善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 浄土へと誘う風1

リクエストで頂いた、「トンマンとピダムがいつからお互いのことを好きになったのか打ち明ける話」と「お使い兄妹の妹にピダムとの馴れ初めを訊かれて答えに窮するトンマン」です。設定は家族もの外伝で書かせて頂きました。ヒョンジョン二歳です。
また、長らく名無しの権兵衛だったお使い兄妹に名前がつきました!(笑) 兄が「トサン(桃山)」、妹が「トファ(桃花)」です。魔除けの桃の名前を持った兄妹と言うことで、きっとトンマン達が幸せに暮らしているのは、この二人が一緒にいるからではないかと(笑)


***

 夜明け前に目覚めたトンマンは、太陽が山の向こうから昇って来るのを見て喜びのあまり飛び起きた。すぐに隣で愛らしい目蓋を重たそうに動かしている愛息の頭を撫でて、弾んだ声音で囁く。

「ヒョンジョン、今日はお山に行こう」
「おやま……?」
「うん」
「いく……」

 まだ寝惚け眼のヒョンジョンは、よくわからないながらも母の嬉しそうな様子にこくんと頷いた。あと、問題となるのは――。

「起きろ、ピダム。今日こそは花見に行くぞ!」
「…………」

 トンマンに叩かれてもなお彼女の腹に顔を埋めて眠るフリを続けている、大きな子供である。……ちなみにその大きな子供は、彼女の夫でもあった。
 が、いつもなら夜明け前には起きて、一人、剣を手に修行をし、その上家事までするその夫は、どう言うわけだか今日ばかりは酷く動きが緩慢だ。その理由は、主に、昨夜彼の世界で一番大切な妻が明日は出掛けるし早起きするからと全く彼に構わず息子と一緒に寝てしまったと言うことだったが、一応他にも理由はあった。

「……まだ山の風は冷たいので、駄目です。山の花が見たいなら私が用意します」
「私は野原一面に咲いている花が見たいんだ。それに、夏になったら今度は暑さが身体に悪いと言うのだろう? では聞くが、それならピダム、私はいつになったら裏の山へ行けるんだ?」
「…………」

 いつになっても危ない上に身体に悪いので駄目です、とピダムは言いたかったが、さすがにそれでトンマンが納得しないであろうことは彼にもわかる。

「去年はヒョンジョンも小さかったからお前の言うことを聞いたが、今年は聞かないぞ。ヒョンジョン、お母さんと一緒に裏のお山に行きたいだろう?」
「はい!」
「お母さんもヒョンジョンと一緒にお山に行きたい。だから、お父さんに連れて行ってもらおうね」

 裏の山はともかく、「お母さんと一緒に」と言われればまずヒョンジョンが逆らうことはない。ふにゃりと笑顔を浮かべたヒョンジョンは、母に抱きしめられてますますご機嫌だ。
 すでにピダムを布団の中に捨て置いて、仲良く着替えているトンマンとヒョンジョンを横目で見て大きな溜め息を吐いた後、逃げ場を失ったピダムは嫌々起き上がった。彼とて、トンマンとヒョンジョンを連れて遊びに出掛けることが嫌なわけではないのだ。美しい景色は一人で見るだけでなく二人にも見せたかったし、春の香りも知って欲しい。……ただ、そう思う一方で、大切な宝物のような二人を外の風に当てるのが嫌なのも事実なだけだ。

「……お弁当の用意をします」
「うん。……あ、ちょっと待ってくれ」

 ところが布団を畳んでその場を通り過ぎようとしたピダムは、トンマンに袖を引かれて立ち止まった。振り返った彼の目の前では、満開の桜よりも綺麗な微笑が咲いている。

「今日はトサンとトファも来るから、二人の分も作ってやってくれないか?」

 その綺麗な微笑で残酷にも邪魔者が二人も増えることをピダムに宣告したトンマンは、「大家族みたいだ」と非常にご機嫌な様子のまま、てっきり三人だけだと思っていたのに、と拗ねた夫と、母の機嫌の良さが伝染したのか楽しそうな息子を連れて、隣家の兄妹と共に裏の山へと足を踏み入れた。今や隣の兄妹――トサンとトファは、トンマンにとっては甥っ子や姪っ子のようなものであるらしかった。

**

 五人がやって来た春爛漫の山は、花の香りに満ち満ちていた。ピダムがうっかり「見せたいです」と口走ってしまうだけあって、小さな滝が水飛沫を上げて流れ込んでいく小川の先に広がる野原は、浄土のように美しい。
 女王であった頃、仏教を国の基幹とすべく芬皇寺や皇龍寺を初めとした寺院を建立し、数多の優れた若者達に仏教を学ばせるべく唐への留学を推奨したトンマンだったが、彼女の女王としての暮らし自体は、浄土など欠片も見えないものだった。それが、女王でなくなった今、こうして眼前に広がっている。
 ――必死で捜し求めていた時は見えなかったものは、このように近くにあったのだな。
 早速はしゃぎ回っている子供達を眺めているトンマンの胸の奥で生まれた感動が身体を駆け上り、その瞳で雫となって溢れた。
 隣に立っていたピダムはいち早くその気配を察して、慌てて彼女の顔を覗き込んだ。

「どうしたの? どこか痛い?」
「いや。ただ、嬉しくて……」
「嬉しい……?」
「うん。ピダム、お前がその名の通り、私に浄土を見せてくれた。そのことが……嬉しくて」

 ピダムには正直、何が浄土なのかさっぱりわからなかった。美しい景色だとは思うが、それだけだ。野原は野原、滝は滝、花は花である。しかしトンマンには、この景色が浄土に見えると言う。それも、ピダムが見せてくれたと言う。
 いつもいつも、迷惑をかけてばかりだと……苦しませてばかりだと思っていた彼女からまさかそのようなことを言ってもらえるとは思わず、ピダムは困惑して視線をさ迷わせた。それでもその手はトンマンの肩を撫でて、いつの間にか彼女を抱き寄せていた。――浄土。もし浄土があるなら。ピダムにとってそれは、トンマンの腕の中だ。
 ところが、突然両親が妙に接近しているのが、ヒョンジョンには仲間外れにされたようで詰まらなかったらしい。

「ヒョンジョン、見ちゃだめ!」
「はなして~!」

 ヒョンジョンの目を隠そうとするトファの手を振り払うと、ヒョンジョンはそのままピダムの脚にしがみ付いた。

「あそぶの!」
「ヒョンジョン、ちょっと待て。今お母さんが……」

 そんなヒョンジョンを可愛く思いつつも、ピダムの中では泣いているトンマンは拗ねているヒョンジョンよりも僅かに優先順位が上だ。すると、ピダムの腕の中にいたトンマンが、さっとピダムを押し出して彼に明るい笑みを向けた。

「いや、大丈夫だ。ヒョンジョン、お父さんと遊んでおいで」
「うん!」
「……本当に大丈夫?」
「大丈夫だ。悲しかったわけじゃない。ああ、そうだ、トファ!」

 急に名前を呼ばれたトファは、何故だか赤くなっている顔を隠すようにぷるぷると首を振ってから、トンマンの元へと駆け寄った。

「この前、花輪の作り方を教えてくれると言っていただろう? ここには花が一杯あるから……たくさん失敗しても大丈夫だし、教えてくれる?」
「はい」

 トファの声はいつもと違って小さかったが、トンマンは自分が大人気ないところを見せてしまったからだろうと特に咎めなかった。
 そのままピダムとヒョンジョンをトサンのところへ送り出した後、トンマンはトファの手を引いて、花輪にし易そうな小花がたくさん咲いている場所で腰を下ろした。以前はトンマンが地べたに座ることにピダムは猛烈に反対したが、ある時ピダムに迫る蛇をトンマンがあっさり捕まえて以来、少しずつ見解は変わってきたようで、今では服が汚れない草原では何も言わなくなっている。ただし、トンマンが一人で家を離れることには未だに反抗するが。

 そうしてトファに教わって、トンマンが花々と戦い始めてから少し経った頃。
 いつもならあっと言う間に花の冠を作り上げるトファが、どう言う訳だか小さな指輪を作ったきり、トンマンの様子を窺うようにやたらと彼女を見ていることにトンマンは気付いた。初めのうちは「きっと私が上手くやれるか不安なのだろうな」と苦笑していたものの、どうもそうではないらしい。トファの目は、トンマンの手元ではなく、あくまで彼女の顔を見詰めていた。

「……何か、顔についてる?」

 最も考えられる可能性に触れてみたが、びくっと跳ねたトファは、飛んでいきそうなほどにぶんぶんと首を横に振っている。

「じゃあ……」
「あの、聞いてもいいですか!」

 珍しくトンマンの声を遮ったトファに吃驚したトンマンは思わず花輪を作っていた手を止めてトファを見た。

「どうしたの?」
「その…………おばさんは、おじさんととっても仲良しです」
「……うん」

 ずっとトンマンを「おねえちゃん」と慕っていたトファも、ヒョンジョンが生まれてからはトンマンのことも「おばさん」と呼ぶようになっている。やっと年相応の呼ばれ方をするようになったトンマンはそれを嬉しく思っていたので、優しく笑ってから、申し訳なさそうに呟いた。

「ああ……そうか、ごめんね。おじさんとおばさんがさっき二人でいたから、話しかけづらかっただろう」
「いいえ! そうじゃなくて……すっごく仲良しなのは、なんでだろうって」
「ええ?」
「うちの父さんと母さんは、おじさんとおばさんみたいに仲良しじゃないです。すぐけんかします。もっと……仲良しがいいです」

 それは恐らく、六歳の少女にとっては切実な悩みであるに違いない。愛らしい声で重々しく悩みを告白したトファを見て、トンマンは花輪と横に置くと、トファを膝の上に抱き上げた。

「おじさんとおばさんも、しょっちゅう喧嘩をする。喧嘩をするのは、仲が良いと言うことだ」
「でも…………父さんと母さんがおばさん達みたいに仲良しなの、見たことないです」

 それは、両親がそう言った一面を子供に見せないよう努力しているからだろう、とも思ったが、そんなことを言ってトファが両親のあんまり『仲良し』な姿を探そうとしても困る。どうしたものかと悩みながら、トンマンは沈痛な面持ちのトファを慰めるように優しくその腿を叩いた。

「そうだな……きっとトファのお父さんとお母さんも、トファ達の気付かないうちに、仲良くしているかもしれないぞ」
「してないかもしれないです」
「それもそうだな」

 うーん、とこれ以上トファが落ち込まないように明るい声で唸るトンマンに、ふとトファが訊ねた。

「おじさんとおばさんは……ずっと仲良しですか?」
「うん?」
「うちの父さんと母さんは、ちっちゃい頃もけんかしてたって……。おじさんとおばさんは、ちっちゃい頃から仲良しですか?」

 大人ではこうはいかないであろう無邪気な問い掛けに、トンマンは明るく笑って首を傾げた。

「そうだなあ……。おじさんとはどうも赤ん坊の頃に一度会っていたらしいのだけど、おじさんも私も覚えていないし……再び会ったのは、二人とも大人になってからだ」
「ずっといっしょじゃなかったの?」

 田舎の村では、一緒に育った子供達の仲でいつの間にか夫婦になるのが当たり前だ。トファもなんとなくそんなものだろうと考えていた為か、トンマンの言葉は衝撃だったらしい。思わず言葉遣いまでぞんざいになったトファに悪戯っぽい笑みを向けて、トンマンは続けた。

「うん。それからはずっと一緒にいるけれど」
「どうやって会いましたか?」
「出会ったのは…………」

 もう長らく思い出していなかった昔のことを蘇らせようと、自然とトンマンの目蓋が下りた。

「……出会ったのは、おばさんがとても大変な時だった」
「病気でですか?」
「ううん。病気じゃなくて……でも、死んでしまいそうなくらい、大変な時だったんだ。そんな時、どこからともなく現れたおじさんが、おばさんを助けてくれた」
「それでおばさんはおじさんのこと、好きになったのですか!?」
「いいや。おばさんにとっておじさんは、友達ではあったけど……素敵と言うよりは、変な奴だなあ、と思ってた」

 一瞬、物語のような結末を期待したトファは、トンマンの返事に明らかに失望した様子だったが、トンマンは構うことなく続けた。勿論全てを語ることは出来ないけれども、嘘を吐くような話でもない。国を揺るがすような事件とは違う、二人だけの空間で彼らは互いへの思いを育んだからだ。

「それから、おじさんはいつもおばさんを褒めてくれたり、慰めてくれたり、笑わせてくれたり……花をくれたりもした。あの頃のおばさんは、こうやってトファとお喋りするみたいに誰かと話すことも出来なかったから……おじさんのしてくれることは、いつも凄く嬉しかった。……まあ、たまにおじさんが良くないことをして、おばさんが叱ることもあった」

 それは今でも同じだな、と笑うトンマンに、トファもそよ風のような笑声を立てた。

「おじさんは? おじさんは、ずっとおばさんのこと、好きでしたか?」
「うーん…………うん、そうだな……好きでいてくれた。おばさんはあまり優しくなかったのに、好きでいてくれたんだ」

 そう語るトンマンの瞳は、いつの間にかトサンやヒョンジョン二人を相手に相撲の真似事をしているピダムへと向かっていた。幼いトファにはまだその瞳に宿る様々な輝きや翳りが何を意味しているのかわからなかったが、それでも目の前にいる「おばさん」を、とてもきれいだとトファは思った。彼女にとっておばさんはいつでも誰よりも綺麗な天女様だったが、特におじさんを見る時、おばさんはより美しくなるように思われた。
 なんとなくそんなトンマンを見ていたくて続きをせがむのを我慢していたトファだったが、急にそのトンマンの瞳が揺らめいたのを見て、慌てて視線を兄の方へと向けた。見れば、ピダムがヒョンジョンを抱え、トサンを連れてこちらへ向かってきている。

「帰ろう。どうも、一雨来そうだ」

 ちらっと空を見上げたピダムは、開口一番四人の落胆を買った。

「まだ来たばかりだぞ」
「山は天気が変わりやすいんだよ。それに、春雷にでも遭ったら大変だ。今日はここまでにして、また来よう」
「お弁当も持ってきたのに……」
「それは家で食べればいい」

 口々に嫌だと文句を言う子供達を代表してトンマンが抗議を試みたが、ピダムも譲らない。とうとうピダムの肩にしがみ付いて泣きながら「やだー!」と駄々をこねるヒョンジョンの丸い尻を軽く叩くと、空いた手で持ってきた荷物を掴んでピダムは顎で空をしゃくった。

「来た時は雲一つなかったけど、今はかなり雲が出てきてるだろう? すぐに黒雲でいっぱいになる。麓とは気候が違うんだ」
「そんな……」

 トンマンはがっくりと肩を落としたが、トサンとトファはピダムの言うことがわかるのか、いそいそと持ってきた荷物や、せっかく作った花輪を仕舞い始めた。
 子供二人に先を越されてはトンマンも従わないわけにはいかない。渋々とトンマンも帰る支度を始めた。……主にその支度とは、わんわん泣き喚くヒョンジョンをピダムから預かり、泣き止ませることだったが。


****
またしても一話では終わらず…!! 何かと長くなってしまって申し訳ありません(汗)
このお話はオリジナルキャラクターの妹ちゃんが中心になりましたが、次回からは例の如く、大きな子供が中心になる予定です(笑) お楽しみ頂ければ幸いですv
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  1. 2010.07.03(土) _00:38:47
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
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  1. 2010/07/03(土) 09:34:51 
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