善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 善徳F4、五変化 その2

※本日二本目の記事です。

その2です(笑)
ユシンとチュンチュで、58話のトンマン婚姻に対する二人のSSSです。


***

 ――もし彼女が他の男に奪われたら、きっと自分は狂ってしまうだろう。
 そう思うほどの情熱で、ユシンはトンマンに恋をした。生まれて初めての、掛け替えのない恋を。
 だがその恋は実る前に崩れ落ちる運命だった。ユシンもトンマンも、チョンミョンを犠牲にしてまで恋を選び、愛に逃げることを許せなかった。……二人にとって、恋は誰か他者の命を奪ってまで実らせるものではなかった。
 そしてユシンは恋を捨て、真心に生きる決意をした。ミシルの孫ヨンモを娶り、彼女と充実した家庭を作ろうと努め、その一方でトンマンを心に秘め続ける。そんな、満ち足りているようでいて、何かが欠落している暮らしを続けてきた。

『国婚をします。……相手は上大等ピダムです』

 そうトンマンが告げた時、不思議とユシンはその『欠けたもの』が何であるかが見えた気がした。
 ユシンが求めて止まず、けれども決して与えることの出来ないもの。……それは、ソファが殺され、真平王も崩御し、実の母までも寺に入った為に今度こそ一人ぼっちになってしまったトンマンの『幸せ』だった。
 彼女が泣きたい時に手を差し伸べ、温もりが欲しい時には抱きしめ、屈託のない笑みを向けることの出来る相手。王としての彼女にではなく、一人孤独な道を歩んでいる女人としての彼女を愛し、彼女に誰かを愛する幸せを許すことの出来るたった一人の存在。
 それこそがユシンの願う者だったのだ。
 ――それこそが、かつて、ユシンがなりたいと思った存在だったのだ。

『お前に勝って欲しくはない。……だが神国と陛下の為に、勝ってくれ』

 トンマンが即位してから、ピダムとユシンはそれぞれの勢力を抱える政治家として、たびたび衝突してきた。
 ピダムは幾度もユシンを追い落とそうとし、その度にユシンは自らの真心とトンマンの信頼によって助けられ、ピダムは口惜しい想いをしてきたのだろう。彼にとって大切なのは神国ではなくユシンを殺すことなのだと、そう確信するようにさえなっていた。
 ……だから、ピダムのその言葉を聞いた時、ユシンは我が耳を疑った。
 宿敵のユシンが活躍すれば、その分ピダムの立場は悪くなる。だと言うのに、悔しさを浮かべながらも心からの嘆願を口にした彼を見て、ユシンは彼の何かが変わったのだと気が付いた。――それがトンマンへの、さらにはトンマンからの愛の為だとは、わからなかったけれど。
 きっとあの言葉を聞く前だったら、ユシンはピダムとの国婚に強硬に反対していただろう。口を出すべきではないとわかっていても、言わずにはいられなかっただろう。
 けれど、今は。
 あの言葉を聞き、トンマンの、そしてピダムの瞳を見た今なら。

「…………どうか陛下が心から安らぐことの出来る存在でいてくれ。……それは、お前にしか出来ないことだから」

 ユシンは、心の底から二人の未来を言祝ぐことが出来る。
 トンマン一人ではなく、トンマンとピダム、二人の幸せを願うことが出来る。
 もちろん、一抹の悔しさと寂しさはある。だがそれよりもユシンの心を満たすのは、これまで感じたことのない不思議な温かさだった。
 実を言えば、ユシンは二人がどのような想いを抱えているか、わからないところがある。ミシルが死んだ後も、結局トンマンとピダムが二人で何を話していたかさえも知らない。女王と司量部令として、ユシンが戦場を駆逐する間、ずっと既得権益を手放そうとしない貴族達と戦ってきた彼らがどのように日々を過ごしてきたのかすら、知らない。知ろうと、しなかった。
 ――それは、もはやユシンにとってトンマンは愛する女性ではなく、ただ一人の王であるからだ。
 王と他の臣が何を話していようが、それはユシンの関知すべきところではない。そう自律しているからこそ、何も問わずに来た。どれほどに彼女が張り詰めた状態でいるかわかっていても、手を貸さずに、ただひたすら自らの職務を全うして王としての彼女を慰撫することだけを考えてきた。
 だがピダムは違った。
 彼は常に王をかつてのトンマンと同じように見詰めていた。ただ政敵へと向ける悪意だけでなく、彼の燃えるような瞳に確かに見えるユシンへの強烈な嫉妬がその現われであることは間違いなかった。
 ふとユシンは先ほどのピダムの瞳を思い出した。
 そこにある色は凪いだ海のように穏やかで、深く、ただ一途だった。誰かを守ると決めた者だけに見えるその瞳を、ユシンは知っている。
 一人だけの想いではなく、二人の想いからなるその瞳を、知っている。
 ……不思議な気持ちだった。
 トンマンはもう誰の者にもならないだろうと信じていて、それを裏切られたと言うのに、どうしてちっとも腹が立たないのだろう。
 哀しくはある。これからピダムが彼女に触れるたび、それにトンマンも応えるようになるのだと思うと、拭い去れない不快感が肌を泡立たせる。
 けれどそれ以上に、安堵してもいた。
 何かと無理をし過ぎる彼女を、きっとこれからはピダムが止めてくれるに違いない。ユシンと違って誰も家族のいない彼女のたった一人の家族に、ピダムがなってくれるに違いない。そう確信していた。
 ――とても、不思議な気持ちだった。


****



『チュンチュ。……ここまでしてピダムを傍に置きたいと思う私の心を、理解してくれ』

 それは女王になってから初めて叔母が見せた、『女』の心だった。
 本心を言えば、それでも尚、チュンチュはピダムとトンマンの結婚に反駁したかった。ピダムが示した誠意が彼の一派にとってどれほどに危険なことであるか、叔母に説かなくてはならない。そう、確信していた。
 ……しかし、チュンチュにはそれは言えなかった。
 恐らく誰よりもピダムを生かしたいと思っている叔母が、「ピダムが盟約を守らなかった時はピダムを刺殺しろ」と、チュンチュに命を下した。それがチュンチュに二の足を踏ませた。
 彼女は決して愚かでも、一時の感情に流される女でもない。
 あくまで叔母は優秀な政治家であり、人の心を読むことに長けた稀代の女傑である。
 今更彼女がピダムの熱意にただ絆されるわけがなく、ピダムとの結婚を決意したと言うことは、全てを飲み込んだ上で、それでも尚ピダムを夫として必要としていると言うことだ。

(だが……危うい)

 チュンチュは、トンマンがピダムより先に死んだ場合、ピダムが盟約に従おうが従うまいが必ずや内乱が起こると確信していた。
 ピダムがどう思っているか、何を考えているか、そんなことは所詮大した問題ではないのだ。
 ピダムの勢力は、伽耶派を大切にする真骨で尚且つミシル一派に悪感情しか持っていないチュンチュに対し、真智王の息子でミシルの子でもあるピダムを擁立する為に実力をつけている。
 それが全てであり、むしろ彼らにとってピダムのトンマンへの愛は邪魔なだけだ。彼らにとって、ピダムはユシンを追い落とし、チュンチュを追い詰め、女王の位を危うくする為の存在でいなければならない。
 その為なら、彼らは『ピダム』と言う人間の人格を踏みにじることすら辞さないだろう。
 ……チュンチュは、いつだったかヨムジョンが言っていたことを思い出した。

『ピダムは、組織や権力と言うものを知らない』

 あの時はその言葉を聞いても、そのことについて深く考えたりはしなかった。
 けれど、今ならわかる。
 ――ピダムは策略家ではあるが、政治家ではない。
 もうミシル一派を率いるようになってから何年も経つのに、相変わらず彼は自分の下にいる者達をどうやって従わせるべきか、彼らが何を求めているのか、それを心得ていない。
 土台、彼は王に相応しい人間ではなかったのだ。
 彼のトンマンへの態度は全て愛情に突き動かされてのものばかりで、そこには打算も駆け引きもない。初めて彼と相対した時に感じた、『獣』の本性――彼はただそれに従っているだけ。今はトンマンに飼い慣らされ、牙を抜かれているが、彼女がいなくなればその本性を必ずや現すだろう。
 ……いや、トンマンとの愛に溺れた彼は、彼女が死んだ時はもう生きてはいないのか?
 チュンチュには、今、もしピダムが己が妻となったトンマンを失った時、これまでと同じように生きていられるとは思えなかった。

(ピダムが陛下と結婚したことにより……彼が私にとって脅威でなくなるなどと言うことが在り得るだろうか?)

 自問して、チュンチュは皮肉な笑みを浮かべた。
 ――そんなことは、有り得ない。
 すでに上大等として最高権力を手にしたピダムが女王の夫となれば、貴族が次に狙うのはピダムの王座への『昇格』だろう。それ以外に彼らに生き残る術はないのだ。
 何故ならチュンチュは、もしトンマンが死んで自ら王座に就いた暁には、父を、母を殺したミシルの残党とそれを黙認した貴族らを許すつもりはないからだ。そして生き残ることにかけては誰よりも敏感な彼らが、そのことに気が付いていないわけがなかった。
 ふ、とそよ風のような笑みがチュンチュの唇を彩った。
 実を言えば、チュンチュも叔母の心がわからぬでもない。喜ばしくはないが、ピダムの心も。彼らの共有する孤独は、チュンチュにもあるものだからだ。
 しかし、チュンチュは彼らとは違う。
 チュンチュは叔母が注いでくれる愛情と母との僅かな思い出、そして政略とは言え結婚した妻ポリャン、それだけでもう十分だった。恋い慕う相手など、彼にはいない。彼の胸に渦巻くものは復讐の念であり、彼が何をおいてでも得たいのは、神国の王座、それだけだ。
 だが。

(……陛下とピダムが結婚すると聞いてこうも不快なのは、ピダムに彼女を取られる気がするからなのだろうな)

 一定の距離を置いてきたつもりではあるが、今では彼女は母のような存在だ。
 その彼女にとって最も近い存在が、これからはピダムになる。ピダムが、あの返り血を浴びて笑っていたピダムが彼女に触れることの出来る唯一の存在になる。
 ピダムが……あの今でも憎いミシルの血が、祖父や父母に続き、叔母と王座までもチュンチュから奪おうとしている。

「………………不快だ」

 いつの間にか、チュンチュは搾り出すようにしてそう呟いていた。
 そう、不快だった。
 ピダムが政治家として優れていれば、それはそれでチュンチュにとっては脅威となっただろう。しかしだからと言ってチュンチュは彼に力をつけて欲しくなかったわけではない。何年掛かってもミシル一派の、貴族の忠誠を勝ち取れていない彼は、近い将来必ずや叔母の王座を危うくするだろう。
 そして哀れにも本気でピダムを愛してしまった叔母は、自ら政変を呼び寄せている。
 ――ピダム一人の為に、全ての歯車が狂い始めているのだ。
 そう考え到った今、チュンチュにとって、もはやどう転ぼうが何の役にも立たないピダムは存在そのものが不快なものでしかなかった。

(彼を一刻も早く抹殺しなければならない。この世からも……叔母の、心からも)

 涼やかなチュンチュの目元に、刃のような怜悧さが宿った。


****
五人いるけど善徳F4!な五人でした。
……いえ、その、カップルとか言いつつ、カップル話を書き始めると一話では終わらない気がしたので(汗)、とりあえず、と言うことでまだ春辺りに書いたSSSを五本引っ張ってきました。SSSで描かれている時期はバラバラですが、書いたのは同じ時期です。
ミシルの乱後すぐのアルチョン、司量部令としてかなりダーク化しつつあるピダム、復耶会に乗り込んだトンマンに降参するウォルヤ、寂しさを押し隠してトンマンの国婚を祝福するユシン、国婚によりMASSATSUモードのスイッチが入ったチュンチュ……と、後半戦で一番印象に残っている心情の変化にスポットを当ててみました。
お楽しみ頂ければ幸いですーv
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  1. 2010.07.17(土) _00:09:03
  2. SS(ドラマ準拠)
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