善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 燈籠花

※本日二本目の記事です。

企画第二弾「チルスクとソファの(切ない)大人な雰囲気」のお話です。
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ちなみに管理人、トンマンが生まれた時、チルスクもソファも二十代半ば~後半だった、と言う設定にしておりますー。(ちなみに王様は十五くらいで、ミシルは三十代前半。…関係ないですね)(はい)
一応31話のチルスクとソファのシーンはBS版ではなく、ノーカット版を参考にして書いているので、チルスクもソファも、BS版よりもう少しお互いに対する感情が強いかもしれません。(BS版はカットがあったので、もうちょっとアッサリしているように見えた気が……気だけですが。笑)


***

『元の通り、私は陛下と公主様にお仕えする女官に戻り……』
『……私は、璽主をお守りする剣に戻る』

 美しく晴れ渡る夜空に、開陽星が輝いている。ちょうどその星を挟むようにして、チルスクもソファも、言葉なく佇んでいた。すでに離別の言葉を交わしてしまったことを二人とも心得ていたが、その場に足が縫いつけられてしまったかのように、二人はその場を去ろうとしなかった。
 そうしているうちに、どれほど時が過ぎたのだろう。ふと覚えのある気配を感じたチルスクが、ソファの腕を掴んで物陰に隠れた。

「チルスク様……?」
「…………」
「――叔父上~!」

 どこかで聞いたような、聞かないような甘ったれた声音に、ビクッとソファの肩が揺れた。

「ねえ聞いて下さい叔父上! 母上ったら、また私が幾ら良い案を申し上げても、返事すらしてくれないんですよ~」
「あー……わかった、わかったから少し黙って離れて下さい、ハジョン。何を飲んだのやら、不味そうな酒の臭いがこの叔父にも移るでしょう!」
「……あ……」

 ――ミシルの弟ミセンと、息子のハジョン。ミシルの最側近とも言える二人の声を耳にしたソファは、また震え始めた。
 そしてそれを掴んだ腕から感じ取ったチルスクもまた、眉を寄せた。何故あの二人がよりにもよってこの場に現れたのか舌打ちしたいところだったが、それよりもどうあの二人からソファを隠そうか、すぐにそのことで頭が一杯になった。

「ねぇ、叔父上、なんだか頭がクラクラします。ちょっとそこで休みましょうよ~」
「全く、幾つになっても手間がかかるんだから……ちょっとはしっかりして下さいよ、ハジョン!」

 宮中のことはあらまし把握しているつもりだったが、花郎であり、ミシルの護衛であった彼の知っている道は、ソファの手を引いて歩くには相応しくない道であることも事実だった。
 ミシルの使う秘路でもなく、誰の目にもつかないような場所はないものか――悩んだチルスクの袖を引っ張ったのは、意外なことに、まだ怯えているソファだった。

「あの、こちらに……」
「道がわかるのか」
「……女官でしたから……」

 母も王家に仕える女官だったソファにとって、宮中は幼い頃から慣れ親しんだ庭のようなものだ。例え年月が経とうとも、人気のない道や場所には幾つか心当たりがあった。
 はじめはそんなソファを不安げに見たチルスクだったが、やがてソファが彼も知らない道を行くようになると、大人しくその後に従うようになった。
 ソファがチルスクを連れてきたのは、小川の傍に建てられた、簡素な四阿だった。きちんと燈籠や蝋燭に灯りが点されているところを見ると、朝晩の巡回ぐらいはされているようだったが、あまり手入れの施されていない木々や屋根を見るに、忘れられた場所と言って遜色ないだろう。きらびやかな宮中にこんなところがあったのかと言う驚きと、その粗末な風情にどこか肩の力を抜いている自分を見い出して、チルスクの眼に宿っていた険が和らいだ。
 それを見たソファも、密かに胸を撫で下ろした。先程、ミセンらを目にしたチルスクは、昔のように得体の知れない殺伐とした雰囲気に戻っていたのだ。

「チルスク様……」

 今度こそ二人の周りには、誰も……衛兵すらもいなかったが、周囲を憚るように小さな声でソファは話し始めた。

「そこにある門を潜って突き当たりを左に抜ければ、チルスク様もご存知の場所に出ると思います……」
「…………」
「あの……庇って下さって、本当にありがとうございました」
「……」
「…………私は……これで……」

 何の言葉もないチルスクの視線を避けるように、ソファは身体を縮めて頭を下げた。自分でもこれ以上この場にいたいのか、それともいたくないのか、よくわからなかった。しかしこれ以上かける言葉が見つからなくて、ソファが背を向けた、その時だった。

「ソファ……!」

 半ば反射的にソファの腕を掴んだチルスクは、いつの間にかソファの小さな背を抱きしめていた。
 ――これで。これでもう、二度と言葉を交わすことはないかもしれない。もう二度と、ソファが自分に微笑みかけることは、ないかもしれない。
 何か言わなければならなかった。ミシルをも捨てて去ろうとしたこの胸の内を、せめて一言でもいいから彼女に伝えなければならなかった。……次に会う時は殺さなければならないかもしれない彼女に、知って欲しかった。他の誰に対しても感じたことのない、この迸る鼓動の理由を。
 漲る感情を抑え込むように息を吸って、チルスクは絞り出すように言葉を紡いだ。

「お前にとっては望まぬことであったかもしれないが……お前と深い山奥に入って、人目につかないところで余生を送ることが…………それが、私の最後の望みだった」

 突然のチルスクの抱擁に驚いて固まっていたソファが、その言葉に悲しみを抑えた微笑を浮かべた。不器用な男の精一杯の告白は、不思議なことにソファのたった一人の公主の涙と同じくらい、彼女の心を締め付けた。
 自らの身体に回った男の腕を見下ろして、ソファはそっとその腕に手を添えた。

「そうしていたら……あなたも私も、何の命令にも関係なく……何の大義にも、栄光にも関係なく…………小さな幸せを、追えたかもしれません」

 ……けれどもそれではソファはこうして喋ることも出来ず、チルスクは徐々に視力を失って、これまで培ってきたものをなくした、慎ましくて人間らしい、苦しくて虚しい暮らしをしなければならなかっただろう。

「ですが、私もあなたも……こうして、あるべき場所に帰ってきました……。ここは……徐羅伐は、命令から逃れるには……あまりにも畏れ多いです……」

 チルスクから剣を取り上げることが世を捨てることを意味するように、ソファからトンマンを取り上げることは絶望を意味した。彼らが新しい人生を進むには、すでに彼らは人生に対する情熱を失っていた。

「チルスク様……。私はあなたがずっと恐ろしかった。タクラマカンで暮らしていた時、血だらけになりながらも私達を追ってくるあなたを、幾度も……幾度も夢に見て、魘されました」

 その言葉に、チルスクの瞳が哀しげに揺らいだ。その腕から力が抜け、ソファがゆっくりと、慎重に振り返った。

「……仕方のないことでした。私は守ることが、あなたは殺すことが役目でした。でも……」

 ところが再びチルスクを見詰めたソファの顔に湛えられているのは、仄かで儚い微笑だった。

「私を砂の中から救い出し、その後もずっと面倒を見てくれて……誰にも私の正体がばれないように守って下さったことは、決して命令されたことではなかったと言うことは……愚かな私でもわかります」

 涙を浮かべたソファの瞳が、チルスクの瞳と真っ直ぐに向かい合った。

「チルスク様……あなたにお礼を言えて…………とても……とても、嬉しいです」

 ミシルのように確かな知性に裏打ちされた、玉を転がすように滑らかな美しさはなかった。けれどもソファのたどたどしい言葉と、彼女の優しい眼差しは、もう何年も何年も彼が待ち望んでやまなかった、彼の胸を打つものだった。
 その全てを噛みしめるように奥歯に力を入れて小さな微笑をその口元に浮かべたチルスクの手が、恐る恐るソファの頬に近付いて、その肌に触れた。

「ソファ……」

 他に言葉は何もなかったけれども、チルスクの双眸に宿る熱に気付いたソファは視線を落とし、小さく頷いた。
 それを少し戸惑いながらも受け止めたチルスクが腕を一振りすると、四阿の灯りが一気に暗くなった。常に剣を手放さないチルスクの手から、剣が瓏玲とした音を立てて離れていく。
 再びソファの頬に手を当てたチルスクは、自身の胝だらけのごつごつとした醜い手を憚るように掌を滑らせた。この掌をずっとソファは恐れてきたのだ。それを思えば、彼はまるでそよ風のようにささやかに触れることしか出来なかった。
 これ以上ソファの怯える顔を見たくなかったチルスクの手が、行き場を失ってさ迷う。焦れったいような、もどかしいような時間が続いた。
 ところがそれを打ち破ったのは、ソファ自身だった。
 ソファはゆっくり手を挙げると、そっとその小さな荒れた手でチルスクの武骨な手を握った。チルスクをまともに見られないほどに緊張しながらも、大丈夫だと慰めるようにソファはその大きく柔らかくない手に頬を寄せた。
 誰も知らないことだったし、また知らせるつもりもなかったが、宮中にいた頃はひたすら無邪気であったソファも、トンマンを育てる途中で、幾度か男にその身を差し出していた。時には優しい男に庇護されたこともあったし、時には人買いの男にトンマンと持ち金全てを持っていかれそうになったこともあった。……ムンノから逃げ出した頃の、一人では何も出来なかった世間知らずのソファは、そうして厳しい世の中を知り、やがて辿り着いたタクラマカンで、一人、トンマンを育てた。
 ソファの許諾を感じ取ったチルスクが、静かにソファの首筋を掠めた。若い情熱に煽られたようなものとは似ても似つかぬ、互いを慰撫するような静かな情交が始まった。
 しかしチルスクにとってもソファにとっても、生まれて初めて感じる、狂おしいほどの切なさに溢れた情交だった。
 ある時は炙り出そうと火にかけ、ある時は殺そうと刺し貫き、ある時は救おうと息を吹き込み、ある時は共に生きようと逃げた。憎んで恐れて、憐れで愛おしい、皮肉な間柄。ずっと宮中にいれば、きっと一生言葉を交わすこともなかった相手。
 御出双生、聖骨男尽――。
 その文句に振り回されて傷だらけになった二人の身体に、どちらのものともつかぬ涙が落ちて、沁み渡った。……惨めだった。元上花の地位を、女官の身分を取り戻したその夜は、何故だかこれまでの長い人生の中で、最も自らが惨めに思える夜でもあった。
 それでも、もう夜が明ければチルスクは再び剣を取り、ソファはその刃から公主を護る以外に彼らの進むべき道はなかった。
 爽やかな夏の夜風が四阿を包む中、言葉に出来ない全ての想いを分かち合うように、仄かな燈籠の灯りに照らされた二つの影は一つに重なりあったまま、長く互いを離そうとはしなかった。


****
大人な雰囲気…と言うわけで、本当に雰囲気だけになってしまいましたが(笑)、色々ぼかしつつ、管理人なりのチルスクとソファを書いてみました。
文中でソファの逃亡生活に触れましたが、まあ多分そうなんじゃないかな…と。勿論必死で働いたとも思うのですが、特に最初の頃のソファは可愛さが取り柄みたいなとこがあったので、女としての苦労も経た上で、タクラマカンの優しく儚いソファが作り上げられていったのではないかと。ソファ、別人のように変わってましたから…。
らん様、リクエストありがとうございました! こ、こんな感じで大丈夫でしょうか…!?
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  1. 2010.06.23(水) _21:07:33
  2. SS(ドラマ準拠)
  3.  コメント:2
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管理人のみ閲覧できます

  1. 2013/06/16(日) 11:35:35 
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  3.  
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このコメントは管理人のみ閲覧できます

ほっち様へ

  1. 2013/06/19(水) 22:44:36 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
ほっち様、こんばんは~vvお返事が遅くてすみません!いつもありがとうございます(*´∇`*)

> 先日、げんさまのソファとチルスクを拝見して、

私も拝見しましたしました!(・∀・)
ソファとチルスクへの言及ってあまりないので、げんさんの記事が読めて凄く嬉しかったです(ヨンヒさん誕生日おめでとうございます!v)
二人の話を書いたのはもうずいぶん前になりますが、今でもこの話(と、『SS ソファ』と『SS チルスク』)を書いた時の満足感を覚えています。この二人を書かないことには、ドラマ準拠のトン&ピは書けない、という意気込みがあったので(笑)
ソファとチルスクの一緒だった時間は実はとても少ないのに、離れていた間も、ずっとお互いの顔を忘れまいとしていた上に、一緒にいる時は互いの心身が傷だらけ…って、本当に切ないですよね(´;ω;) 身に余る話でしたが、こうして改めてほっち様に素敵と言って頂けて、ますますソファたちが好きになりました(*´∇`*)ありがとうございます!


隠居生活は、私も好きです(爆) 順不同で読む…なんだか恥ずかしいですが、面白そうです…!
って、『安らぎ』がそんなことになってたんですか!?そ、そう言えば、よく拍手が来ていたような…(ほっち様もありがとうございますv)←総拍手数は、管理画面からだとわからないんです(・∀・;)
実は『安らぎ』は、トン&ピの妊娠による幸福感を出しつつ、一番書きたかったのは、トンマンの用心深さだったりしまして。ドラマのトンマンを見ていて、「トンマンってピダムのように幸福感をパアッとオープンにしたりしないなぁ」と思ったのをきっかけに、トンマンが無意識のうちに心底から安心する瞬間はいつだろう、そしてピダムはそれにいつ気づくだろうと妄想した結果、「やっぱ赤ちゃんだろ(・∀・)だって私が見たいもん(・∀・)」と安直に書いたSSでして……仲間がたくさんいて嬉しいです!(笑)
先王陛下のお腹をなでなではしてみたいですが、黒い人がねー、邪魔ですよねー(´Д`)←酷いw

> 善徳女王は噛めば噛むほど美味しい

その通りだと思います…!噛めば噛むほどおいしく、色んな味がする、あるようでなかなか見つからない珍味なのではないかとv←こっちの方が拙いですねw
私もそういう作品に出会えたのがとても不思議です。全く見ていなかったBSフジにたまたまチャンネルを切り替えた時に『善徳女王』の予告を見て、「見よう」と第一話の放送から見れたことも、本当に巡り合わせってあるんだなぁと…。しかもこうしていつまでも『善徳女王』が好きな方と出会ってコメントを交わせて……幸せです(*´∇`*)
『善徳女王』は色んな見方が出来て、何度見ても新たな発見があるので、私もほっち様たちからまた刺激を受けながら、新たな一面を見つけていきたいです(・∀・)(私も一度見ただけだとワケわからんことが数えきれないくらいありましたw)

> 欲を言えば、過度の厳しい撮影ではなく、もう少し時間をかけての撮影可能だったら、もっと女王時代を長く観れたかなー( ´∀`)と。

あああ本当にそうですよね~!もうちょっと楽な撮影だったら、ヨウォンさんの体調も悪くならずに、もっともっと色んな女王時代が見れたのかも…と、今でも勿体なく思います。また、そういうもどかしさが、より『善徳女王』への思い入れを深めさせているのかもしれません(ノ∀`)(笑)


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