善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS その眼差しを知りたくて・前編

582作戦会議5
とよ様リクエストの「58話の国婚宣言から寝室シーンまでのピダムの心情」です。
一応『SS その眼差しを知っているから』の続編なのですが、多分読まなくても大丈夫……いえ、多分読んで頂かないと通じない部分があるかもしれません。すみません(汗)
そちらの話と同じく、ドラマの中のシーンだけでなく、その間の部分をかなり付け足しているのでご注意下さいませ。


****

 自らの信念を打ち砕く百済の侵攻に遭っても、トンマンは決して前を向くことを止めなかった。トンマンは毅然と前を見詰め、自分を信じようとし続けた。アルチョンも交えて三人で戦況に対して策を講じ続ける間も、決してトンマンは恐れを見せなかった。
 そんな中、かつては触れることすら拒んだ彼女がピダムの慰労の手を受け入れた時、ピダムは神国の危機とは裏腹に、その状況に喜びを見出している自分がいることも知った。他の誰の前でも弱々しい姿を見せないトンマンが、本当は疲れきっていることをピダムに隠さなかったことが、嬉しかった。
 ――トンマンがどれほどに神国を守り、育む為に、心を砕いてきたことか。
 彼女の為すことをずっと傍で見つめてきたピダムには、それが痛いほどわかる。……彼は神国への愛情の深さを、ずっと妬んできたから。それが自分へと注がれたならどんなに良いだろうと思い続けてきたから。
 だからこそ、ピダムが進んで大等らを捩じ伏せなければならなかった。今この時になっても自らの権力にしがみつき、トンマンの心身にさらに傷を負わせていく者達を。

「徐羅伐は今、危機にあるのです」

 上大等たるピダムが一歩前に出た瞬間、それまで口々に文句ばかりを口にしていた大等らが水を打ったように静まった。彼らの眼差しは猜疑と困惑、そして微かな驚きに満ちている。
 これまで司量部令であったピダムは、便殿会議にはチュンチュと同じように特別待遇で参列していたが、和白会議にはあくまで参加せず、表向きには貴族達と狎れ合うような真似はしなかった。それでも、私的な場においては貴族らの利権に理解を示してきた彼は、復耶会問題が解決してから、明らかに様子が違っていた。女王に忠実であるようでいて、自らの権力基盤に敏感だった男が、ひたすらに女王の意思ばかり気にかけているのだ。

「陛下。上大等ピダムは私兵を全て兵部に帰属させます。神国の軍をさらなる高みへと進める為に」

 まるではじめから女王と示し合わせていたかのように滑らかにその言葉は放たれた。
 そしてピダムの一言は、場の趨勢を決するだけの力があった。
 上大等は貴族達の名代なのだ。それも、ヨンチュンが上大等であった時とはわけが違う。相手は長年に及び貴族達と渡り合い、彼らを手懐けてきた辣腕の上大等だ。
 ピダムはかつて、二人きりの四阿で忠誠を誓った時と同じ、子供のように円らな瞳でトンマンを見上げて僅かに微笑んでみせた。それは恋人を安心させるようでもあったし、幼子が母に称賛を求めるようでもあった。
 そんな、なんともピダムらしい眼差しを受けたトンマンもまた、他の者にはわからない程度に、しかしはっきりとピダムを満足げに見つめた。二人が交わす眼差しの意味を知る者は、他にいなかった。
 そうしてまた控える大等達に向き直ると、トンマンは口元を僅かに引き締め次の言葉を口にした。

「最後に、皆に伝えなければならないことがあります」

 ピダムはトンマンの言葉を穏やかな気持ちで受け止めていた。ユシン達も凱旋し、私兵問題も片付けた以上、一段落はついたと言って良いだろう。今夜はトンマンとゆっくり話が出来るかもしれない。
 すっかり油断しきっていたピダムは、次の瞬間、その身を凍りつかせた。

「国婚をするつもりです」

 硬直したのは、ピダムだけではなかった。大なり小なり、その場にいた者は皆動揺した。向い側にいるチュンチュが息を飲む音が、ピダムにすら聞こえた。
 そんな中、真っ先に我に返ったのは、恐らくトンマンが女王となって以来、最も「国婚」と言う言葉を口にしたであろうヨンチュンだった。

「陛下、国婚と仰いましたが……どなたと国婚をなさるおつもりですか」

 トンマンの即位と同時に上大等となって以来、度々ヨンチュンは彼自身が国婚の対象として議論の的になったし、時にはトンマンに国婚を勧める役割を担わされていた。特にヨンチュンとトンマンの国婚を望んだのは、チュンチュだった。チュンチュは叔父と叔母が結びつくことで、より一層後継者としての地位を固めることが出来るからだ。
 しかしピダムはそれを徹底的に潰してきた。権力を養った一因は、貴族達を操り、トンマンとヨンチュンの国婚を阻止することにもあったかもしれない。
 誰もが信じられないような面持ちでトンマンの答えを待つ中、ピダムは「まさか」と言う期待で爆発しそうになる心臓を身体の中に留めるのに必死だった。トンマンが自身を上大等に昇進させたことで、もう十分政治的目的は果たせたはず。それなのに、まさか、そんなことがあり得るのだろうか?
 ピダムの期待と懸念は、間もなくトンマンの凛とした声によって、現となった。

「――ピダム公とです」

 その時ようやく、ピダムはトンマンを見た。彼女もまた、彼を見た。
 トンマンは、笑ってはいなかった。どちらかと言えば、気まずそうだった。他の者達にどう見えたかはわからなかったが、ピダムには、照れているように見えた。さらに、ピダムに何も言わずに勝手に事を進めたことを申し訳なく感じているようにも。
 それから紛糾する場を予想したかのようにあっという間にトンマンは便殿から姿を消した。ミセンが急いで彼に駆け寄り、ハジョンがぎゃあぎゃあと何か叫んでいる中、ピダムがしたことは二つだけだった。一つは、かつてなく余裕のない顔でその場を後にするチュンチュの憤怒に満ち満ちた眼差しを受けること。……もう一つは、何事もなかったかのように、いつも通り便殿から出ていくユシンの後ろ姿を見送ることだった。



 便殿を出た後、すぐにピダムはトンマンを追いかけようと仁康殿に向かったが、すでにトンマンは夕刻から行われる戦勝祝いの宴の準備と言う名目の為に捕まらなかった。
 いや、もしかしたら、敢えてピダムを避けているのかもしれない。そう長い時間でなければ今二人きりになることは可能かもしれなかったが、短い時間で話を終える自信はピダムにもなかった。ピダムは違う場所へと足を向けた。
 道すがら、誰も彼もがピダムに祝いの言葉は述べた。ところが不思議なことに、誰も、それ以上ピダムと話をしようとはしなかった。
 当たり前だった。ピダムがトンマンと国婚すると言うことも、上大等たるピダムが私兵を国に差し出すと誓ったことも、その全てが貴族達にとっては衝撃だったはずだ。下手なことは口に出来ないに違いない。
 半ばぼんやりと宮中をさ迷っていたピダムは、いつの間にか王女だったトンマンに忠誠を誓った四阿へ来ていた。あの頃のみすぼらしい姿ならしっくりきた椅子は上物の絹で居られた上大等の紫衣とはそぐわなかったが、構わずにピダムはそこへ腰かけた。
 ふいに、昨夜、百済軍を撃退したユシンの帰還を明日に控えたトンマンが、あの夜以来初めて臣下としてではなく、恋人として寝室にピダムが入るのを許したことを思い出した。

 白い夜着姿のトンマンは、やはり紫衣ではなく黒い平服を着たピダムの眼にはいつにも増して華奢に見えた。

「陛下。陛下のお考え通り、ユシンが勝利を収めました。神国は救われました」
「……ああ」

 微かに震えるトンマンは感極まっていた。
 今にも泣き出しそうな顔で俯いたトンマンの手を取り、ピダムはその肩を撫でた。数日前にはピダムの盟約書を受け取っても笑顔の欠片すら見せない程に緊張し、胸を痛めていたトンマンは、昨夜は素直にその手を受け入れた。
 いつになく頼りないトンマンを前に、不謹慎にもピダムはドキドキと胸を高鳴らせた。ずっと誰にも寄り添うことなく、誇り高く、強く在った女王が、自分の信念を貫く強さを持つ半面、一人斬り殺しただけでいつまでも手が震えるほど心優しい人でもあることをピダムは思い出した。

「神国は護られました。陛下とユシンがいなければ、今頃徐羅伐は百済の手に落ちていたでしょう」
「いや……私は、付け入る隙を与えてしまった。それに……百済を退けはしたが、大耶城を失った。これは大きな損失だ。私は……私がしたことが間違っていたとは思わないが…………私の判断の為に、多くの民と兵が命を落とし、神国は土地を失った」
「陛下。陛下のおかげで飢えから救われた命や、自らの子孫を救った者の数はそれらを遥かに凌ぎます」

 ピダムの言葉を聞きながら少しずつ視線を上げたトンマンは、嬉しそうでいて、けれどもどこか儚げな眼差しで彼を見つめた。

「数遊びはするなとムンノ公に言われたんじゃなかったのか」
「陛下」

 言葉を間違えたかと慌てたピダムは言い募った。

「あの時とは違います。あの時はまだ、何も知りませんでした。師に教えられたことは、情けも憐れみも恋慕も、何一つとしてこの身についてはいませんでした。人々の幸福も、私には遠いものでした。ですが……今は違います。誰かを喪うことの辛さも、誰かを、愛して…………必要とされることの幸せも、知っています」

 トンマンの澄んだ瞳を見つめて言葉を重ねるうちに、ピダムはその瞳に吸い込まれそうなほどに魅了されている自分に気付かずにはいられなかった。
 口では神国の危機も民の苦難も案じてみせたが、そのどちらもピダムにとっては大した問題ではなかった。ピダムがそれらを憂うのは、それらがトンマンの憂いに直結しているかだった。
 城が攻め取られればトンマンは我が身を切られたかのように苦しんだし、民が飢えればトンマンも痩せた。その度にピダムはトンマンを心の底から案じた。皮肉にもトンマンが口にした通り、すでにピダムにとっても神国とトンマンは一体となっていた。
 ピダムはトンマンの安堵と喜び、それに確かに混じる憂いを感じながら、握っている手に力を込めた。その手が徐々に熱を持ち始めていることに彼は気付いていなかった。

「陛下……神国の民は、私と同じです。私が陛下によって全てを得たように、民も陛下によって己の土地を持ち、生きる目標を持ちました。神国は豊かな国になっています」

 ピダムの言葉を聞くうちにトンマンの眼差しは少しずつ柔らかくなった。

「ピダム。私はいつもお前に励まされてばかりだな」

 悪戯っぽくピダムも微笑んだ。

「陛下が落ち込んでいらっしゃると、私も辛いので」
「自分の為に私を励ますのか?」
「そうです。陛下が嬉しそうにしていらっしゃれば私も嬉しいですし、泣いておられれば、私も悲しくて胸が裂けそうになります」
「まるで双子のようだな」

 至極真剣にピダムは答えたが、トンマンは可笑しさが堪えられなかったのか、ころころ笑った。トンマンの笑い声を聞くのはいつ振りだろうと、益々ピダムの胸は高鳴った。
 しかし彼は、そのまま肩に置いた手に力を入れて彼女の身体を引き寄せることを躊躇っていた。あの夜、「今宵限りだ」と口にしたトンマンは、その言葉通り、ピダムに対し抱擁すら許さないでいたのだ。

「陛下……」

 それでもその夜ばかりはこのまま引き下がることが出来なかった。
 思い込みかもしれない。しかし彼は、本能的に察していた。――今夜、トンマンはまた彼を受け入れてくれるかもしれない。

「あの夜から……ずっと、眠れぬ夜を過ごしてきました。目蓋を閉じると、陛下の吐息と、匂いと……温かさがが蘇って…………。陛下、不謹慎だとはわかっています。でも……私は欲が深いから、一夜だけではとても我慢出来ません。陛下――」
「――ピダム」

 ピダムが決定的な言葉を紡ぐ前に、トンマンが低くそれを遮った。先程までの笑顔は消えて、僅かに顔を顰めてもいた。
 手のひらを返したように変わってしまった態度からトンマンの不興を悟って、ピダムは自分の失言を悔やんだ。いけない。まだユシンも、秘宮に逃れたチュンチュも戻っていない以上、トンマンは戦が終わったとは感じていないだろう。それなのに、先走った。せめて、せめてユシンが戻るまでは待つべきだった。
 けれどもピダムはそう判断する一方で、どうしてもユシンが来る前にもう一度彼女の気持ちを確認しておきたかった。ユシンが戻ればまたユシンにばかり気持ちを傾けるのではないか――その疑念がピダムを駆り立てた。

「……申し訳ありません」

 俯いたピダムの手から力が抜けて、自然とトンマンから離れた。ところがすぐに、その手をトンマンが掴んだ。

「ユシンが戻ってくるから、不安か?」

 トンマンはしっかりとピダムの胸中を言い当てた。ピダムの恋慕が強まるにつれ、トンマンの威厳が増すにつれ、彼女の言葉は鋭い刃のようにピダムの心に斬りかかった。

「……はい」
「私がお前のことを必要だと言ったように……ユシンにも同じように振舞うのではないかと、不安なのか?」

 恐れていたことを告げられて、ピダムの唇が震えた。
 ――トンマンが、ユシンを抱く。考えただけでも心が八つ裂きにされたように痛んだ。そんなことになるくらいなら、トンマンを攫って逃げてしまう方がずっとマシだった。……例えそれで、トンマンの心を失ってしまうとしても。

「ピダム、顔を上げろ」

 有無を言わせぬ命令だった。ピダムは掴まれた腕を眺めていた眼差しを、恐る恐るトンマンに据えた。――トンマンは、目を細めて薄っすら笑っていた。

「本当にお前は駄々っ子のようだな」
「……は……」
「困った奴だ」

 呆れたような言葉とは裏腹に、トンマンの手は優しくピダムの手を包んでいた。

「……ピダム」

 常よりもずっと優しい、春の日のようにふんわりとした声でトンマンは彼を呼んだ。

「ユシンは、神国を救った。だがその功はユシン一人のものではない。だがピダム、お前は……私をいつも癒してくれて、慰めてくれるただ一人の男だ。私が……こうして私に触れることを許す、ただ一人の男だ。それでは……いけないか?」
「いいえ。陛下、滅相もないです……!」

 拗ねたような口調のトンマンに狼狽するピダムにまた小さく笑って、トンマンの眦が緩んだ。

「ところでピダム。私は……お前に手を握ってもらうのは、嫌いではないのだが」

 ピダムは嬉しさを隠しきれないままに、慌ててトンマンの手を掴み返した。温かい手だった。

 ――そのぬくもりを思い出したピダムは、一人、ゆっくりと手を握った。
 もう陽は翳り、少しずつ影は長くなっている。宴の時刻が近付いていた。その後には……また、トンマンと二人きりになれるだろう。また手を握れるかもしれない。そして。

「国婚……」

 ぼんやりとピダムは呟いた。
 ……ずっと、夢見たことだった。夢見てきたことで……望んできたことで……そのはずだった。それなのに、どうしてか、その言葉はふわふわとピダムの頭上を漂うばかり、ちっともその心身に沁み込まなかった。
 サンタクが探しに来るまで、いつまでもピダムは昨夜のトンマンのぬくもりを思い出すように自分の手を握っていた。


****
またまた前後編に(汗) 何かと長くなってしまってすみませぬ…!
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  1. 2010.08.01(日) _20:03:25
  2. SS(ドラマ準拠)
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  1. 2010/08/03(火) 23:58:23 
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