「……はい」

 ――……話せることから、少しずつ話そう。小さく頷いたピダムの頭に、トンマンがふざけて頭を軽くぶつけた。

「じゃあ……あ、そうだ、あの本!」
「本ですか?」
「うん。昔、カターンおじさんにもらった本があるんだ。璽主にも読み聞かせたことがある。あれを今日からお前にも読み聞かせてやる」

 早速本を取りに行こうと、トンマンは何気なくピダムの腕を解きにかかった。ところが、その腕は一向に解ける気配がない。

「ピダム。ちょっとこの腕を……」
「本は、明日からにしましょう」
「何?」

 軽く微笑むと、あっと言う間にピダムはトンマンを抱えたまま後ろに倒れた。お、お、とトンマンが驚いているうちに、珍しく彼女はピダムを見下ろす体勢になっていた。寝転がったピダムは、もうすっかり可愛げのない顔つきになっている。

「あまり遅くまで起きていると、身体に毒です。なので、もう今夜は昔話をする時間はありません」
「ピダム……!」

 お前が言い出したくせに、と怒ろうとする瞬間、すでにトンマンの唇は言葉ごとピダムに飲み込まれてしまっていた。そうして大きく丸くなったトンマンの瞳が少しずつ閉じられていく頃には、トンマンもおろおろさ迷っていた手をピダムの肩に添えた。……昔話も大切だが、ふつふつと湧き上がる熱を伝えるのも、大事だろうと結論付けて。

***

 それからまた数日が過ぎたが、ピダムは幾つかの小さな出来事を除けば、この上もない幸福感を満喫していた。
 小さな出来事と言うのは、どう言う訳だか以前現れた子供達が彼に鶏の餌を置いていくようになったり、宮医が物言いたげな顔で彼を見たり……まあその程度のことで、ピダムにとっては大したことはない。
 それよりもどちらかと言えば、今朝、うっかり朝寝をしてしまった為に、トンマンの方が先に目覚めて朝食の支度をしていた、と言う方が大事件だった。すんでのところで飛び起きたのでトンマン一人に準備をさせると言うことはなくなったが、お陰でピダムは、トンマンの寝顔を見てうっかり眠るのを忘れるなんてことは二度とないようにしよう、と強く心に誓った。
 しかしそれらはピダムの幸せに水を差すほどのものでもなく、宮医がトンマンの体調は良好であると言ったことも作用してか、ピダムは一人でいる時もへらへら楽しそうに家事をこなしていた。
 そんな、生来の落ち着きのなさが戻ったのか、ぱたぱた走り回っているピダムを、トンマンもまた、嬉しそうに眺めていた。大人しく行儀よく振舞うピダムよりも、やはり子供のようにはしゃいでいるピダムの方が、見ていて気持ちがいい。そんなことを考えながら、ピダムの手伝いを終えたトンマンは部屋に戻った。
 まだ外での仕事が残っているピダムは、暫く戻らないだろう。今のうちに……と彼女が取り出したのは、例の箱だった。紅と白粉、酒の入っている、あの箱。
 前に確認した時は慌てていた為にきちんと認識していなかったが、その箱には化粧に必要な筆やら鏡まできちんと入っていた。……まるで、トンマンは化粧道具など一つも持って行っていないだろうと見透かされているかのようだったが、事実その通りなので、返す言葉もない。そして――。

「…………これらは一体、どのように使うものなのだろう?」

 昔から化粧は完全に侍女任せで、そのやり方に何の関心も払ってこなかったトンマンは、注文しておきながら、実は化粧のやり方どころか、何本か入っている筆や刷毛の違いさえ、全く理解していなかった。
 おかげで今、いつもピダムは綺麗だと言ってはくれるものの、それは痘痕も笑窪の類のものだろうから、たまには化粧をして本当に綺麗にして、ピダムの目を少しは楽しませるようなこともしてみよう――と柄にもない決意をしたトンマンは、困り果てていた。……一応、持っている全ての本にざっと目を通してみたものの、化粧の方法が書いてあるような本は、一冊もなかった。トンマンの本は全て、商いのススメやら英雄伝やら暦本やら、女の装いとは無縁の無骨な内容のものばかりなのだ。
 おまけに、紅や白粉も数種類ある。器を開けてみるとそれぞれ色が違って、ますますトンマンは困惑した。これらを自由自在に操った侍女らは医師に劣らぬ凄腕の持ち主だと、今更ながらに彼女達を尊敬したりもした。

「……化粧の本、と言う物も世の中には存在するのだろうか」

 あるなら、早速にも手に入れたいものだ。だが……紅や白粉を頼んだ後で化粧の本を頼んだら、今度こそスンマンは腹を抱えて笑うだろう。アルチョンでさえ噴出すかもしれない。チュクパンになど知れたら、一大事だ。ユシンは…………ユシンは、どう思うだろう。
 別れる時まで不器用で、ろくろく気の利いた別れの言葉も言えなかったユシンを思い出して、トンマンはくすりと笑った。あれではきっと、彼の妻は欲しい言葉がもらえなくて苦労していることだろう。ピダムも時折妙な褒め方をしてくることがあるが、それでも褒めていると言うことは伝わる。顔に書いてあるからだ。けれどもユシンは、褒めようとしている時でさえ仏頂面かもしれない。
 私と逃げようとした頃よりは成長してくれていると良いが、と苦笑して、トンマンはその場に広げた紅や白粉を丁寧に仕舞っていった。それと共に、かつては人の気持ちを考えない、と苛立ちもしたユシンや彼の妻のことを、このように穏やかな心地で考えられる日が来たのだと言うことを喜ばしく感じた。全ての政務から解き放たれた為だけでなく……ピダムとの暮らしの為か、以前より遙かに心が広くなっているような気がした。
 策略でも政略でもなく、ただ大切な誰かの好意を受け止めて、愛情を分け合って、暮らすこと。それはきっと、とても大切なことなのだろう。心置きなく接することの出来る誰かと暮らして、四季を楽しみ生きること。それこそがトンマンの忘れかけていた『人の心』だったのだろう。



 入浴も食事も終えたピダムは、トンマンが本を読む声を聞きながら、わしわし髪を拭いていた。近頃のピダムは、トンマンの読書の声を聞きながら何かをすることがお気に入りとなっているのだ。
 初めはトンマンも「本当に聞いているのか? 内容がわかるか?」と聊か不満げだったが、たまに質問を投げ掛けてみればきちんと答えるので、どうやら聞いているらしい、と溜飲を下げて丁寧に読んで聞かせてやっている。どうせ家事もほとんど出来ない情けない身の上なのだ、せめて頼まれたことぐらいはきちんとやろうと、トンマンは抑揚までつけて面白おかしくカターンにもらった本の内容をピダムに伝えた。
 そんなわけで、その夜も、トンマンは昨夜の続きをピダムに聞かせていた。そしてピダムはピダムで、トンマンが怒らないだろうキリの良いところまで読んでもらったら、本は取り上げてしまおうと心の中で少しずつ不埒な考えを育んでいた。
 ――ところがその平穏は、またしても予期せぬ闖入者によって破られた。


****
ピダムとトンマンがなかなか外出しない為か、事件と言うとお客さんですね。
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  1. 2010.06.01(火) _00:19:44
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
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  1. 2010/06/03(木) 21:13:37 
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