善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 正真正銘珍現象・上

家族もの第六弾。コメントでも頂いた、「トンマン嫉妬する」編です。書いていたらエラい長くなってしまったので、前後編に分けてお送りします!


***

 まだ庭の木々に雪が残る早春の、とある朝のこと。トンマンはちくちくと胸を刺す痛みに、眉をしかめていた。
 ヒョンジョンを産んで五年、もう完全に治ったと思っていた病がまたぶり返したのだろうか?
 トンマンの病が落ち着いた為に気が抜けたのか、風邪を拗らせてすっかり弱ってしまった宮医に代わり、診療所で医師として働くようになったピダムへの村人からのお礼の品々を整理しながら、トンマンは重い溜め息を吐いた。これまでトンマンとヒョンジョンに対してのみ活用されていたピダムの医術がせっかく人々の役に立ち、こうして喜ばれるようにまでなったと言うのに、何が不安でこのように胸が痛むのか。
 そこへ、母の溜め息に気付いたのだろう、トンマンの傍で腹這いになりながらも字を書く練習をしていたヒョンジョンが、パッと起き上がってトンマンの膝に小さな手を置いた。

「お母さん、悲しいの?」
「ううん。少し……眠いだけ」
「じゃあ一緒にお昼寝しよう!」

 寒風が吹き荒ぶ中でもその輝きを失わない太陽のようにキラキラとした笑顔を浮かべる息子を見て、トンマンもまた、明るく笑った。ヒョンジョンを見ていると、胸の痛みも消えていくようだ。
 けれどもまた荷を整理し始めると胸が重くなって、トンマンはむうと顔を顰めた。思い出すのは、昨夜、この荷をピダムが持って来た時のことだ。

**

 昨夜のピダムは、まるで夜逃げでもするかのような大荷物を抱えて帰宅した。

「ピダム、その荷物はどうしたんだ?」
「お父さん、泥棒したの?」

 玄関でピダムを出迎えたトンマンとヒョンジョンは、「おかえりなさい」と言う恒例の挨拶の後にそれぞれの感想を述べた。そんな妻子にピダムはニコニコ笑ったまま大荷物を下ろすと、まずは帰宅早々失礼な息子を抱え上げてその頬を引っ張りながら、妻の額に「ただいま」と軽く唇を当てると言う離れ業をやってのけた。

「この口が言ったのか、この口が~!」
「ひゃららら」
「ピダム……」

 ぽかすか叩いてくるヒョンジョンの抵抗を楽しむピダムは、トンマンが物言いたげな視線で彼を見ていることに気付くと、ヒョンジョンを抱えたまま振り返って笑った。

「それは重いし、後で私が解くから。それ、今日までに治療の御礼にってもらったものなんだ。宮医に聞いたら、持って帰って下さいって言うから、持ち帰ってきた」

 寝る前に使える物があるかどうか見てみよう、と笑うピダムに、事情を知ってホッとしたのか零れるような微笑を漏らしたトンマンを見て、ピダムも誇らしげに笑った。ずっと人に感謝された覚えなどなかった自身が、宮医の代わりをして村人達の病を見て、その上御礼の品までもらうようになったのかと思うと、まるで夢のようだった。――全て、トンマンのおかげだった。
 その夜、トンマンはピダムと楽しく荷を解き、村人達が持って来てくれたと言う品をより分けていった。

「これはヒョンジョンが大きくなったら使えばいいし、これもあと十年も経てばヒョンジョンが使うかな」
「そう……だな」

 ところが実際に荷を解いてみると、中身は食べ物を除けば、そのほとんどが『大人の男が用いる物』ばかりだった。それも、揃いも揃って何故だかピダムに似合いそうな、帯やら紐やら……中には背の高いピダムの為に誂えたかのような立派な衣まである。
 ピダムはそれらを「ヒョンジョンが大きくなった時に使う物」として取っておく物に分類していたが、トンマンは徐々に口数も少なくなって、胸の真ん中に黒雲が渦巻くような感覚に襲われ始めていた。……これらは本当に、まだ数えで六歳のヒョンジョンが大きくなった時の為の物なのだろうか? どう考えても、あと十年は使えないであろうヒョンジョンよりも、今すぐにでもこれを身につけられるピダムの為に用意されたものなのではないか?

「特にヒョンジョンのことをあれこれ喋った覚えはないけど、宮医から聞いてたのかな。どれもこれもヒョンジョンの物ばかりだ」
「うん……」

 確かにヒョンジョンの為と思しき物もある。からくり人形やら、鞠やら、サイコロやら。だがそれらはごく少数で、大した量ではなかった。あくまで中心となっているのは、『大人の男が用いる物』だ。
 ちくちくちくちくとトンマンの胸が、無数の針に刺されたように痛み始めたのは、その時のことだった。暫く味わわなかった為か、病の痛みも忘れた頃になって訪れた急な痛みに、トンマンの双眸に憂いが宿った。
 どうしてだろう。つい先ほどまではピダムの仕事が人々に喜ばれて嬉しかったと言うのに、何故胸が痛むのか。トンマン自身が外で働けないからと言って、ピダムに嫉妬しているのだろうか?
 そうだとすればあまりに馬鹿馬鹿しい話だ。ピダムが宮医の代わりに働くようになったのはトンマンが勧めたからだし、トンマンが外で働かないのも、自ら選んだことだった。ヒョンジョンが大きくなる時までは、出来るだけ傍にいて、普通の女人らしく家事もしたいと思ったのはトンマン自身なのだ。

「――トンマン? 疲れたの?」

 贈り物に夢中になっていたピダムも、トンマンの様子がおかしいことに気付いたのか、そっと声を掛けた。

「あ……いや! そんなことは…………うん、ちょっと……眠いかな」
「そう? じゃあもう寝よう」

 明らかに言葉遣いが乱れていたが、ピダムはそれを眠いからだと考えたらしい。わたわたと荷を片付けると、彼もトンマンに合わせて、その日は早くに床についた。

**

 ヒョンジョンと共に、ピダムのいる診療所へ宮医の見舞いがてら様子を見に来たトンマンは、入り口からピダムが忙しそうだと判断すると、ヒョンジョンの手を引いて裏口へ回った。宮医の家の者はトンマンのことをわかっている者達なので、すぐさま二人は奥へ通された。

「じい、ちゃんとお薬飲んでる?」

 すっかり宮医に懐いているヒョンジョンは、「じい」と呼ぶ宮医の横になっている寝台へ駆け寄ると、心配そうに宮医の顔を覗き込んだ。その愛らしさに宮医は力なく笑って、ヒョンジョンの頭を撫でている。そんな二人の邪魔をしないように、トンマンは宮医が気付く前にそっと席を外した。今でもトンマンを前にすれば、無理にでも威儀を正そうとする宮医のことだ。ヒョンジョンが来ている以上、トンマンが来ていることもわかっているだろうし、余計な負担をかけない為にも、トンマンは必要以上に宮医の前に姿を現すことは避けていた。
 ヒョンジョンが宮医に近頃あった楽しいことを聞かせているのを見て柔らかく微笑むと、トンマンは一人、薬坊へと向かった。
 昨夜から続く胸の痛みは、恐らく病がほんの少しぶり返したのだろう。宮医に診てもらえぬ今となってはピダムにこそ診てもらわなければならないが、ピダムに「胸が痛む」と一言でも言おうものなら、大騒ぎをするに決まっている。
 せっかくピダムの仕事が軌道に乗ってきている今、邪魔をするのは本意ではないからと、トンマンは薬坊で以前に飲んでいた薬の元となる薬草を探し始めた。

「炙甘草……だったか? 確か……」

 あとは、地黄や人参も良いと言って、たまに飲むよう言われていた。
 慣れぬ薬坊で奮闘すること暫し、あまり需要はないだろうに、意外とわかりやすい場所にあった炙甘草を見つけると、トンマンはホッとしてそれを手に取った。

「ここにいたの」

 ところがそこへ突然かかったピダムの声に、トンマンは吃驚して手にしていた炙甘草を慌てて手提げにしまった。幸いピダムはトンマンが手にしていたものには気付かなかったのか、足音も立てずに近寄ると、一息にトンマンを後ろから抱き寄せた。

「ごめん、せっかく来てくれてたのにすぐに来れなくて。寒くない?」
「大丈夫だ。あまり薬剤を見たことがなかったから、物珍しくてつい長居していた」
「そう? 見慣れると大したものじゃないけどね」
「その大したものじゃないものと私は交換されたのか?」

 出会った頃のことを引き出してからかうトンマンに喉の奥で笑ったピダムは、寒くないとは言いつつも冷えているトンマンの手を取り、暖めるようにその掌で包み込んだ。

「その時は、細辛二百人分だったけど、今はここにあるもの全部とだって交換出来ないよ」
「城がいっぱいになるほどあったら?」
「三国分の黄金でも、交換しないから!……何、今日は私に会いに来てくれたんじゃなくて、薬剤を見に来たの?」

 耳朶を撫でるように囁く声がくすぐったくて、トンマンは小さく笑声を漏らした。

「忙しそうだったから、邪魔をせず、宮医のお見舞いだけして帰ろうと思ったんだ」
「確かに忙しいけど、だからこそ、せっかく来てくれたなら顔を見せて」

 昨晩ほとんど触れ合うこともせずに眠ったのが詰まらなかったのか、頬に手をかけたピダムが少しずつトンマンの身体の向きを変えて、顔を近付けた。しかし、ピダムのしようとしていることがわかった瞬間、トンマンは反射的に顔を逸らしてピダムの腕から抜け出ていた。

「トンマン――」
「おかあさーん!」

 いつもよほどのことがない限り、ピダムからの接触を拒まなかったトンマンの態度に驚いたピダムは思わずその名を口にしていたが、トンマンはそれに答えることなくヒョンジョンの傍へ行き、彼に合わせてしゃがんだ。

「ヒョンジョン、どうしたの?」
「じいがお菓子くれたの。おかあさんにも一つあげる」
「ありがと、ヒョンジョン」
「おとーさんにも」
「あ、ああ……ありがとうな、ヒョンジョン」
「おとーさん、いっぱい働いて、いっぱいじいを休ませてあげてね!」

 ヒョンジョンの可愛くも厳しい叱咤激励を受けながらも、ピダムは半ば上の空でトンマンの後ろ姿を見詰めていた。
 ――避けられた? トンマンに?
 いや、ヒョンジョンが来るのが見えたから、離れようとしたのだろうか? ヒョンジョンの前ではあまりくっつくな、とピダムに軽いお説教もしたことのあるトンマンだ。……けれども、何度そう考えてもなかなかトンマンが腕の中からすり抜ける感触が消え去らず、その日の診療中、ピダムはほとんど患者と言葉を交わすこともなく、黙々と仕事を終えることに専念した。心の中は、早く仕事を終えて早く帰って、トンマンに会わなければと言う焦燥でいっぱいだった。

**

 買い物も終えて帰宅したトンマンは、ヒョンジョンがお昼寝をし始めたのを見届けると、戸棚から擂り鉢を取り出して、先程の薬剤を擂り始めた。もう何年もピダムが薬草を煎じるところを見てきただけあって、初めてながら中々の腕前を披露している。

「こんなものかな?」

 とは言っても初体験とあって、些かトンマンも小首を傾げている。しかし病は症状が軽いうちに治しておくべきだと聞いていることもあり、えいっとトンマンは出来立てほやほやの薬を飲みにかかった。
 ところが。

「うっ……!」

 半分ほど飲んで一息吐いたところで、かつて味わったことのない強烈な苦味が稲妻のような刺激となって半身を貫き、思わずトンマンは器を放り出してその場に踞ってしまっていた。

(な、なんだこの味は!? ピダムが煎じてくれた物とは雲泥の差だぞ!?)

 実はピダムはトンマンが飲む薬に、効能を殺さないように、尚且つ味は良くなるように細工をしていたのだが、そんなことは知る由もないトンマンは、あまりの衝撃に暫し立ち上がれなかった。
 そしてそこへ、放り出された器の割れる音を聞いて目が覚めたヒョンジョンが飛び込んできた。

「おかあさん?」

 いつもは一度寝ればなかなか起きないヒョンジョンだったが、ピダム譲りのトンマン好きが高じてか、ことトンマンのことにかけてはいつになく敏感である。ぴょんとトンマンの傍にしゃがんで、ヒョンジョンは涙目になった。

「おかあさん、どうしたの? いたい?」
「ち、違うんだ。ちょっと……間違えて、凄く不味いものを飲んでしまって……」
「まずいもの……?」

 その言葉に床を見たヒョンジョンは、その丸い瞳をさらに大きくして息を呑んだ。そこには、生まれてこの方、風邪をひくたびに無理矢理飲まされてきた『ドロドロお化け』こと『煎じ薬』が、少しずつ地面に吸い込まれようとしていた。


****
長くなりそうなのでここで一端切ります。SS初の前後ものです。
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  1. 2010.06.17(木) _00:05:24
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
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