善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 浄土へと誘う風2

※本日二本目の記事です。

今回は長めです。おまけに次回は途中、R15くらいはいきそうです(汗)
お返事は次の記事にて!


***

 ピダムの言う通り、間もなく辺りは暗くなり始めた。素早い行動が功を奏したのか、幸い山を出る前に彼らが雨に降られることはなかったが、一日中外で遊べると思っていたヒョンジョンはすっかり意気消沈して、トンマンの胸にへばりついている。ずっと抱えていては重いだろうからとピダムが抱えようとしても、「帰ろう」と言い出したピダムには腹が立っているようで、トンマンから離れようとしない。
 何度かトサンがそんなヒョンジョンを宥めようと目の前におもちゃをちらつかせても見たが、よほど花畑で遊んでいるのが楽しかったらしい。昔のピダムさながらに口を尖らせたまま、やっとのことで呟いた。

「…………ほんとに、いく?」
「うん、また行くよ!…………あの、おじさん……行きます……よね……?」

 心優しいが、未だにピダムのことはしっかり怖がっているトサンだ。恐々訊ねられたピダムは、ちらりとトサンを見下ろした後、ヒョンジョンの膨らんだ頬を突いて苦笑した。

「またすぐに行くさ。だからヒョンジョン、ちょっとこっちへ来い。お母さんが大変だろう?」
「やだ!」

 トンマンやピダムだけでなく、周囲の者達全てに可愛がられてここまで育ったヒョンジョンは、自分が何を言ってもほぼ聞き入れられることを経験的に知っている。今回も案の定、トンマンが「大丈夫だ」と言ってしまった為に、ヒョンジョンはトンマンの胸から蝉のように離れない。
 思わずピダムの口から溜息が零れた。

「…………誰に似たんだろう……」

 少なくとも、自分は師匠に言われればその場ではきちんとその言に従ったものだ。……まあ、その場限りと言われればそんなところも多々あったろうが、それにしたってここまでではないだろう。多分。
 トンマンはそんなピダムをこっそり見上げた後、冷や汗を流した。……十中八九、ヒョンジョンの我が強いのは母親に似たからだろう。小さい頃の自分を思うに、ソファの言葉に従わないことはしょっちゅうあった。困っている人がいると思えば危ないことにも手を出したし、その度にソファを心配させて、泣かせていた。
 ……親になってみると、改めてソファの苦労が身に沁みた。まだトンマンにはピダムがいるから良いものの、ソファは一人きりだったのだ。さぞや日夜気を揉んで、苦労も堪えなかっただろう。
 だが、とトンマンは再びピダムを見た。我が強いのはトンマンに似たからだが、母親から離れようとしないのは、絶対にピダムに似たに違いない。トンマンは少なくとも、未だに彼女にしがみついて寝ているピダムとは違う。甘えん坊ではあったが、ソファにしがみ付いて離れなかった記憶と言うのはない。

「……何?」
「いや、なんでもない」
「?」

 要するに両方に似たのだな、とヒョンジョンを抱え直して、トンマンは苦笑した。
 そんなトンマンの裾を、くっと何かが引っ張っている。見れば、トファがトンマンを物言いたげに見ていた。その目が、さっきの続き、と遠慮がちに、しかしはっきりと訴えているように見えるのは気のせいではないだろう。

「――ピダム」
「うん?」
「ちょっと先に行っていて。トファと女同士の話があるんだ」
「……はい?」
「いいから、行って」

 何か言わない限りはトンマンの傍から離れようとしないピダムを先へと追い遣ると、トンマンは小声でトファに話しかけた。

「あと何が聞きたい?」
「その、おばさんはいつおじさんのこと、好きになったのですか」
「……え?」

 考えてみれば当たり前の質問だったが、トンマンにとってその質問は青天の霹靂だった。……一体いつからピダムを好きになったか?…………いつから? いつから……!?
 どうやらトファにとってはとてつもなく重要な質問らしく、きらきらと輝く瞳でトンマンを見上げている。……何か、答えなければいけないようだ。ヒョンジョンの背をぽん、ぽん、と叩いて時を稼ぎながら、トンマンはとりあえず尤もらしい答えを口にした。

「その…………いつの間にか、おばさんはそんなおじさんのことが、誰よりも好きになっていたんだ。おばさんは昔は……本当に鬼のように怖くて、おじさんを泣かせたりもしたのに……おじさんはおばさんを受け入れて、妻にしてくれた」

 ……鬼のように、と言うのは我ながら言い過ぎだろうかとも思ったが、未だに、あの夜ピダムに心を打ち明けようと思ったのはピダムを泣かせたからだと言う気持ちが強いのは事実だった。なので、まあ間違いではないだろう。……多分、間違いは…………。

「鬼のように怖かったんですか?」

 天女様が、と目を丸くするトファを見て、はたとトンマンは見栄を張りたくなった。……鬼のように怖かったと言っても、彼女の前で泣いたのは、ピダムだけではないか!

「いや。おばさんも怖かったが、おじさんも泣き虫だったんだ」
「そうなのですか?」
「うん」

 泣き虫と言うほど泣いてもいないが、私だって鬼のように怖くはなかった、と自分に言い訳して、トンマンは朗らかに笑った。……そんな二人を、気遣わしげにピダムが振り返ったことには気付かずに。

**

 トサン、トファに弁当を半分ほど持たせた後、二人と別れて家に帰ったトンマン達は、しとしとと降る雨を見ながらゆっくりとした時間を過ごしていた。かつて、宮殿にいた頃は雨だろうが晴れだろうが関係なくすることがあって忙しくしていたものだったが、今では雨が降れば家の中でのんびり過ごすしかない。贅沢にも、雨を眺めることが出来る。
 雨音が眠気を誘うのか、ヒョンジョンがうつらうつらしてきた頃、ふいに、ヒョンジョンの頭を撫でていたピダムが口を開いた。

「……女同士の話って、なんなの?」

 ずっとその疑問を口にする時を待っていたらしく、ヒョンジョンが眠ったところを見計らっての問いはうまくトンマンを揺さぶった。

「何?」
「さっき、妹の方と話してたじゃない。何なの?」
「ピダム。妹の方じゃなくて、トファだ。……いい加減、名前くらい呼んでやったらどうなんだ」
「あなたの願いはなんでも叶えてあげたいけど、こればっかりは私が悪いんじゃない。先に化け物扱いしたのはあいつらだからね」
「小さい子供のちょっとした勘違いじゃないか。今はもう、ちゃんとピダムのことを「おじさん」って呼んでるのに……」
「……で、何を話してたの?」

 聞く耳を持たないピダムに嘆息するも、ピダムも全く動じない。軽やかに腰を上げると、トンマンの後ろに座って彼女の身体を引き込んだ。

「私には言えないようなこと?」

 耳朶を舐めるように囁くピダムに「いつの間にこんなイヤらしい夫になったんだろう」と密かに苦笑しながら、トンマンは呟いた。

「……トファとトサンの両親が、喧嘩ばかりしているらしいんだ」
「そんなの、あなたには関係ないじゃない」
「そんなことはないだろう。二人にはいつも助けてもらっているし……ヒョンジョンにも兄弟のように接してくれている。他人事じゃない」

 ピダムには他人事らしかったが、トンマンはヒョンジョンの髪を撫でて続けた。

「それで……ピダムと私の仲良しの秘訣を訊きたかったらしい。私は、そんなことはない、私達も喧嘩をする、と言ったんだが……」
「えっ!?」

 そこで思わず大声を上げたピダムは、ヒョンジョンが唸った為に慌てて声を落として抗議した。

「仲良しじゃない、私達は!」
「そんなに特別仲良しではないだろう。他の夫婦もこんなものじゃないか?」
「……じゃあ、もっと仲良しになる」

 『仲良し』をどう言う意味だと受け取ったのか、トンマンの顔を後ろへ向かせるとピダムは間もなくトンマンの唇を飲み込んだ。ピダムとしてはわかっていたつもりではあったが、考えていた以上にヒョンジョンが生まれてからのトンマンは自分から離れていくような気がして、寂しく感じているのだ。
 トンマンもそれはわかっているようで、柔らかな繊手がそっとピダムの頬を撫で……強くつねった。

「…………トンマン?」

 どう考えても愛撫とは言いにくい刺激にピダムが顔を離すと、にっこりと微笑むトンマンが、今度は優しく彼の頬を摘んでいた。

「ピダム、まだ話は終わってない。だから続きは、話が終わった後だ」
「……はい」

 どうか、続きをする頃になっていきなりヒョンジョンが起きたりしませんように、と強く祈りながら、ピダムはまた有無を言わせぬトンマンの言葉に耳を傾けた。

「それで、トファが訊くんだ。いつから仲良しなんですか、って。どうも、私達がいつからお互いを恋慕し始めたのか気になるらしい」
「小娘……じゃなくて、あの子には、関係ないじゃない」
「そう言うな。あ、いやそれよりも、ちょっと気になったことがあって……」
「何?」
「うーん……あの、ピダム。お前はいつから私のことを友達としてではなく、その……女として恋慕するようになったんだ?」
「………………え?」

 しかしトンマンの口にした問い掛けは、そわそわと熱を持ち始めていたピダムの身体を一気に凍りつかせた。
 対してトンマンは、恥ずかしそうに頬を赤くしている一方で、持ち前の旺盛な好奇心が発動されたらしく、熱心に言葉を重ねている。

「実は、私が「ピダムは私を愛しているのだろうか……」と本気で考え始めたのは、司量部の編成を変えた後、お前に抱きしめられてからなんだ。その前までは、ときめくと言われたこともあるのだから、嫌われてはいないだろうけど……どうなんだろうな、確かなことは何も言われたことはないし……と、たまにミセン公などにお前のことを訊ねられた時に不思議に思うくらいだったんだ」
「え、じゃあ……私が結婚しないのはなんでだと……?」
「ああ、それは私も申し訳なく思っていた。私が何かとお前を頼っていたから、多忙のあまり結婚も出来ないのかと……。それに、ピダムまで結婚したら、独り身は私一人になってしまうから…………遠慮しているのかもしれないとも思った。ほら、たまに人恋しさから、何気なく私に触れることがあっただろう?」
「…………」

 ここで、ようやく約十年も片恋に身を焦がす破目となった最大の理由を知ったピダムは、がっくりと項垂れた。……ミセンの言う通り、もっと早く、抱きしめるなり愛してると告白するなりすべきだったのだ!

「ピダム? どうした?」
「いや……ちょっと、久し振りに昔のことを思い出した」
「?」

 思えば、かつてピダムは彼の恋心に全く気付いてくれないトンマンに、日夜苦しんだものだった。特に……ムンノが死んでしまった後は、辛くなる一方だった。
 出会った時は、トンマンと一緒にいたらたくさん楽しいことがあるに違いない、と確信していたのに。

「ピダム」

 どうなんだ、と急かすように彼を呼ぶトンマンの愛らしい声にはたと我に返ったピダムは、彼を見詰めるトンマンのつるりとした頬に手をかけて、切なく、愛情に溢れた笑みを浮かべた。

「女として、なら……洞窟で会った時から可愛い顔した奴だとは思ってたよ」
「ああ……そう言えば、私に片目を瞑って寄越したな。あんなことをされたのは初めてだった」
「それから……日食の時は、初めて身体中の血が漲る感覚を覚えたし……公主になったのを見た時は、初めて綺麗って言葉の意味がわかったし……」
「でもそれは、友達として、臣下としてだろう?」
「うーん……そう……なのかな」

 ピダムとしては少し違う気もしたが、確かにあの頃はまだ、トンマンが欲しいとか、抱きたいとまでは思っていなかった。ただ、離れたくなかっただけだ。それが少しずつ変わってきたのは……。

「……前に話したけど、あなたと私が結婚していたかもしれないと知った時。あの時……初めて考えたかもしれない。自分が王だったかもしれないと思うと同時に、あなたが妻だったかもしれない、もしあなたが私のものになってたら……どうなってたんだろうって」
「確か……ユシンが風月主になる比才が始まった頃の話だろう? そんなに昔にか?」
「そうだよ。だから、ちょうど師匠と折り合いが悪くなってたし……あなたにこっちを向いて欲しかった。ユシンより頼りになるって思わせたかった」
「それで……あんなことを?」
「うん。ま、日食の時に一度失敗してるし、今度こそ上手くやってやろうと思ってたんだけどね」
「国仙の弟子なのに、花郎をよく知らなかったんだな」

 その時とは違って、ただ困ったように、可笑しそうに笑ってトンマンはピダムの胸に倒れ込んだ。あの時は風月主がかかった大事な戦いで何をするのかと怒りが湧いたが、後々になって考えてみると、そんな男だからピダムを仲間にしたのだ。強くて不遜な、子供のように予測のつかない不思議な男。

「多分……その時からかな。何をするにも、あなたに見て欲しい、わかって欲しいと思い始めたのは。……ユシンより上に行きたいと思ったのもね。――ただ」

 猫のように舌先でトンマンの唇を舐めて、ピダムは滑らかに口の端を上げた。

「こんなことがしたいと思うようになったのは、もっと後」


****
鬼のように怖い…!(※誉め言葉です)とは、女王時代のトンマンを見た私の感想です(笑)
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  1. 2010.07.04(日) _20:44:27
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