善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 羨望

前回に引き続き善徳F4ネタ。今回はチュンチュとピダムです。
トンマン女王時代中頃?で……微妙にチュンチュ→トンマンです。新羅時代の倫理観では全く問題ナシの二人ですが、何せ叔母と甥なので、嫌悪感のある方にはあんまりこのSSはオススメしません(汗) あ、全然大したことは書いてないのですが……念の為ー。


***

「愛しています」

 落ち着きを湛えた声が、静かに波紋を広げていく。水を打ったようにその声の響く先には沈黙が闊歩した。
 再び場を動かしたのは、玲瓏とした音と共に鳴った、鈴を転がしたような愛らしい笑い声だった。

「チュンチュ、酔ったな」

 金の歩揺を鳴らして機嫌良く笑ったトンマンは、そっと手を伸ばし、戯れの過ぎる甥の杯を取り上げようとした。しかしチュンチュはその手からよろめくように逃れ、駄々を捏ねた。

「叔母上は? 叔母上は如何ですか?」
「何?」
「叔母上は、このチュンチュを如何お思いですか」

 その言葉に、チュンチュがトンマンの傍に座った瞬間から一人氷刃を撒き散らしていたピダムが、漆黒の袖をはためかせてチュンチュの杯を取った。取ったと言うよりは、奪うと言った乱暴さだったが。

「チュンチュ公、お戯れが過ぎます」

 言葉遣いこそ丁寧ではあったものの、杯を握る手に筋が出ているのをチュンチュは見過ごさなかった。
 ――全く、幼子のように正直な奴。
 ほんのりと紅に染まった白い頬を益々緩めると、わざとチュンチュは唐突に立ち上がり、よろけて見せた。ミセンをも騙してきた酔態だけあって、その仕草は堂に入っている。案の定、トンマンが驚いたように席を立ってチュンチュに駆け寄った。小さく舌を打ったピダムも致し方ないと言った様子で立ち上がった。

「チュンチュ、大丈夫か? 気分が悪いのか?」
「いえ……少し、酔っただけです。ご心配なく、叔母上」
「私に遠慮はするな。宮医を呼ぼう。全く……身体が弱いのに、無理矢理飲まされてしまったのか?」

 どこの無謀な馬鹿がチュンチュに酒を無理強いするのか、ピダムはいつまで経ってもチュンチュを子供だと勘違いしているらしいトンマンに心の底から訂正してやりたかった。
 ……が、これまで幾度かさり気なくなされた、チュンチュは婚姻もしていないユシンの妹を孕ませて、挙句の果てに捨て置こうとしたとんでもないクソガキです、目を覚まして下さい、と言うピダムの諫言は、完全にトンマンの脳裏をすり抜けて宙へと消えてしまったらしい。ユシンの妹のことも、若いのだから仕方ない、とろくろく叱らなかった時には、さすがのピダムも呆れたものだ。尤も、彼とてチュンチュへの嫌悪よりは、実の妹を未婚でありながら勝手に孕んだと焼き殺しかけたユシンへの驚きの方が大きかったが。
 チュンチュと言いユシンと言い、何故あんな残酷な連中が善人扱いされているのか。そこのところが、ピダムには全く理解出来ない。見知らぬ人間を大量に殺すより、身内や恋人を杜撰に扱う方が、よっぽど正気ではない、と言うのがピダムの見解だ。

「陛下……このような見苦しい姿をお見せして、申し訳ありません」
「大丈夫だ。歩けるか?」
「はい……」
「足元が覚束ないな。手を――」
「――私がお供します」

 結局、ピダムは力尽くでトンマンの繊手と触れ合いそうになったチュンチュの手を握り潰す勢いで掴んだ。かろうじて傍で語り合うのは許せるが――いや、ちっとも許せないが我慢は出来る――トンマンに他の男の手がつくのは許せない。例えそれが、トンマンにとっては我が子同然らしい生意気な女ったらしであってもだ。
 トンマンはチラッとピダムを見上げた後、またチュンチュの顔を覗き込むようにして囁いた。

「傍の部屋で休んでいきなさい。後で様子を見に行こう」
「……叔母上……」
「うん?」
「叔母上は……私のことを厭ってはおられませんか?」

 二人の会話は本当に小さな声でなされていたが、チュンチュの腕を掴んでいるピダムには勿論丸聞こえだ。いつになく『可愛い甥』を演出しているチュンチュに吐き気を覚えて顔を歪めたピダムは、次の瞬間、更なる衝撃に危うくチュンチュの腕を圧し折りそうになった。

「本当に酔っているのだな。チュンチュ、そのように案じるな。お前は私の愛する甥だ」

 ――チュンチュを引き摺るようにして外に出たピダムは、トンマンの用意させた部屋にチュンチュを乱暴に放り込むと、荒っぽく戸を閉めた。
 その顔が苛立ちのあまり痙攣しているのを見て、チュンチュは裾を払って佇まいを整えた。その頬には、トンマンに見せる物とは全く異なる質の哂いが過ぎっている。

「そんなに羨ましいのか?」
「……何だと?」

 ふっと哂って袖を払うと、チュンチュは寝台に座ってピダムを見上げた。

「私は望めば叔母上から「愛している」と言ってもらえるが、お前は例え声の限りに「愛している」と叫ぼうとも、叔母上から「愛している」と返してもらえる確証はない」

 握り締めたピダムの拳に力が入るのを見て、益々愉快そうな笑みがチュンチュの白い顔に満ち満ちていく。

「私は少し眠る。叔母上には心配ないと伝えておいてくれ」

 ところがチュンチュの笑みは、ピダムに襟を掴まれ締め上げられたことにより、刹那、鋭い刃のように変わった。

「……陛下を弄するな。もしまた今夜のように陛下を騙したら、その時はまたあの時のように布団に包んで殴り倒してやる」
「それが出来るのか?……陛下に私的な殺生を禁じられた、今のお前に」
「ハッ。おい、まさか出来ないと思っているのか? 何、殺しはしない。痣一つ残さぬように痛めつけてやる」

 怒りも露わに吐き捨てると、ピダムは部屋を出て行った。寝台に尻餅をついたチュンチュも、襟を整えると何事もなかったかのように横になる。目を閉じると、戸の外からピダムの驚いたような声が聞こえた。

「陛下」
「チュンチュはどうだ? 宮医は呼んだのか?」
「いえ……チュンチュ公が、眠れば良くなるので少し一人にして欲しいと……」

 トンマンがひたすらチュンチュの心配ばかりするのが気に食わないのか、ピダムの声音には明らかに妬心が垣間見えていた。けれども誰もが知っているその事実に、トンマンだけが気付いていない。常日頃から特にトンマンに可愛がられているチュンチュをピダムが羨むのも、当然と言えばその通りだった。

 ――だが、ピダム。

「戻りましょう、陛下」

 …………私は、お前が羨ましい。

「いや、私も酔い覚ましにと出てきたのだ。だが困ったな……庭園にでも出ようか」
「では私がお供します」

 「愛している」と言うことを恐れるお前が、羨ましい。
 「愛している」と告げて、叔母上の微笑を奪えるお前が、羨ましい。
 「愛している」と告げれば、それが恋慕を表していると考えてもらえるお前が、羨ましい。
 「愛している」と生涯告げられることのないお前が、羨ましい。

「ピダム、お前も酔ったのか?」
「陛下ほどでは」
「失礼な」

 ――いや。
 生涯、「愛している」と言ってもらえない?
 ……そうとは、限らない。

 少しずつ遠ざかっていく打ち解けた二人の声に、切れ長の眼を薄く開いたままチュンチュは耳を欹てた。


****
思いつきネタですが……わりと管理人、トンマンを間に挟んで対立するチュンチュとピダムが好きでして。遠慮がなくて良いですよね、この二人。
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  1. 2010.07.19(月) _01:49:59
  2. SS(ドラマ準拠)
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