善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS はじめまして、花嫁様2

企画第三弾のこのSSは、インミョンとヒョンジョンのお話です。ご注意下さい!


***

「アルチョン郎!!」

 ちょうどその時分、飛天之徒の郎徒達に稽古をつけていたアルチョンは、徐羅伐一の問題児――いやいや、少々『やんちゃ』な太子様が自分へと突進してくるのを見て、咄嗟に持っていた木刀を構えた。何せこの太子と来たら、隙あらば花郎達の意表をついて悪戯を仕掛けてくるのだ。
 一応アルチョンも「今年でお幾つになったのですか」と何度も叱責していたが、太子の態度が改められる様子は全くない。母親嫌いが女嫌いになり、いつしか男だらけの花郎達の間に当然のように存在するようになった太子は、やはりその日もアルチョンに挨拶とばかりに一撃をお見舞いした……と言うわけではなかった。

「アルチョン郎、明日は暇か?」
「はっ?……はい」
「じゃあ、今夜丑の刻に一人で私の宮に来い。用がある。このことは誰にも言うな」

 よほど腹が立っているのか、それだけ告げてぷいっと踵を返したヒョンジョンは、黒衣を風に翻させて乱暴にその場を去った。旋風のように慌ただしい太子に一拍遅れて礼をしたアルチョンは、再び郎徒達の稽古を見て回りながら、今しがた耳にした言葉を整理し始めた。
 ――丑の刻に、一人で太子宮へ……?………………一体あの太子は、今度は何をやらかすつもりなのだろうか?
 まず間違いなく褒められたことではないことは決定していたが、それでも花郎の主たる太子の命令だ。従わないと言う選択肢は、謹厳なアルチョンにはなかった。……どうやら厄介事の片棒を担がされるらしいことを察して、アルチョンはその後、常よりもさらに厳しく彼の郎徒を鍛えて、自らの気をも引き締めた。

**

 夜陰に紛れて徐羅伐を抜け出したヒョンジョンとアルチョンは、夜明けと共に馬を飛ばして、その日の昼過ぎには万弩郡へ到達していた。

「太子様、これからどちらへ向かわれるのですか?」
「太子が会いに行くのは、太守に決まっているじゃないか」

 鍛え抜かれた体躯を持つ二人には強行軍も苦ではないのか、さして疲労した様子もない二人は、爽やかに万弩郡の城門を潜った。だがさすがに朝から水しか飲んでいないのは成長期の彼らには厳しかったようで、万弩郡の市場に来るなり、馬を木に繋いで二人は飯を掻き込んでいた。
 特にヒョンジョンは、口煩い師のいない解放感も手伝ってか、徐羅伐では控え目にしか口にすることが出来ない鶏肉を山のように平らげている。意地汚くも骨までしゃぶり尽くすその食べっぷりは、好意的に見ても太子には相応しくなかった。いや、そもそも――。
 そこまで考えた時、ひとまず腹を満たして余裕の出来たアルチョンは、箸を置いて、落ち着きのない頭に引っ張られてゆらゆら揺れる一房の髪を見た。――太子は今、どこで手に入れたのやら、町中でも滅多に見ないつぎはぎだらけの麻の服を纏い、ゆるく結われていた髪は半ば解けて、馬の尾のように頭の天辺からぶら下がっていた。明確に、太子の顔を知らぬ者が見れば、とてものこと太子とは信じられないような、酷い有り様だ。

「ですが……それならば、何故そのような軽装でいらっしゃったのですか? キム・ソヒョン太守は太子様の従兄でもあらせられます。そのお姿では、あまりに……」

 ソヒョンの母は、真興王の娘であり、王の同母姉妹だった。今は失脚しているとは言え、血筋は貴い。

「ひひひゃら、ふぁふぁへほれ」
「……」

 ……が、それ以上に貴い血統の太子が両手に鶏肉を構え、胸を張る様を見たアルチョンは、情けなさのあまり顔を背け……その眦を吊り上げた。

「――貴様ら、何をしている!!」

 地の底から響くようなアルチョンの怒号が、ヒョンジョンを除いたその場の者を凍りつかせる。その間にアルチョンは剣を手に立ち上がると、ひらりと柵を越えた。

「貴様ら、何故我らの荷駄に手をつけている!?」
「いや……拙僧、この馬に良からぬ気勢を感じ……」
「何? 良からぬ気勢とは……」
「……今のうちだ、逃げろ逃げろ逃げろ!!」
「ちょっと、待ってくれよ兄貴~!」
「……っ待たぬか!」

 僧侶の姿をした小男と町人の姿をした太った男は、どちらもその見た目からは想像もつかないほどに逃げ足が速い。アルチョンの意表をついて一瞬の隙を手に入れた二人は、慣れた様子で二手に分かれて人混みに吸い込まれていった。

「一本取られたなあ、アルチョン郎」
「太子様……! 面目もございません」
「いや? 私もお前も、金は懐に持ってたんだ。名馬だからと狙ったんだろうけど、何、気性の荒いこいつがこそ泥に乗りこなせるもんか」

 母にそっくりな意地の悪い笑みを浮かべて、ヒョンジョンは黒馬の見事な鬣を撫でた。艶々とした毛並みとしなやかな筋肉を誇るその馬は、昨年三人も厩番を蹴り殺して処分されそうになっていたところを、たまたまその件を小耳に挟んだこの太子に面白がられて、その乗馬となった馬だ。そしてそれきり、この馬が人を蹴り殺すことはなくなった。暴れ者同士、気があったようだ、と言うのが、大方の見解だ。

「よし! 腹も膨れたし、城へ行くか」

 その元・狂馬に悠々と跨がったヒョンジョンは、鶏肉の骨をくわえたまま、さっさと出立した。慌ててその後を追おうとしたアルチョンは、飯屋の主人に裾を捉えられ、「食い逃げする気ですか!」ととんでもない疑いを被った挙げ句、足を止める様子もない太子を見失わぬ為に、主人に銀塊をくれてやらなければならなかった。

「またお越し下さいませ!」

 涎の滴る音が聞こえてきそうな主人の声に見送られてヒョンジョンの後を追い掛けたアルチョンだったが、意外なことに、ヒョンジョンはそう遠くないところで馬上から何かをじっと見ていた。

「太子様、如何なさいました」
「……あいつ、さっきのこそ泥じゃないか?」
「はい?」

 太子が顎で指し示した方向を見ると、何やら鳥の羽根で冠を飾る少年達の一団が、僧衣を纏う小男を取り囲んでいた。

「やっと見つけたぞ!」
「さあ、ユシン様の腰牌を出せ!!」

 どうやら彼らはこそ泥の割には命知らずらしい。腰牌やら馬やら……もっと小さな獲物ではいけないのだろうか?
 少しばかりそのこそ泥が面白く思えてきたヒョンジョンだったが、それよりも少年達が口にした名前に引っ掛かりを覚えた。

「ユシン……? 聞いたことがあるな」
「太守の子息ではないでしょうか。万弩郡太守の嫡男が花郎になったと……しかも、龍華香徒と名乗っていると聞いたことがあります」

 国仙ムンノや徐羅伐十花郎の名声が広まる度に、神国には様々な花郎徒が生まれた。徐羅伐とは縁のない地方豪族の子弟が、きらびやかな栄光を夢見て花郎徒を結成し、意気揚々とやって来た徐羅伐で十花郎に叩きのめされるのは、もはや日常茶飯事と言って差し支えない。大方、『龍華香徒』などと言う御大層な名を拝している彼らも、似たようなものだろう。城下で我らに敵う者はいないと、ちっぽけな世界で自惚れている者達――。

「花郎か。なら、花郎の主人たる太子として声でも掛けてやるかな。――キム・ユシン!」

 ところがヒョンジョンは、太守の息子ならこれ幸い、道案内をさせようと馬上から怒鳴った。……こそ泥に向かっていた少年達の怒りが、一斉に二人に向けられた。

「ユシン様の御名を軽々しく口にするとは……!」
「無礼者!」
「はあ?」
「――口を慎め! 太子様であらせられるぞ!」

 アルチョンの迫力に少し怖じ気づいた少年達だったが、すぐにまたピイピイ騒ぎ出した。こんなボロを着た奴が、太子なものか!

「――何事だ!」

 そこへ、さっと人波が引くように一人の少年が現れた。ユシン様、と声を掛けられたその少年は、ヒョンジョンよりかなり年下のようだったが、凛々しい顔つきと真っ直ぐな瞳にえも言われぬ魅力がある。

「お前がキム・ユシンか?」
「そう言うお前は何者だ。馬上から話をするなど、無礼だ!」

 いつの間にやらこそ泥が逃げてしまったことにも気付かず、キム・ユシン少年と彼の郎徒達は馬上の二人を睨み付けた。

「ん? 私は太子ヒョンジョンだ。こっちの狐顔は花郎アルチョン。なあユシン、お前の父に会いに来たんだが、太守はいるか?」
「っ無礼者!!」

 カッと怒鳴るユシンの声の大きさに眉を寄せて、ヒョンジョンは顔をひん曲げた。隣にいるアルチョンがユシンに負けじと怒鳴っているのも堪らなかった。

「そも、太子だと言うなら、一体何故そのような姿なのだ! 父上に何の用だ!」
「何のって……簡潔に言えば、伝説の駆け落ち夫婦に、勘当されるような駆け落ちの秘訣は何なのかって聞こうと……」

 頭がクラクラするような怒鳴り声に耳を塞いで、目もほとんど閉じていたヒョンジョンは、その瞬間、それまで彼を庇っていたアルチョンまでもが呆気に取られ、ついで、敵方に回ったことに気付かなかった。

「立ち去れっっっ!!」
「帰りましょう太子様!!」

 やっと彼が周囲の異変を覚ったのは、二人のその日一番の大音声と共に、あれよあれよと城から遠ざけられ、町外れの宿屋に押し込まれた時だった。



「一体、何を考えておられるのですか!!」

 その晩の宿となる部屋の戸を閉めた次の瞬間、アルチョンは本日二度目の最大音量で怒声を炸裂させた。

「もし太守に直にそのようなことをお訊ねになっておられたら、大変なことになっていました!」
「だからお忍びで来たんだって……」
「お忍びだろうと公式訪問だろうと変わりません!! 駆け落ちのやり方をお訊きになるなど、駆け落ちでもなさるおつもりですか!」
「ああ、そうだ」
「ならば、私に秘かにお命じ下されば駆け落ちの仕方くらい…………………………はい!? た、太子様、今なんと……」
「だから。駆、け、落、ち、とやらをするから、大先輩に秘訣を聞きに来た。さすがの私も駆け落ちはしたことがないから、下準備くらいはしっかりしておかないとな」

 先程の軽率さはどこへやら、至って真面目に話をする『駆け落ち予定の太子』を前に、アルチョンの声から覇気が消えた。

「ど、どなたと駆け落ちをなさるおつもりですか」
「ペクチョン公の次女のインミョンだ。昨日、母上からそのインミョンって娘と婚姻するよう命じられたから」
「…………は?」

 非常に難解な太子の話は、アルチョンに頭痛を催させた。

「…………何故、婚姻予定の方と、駆け落ちをなさるのですか? 王后様が駆け落ちをしろと仰ったのですか?」
「まさか! 母上は来月になったら盛大な婚儀を行うおつもりだ」
「……。あの、太子様。来月に婚礼を挙げられるなら、何も今、駆け落ちをなさらなくても……花嫁が恋しいとしても、一月くらいは……」

 辛抱しろこの馬鹿太子、と吐き出しそうになったアルチョンだったが、その前にヒョンジョンが片眉を上げて不思議そうに彼を見た。

「はあ? 何を言ってるんだ。婚姻したくないから、そのインミョンとか言う女と駆け落ちするんじゃないか!」
「…………」

 これ以上太子のハチャメチャな論理に言及したくなくなったアルチョンは、とりあえず、彼でも理解出来そうな答えを期待して、大きな問いを口にした。

「…………太子様。何故そのように執拗に婚姻を拒まれるのですか」
「ん?」
「例え政略であれ、王后様の御命令であれ、太子様がしっかりしておられれば、必ずや花嫁も太子様に忠実になります。恐れながら、今の太子様は先の比才のように、逃げ回っておられるだけのようにお見受けします」
「……別に、逃げ回ってるつもりはなかったんだが」
「では、何故婚姻を拒まれるのです」

 断固としたアルチョンの姿勢に、彼を誤魔化すことは無理だと感じたのか、刹那の沈黙の後、ヒョンジョンは語り出した。

「私は、妻となる女にはこうであって欲しいと言う理想があるんだ。理想にぴったり合致する女としか、婚姻したくない」
「どのような理想ですか」
「そうだなあ……」

 脳裏にその理想の女とやらを思い描いたのか、それまで面倒臭そうにぼんやり遠くを見ていたヒョンジョンの口元に、だらしない笑みが広がった。


****
勿論こそ泥二人は、チュクパンとコドです。さて、ヒョンジョンの理想の女とは…!?
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  1. 2010/06/27(日) 14:48:10 
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このコメントは管理人のみ閲覧できます

  1. 2010/08/19(木) 23:17:18 
  2. URL 
  3. りば 
  4. [ 編集 ] 
緋翠さま今晩はー。このssのアルチョンえらく好みです。新羅の太子という設定だと、ピダム相手であろうときっちり礼は尽くすアルチョンの律儀さに笑え・・いえ泣けますwそしてアルチョンとヒョンジョン、この組み合わせ面白くて大好きです。てか破天荒な相手に振り回されつつ、若いのに口うるさい爺やのような役回りが似合いすぎなアルチョン最高。「今年でお幾つに・・」て言ってますがアルチョンも二十歳前で頼りになる(そして後始末を押し付けられる)世話役若年寄・・・嗚呼。心中では何度も太子を殴り倒し張り倒し唾をとばして罵倒しまくっててもやっぱり律儀、なんですねえ。ヒョンジョンには「狐顔」の二文字で片付けられちゃってますが(爆笑)。

ヒョンジョンの行動のいきあたりばったりぶり、予想を裏切る大胆といえば聞こえのいい訳の分からなさ、陰にこもってないとはいえすごくピダムらしくて、ほんとに表情がいちいち浮かびます!しかし理想の女に関するドリーミィな妄想は、一体どこで仕入れてきたんだかw

あと、ヒョンジョンとはいいコンビの暴れ黒馬、そのうちインミョンは気に入って乗せてくれそうな予感が・・・!あ、乗せなくても手から餌は食べるとかそんな感じがします。


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