善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 脆い壁が砕けてしまう前に

※本日二本目の記事です。


さえ様リクエストの「日食の前に、眠るトンマンに思わず触れてしまうユシン」です! 何度もこのネタに挑戦しつつもうまくいかなかったので、「よ、良かった、ユシンの神が降りてきた…!」と今はとにかくホッとしています(笑)
いつぞやのピダムと同じように逡巡するユシンですが、ピダムが「(トンマンに愛されたいから)トンマンに嫌われるようなことはしたくない」と躊躇うのに対し、ユシンは「(トンマンの傍にいる為に)自分の誓いを破りたくない」と躊躇うのが個人的にはツボです。ただ、日食の頃はまだちょっとユシンも整理出来きってない時期だと思うので、色々と中途半端ですみませぬ(汗)


***


 肌を舐るような熱風が辺り一面に渦巻いているかのようだ。隠れ家に潜む者達の焦燥を煽るかのように、とっくに夜を迎えたのに下がらない気温が、ユシンの額にも嫌な汗を伝わせていた。
 隣に立ったアルチョンは、月のない夜空を見上げて仇敵を見てしまったかのように眉を顰めた後、ユシンへと視線を移した。

「ユシン郎、公主様は?」
「……まだ中にお出でだ。先程声をお掛けしたが、殆ど返事もない」
「明日だからな…………公主様も、気が気ではないだろう」

 ミシルは日食は起こらないと宣言してしまった。もしこれで本当に明日、日食が起こらなかったら、全ては水の泡だ。いくら復耶会が地下組織として長い歴史を持っているとは言え、いざ自分達の身が危うくなれば、彼らはトンマンを差し出すだろう。ここにもいられない。
 ――もし、日食が起こらなければ。そうしたら……トンマンはもう、公主ではない。
 逃げ出さなければならない。
 もう実家と復耶会の関係は改善されたのだ、今度こそトンマンを連れて、神国を逃げ出さなければならない。そうしなければ、トンマンが死んでしまう。恋慕も復讐も、全ては生きていればこそだ。死んでしまっては、何の意味もない。

「ユシン郎?」

 ユシンが黙りこくっていることに不審を覚えたのか、アルチョンが訝しげにユシンの肩を掴んだ。その手はいつも通り、力強い。……恐らく、アルチョンは迷いを持っていないのだろう。彼には徐羅伐を離れるなどと言う選択肢はないに違いない。そして、ユシンも。ユシンも、本来なら、そうであるはずだった。それなのに。
 トンマンによって、ユシンは揺らいでいた。彼女に忠誠を誓ったけれども、それはあくまで自分を戒める為の誓いであって、心の底からの誓いではなかった。
 誓わなければ、トンマンは離れていく。ユシンを大切に思うが故に、離れていく。それが恐ろしかった。トンマンがいなくなってしまうことが、何よりも怖かった。だから、彼女がユシンを見捨てないように、忠誠を誓った。決して、トンマンに王者の風格を見出したからでも、彼女に可能性を感じたからでもなかった。
 だからこそ、ユシンはアルチョンやピダムのように、純粋に彼女の野望の為に働けない。迷いが、惑いが、全てを鈍らせている。ミシルに手玉に取られたのも、恐らくはそのせいだろう。

「……公主様の様子を見てくる」
「ああ。では私は、ウォルチョン大師の様子を」

 ユシンの瞳がどこか茫洋として精彩を欠いていることに気付かぬはずのないアルチョンは、そのことでユシンを責め立てたりはしなかった。その代わり、これまでと同じようにユシンに接した。ユシンのトンマンへの想いにも気付いているだろうに、手緩さは欠片もない。
 アルチョンらしいその対応が有り難くて、ユシンは消え入りそうな微笑を浮かべた。
 トンマンを手放したくなくて、一人で行かせたくなくて、必死で引き止めようとした時はわかっていなかった。……アルチョンは、ユシンと永久の別れもしたと言うのに、そのことについては一度も触れない。ただ、自分がトンマンを主君と認めたのと同じように、ユシンもそうしたのだろうと信じて疑わない。ユシンはチョンミョン公主への忠誠を捨ててまで、トンマンと逃げようとしたのに、だ。


**


 黙ったまま戸を開けて中に入ったユシンは、始め、トンマンが眠っていることに気付かなかった。ここ何日もろくに休んでいなかったトンマンが疲れきっているであろうことはわかっていたが、それでもとてもゆっくり休んではいられないほどに事態は切迫しているのだ。
 驚いたユシンは、そのまま立ち去るべきか少し悩んだが、トンマンが筆を持ったまま眠っていることに気付くと、静かに近付いて筆を取り上げた。

「ん……」

 手が自由になったからか、微かに唸って少しだけ姿勢を変えたトンマンは、すぐにまた深い寝息を立て始めた。よほど疲れているのか、卓に突っ伏したまま、沈み込むように眠っている。
 筆を硯に戻すと手持ち無沙汰になってしまったユシンは、このままトンマンを放っておくべきか、それとも何かしてやるべきか迷い始めた。郎徒だった頃なら迷いなく叩き起こして布団で寝ろと叱っていたが、今はもう、相手は公主だ。……いや、公主として認めると誓った相手だ。郎徒の時と同じようには扱えない。
 ……もしここで眠っているのがチョンミョン公主だったら、どうしていただろう。ふと考えて、ユシンは自嘲気味に笑った。
 ――もしチョンミョン公主なら、決してこんな風に眠るところを花郎に見せたりはしないだろう。ここには侍女がいるはずで、ユシンがこんな姿を目にすることはないはずだ。公主とは、そう言うものだ。
 公主だと名乗り、王になると宣言しておきながらも、公主らしく、王族らしく振舞わない……いや、振舞えないトンマンが、少しだけ、憎らしかった。ユシンが必死で臣下になろうとしているのに、ふとした瞬間にそれを壊すトンマンが憎らしくて、愛おしかった。

 いつの間にか、ユシンの手は少しずつトンマンに伸びていた。
 もう何年も一緒にいて、何度も見てきた寝顔を見て……流れるような柔らかい髪を辿った。けれどもその指先がトンマンに触れることはなかった。何か薄い壁が、膜が二人の間には存在しているかのように、互いに触れ合うことはなかった。
 公主としては少し短い髪の毛の先まで指が到達した時、ユシンは奥歯を噛み締めて指を引いた。――二人の間にある壁は、トンマンが作った物ではない。ユシンが、作った物だった。トンマンの言う通り離れているなら許される恋する男としての道を、ユシンは自ら捨てたのだ。トンマンの傍にいる為に。彼女の行く道を共に切り開く為に。……そして、これまで歩き続けてきた花郎としての、伽耶の王の血を引く者として道を進む為に。
 決断はトンマンの為だけのものではなかった。ユシンの決断は、自分の為の物でもあった。
 だから。だから、ここでユシンが未練を見せることは、自らの信念を裏切ることになる。これまで歩いてきた道を否定することになる。
 ……何万回、何十万回、何百万と打ち続けることによって砕けた岩が教えてくれたのは、不可能などこの世にはない、と言うことだけではなかった。あの岩は、ユシンにこうも言っていた。

 信じてきた道を貫く者だけが、不可能な夢を叶えることが出来る――。

 恋慕に生きることが、信じてきた道を捨てることだとは思わない。けれども恋慕の為に家族も部下も、伽耶の民も捨てることは、ユシンの信じてきた道を裏切る行為だった。どんな時も彼を信じてきた者達を裏切る行為だった。
 そしてそれは、彼を、花郎としてのユシンを信じてきたトンマンをも裏切ることにもなる。
 ユシンは、裏切りを選ぶことは出来なかった。

「…………」

 日食が、起こればいい。
 日食さえ起これば、こんな揺らぎはなくなるだろう。こんな、あるべからざる揺らぎは。

「――公主様」

 心を押し殺すように、低い声でユシンは眠り続けるトンマンに声を掛けた。トンマンは、全く目覚める気配がない。

「公主様、起きて下さい」

 公主様と言う言葉に未だに慣れていない為か、反応すら見せないトンマンに溜息をつくと、どうしたものかとユシンは眉根を寄せた。そして、自然とその言葉は口をついて出ていた。

「トンマン、起きろ!」
「わっ!?」

 反射的に飛び起きたトンマンは、状況が理解出来ないのか左右を見回した後、ユシンを見つけて茫然と呟いた。

「ゆ、ユシン郎」
「公主様。お休みになるのであれば、きちんと横になって下さい。座ったままでは身体が休まりません」
「……はい」

 相変わらず突き放すような物言いのユシンの態度と、つい先程耳にしたばかりの叫びが噛み合わないのか、トンマンは僅かにたじろいでいた。
 しかしユシンはトンマンの詮索を許さずに、一礼してその場を辞した。ちらりとも笑顔を見せぬままに。

 ――トンマン、起きろ!

 確かに、そう言われた気がしたのに……あれは、幻聴だったのだろうか? トンマンは慌ただしい鼓動を鎮めるように胸に手を当てると、静かに深呼吸した。

 日食が起これば。
 日食が起きた暁には、必ず宮中に入ってみせる。……奪われたものを、取り戻す為に。二度と、大切な人を失わぬ為に。

「ユシン郎……ユシン郎は、絶対に失いません」

 張りつめたトンマンの瞳は、揺らぐことなく前を見据えていた。





 表に出たユシンは、一人になった瞬間に拳を握りしめ、顔を歪めた。

 ――トンマン、起きろ!

 そんなことを言うつもりはなかった。それなのに、何故あんなことを口にしてしまったのか。もう、トンマンが郎徒であったことは忘れようと……彼女は公主なのだと言い聞かせてきたのに。

「私の王だ。トンマンは、もう……王だ」

 言い聞かせるように何度も呟き、ユシンはじわりと浮かびそうになる涙を消し飛ばした。



****

以上、珍しくユシン&トンマンでした!
最初のアルチョンとの絡みは管理人の趣味です。夢にアルチョンが出てきたので、お告げかな、と…(ええ)
さえ様、大変お待たせ致しました! おまけにユシン、触れられなくてすみません…! 頑張ってみたのですが、どうしても皮一枚のところで触れられなくて……出来るだけそれに近い表現にしようと努力してみたら、こ、こんなことに(汗)
書き慣れない若きユシン郎、あちこち変なところがあると思いますが、少しでもお楽しみ頂ければ幸いですv
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  1. 2010.08.15(日) _19:57:31
  2. SS(ドラマ準拠)
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