善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 家出の真実

家族ものSS『約束の期限~』の続きです。
息子の家出に悩む妻と、役に立たない(?)夫と、門番さんと、息子の日常その2です。


***

 はあ、と本日十四回目の溜め息をトンマンが漏らした時、ピダムはちょうど、その吐息の出てきた口に自分のそれをくっつけようとしていた。

「…………やっぱり、私達に何か問題があるのだと思わない?」

 問題なら、確かにある。夫が口を吸おうとしているまさにその瞬間に、当の妻が思いっきり余所事を考えて、その上憂い顔であると言う、大問題が!
 ……と、その夫――ピダムは主張したかったけれども、さすがの彼も十年の夫婦生活を経て愛妻トンマンの心の中の優先順位くらいは心得つつある。なので、軽くトンマンの唇を噛んで不満を示すと、ピダムは黒々と広がる彼女の髪に指を絡めながら訊ねた。

「……ヒョンジョンが母屋で寝ようとしないのが、そんなに不満?」
「不満と言うより……寂しい」

 考えてもみろ、とトンマンもまた、ピダムの柔らかな髪を弄くりながら呟いた。

「はじめの内は、離れとは言え、たまには違う家で生活してみたかったのだろう……とか、この辺では見ない謹厳な性格のアルチョンが気になるのかもしれない、と良い方向に考えていたけれど。でも、もうヒョンジョンが母屋で寝なくなって2ヶ月も経った。幾らヒョンジョンが賢い子だとは言え、あの子はまだ十歳だ。そろそろ母屋が恋しくなって戻ってくる頃だと思わない?」
「そう?」
「だって、産まれた時からずっと暮らしている家なんだぞ。それは……勿論、ヒョンジョンはいつかこの家を出ていくのだろうと覚悟はしていたけど……」

 口篭ったトンマンを慰めるように彼女の額に口付けると、ピダムは彼の肩にのっている小さな頭をゆっくり撫でた。

「ヒョンジョンが離れにいるのは、寝る時だけだ。それに……離れで寝てくれていれば、夜中に患者が来てもヒョンジョンを起こさずに済むだろうし……私は、このままで悪くないと思うけど」

 ついでに、ヒョンジョンが物心ついてからはすっかり用心深くなってしまったトンマンと心置きなく夜を楽しむには、こっちの方が断然いい。アルチョンがいれば万一の時も安心だし、第一私の見るところ、息子は身体は小さくとも、知恵も武術の腕前もかなり優れている。私によく似て、簡単にはくたばりはしないだろうから何の心配もない。
 ――以上がピダムの意見であり、それを敏感に察したトンマンは、不満げにピダムの胸を叩いた。

「ピダム、あなた寂しくないの」
「ちっとも」

 どうせ母屋で眠る時も、同じ部屋で寝るわけではない。昔は同じ部屋で寝ることもあったが、もう何年も前からヒョンジョンはトンマンに寝かしつけられた後は、朝まで一人きりなのだ。それに、朝になれば顔を見られる。

「それより……」

 そろそろ一日中働いて疲れ果てた夫を構って、と甘え始めたピダムを見上げて、少しだけトンマンは眉を顰めた。
 ……これでもかなり頑張って教育してきたつもりだったが、なかなかどうして、ピダムはヒョンジョンに対し、トンマンほどの愛情は見せない。勿論、ピダムなりに可愛がっているし、愛しているとも思うのだが……こう、トンマンとしては、彼女への愛情とほとんど変わらぬか、それ以上の親馬鹿っぷりをピダムは見せるのではないかと危惧していたくらいなので、ピダムのこの冷静さはなかなか納得がいかない。

「ピダム」
「うん、何?」
「…………ヒョンジョンと私と、どちらが好き?」
「あなた」

 「好き」の「き」の部分に声が被るくらいの即答。あまりに迷いのないピダムの答えに、トンマンは少し言葉を失った。

「……。…………でも、同じくらいヒョンジョンも好きで、大事だろう?」
「いや」

 再びの即答と共に、今度は視界が反転した。

「……そんなにヒョンジョンが心配?」

 不満げに口を尖らせる表情は、困ったことに、ヒョンジョンと瓜二つだ。本人達は気付いていないようだったが、この父子はトンマンがどちらかについての話をする時、大体同じような表情を見せた。そして、同じように喜ぶなり、拗ねるなりするのだ。……子供の方はまだ十歳なのだからそれでも良いとして、もう孫までいて良い年の男がこれとは、どうしたものか。
 まあ、ユシンの時とは違って、嫉妬のあまりヒョンジョンを追い詰めるとか、そう言ったことは全くないのだから、それで満足すべきなのだろうか?
 ピダムを抱き寄せて、その広い背中を軽く叩いて宥めながら、トンマンは目蓋を閉じた。

「正直に言うと……」
「うん」
「……もうおじいさんなのに、こうやって毎日のように押し倒してくる夫の健康問題と同じくらい、心配だ」

 はあ、と溜息混じりに囁いてやると、すっかり彼女の白い襟首に耽溺していたピダムが、がばっと上体を起こした。

「おじいさん!?」

 確かに、ピダムは「おじいさん」と呼ぶには随分若々しい容貌を持っている。ほんの少しだけ白髪もあるけれど、それとて老いよりは、彼の魅力を引き立てているし、目尻に浮かぶ薄い皺は、人間としての深みすら感じさせるものだ。
 けれどもトンマンは意地悪な微笑を浮かべて、ピダムをちくちくと苛めた。いい加減、ピダムも自分を若者扱いするのは止めるべきだ。

「甥のチュンチュが何人もの子持ちのおじさんなんだから、私達はおじさんやおばさんですらないだろう。おじいさん、おばあさんが正しい表現ではないか」
「いいや! 私もあなたも昔とちっとも変わらないじゃない!」

 さすがに宮中にいた頃に比べれば大いに変わったはずだが、ピダムは頑として認めない。
 事実、彼の言うことも完全に間違いと言うわけではなかった。未だに三十代に見られる二人は時折ちょっとした色恋沙汰に巻き込まれることもあったし……おまけにピダムは、トンマンが何故だか教え子の父親達によく慕われているのをいつも忌々しく思っているのだ。例えそれが、単に、子供達に無償で学を授けてくれるトンマンをありがたく思っているだけなのだとしても、診療に来た患者に「奥方は美人ですね」と言われる度に、「そうだろうそうだろう」とデレデレ頷きたい気持ちと、「勝手に人の妻に見惚れるな」と絞めてやりたい気持ちが鬩ぎ合うのだ。困ったことに。

「ピダム。ひょっとして、目が悪くなったのか? 老眼か?」
「……っ、老眼になんてならない!!」
「そんなに頑なに否定しなくてもいいだろう。別に、年を取ったからと言って夫婦じゃなくなるわけではないのだし……おじいさんのピダムでも、私は構わないけれど」
「私だっておばあさんのトンマンが嫌だってわけじゃないけど、でも、おばあさんでもおじいさんでもないから!」

 ――結局その夜も、その言葉にトンマンが反論する前に、自分が若いことを主張し始めたピダムの為に、二人が年配なのか、それともまだ若いのかと言うどうしようもない論争には、決着はつかなかった。そしてヒョンジョンの家出が終わることも、なかった。

 同じ頃、離れでくかーっと眠りこけているヒョンジョンの隣では、アルチョンが今日も元気良く蹴飛ばされた掛け布団を見て、嘆息していた。……この寝相の悪さ、これは間違いなくピダム譲りだろう。まだトンマンが王女として宮中に迎えられる前に幾度かピダムの隣で寝たことのあるアルチョンには、そう断言出来た。

「ヒョンジョン、風邪をひくぞ」

 彼らしく、厳格な面持ちでアルチョンはヒョンジョンの肩を掴んで注意したが、返事の代わりに返ってきたのは、ばたんと寝返りを打ったヒョンジョンの拳だった。

「っ!」

 当たったら確実に痛いだろうそれを素早く避けると、致し方なし、とその夜もアルチョンは奥の手に出た。



 翌朝。

「ヒョンジョン、朝だ」

 今日もごろごろ床を転がされて起きたヒョンジョンは、何故だか掛け布団の上で寝ている自分を不思議に思いつつも、よく寝たと大欠伸をして、アルチョンと一緒に井戸に向かった。まだ、自身が寝ている間中ずっと簀巻きにされていたとは気付きもせず――また、母屋で使っていた布団が子供達の相撲に使われた為にボロボロになったことが、物を粗末にすると雷を落とす母親にバレなかったことにホッとして。


****
家族もの、結構楽しかったのでもう一つ書いてしまいました。
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  1. 2010.06.06(日) _12:09:17
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
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  1. 2010/06/06(日) 20:13:31 
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