善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by 緋翠

遅くなってしまってすみません!
リレー連載第四弾、今回は管理人緋翠のターンです。


***

「ありがとな、助かったぜトンマ――いった!」

 気楽に声をかけたピダムは、次の瞬間バシッと最愛の妹に叩かれていた。

「また勝手に喧嘩して! 母さんが、兄さんが喧嘩するたびにすっごく心配するの知ってるでしょ!?」
「いたた……。なあトンマン、別に怪我したわけでもないんだからそう怒るなって。それにあれは喧嘩じゃなくてだな、ならず者が暴れてたから……」
「いっつもそう言って誤魔化すんだから。いつか本当に大怪我でもしたらどうするの?」

 今は、ソファもあまり表に出たがらないからピダムの喧嘩を目にせずに済んでいるが、トンマンはこれでもう何度目だろう。兄の大立ち回りを目にするのは。
 このままではトンマンのお説教が延々と続くと感じ取ったのか、それとも繁多な市にトンマンが一人で来ていることにようやく気付いたのか、その時はたとピダムの態度が変わった。それまでは誤魔化すような笑顔だったのに、突然眉を顰めて尤もらしくトンマンを見下ろし始めたのだ。

「それより、トンマン、お前こそ一人で買い物に来たのか? 危ないだろ」
「兄さんに言われる覚えはないってば! もう、母さんも兄さんも同じこと言うんだから……!」
「さっき目の前で乱闘騒ぎが起きたばかりじゃないか。本当に危ないんだぜ、ここらは」

 急にトンマンを子供扱いし始めたピダムに、トンマンはむすっと唇を尖らせた。一度も困った事態に陥ったことなどないのに、何故こうも口煩く言われなければいけないのだろう?
 トンマンの不満そうな顔を見て、露天の店主はからから笑った。

「そう言われるとこっちも商売上がったりだな」
「おじさん、笑いごとじゃないよ!」
「まあトンマン、そう怒るなって。今日は何を買いに来たんだ? ピダムの腕っ節に免じて、おまけもつけてやるぞ」
「ッハハ! ほらなトンマン、喧嘩も悪いことじゃないだろ?」
「やっぱり喧嘩のつもりだったんじゃない!」
「やべっ」

 舌を出したピダムは言葉とは裏腹に悪気など全くないらしく、暢気に店主から品物を受け取っている。トンマンも渋々代金を払って振り返ったところで、今度は自警団の若者から声が掛かった。

「おーいピダム! 大丈夫か!?」
「ああ、大丈夫! 俺、妹送ってくからここで!!」
「そうか、またな!!」
「ああ!」

 当たり前のように自警団の面々と仲間のようなやり取りする兄を頼もしいと思うべきなのやら、それとも仕事をサボっていることを叱るべきなのやら、はあ、と大きく溜息を吐いてトンマンは歩き出した。荷物を持ったピダムも、すぐに追いついてきて並んだ。

「なあトンマン、そう怒るなって。ほら、これ家に置いたらすぐに客引きに行って来るからさ」
「いいよ。もうお昼もだいぶ過ぎちゃったし、今から行っても夜になっちゃうから」

 なんだかんだ言いながらも、兄の身を心配する妹が可愛らしく感じられて、自然とピダムの口元は緩んだ。
 親しくしている自警団の男達にも散々「妹馬鹿だな、ピダムは」と笑われていたが、やはり彼はどうしようもなく妹が可愛かった。ピダムをからかう自警団の面々とて、いざトンマンを前にすれば笑顔が零れるのだから、ピダムのトンマン贔屓もおかしなことではないだろう。
 とは言っても、自警団にいる似たような年の少年が「トンマンがお嫁さんになってくれたら毎日楽しそうだなあ」とうっかり口にした時には、ピダムは「誰が嫁にやるか」と猛烈に怒り出して、またしても「妹馬鹿」と呆れられることとなったりもしたのだが。
 その「妹馬鹿」な兄は、何気なく妹の後にくっついて歩いていたが、ふと妹が家に向かっていないことに気付くと、ぱちぱちを目を瞬かせた。

「あれ? まだ買う物があるのか?」
「ううん。違うんだけど、ちょっと物色したくて」
「? 何を?」

 トンマンが欲しがる物と言えばまずは本だが、今日は本の特売日だっただろうか。しっかりしている妹は基本的に日用品以外はもらうか安く買うかしかしないことを知っているピダムは、首を傾げた。
 ところがそんなピダムに、トンマンは呆れたように振り返った。

「兄さん……覚えてないの?」
「何かあったか?」
「もう! ほら、もうすぐ母さんの誕生日でしょ!! せっかく兄さんと二人でいるんだから、今のうちに何を贈ろうか相談しようと思ったの」
「誕生日……」

 やはり忘れていたのか、呆然と繰り返すピダムを見てトンマンは今度こそムッとした。

「母さんの誕生日を忘れるなんて信じられない!! 兄さんの薄情者!」
「あ、いや、忘れたわけじゃないって。ちゃんと用意するつもりだったよ」
「去年もそんなこと言ってなかった?」
「いいや」

 事実はトンマンの言う通りだったが、ピダムは白を切った。……正直に言えば、誕生日の何が、ちょっと忘れていただけで「薄情者」呼ばわりされるほど重要なのか、ピダムにはよくわからなかった。だが、妹から軽蔑の眼差しを受けるのも好ましくはない。

「去年は二人で母さんを一日休ませたけど、今年は何か買って送る気なのか?」

 昨年、トンマンに言われた通り、「一日母さんにゆっくり過ごしてもらおう」と妹と二人で奮闘したピダムとしては、もう少し楽な贈り物の方が良かった。
 第一、去年の贈り物は結局無意味だったのだ。二人の母は子供達に店を任せて好きに出歩いたり、二人が泊まり客まで巻き込んで店を回す中、のんびり休んでいられるほど図々しい性格ではなかった。
 そんな昨年の失策が身に沁みているピダムは、何かを買おうとしているトンマンにどこかホッとしていた。――ところが。

「ううん、買ったりしないよ。それじゃ心がこもってないから」

 それ以外有り得ないじゃないかと言うようにけろりと答えると、再びトンマンはきょろきょろし始めた。

「……じゃ、なんで市で物色してるんだ?」
「母さんのターバンがかなり傷んできてるから、布を買って、そこに刺繍をしようかと思ってるの」
「刺繍?」
「うん」

 兄さんもしてね、とトンマンが太陽のように明るい笑顔で振り返った為に刹那、ピダムは反射的に頷いていたが、すぐに正気に返った。

「…………え、俺も?」
「うん。だって兄さん、いつも一緒に贈り物したがるじゃない。だから兄さんもボーっとしてないでちゃんと探してよ。兄さん服の趣味いいんだし」

 トンマンの末頼もしいやら恐ろしいやら、とにかく優れているところの一つは、さり気なく相手を煽てるところだろう。買い物をする時も接客をする時も、いつも絶妙の間で相手を気持ち良くさせる誉め言葉をトンマンは口にした。おかげでトンマンの少し手厳しくも優しい言葉を目当てに宿に泊まる客は増える一方だ。
 ちなみにピダムからすれば母の服も妹の服も十分に洒落ていたが、意外と口下手なピダムは、トンマンのように服やら趣味やらを上手く誉めることが出来ない。喧嘩の最中に仲間を激励するのは得意だと言うのに、おかしな話だった。

 そうしてトンマンとピダムは二人でいそいそと市の中を歩き回った。
 急いでいたのは、身体の弱い母をいつまでも一人にはしておけないからだ。ソファは身体が悪いだけでなく、しょっちゅう転んではあちこち擦りむいたりすることも多く、小さな怪我が絶えなかった。トンマンもピダムも丈夫な上にやんちゃな性格だからか、人一倍おっちょこちょいな母をまるで姉や兄のように心配していた。
 ソファからすれば怖い物知らずの二人こそ危なっかしくて仕方なかったが、まだ十代も半ばのトンマンとピダムは、その年頃らしい可愛い傲慢さで自分達こそ母を守っているのだと確信していた。
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  1. 2010.07.31(土) _01:18:14
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