善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 木の葉が朽ち果てる前に

企画で頂いたリクエスト第一弾、「ミシルが死んだ後トンマンがピダムを抱きしめるシーンのピダムの心情というか心の中と、そこからチルスクに襲われるまでの二人の会話」です。
51哀撫71
51哀撫72
とりあえず書き慣れたトンマンとピダムから始めよう、と言うわけで、このお話から書かせて頂きました。次は……ユシンか、チルスク&ソファか、それとも隠居後か!(笑) 思いつくままフリーダムに、次のお話も一生懸命書きたいです。


***

 うら寂しい木枯らしが、生きる力を失って色褪せた木の葉を鳴らしている。
 触れれば落ちそうになりながらも枝にしがみ付いている木の葉は、間もなく地に落ち朽ち果てることを知っているのだろうか。それでも尚、それまで葉を育んでくれた枝の温かみが忘れられず、少しでも長く枝と共に在ろうとしているのだろうか。
 ……その木の葉の心が、私にはわかる。私は、公主様、あなたから離されれば、朽ちるしかないから。

「どうして……どうしてもっと早く、言わなかった。捨てられることがどれほど苦しいか……それがどれほど痛ましいことか……」
「だから……話せませんでした」

 あなたは、いつだって、私が何をしても、私を傍に置いてくれた。私を恐れることも、軽蔑することもなく、受け入れてくれた。
 だから……怖かった。母や師のように、一度は私を捨てた者に対してならば、怒りを露わにすることも出来たけれど。愛して欲しい気持ちと同じぐらい、憎くて憎くて、殺してやりたい気持ちも大きかったけれど。
 でも、あなたにだけはただ愛して欲しかった。憎いと思ったことは一度もなかった。ただ私が愛しているだけ、愛して欲しかった。私が一体何の為に生きているのか、その理由となる人であり、いつでも帰ってこられる場所となる人であって欲しかった。
 あなたにだけは……私を私として、認めて欲しかった。

「もし……話して……」

 公主様、あなたが私を『人』にしてしまった。憐憫の心も忠義の心も恋慕の心も、全てあなたが呼び覚ました。慰めること、助けること、愛すること。『人』としての全てのことをあなたから学び、あなたから与えられた。
 愛しい愛しい、私の公主様。
 結局、私はあなたを裏切れませんでした。あの勅書を使ってミシルを屈服させようとしたけれど……彼女に、一度でもいいから私を愛していた……お前は私の息子だと、吐露させたかったけれど。その為にあなたに嘘を吐き、あなたの目を眩ましたけれど。
 けれどもそんなことは、所詮、今こうして私に向けられているあなたの瞳に比べれば、何ほどでもなかったのだ。他の誰もが追わない私をあなたが追い掛けて来てくれて、こうして一緒にいてくれる。そのことの方が、ずっと、ずっと大きいのだ。
 不思議だ。何度も何度もあなたが侘しく涙を流すところを見てきたのに、今日に限ってあなたの瞳に見える涙の理由がわからない。細やかに戦慄く唇が何を吐き出そうとしているのかも、わからない。

「公主様に、もうお前は必要ないと……必要なくなったと言われてしまったら…………」

 言葉を失った私の身体は地の底に引き摺り込まれそうなほどに重かった。鼻の奥がじりじりと熱くなって、絶望が噛みしめた歯列の中で暴れ回っている。
 その時、千々に乱れて飛び散ってしまいそうな私の心を繋ぎとめるように、彼女が私をそのちっぽけで、温かな懐に引き寄せた。

「辛かっただろう……」

 凍り付いて枯れた野原に春風が吹いたかのように……荒れ狂っていた海が凪いだかのように、心と身体がとけてゆく。
 柔らかく、冷たい肌が私の頬に触れて、繊細な手つきの指先が私の髪に触れた。これまでの人生で一度も感じたことのない、優しくて、暖かい何かが、私の瘡蓋だらけの心を包み込んでいた。

「どれほど……辛かったことか…………」

 ゆっくりと目を閉じた私は、その腕に全てを預けて、そっと自分の腕を持ち上げてみた。震えていた腕で、強く彼女の背を抱く。目も、口も閉ざして、息をすることすら忘れて、私は彼女を感じた。耳に囁かれる美しい声と、肌に感じる微かな吐息と脈動に、全てを傾けた。

「ピダム……ありがとう。話してくれて…………ありがとう……」

 公主様……あなたは本当に恐ろしい人です。
 私が自分の心を持て余している今でさえ、あなたは私が何を求めているかわかっている。ぐちゃぐちゃに乱れて入り組んだ私の思いも心も感情も、あなたはその小さな手で簡単に分別して、大切なものを選び取って、要らないものを吸い取ってくれる。
 私は、赤ん坊のようにあなたにしがみついて泣くだけなのに。この涙が流れる理由さえ、わかっていないのに。母が私を息子と認めなかったことが悔しいのか、憎くてもたった一人の母である女が死んだことが悲しいのか……それとも、あなたに捨てられずに済んだと言う安堵なのか、生まれて初めて感じる抱擁の温みが涙腺を溶かしたのか、それとももっと別の何かが涙を止めさせないのか、それすらもわからないのに。

「泣いていい……。泣きたいだけ、泣いていい……」

 だと言うのに、あなたは私が嗚咽する理由を知っているようで。涙が止まらない理由も、わかっているようで。私自身ですらわからないものを、あなたは全て理解しているようで。
 そのまま私は泣いた。生まれたての赤ん坊のように、ひたすら泣いて、母を求めるようにあなたに縋った。
 私は、赤ん坊が泣けば、それがどれほどに他人には煩わしいものか知っている。
 けれどもあなたはこのままではあなたに厭われるとまた怖れた私を強く抱きしめて、離さなかった。
 それが、私には恐ろしかった。
 どうして。どうして、あなたは誰もが厭うものを、こうも容易くその腕に抱けるのだろう。
 私ですら、今日と言う日が、あなたにとってどれだけ大事な時であるか、わかっているのに。本当なら、私などに構っていて良い日ではないと言うことを、知っているのに。それなのに、一時でも無駄にすることは出来ないはずなのに、どうして私などの涙を受け止める為だけに、こうしているのだろう。
 もうこれ以上役立たずになりたくなくて、彼女の足を引っ張りたくなくて、涙を無理矢理止めようとした私を、その強固な腕は手放さなかった。

「堪えるな、ピダム。もう……ここを立ち去ったら、私はお前にこうしてやることは出来ないから」

 公主様。もし私に同情しているだけだと言うなら、どうか、この腕を離して下さい。
 あなたにとってはユシンへの恋慕に遥かに劣る同情心であっても、それは私を揺さ振って思考を麻痺させるから。劣等感と敗北感に胸を焼かれながらも、少しだけ……ほんの少しだけ、そんなあなたの心に付け入ってみようかと考えてしまうから。
 ……私を突き放さず、私を子供のように抱くあなたに、手負いの獣はそれでもまだ獣であることを、教えたくなるから。私が子供であるだけでなく、師ですら見放した猛獣であることを知らない無垢なあなたに、私が男であることも刻み付けたくなるから。

「すまない…………お前の心に気付いてやれなくて……申し訳ない」

 暫く、そのまま言葉もなく、私達はさわさわと枯れ葉が音を立てる中、抱き合っていた。少し前には、これ以上生きていることも叶わないかもしれないほどに風穴だらけになっていたボロボロの私は消えて、公主様によって失ったものを埋められた私の涙はいつしか止まっていた。
 私よりも私を知る彼女も、そのことに気付いたのだろう。彼女はそっと、もう大丈夫だなと囁きかけるように私を閉じ込めていた腕を解いた。

「……帰ろう、ピダム」

 それでもまだ、私に向かう瞳はとても優しくて。まだとても幼い頃に、一度だけ夢に見た母に、何故だかよく似ていて。私は小さく自嘲的な笑みを浮かべて、目を細めた。
 私にとってあなたは母で、主で……たった一人の恋人で、この世界そのものなのだと。私の心を知るあなたは、そこまで知っているのだろうか?

「……ピダム?」

 ここを去ったら、公主様、あなたの言う通り、あなたは私だけの為のものではなくなってしまうから。私の公主様は私だけの公主様ではなく、皆の公主様になってしまうから。……そしてもうすぐ、誰も触れることの叶わないこの国の王になってしまうから。だから、もう少し……もう少しだけ、私だけの公主様でいて欲しい。私がこの腕を離して、あなたを皆の公主様に戻してあげる決意が、着くまでは。

「まだ、公主様は私の心をご存知ではありません」
「ピダム……?」
「公主様。私が……哀れですか?」

 息を呑んだ彼女の唇が、小さく震えた。
 ……肝心な時に、正直な公主様。あなたは私が可哀想だから……可哀想で可哀想で放っておけないから、ここまで来たと。あなたは何も言わなくても、その残酷な沈黙で私の恋慕を切り裂いていく。

「公主様は……陛下に娘であることを認めて頂けましたが…………私はそれすら叶いませんでした。そんな私が……哀れに思えますか?」
「ピダム……」

 優しくて、誰よりも惨い公主様。愛した男は抱きしめてやることすら出来ないのに、愛してもいない男は抱きしめて離さない公主様。
 あなたがそんな人だから……私はいつまでも諦められなくて、こうしてまた、あなたを追い詰めずにはいられなくて。あなたが震えて出来た隙間に入り込んで、怯えた身体に触れたくなる。私を抱きしめてくれる人があなただけであるように、あなたを抱きしめる人もまた、私だけであればいいのにと希ってしまう。
 私はほとんど無意識の内に、彼女の腕を引っ張って、その身体を今度は私の中に閉じ込めた。鎧同士がぶつかって鳴る金属音がこの優しくない抱擁に相応しいようで、却ってそれが良いことのようにすら思えた。今の私は、箍の外れた生き物だから。あなたの身を守る鎧は、必要だった。

「ピダム!」
「公主様……一つ教えて差し上げます」

 目の前にある白い耳朶に唇で触れて、私は囁いた。

「ただ、哀れだと思われたなら……それだけなら……その男を抱くべきではありません。いずれその男は……公主様に…………」

 ――喰らい付くでしょう。
 あなたが痛がっても、拒んでも、泣いても、関係なく。あなたを食べて、食べ尽くして、あなたを手に入れるでしょう。

『愛をなんだと考える? 愛とは奪うことだ。惜しみなく、その全てを奪うことだ。それが愛だ。トンマンを愛しているなら……そうしなければならない』

 愛しています、公主様。
 誰よりも優しくて、賢くて、美しくて……誰よりも恐ろしくて、誰よりも惨い、私のトンマン。
 傷だらけの手であなたを掴んで、痣だらけの腕であなたを抱きしめて、血塗れの心であなたを望んで、あなたに餓えて……あなたを愛しています。

「ピダム……?」

 抱きしめられてもまだ私の隠す牙に気付かない彼女を静かに解き放して、私は彼女の向こうで無残にも落ちていく木の葉を見た。しがみ付いていた木の葉が風に揺られて落ちていく様は、彼女に抱いてもらえなかった時の私の末路を表しているかのようで……。

「……戻りましょう、公主様」

 捕まえた蝶の翅を残らず毟り取ってしまうように、あなたの身体に流れる血のように赤いその唇に、恐れ多くも私が触れてしまう前に。
 戻りましょう、公主様。
 ……あなたが私を、あの木の葉のように捨て去る前に。私があなたを、朽ち果てた木の葉の道連れにする前に。


****
51話、チルスクに襲われる前に、何故かトンマンがそわそわしていて、ピダムがツンとした(?)顔をしていたので、「ピダムおめー、トンマンに何かしたのか!?」と勘繰った管理人(笑)
結論としてはあの時のピダムは徐々にダーク化していたからあんな顔だったのかな……と考え直したのですが、ダーク化した原因がソルォンの説得だけ、と言うのはどうにも納得がいかなくて。なので、私の中では本人は無意識とは言え、トンマンがピダムダーク化の最初のスイッチを押したのだと無理矢理変換しました(笑)
今回はピダム視点なのでトンマンの心のうちはわかりませんが、どっかでまた書きたいなあと思います。ちっちき様、リクエストありがとうございました!
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  1. 2010.06.22(火) _19:02:50
  2. SS(ドラマ準拠)
  3.  コメント:4
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  1. 2010/06/23(水) 23:34:40 
  2.  
  3.  
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このコメントは管理人のみ閲覧できます

  1. 2010/08/24(火) 01:02:28 
  2. URL 
  3. りば 
  4. [ 編集 ] 
緋翠さまこんばんはー。
ちょうど最終話の動画の一部を見たんですが、ピダムの凄絶な死にざまよりも、死んでるピダムと向かい合わせでトンマンが倒れたのになんだかグッときました。女王ゆえに愛する男がすぐそこで死んでいても、駆け寄る事も手を握ることも言葉をかけることもかなわず、反乱の終結宣言なんぞしなけりゃいかんのか!と痛々しくて。その後バッタリ倒れたのも、心を殺してきた結果、折れてしまったんだな~という気がして泣けてきました。

ドラマでは「朽ち果てた木の葉の道連れ」にしちゃったんですね。枯れた葉っぱがおちても幹は残ると普通なら思ってしまいそうですが、光を自身に取り込むための葉っぱが永遠に失われてしまって、幹も倒れてしまった、そんな印象でした。カップルとしてはもっとどうにかならんかったのかって結末ですが、この二人はお互いの為にあったんだとそう思いたいです。

ここではピダムはトンマンの抱擁を「同情心からだ」と思っているようですが、じゃあトンマンの気持ちはチュンチュを抱きしめてやった時と同じものかというと、シチュエーションは似ていても微妙に違うものが混ざっているようで、あとがきで触れられているこの時のトンマンの気持ちについてもぜひ読みたいです!

管理人のみ閲覧できます

  1. 2012/06/21(木) 10:40:45 
  2.  
  3.  
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このコメントは管理人のみ閲覧できます

nana様へ

  1. 2012/06/22(金) 23:03:16 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
nana様、はじめまして~!管理人の緋翠と申します。

違ったらすみません(汗) 一週間前…と言うと、もしや拍手をくださっているのはnana様なのでしょうか。もしそうだとしたら、元気をありがとうございますv(*´∇`*)v
そして、こんなに誉めて頂けて、恥ずかしくてニヤけた顔が我ながら不気味ですw 私の場合は役者さんへの愛も勿論あるのですが、何より善徳女王と言うドラマに惚れ込んでいるので、「ドラマのワンシーンのように」と言って頂けて、すごく嬉しいです!きっと、私の表現力では追いついていない部分を、nana様の中に残るドラマの記憶が埋めてるんですよー(´∀`)フフ…。←ドラマの宣伝に余念がないですw

> 私はドラマではユシン派でしたが

そうだったんですか…!私のブログに来てくださる方は圧倒的にピダム派が多いので、そうじゃない方に楽しんで頂けるのは本当に珍しいんです。ありがたいです~vv
あ、トンマンサイドのお話、nana様からコメントを頂いて、書く気が湧いてきました!(笑) いつになるかわかりませんが、ちゃきちゃき書きたいです。

体重が2キロ減ですか…!(;´Д`)しっかり召し上がって、戻してください!!(笑)
最後に、思い出深いSSにコメントをくださり、ありがとうございました~v


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