善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 珍現象と見せかけて

連載番外編、家族もの第五弾です。今回はアルチョンが来る寸前のお話です。
お返事などなどは次の記事にて…!


***

 その日はピダムが帰宅した時からトンマンの様子が尋常ではなかった。何くれとなく含み笑いをする上に、何を言っても常に目が笑っている。さりとて何事かと聞いてみても、一向に答える気配がない。おまけにどうやらヒョンジョンも母の様子が可笑しいと勘付いているようで、物言いたげにピダムを見た。が、聞きたいのはピダムの方だ。
 ――知らないの。知るか。どうせ父さんが何かしたんだろ。お前こそ何かしたんじゃないのか。
 大体そのような会話を目で交わした後、父子は同じように首を捻った。少し茶を帯びた瞳や喧嘩っ早さはトンマンに似てきたヒョンジョンだが、仕草だけは父親を模倣したようにそっくりだ。ついでに一緒になって夕餉の支度をするトンマンを手伝っているところまで瓜二つな彼らは、ようやっと食卓に着くと、珍しく目の前の鶏肉を取り合うこともなく、大人しく待った。トンマンが、話をするのを。
 一方、鼻歌を歌いながら楽しそうに夕餉の支度を終えて席についたトンマンは、目の前の夫と息子二人の猜疑に満ち満ちた視線にも頓着せず、ぺろりと自分の分のご飯を平らげた。
 ヒョンジョンが生まれる前と比べると、多少は食事の量も増えたものの、相変わらずの少食で、すかさずピダムがもっと食べろと恒例の文句を言葉を変えて言うものの、やはり食べる量に変わりはない。それでも大丈夫なのだとこの十年でなんとか理解しつつあるピダムだったが、もっと太っても良いのにと思っているのも事実なので、懲りずに勧める。
 しかしその日ばかりはピダムもしつこくは勧めなかった。ずりずりと椅子の上でお尻をずらしたヒョンジョンが、精一杯足を伸ばしてピダムの脚をつついた為だ。……ヒョンジョンとしては、産まれた時から変わらない母の食事量よりも、一体何がこんなに母を喜ばせているのか、そちらの方により興味があった。

「あの……トンマン」
「うん?」

 そうして後片付けも終えた後、ようやっとピダムとヒョンジョンはふわふわ飛んでいきそうな微笑を浮かべているトンマンを座らせて、笑顔の秘訣を聞きにかかった。
 ――ピダムが久方振りに思いっきり臍を曲げたのは、それから間もなくのことだった。

**

「ピダム」
「……」
「ピダム、こっちを向いて」
「………………」

 トンマンの笑顔の秘密を知ったピダムは、一頻り憤慨して文句を言った後、それでも揺らがないトンマンに完全に拗ねてしまっていた。
 ちなみにピダムとは違い、秘密を知っても「ふうん」で終わったヒョンジョンは、すでにトンマンに寝かしつけられて夢の国へ旅立っている。どうやら、新しい遊び相手が来ると思ってくれたようで、トンマンとしてもヒョンジョンの遊び相手兼教育係として呼び寄せているので、ヒョンジョンが拒否反応を示さないことは何より嬉しい。
 ところがピダムの方は、全く違う意味に取ったようだった。

「ピダム、アルチョン公に来てもらうのは、そろそろヒョンジョンの先生が必要な時期だからだ。アルチョン公なら、きっと厳しく、丁寧にヒョンジョンを教育してくれる」
「……剣でも頭でも、私がアルチョンに劣ることはありません」
「そうだな。でもお前は医師として忙しいし、それにアルチョン公には郎徒達を教育していた経験があるから、あの年頃の子供も扱い慣れていて安心だろう?」
「医師は辞めます。ヒョンジョンの扱いなら私が一番です」
「…………」

 ちなみに一番は私で、二番がピダムあなただけど、と心の中でさり気なく修正してから、トンマンは渋々頷いた。
 ――近頃ではすっかり使わなくなった敬語を使い続けていることからして、どうやらピダムは完全にぐれてしまったようだ。……いい年をした男にぐれたも何もないかもしれないが、他に表現の仕様がない。
 さて、どうしたものだろうか。トンマンとしては、両親が子供の面倒を見るのは勿論当たり前だけれども、教育だけは第三者に与えてもらうべきだと考えているのだが、どうもそこのところがピダムにはよくわからないらしい。大切なヒョンジョンの先生としてアルチョンがやって来る、と聞いたその瞬間から、どうやらピダムはアルチョンより役立たずだと思われていると勘違いしたようだった。……確かに教育に関してのみ言えば、ピダムよりもアルチョンの方が優れているだろうとトンマン自身思っているだけに、厄介だった。

「なあピダム、お前が医師を辞めてしまったら、村の人が困ると思わない?」
「私の代わりなんか幾らでも見つかります」
「見つからないから、お前が宮医の跡を継いだんじゃないか」
「……見つけてみせます」

 相変わらずトンマンに背を向け、壁と睨めっこしながら寝台で胡坐を掻いているピダムは、その聊か間抜けな格好とは裏腹に酷く重々しく宣言した。ついでにその背に久々に黒いふさふさとした尻尾が見えて、徐々に言葉遣いが男っぽいものに戻りつつあるトンマンも苦笑した。
 ――ピダムに相談してもどうせ反対するだろうからと、何も言わずにアルチョンを呼び寄せることを決めてしまったが、やはり相談すべきだったのかもしれない。
 今こうしてピダムが拗ねているのは、アルチョンが来るからと言うだけでなく、トンマンから事前に何も相談されなかったことも作用している気がして、トンマンはすっと席を立った。
 背後でトンマンの気配が動いたことに気付いたピダムは、さすがにやり過ぎただろうかとそわそわ視線をさ迷わせた。ヒョンジョンはピダムの子供でもあるのに、おまけにアルチョンが来れば教育係だけでなく、トンマンの護衛も買って出ることがわかりきっているのに、彼に何の断りもなしにアルチョンを呼び寄せたことにさすがに気分が悪くなってトンマンに背を向けてみたが、いざそうしてみると、ピダムは酷く不安だった。
 じゃあ、ヒョンジョンを連れてアルチョンのところへ行く、と言われたらどうしよう? いっそ、ユシンなら「お戻り下さい」とトンマンを説得してくれるかもしれなかったが、すでに宮殿から退いているアルチョンならば、「では新たに邸を建てます」と言い出しそうだった。なまじ、アルチョンが侍衛府令であった頃、トンマンに会おうとしては彼に幾度も鉄門の如く立ちはだかれたことを生々しく記憶しているだけに、焦ったピダムはそっと振り返ってトンマンの様子を伺った。もし荷を纏めるようなら、何としてでも食い止めなければならない。
 けれどもピダムの怖れとは裏腹に、トンマンが手にしているのは衣裳櫃ではなく、文箱だった。そしてその文箱は、慌ててまたトンマンに背を向けたピダムの隣に静かに置かれた。

「ピダム」

 今度はその一言で半分ほど振り返ったピダムに、厳かにトンマンが言い渡した。

「この中に、これまでアルチョン公からもらった文が入っている。私宛てに届いたものだからとこれまではお前に見せてこなかったが……確かに何の断りもなしに事を進めた私が悪かった。今更だが、読んでくれ、ピダム」

 それでも納得がいかなければ、今回のことはなかったことにしてくれとアルチョン公に文を書く、と言い切った後、寝台に腰掛けていたトンマンは立ち上がった。

「どこ行くの」

 その動きに慌てて問い掛けたピダムを見て少し不思議そうな顔をすると、何でもないようにトンマンは答えた。

「今日はヒョンジョンと寝ようかと思って」
「なんで」
「なんでって……文もかなり量があるし、第一、私がいたら考えにくいだろう?」

 こう言うことはきちんとお互いの意見を整理した上で話し合った方が良いだろうから、と部屋を出ていこうとするトンマンの袖を力一杯掴むと、ピダムは必死になって首を横に振った。

「でもこれじゃ、アルチョンからの答えしかわからないじゃない。ここにいて、あなたは何を書いたのか教えて」
「……そんなに細かいことは覚えてないぞ?」
「いいから。それでもいいから、ここにいて」

 ピダムがペシペシ叩く彼の隣に腰掛けて、トンマンは訝しげにピダムを見た。

「ピダム、本当に邪魔じゃないのか? 一人で考えた方が良くないか?」
「ううん。そんなことない」

 むしろ一人になったら、いつトンマンが怒って家を飛び出すのではないかと恐れ戦きながら文を読まなければならないだろう。
 まだ納得のいかないような顔つきのトンマンをピダムはさっさと寝台の壁側に寝かせると、一応アルチョンからの文を数通握りしめたまま、トンマンを壁と自身で挟むように座り直して、その顔に唇を寄せた。
 先程までの拗ね方からは予想もつかない変わり身の早さだったが、トンマンはわりと落ち着いてそれを受け止めている。これまでも、例え喧嘩をしようと怒ろうと、ピダムは寝る直前には、必ず口を合わせることを要求してきた為だ。当初は何故喧嘩をしている最中なのにそんなことをするのかと疑問視していたトンマンも、今やその『しきたり』にすっかり慣れてしまっている。
 おまけに、その『しきたり』を経たピダムは、大概の場合、その直前まで腹を立てていたことがあっても、まるでトンマンに怒りを吸い取られてしまったかのように、けろりとした顔つきになった。そして、今回もどうやら、その通りになるらしい。

「……アルチョンが来るとは言っても、別の家に住むんだよね?」
「文にも書いてあると思うが……アルチョン公を居候にするわけにはいかないから、離れを建ててもらう予定だ。アルチョン公もその方が落ち着くだろうし」

 その言葉に、私もその方が落ち着く、と笑ったピダムは、今度はアルチョンの文を放り捨てて、トンマンの顔を両手で包み込んで口付けた。
 アルチョンからの文が宙を舞うのをピダムの肩越しに見たトンマンは、少しばかりアルチョンに申し訳なさを感じながらも、とりあえずこれでアルチョン公を呼び寄せても大丈夫そうだ、とホッとした気持ちになって、優しくピダムを抱き留め、受け入れた。文は後でちゃんと拾わせよう、と考えつつ。
 ちなみに。
 それからアルチョンが来るまで、毎日毎日ピダムは一緒に風呂に入るヒョンジョンに「お父さんは三国一の男」と言う洗脳を試みたが、哀れ、その洗脳はアルチョンとヒョンジョンが出会って2日で脆くも崩れ去るのだった。


****
手間のかかる夫です。でもその分、独断の多い妻でもあります(笑)
ピダムはグレる時は敬語になるといいなあと思いつき、このようになりました。また、投票で頂いた嫉妬ネタも、管理人の手にかかるとこの程度の仕上がりに…!トンマンが一番、な雰囲気は大事にしてみましたが、いかがでしょうか…!?あ、あと、ピダムの親馬鹿具合も多少は伝わると良いなあと思いますv
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  1. 2010.06.14(月) _20:14:45
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
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  1. 2010/06/15(火) 23:25:16 
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