善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS はじめまして、花嫁様3

※本日二本目の記事です。

『はじめまして~』、なんか連載化しておりますが、多分5話で終わる……と信じています(笑)


***

「ヒョンジョンがいない?」

 ボロを纏った太子が問題行動を引き起こしている頃。徐羅伐では、太子失踪との報告を受けた王后ミシルが、その眉を吊り上げていた。

「失踪とは……太子が何者かに拉致されたと言うことか?」
「いえ、そのような形跡はなく……恐らく、夜のうちに抜け出されたのではないかと」

 セジョンの問いに俯いたポジョンの顔は、緊張で半ば凍っていた。ヒョンジョンの護衛は、彼の役割なのだ。幾ら相手が手馴れの太子とは言え、こうも易々と抜け出されては面目も何もあったものではない。それはポジョンの父であるソルォンも同じようで、彼の秀眉にははっきりと屈辱と怒りの影があった。
 その隙を逃さず、ハジョンが茶々を入れた。

「あ~全く! どうしてきちんと見張っておかなかったんだ! 来月には婚儀だって言うのに、悪い噂でも立ったらどうするんです!!」
「ハジョン、黙りなさい」
「でも、母上……」
「いいから黙りなさい」

 厳しい眼差しでハジョンを睨みつけると、ミシルはソルォンへと向き直った。

「ソルォン殿はすぐに各城の間諜に連絡を。アルチョンもいないのであれば、恐らく太子はアルチョンを連れて行ったのでしょう。名馬に乗った少年の二人連れは目立ちます。どこかで目撃されているでしょう」
「はっ」
「それと、ポジョン、あなたはペクチョン公のところへ行って、こう伝えて下さい。息女インミョンに良からぬ噂があると聞きました。徐羅伐出立の日まで、外の風に当たらぬ方が良いでしょう……と」
「はっ!」
「恐らく太子は、また婚姻を破棄させようと何か企んでいるに違いありません。それが何か……全く、太子はこの母を飽きさせません」

 ミシル特有の、笑っているようでいて、その実とんでもなく怒っている――まさに、そうとしか表現出来ない艶美な微笑を浮かべて、ミシルは肘掛を握り締めた。
 ――馬鹿な子供。この母が、そう何度もしてやられるとでも思っているのだろうか?

**

 さて、そのミシルが見たら「あんな腑抜けは私の息子ではない!」と嫌悪でいっぱいになった怒声を張り上げそうな笑顔のヒョンジョンは、彼にしては珍しく、饒舌に『理想の女』について語り始めた。

「まずは私の妻になる女なのだから、誰もがうっとりするような美貌の持ち主で、私に合わせて背は高く、抱きしめれば折れそうにたおやかで、柳にも似たほっそりとした身体をしていて、でも肌に触れればその柔らかさに驚くほどでないと駄目だ。それに、春の野原が花でいっぱいになるような可愛い笑顔だったり、玉が銀板を転がるような愛らしい声だと国民も喜ぶだろう。ああ、別に胸は小さくてもいいかな。夫が丹精を込めて揉んでやったら、妻の胸は大きくなるそうだから」
「………………」
「勿論見た目だけ良くて、中身が空っぽでも困る。母に言い負かされない程度の機知と芯の強さは必要だ。それに、いざと言う時、ろくろく走れない、馬にも乗れないと言うのでは、花郎の尊敬を集める太子妃としては失格だろう。最低限、剣か弓のどちらかは扱えると良いな。ああそれから、ある程度の外国語や兵法にも通じていてもらいたい。まあ、政治的なことは私が教えるから、そこら辺はさほど知らなくても良いけれど。私は優しい夫になるつもりだし、妻がわからないことは手取り足取り、丁寧に教えてあげるさ」

 ふふん、どうだ、素晴らしいだろうと言わんばかりの――いや、実際にも「こんなに妻のことを結婚前から考えてやる夫は、神国中探しても私くらいのものさ」と、とんでもない思い込みを披露した太子を前に、アルチョンは黙りこくるしかなかった。
 許されるなら、「そんな女がいるか馬鹿!」……と張り倒してやりたかったが、今のアルチョンはぐっと堪えて拳を握るしかなかった。……どんなに女に関して無知でも、相手は太子だった。将来神国の王となる、太子だった。女嫌いと見せかけて相当な女好きに成長しそうな馬鹿さがあったが、太子だった。
 落ち着け、落ち着けアルチョン。お前はこの太子のもっととんでもないところも見ているだろう、と自分に言い聞かせて、アルチョンは平静を保った。

「……そのような女が見つからなければ、どうなさいますか」
「ええ? そりゃ、まあ……三十になっても見つからなければ、条件を少なくするさ」

 ――そのやたらと難解な『理想』の条件など忘れて、まず間違いなく馬鹿も醜女も寄越さないだろう王后の意見に従ってみたらどうだ!
 咄嗟に喉から飛び出しそうになった言葉を力一杯飲み込んで、アルチョンは目を閉じた。……太子は今年で十七歳。まだ女に夢を見ているのが当然の時期だ。アルチョン自身、十八歳の今、花郎の世俗五戒にその身を捧げていなければ、女に目移りしてもおかしくないような気がした。
 それに、よくよく考えてみると、彼にとっても女と言う生き物は未知なのだ。姉妹はいたが、小さい頃から花郎を夢見て修行に明け暮れていたアルチョンは女とは縁のない生活をしていた。もしかしたら……広い神国には、一人ぐらいヒョンジョンの夢見るような女がいるかもしれない。鬱蒼とした森の中に一輪咲く、ちっぽけな花を見つけるぐらい、その女を探し出すのは大変だろうけれども。

 その後、それ以上何も言えなくなったアルチョンを放って夕餉を持ってこさせて、湯も使ってすっきりしたらしいヒョンジョンは、いつもの通り、いつの間にやら寝台の上で大の字になって眠り始めた。そんな太子を横目で見て、アルチョンもまた、剣を抱いたまま眠りに落ちた。
 ……しかし、翌朝アルチョンが目覚めた時にはなんと、すでに太子は影も形もなく、置手紙だけが寝台の上に残されていた。

『追手に宜しく』

 一体何のことかと首を捻ったアルチョンは、間もなくミシルに命じられ、夜駆けで万弩郡までやって来たソルォンに引っ立てられ、太子はどこだと責め立てられることとなるのだった。

**

「ふああああ……」

 アルチョンをソルォンへの生贄として置いて来た性悪太子は、とうとうやって来たペクチョン公のお膝元にて、堂々と大欠伸をしていた。昨夜までとは違い、きちんと目深に笠を被り、誰しもが畏怖するような立派な体躯の愛馬も置いて来たヒョンジョンを太子だと思う者は誰もいないだろう。
 徐羅伐と比べれば劣るが、それでも万弩郡よりは栄えている東市を歩きながら、さてどうやってインミョンに会おうかとヒョンジョンは首を捻った。最悪の手段は太守の宮に入り込み、太子妃となることが決まった以上、それなりに警備が厳しくなっているであろうインミョンの宮から彼女を盗み出す……と言うことになるが、それが下策であることは彼も心得ている。第一、ちょっとした品物ならともかく、十五歳の女を盗み出すと言うのは、大変な仕事だ。暴れられたら面倒で、気絶させて抱えるにしても、重いし嵩張る。
 出来れば。出来ればそのインミョンとやらが宮の外に出てきてくれれば良いのだが……。

「おい、聞いたか。姫様が、輿入れなさるんだと」
「ええ!? チョンミョン様に続いて、姫様もか!?」
「ああ、そうだ。このお城も寂しくなるなあ……」

 そんな中、町人達のお喋りを小耳に挟んだヒョンジョンは、その内容に小首を傾げた。
 ……「チョンミョン様」と、「姫様」? 話の内容からして「姫様」とやらはインミョンのことだろう。同じ太守の娘なのに……何故扱いが違うのだろう?

「なあ」
「うわっ! な、なんだい」
「ちょっと聞きたいんだが……姫様って、誰のことだ?」
「インミョン様さ! なんだ、兄さんあんた、ここの者じゃないな?」
「ああ」

 ここで嘘をついても仕方がないので、素直にヒョンジョンは頷いた。

「じゃあ教えてやる。いいか、ここの太守ペクチョン様には、姫様が二人おられるんだ。先頃御輿入れなさったチョンミョン様と、インミョン様がいらっしゃってな。どちらもとーっても綺麗な姫様だ」
「……へえ? 徐羅伐にいる王后様よりも綺麗なの?」
「俺は徐羅伐に行ったことなんざないから王后様は知らねえが、インミョン姫様はまるで天女のようなお美しささ! ここいらの若い男は、姫様に声を掛けてもらったってだけで、三日は腑抜けになる」

 その言葉に、少し、ヒョンジョンはドキッとした。チョンミョンもまあ綺麗な方だとは思っていたが……それよりも美しいのか? それも、天女のような美しさ?

「姫様はしょっちゅう乳母の家に御出でになるんだ。その度に市にも御出でになって、色んな話を聞いていかれる。なんでも、近頃では太守様の御政務にも関わっておられるって話だ!」

 別の男が捲くし立てた言葉に、ますますヒョンジョンの鼓動が忙しくなった。ひょっとして……インミョンと言う女は、なかなか見所があるのではないか?
 だがそこでヒョンジョンは首を振った。冷静に考えれば、あの母が操縦の難しい女を太子の妻にするはずがない。必ず、操れると確信を持てる女を寄越すはずだ。そうでなければ、太后となった後、権力を維持することが難しくなる。

「……姫様ってのは人気者なんだなあ」
「ああ、そうさ! ペクチョン様が王様になられたら、姫様も公主様になるのに……って」
「おい、滅多なこと言うな! それに、姫様は太子様に輿入れなさるんだ。公主様どころじゃない、未来の王后様だぞ!」
「さあ、まだわかんないだろ」

 それまで耳を傾けるばかりだったヒョンジョンは、最後に悪戯っぽく笑って、訝しげな顔をする彼らに背を向けた。
 ――人気者の姫様、か。
 もしその姫様が、今からこのボロを着た男に浚われて、傷物にされるのだと知ったら、彼らは一体どう思うのだろう? 可哀想な姫様……これでもう、太子様との縁組はない、と言ったところか?
 悪くない、とヒョンジョンは思った。さすがにあの母も、どこの誰とも知らぬ男に浚われて、一昼夜帰らなかった女を太子妃に据えようとは思わないだろう。いや、母だけではない。民衆ですら、思わないはずだ。幾ら色供が盛んな神国でも、太子妃には未婚の娘を用意したいはず。
 何、これほど民衆に人気のある女なら、その名に傷がついても大したことはないさ、と口の端に笑みを浮かべたヒョンジョンは、その時、先程の男達が一斉に叫ぶのを聞いて、勢いよく振り返った。

「姫様だ!」

 ――あれが、人気者の姫様?
 笠から爽やかな青色の紗を垂らしている女を見て取ると、ヒョンジョンは素早く物陰に隠れた。笠を被り直して、そっと姫様とやらの様子を観察する。

(顔は……あれじゃ、良くわかんないな。でも背は理想通りだ。くそっ、あの鬱陶しい紗を剥ぎ取れたらな……)

 ここが徐羅伐であれば今すぐにでもそうしたであろうが、生憎と今は正体を知られるわけにはいかないのだ。むずむずと不満を抱えながら、ヒョンジョンは大人しくインミョンと、その後に従う乳母やら護衛らの一団を追跡した。護衛の数は、四人。その気になれば、いつでもインミョンを浚えそうだった。

(どうする……今、浚うか? いや…………ここじゃ人が多くて、女を担いで走るには不便だな……。市を抜ければ……その時にでも)

 ところがヒョンジョンの思惑とは裏腹に、インミョンは市のすぐ隣にある家へと入ってしまった。聞けば、太守から下賜された乳母の家だそうで、時折インミョンはその家に泊まっているらしい。
 それを聞いたヒョンジョンは、なんだか妙な気持ちになった。彼はこの婚儀を潰すつもりなのだからまだ良いとして、八日後には徐羅伐に向かう彼女が日常を送っているとは何事だろう? 今頃は、もう少しそわそわと落ち着きなく、色んな準備をしたり、太子はどんな人なのだろうと想像したり……そう言う時間を送っているべきではないのか?
 随分と自分勝手な感想を抱いて勝手に憤慨したヒョンジョンは、ちょうど乳母の家が見えそうな屋根に上って、ごろんと横になった。
 ――決めた。人が少なくなる夕刻を狙って、あの家に押し入ろう。そうして外門が閉まる前に城外へ出て、一晩行方を眩ますのだ。インミョンがいなくなればすぐに乳母は騒ぎ立てるだろうし、見栄っ張りの母は、例え息子を疑ったとしても、比才の時のように降参するだろう。何、ことは簡単だ。これでまた、自由に過ごせる。
 そうして屋根の上で転寝も終えたヒョンジョンだったが、それから一刻ほど後になって、ふと胸騒ぎがして身体を起こした。

「? あれは……」

 咄嗟に乳母の家に目をやった彼は、その家から出てきた『少年』を見て、目を丸くした。

「…………インミョン?」

 直感だった。しかし、何故だか見たこともない美貌の『少年』を見た彼は、それがインミョンだと確信して、屋根から飛び降りた。


****
なかなか終わらない…!
次回はインミョン視点になりそうです。ちなみに、十代の頃のお話ですが、主役の二人は子役ではなく、主役の二人が十年若返ったイメージで書いています。なので、特にインミョンは子役の子のイメージで見ると違和感があるかもしれません(汗)
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  2. SS(パラレル系列)
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  1. 2010/08/24(火) 23:57:44 
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