善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS その眼差しを知りたくて・中編

※本日二本目の記事です。

581盟約書1
思ったより長くなってしまってすみません!(汗) れ、冷静に考えたら国婚宣言から寝室シーンまでの間に結構色んなことがありまして…!
まず、これはドラマ見ていてずっと疑問だったのですが、58話の「トンマン国婚宣言~臣下達全員困惑~ユシンと池のほとりでお喋り~三韓地勢がユシンの手に~ミセン叩き起こされる~ヨムジョン主催の貴族会議~ピダム、トンマンを寝かしつける」が、果たして1日のうちにあったことなのかどうか……この疑問がわりと大問題でして。トンマンがユシンとお喋りしてる時からすでに夜なのに、それじゃあピダムは丑三つ時とかにトンマンの寝室に突撃したのか?それって有り得るのか?いきなり遠慮なさ過ぎじゃないか?つうかアルチョンが通すか?……と、疑問がつきず…(笑) 今回はとりあえず、全て一夜のうちにあったことだと解釈して書いています。慌ただしい夜ですね(笑)
また、この話はあくまで基本はピダム視点なので、決して第三者視点ではないことにご注意下さい(笑)


***

 ピダムの予想した通り、鮑石亭での戦勝の宴が終わった後、トンマンは情人として……いや、夫として、後で池のほとりに来るよう彼に囁いた。チュンチュを始めとして、トンマンを支えてきた者もピダムを支えてきた者も、ただ一人を除いて全ての者達が戦勝を祝うよりも先の読めぬ事態を憂慮する中、二人は夫婦としての時を刻もうとしていた。
 そして、そのただ一人――ユシンと池のすぐ傍ですれ違った時、不思議なことにピダムはこの十年抱いてきた気持ちとは全く違う心で彼と向き合っていた。

「陛下は、今でも私よりお前を信頼している」

 これまではその事実が口惜しくて、嫌で堪らなかった。その事実が彼のユシンへの一方的な憎悪を掻き立てていた。
 ところがその時ピダムは、その言葉を慰める為に発していた。――彼自身の心をではなく、ユシンの心を慰める為に。ずっと押し殺され続けていたであろう、ユシンの恋心を慰める為に。
 ユシンは、ピダムの言葉を聞いても尚、優しく目尻を下げていた。そうして穏やかな笑みを湛えたまま、ピダムを戒めた。

「彼女に安らぎを与え、抱いてあげることが出来るのは、お前だけだ。だから、最善を尽くせ。お前の愛が彼女の痛みになることがないように。……いいな?」

 それがユシンの負け惜しみだとは思わなかった。ユシンはただトンマンを案じていることが、今のピダムにはきちんと通じた。
 黙ってすれ違ったユシンは、最後に振り返ってまた微笑んだ。

「おめでとう」

 ユシンはピダムを恨んでも恨みきれないはずだった。復耶会のことは確かにユシンの手落ちだったが、それをさらに深刻なものに変えさせたのはピダムだったし、おまけに今回のことも、ユシンが最前線で戦っている間にトンマンを拐かしたようなものではないか。
 けれどもユシンの口からはピダムを責めるような言葉は何一つなかった。恐らく先程まで話をしていたであろうトンマンに対しても、ただ祝いの言葉を口にしただけに違いない。
 ――ユシンは、トンマンを愛しているはずなのに。
 以前のピダムなら、当然そこで疑念を抱いただろう。ユシンの言葉の裏にあるものを勘繰ったかもしれない。
 それが、おかしなことにその時のピダムはユシンの言葉をそのまま受け入れた。ユシンからは確かにトンマンへの愛情が感じられるのに、その愛情がもはや、ピダムを脅かすものではないことが当たり前のように理解出来たのだ。ユシンが守ろうとしているものは、すでに自身の恋慕ではなく……トンマンの幸せのみだと告げられたような気がしたのだ。



 陽が沈んでからまだそう時間は経っていなかったが、凍てつくような寒さは増すばかりだった。女王の装束は華麗ではあるが決して寒さに強いものではないことを知っているピダムは、眉を顰めた。

「陛下。あまり寒風に当たっては、お身体に障ります」

 まさかいきなりそんなことを言われるとは思っていなかったのか、トンマンは目を丸くして振り返った。

「文句を言うなら、まずは国婚のことかと思っていた」
「……何故ですか?」
「いや……お前に何も言わずに事を進めたから……」
「私だけでなく、誰にもお話しになっておられなかったなら、それで構いません」

 それより、と冷え切ったトンマンの手を握ったピダムもまた、内心、自分が口にした言葉に驚いていた。つい先刻までは国婚のことを話そうと思っていたのに、いざトンマンを目の前にすると、それよりもまず彼女の様子が気に掛かるとは。寒くないか、苦しくないか。頭の中はそればかりで、トンマンが国婚をしようとした理由について詮索する気になれなかった。
 ――トンマンは、私を必要だと言った。
 それが全てだ。国婚の理由が一人の女性としてのものであれ、王としてのものであれ、もうどちらでも良いのではないか。大切なのは、手にすることは出来ないのかと血を吐く想いで長年欲した人が、自分を選んだと言うこと。理由はどうあれ、傍にいて欲しい、夫として支えて欲しいと感じてくれていること。それが、全てではないのか。

「ピダム……人目がないか」

 いつの間にか手を握るだけでなく、力一杯細い身体を抱き寄せた為か、トンマンの動揺を示すかのようにしゃらりと金の飾りが鳴った。

「誰も見ていません。それに、見たって構いません」
「そんなことはないだろう。はしたなく思われるのではないか?」
「もう、皆が私は陛下のもので、陛下も私の想い人だと知っているのに、誰が不満に思うのですか?」
「……困った奴だな」

 苦く笑いながらも、トンマンはピダムを押し退けようとはしなかった。豪奢なカチェや装束の為に不自由そうではあったが、ピダムの体温が心地良いのか、トンマンは大人しく彼に身を委ねていた。
 あの夜、「今宵限りだ」と釘を刺したことが嘘であったかのように抱かれたトンマンを前にして、ピダムは自らしたことだったとは言え、驚きも喜びも禁じえなかった。
 ――国婚をすると言うことは、一生、こうしてトンマンを抱きしめられると言うことだ。
 そう考えただけで、それまでふわふわ漂っていた「国婚」と言う言葉が一気に彼の身体中を駆け巡り、血を湧かせた。池のほとりにまで微かに届く宴の喧騒が、どんどん遠退いていく。今すぐにでも腕の中にいる恋人にもっと触れたくて、肌がぴりぴりと緊張した。もっと、もっと近くで彼女を抱きしめたくて、心臓が暴れた。

「ピダム……?」

 口を閉ざしたままのピダムを不思議に思ってトンマンが顔を上げた瞬間、ピダムはさっと彼女を横抱きにした。
 驚いたトンマンが悲鳴も上げられずに慌ててピダムの肩を掴むと、その手を首に回すよう促してピダムは笑った。

「案外重いですね、陛下」
「そ、そう思うなら、早く下ろせ! 誰かに見られたらどうするのだ」
「別にいいじゃありませんか、見られても」
「良いわけがないだろう! 私の身体に何かあったかと皆が心配する」

 予想の斜め上を行くトンマンの意見が可笑しくて、ピダムは口元を緩めながら歩を進めた。

「あ、陛下、重いと言ったのは、陛下がお召しになっておられるものです。何も着ておられない陛下は、本当に羽毛のように軽くて……」
「ピダム! 軽口が過ぎるぞ」
「そんな私が良いのだと仰ったではありませんか」

 騒ぐ方が人目につくと判断したのか、ピダムの指摘に顔を赤くして渋面を作るトンマンが可愛くて可愛くて、ヘラリとピダムの顔が崩れた。

 仁康殿に現れた二人の様子を見て唖然としたアルチョンは、ピダムを叱り飛ばすべきか、それともこの上なく恥ずかしそうなトンマンを気遣いその場を去るべきか、暫し悩んだ。結局は後者を取り、ピダムには後で説教をしようと思い至ったものの、アルチョンは頭痛に苛まれそうになった。――和白会議の長であり、朝廷の最高権力者である上大等が王を抱き上げてにやけている図など、アルチョンの倫理観からは有り得ないものだったのだ。
 寝室に入ってからようやく下ろされたトンマンもまた、二人きりになった途端に怒り始めた。

「これではまるで、私が色に溺れる昏君のようではないか!」

 しかしピダムはそれ以上トンマンに何も言わせなかった。
 昨夜まではまだ確かに残っていた躊躇いや恐れは、どうやらトンマンの国婚宣言と戦勝の宴で吹き飛ばされたらしい。トンマンがまだ女王の装束のままであることも、自分が上大等の紫衣であることにも構わず、ピダムは堪え、押し殺してきた欲を満たすのに必死になった。



 繊細な金の飾りが、惨めにひしゃげて鈍い光を放っている。

「――お前は子供だ」
「……はい」
「またこんなことをしたら、本当に怒るぞ」
「すみません」

 皺一つつかぬよう女官達が丁重に扱う装束が床に散乱しているのを前にして、裳を身に纏っただけの姿のトンマンはきつくピダムを睨んだ。
 が、そのトンマンの頭はと言えば、カチェが取れて乱れに乱れたものだったので、再び紫衣を着たピダムは可笑しいやら申し訳ないやら、そっと手を伸ばしてトンマンの髪を撫でた。癖のない黒髪は、すぐに大人しくなっていく。
 その一方で、トンマンは照れ隠しなのか怒り続けていた。

「もしまた次に飾りを壊したら、お前に代金を払わせる」
「はい」
「金細工は繊細なのだ。おまけにカチェまで……女官に会わす顔がない!」
「陛下を叱るような不敬な女官がいるなら、私が追い払います」
「そうではない。……侍衛府令も、呆れていたではないか」
「……アルチョンの目が気になりますか?」
「当然だろう」

 肩が冷えないようにトンマンに上着を羽織らせたピダムは、ふいに、それまで緩んでいた顔を強張らせた。

「何故アルチョンの目が気になるのですか?」

 ――ユシンばかり気に掛けていたが、そう言えば、ユシンよりも……己よりもずっと長くトンマンの傍にいるのはアルチョンだった。

「何?」
「アルチョンが好ましいのですか? だからアルチョンの目を気になさって……」
「な……」

 あまりに幼稚なピダムの発想は、トンマンを脱力させるには十分だった。……どうやら羞恥や見栄と言った言葉とは無縁らしい男を一体どう扱ったものか、トンマンは悩む前に行動していた。

「――」
「馬鹿なことを言っていないで、今夜は邸に戻れ。もうずっと帰っていないのだろう? 私も今夜は休む」
「……はい」

 優しく彼の頬に触れている繊手を握って、ピダムは頬を綻ばせた。
 あの夜は、もしかしたらもう二度とこんな夜は迎えられないかもしれないと恐れながらトンマンを抱きしめた。
 けれども今は違う。明日も明後日も明明後日もずっと一緒にいられる。それが涙が出るほど嬉しくて、幸せで……。
 油断すれば涙の雫が溢れそうなほどにいっぱいになった胸を抱きしめて、ピダムは宮殿を出た。供も連れずに歩く夜道は満天の星に照らされて、きらきらと輝いている。澄んだ空気を吸い込むと、身体が奥底から洗われるような気がした。溶け出していくものは一体何なのか――。それに気付く前に、ピダムの足はある場所へと向かっていた。



 ――『三韓地勢』。
 それはピダムにとって、地図ではなかった。あくまでそれは彼にとって、ムンノが自分に注いでくれた愛情の結晶だった。きらきらと輝く、幼い頃の幸せな記憶だった。
 だからこそ、許せなかった。ムンノがそれを、ピダムに何の断りもなくユシンに渡そうとしたことが。
 ムンノが渡そうとしたのは、ただの地図ではない。それは彼の愛情であり、ピダムのたった一つの宝物だったのだ。

(……だがこれは、地図でもある。偉大なる国仙が遺した、三韓一統を目指す者には欠かせない道標でもあるんだ)

 やっと『三韓地勢』の別の一面を認める気になったピダムの眦が切なく歪んだ。

(私は彼女を手に入れた。国を奪ってでも手にしたかった、たった一人の人と……結ばれた)

 ならばもはや、自らの命をかけて三韓一統を成し遂げる為の手立てなど、必要ない。ただ彼女の夫として愛し愛され、支えていければそれでいい。……愛し合って、子供を持って、孫の顔を見て、いつか彼女と同じ墓に入れるなら、あとはどうなろうが構わない。どこで暮らそうと何をしようと、トンマンがいるならそれでいい。
 ……その未来に、『三韓地勢』は必要ない。ならば。

(最期に師匠がお望みになったことを……叶えなければ)

 最期にムンノが望んだこと。ピダムと再び山に入ろうとする前に、しようとしていたこと。……それを、ピダムは為すべきだろう。
 ゆっくりと捲っていた『三韓地勢』を布にくるむと、それを持ってピダムは外に出た。
 ――まだ亥の刻。宴の主役だったユシンは、まだ宮中にいるだろう。今なら、訪ねていけば会えるはずだ。
 ただの本であるはずなのに、ずっしりと重い荷物を携えて歩くピダムは、気付いていなかった。彼が師ムンノと同じ過ちを犯そうとしていることに。……ピダムにとってだけでなく、ヨムジョンにとっても、『三韓地勢』はただの地図ではないことに。ヨムジョンにとって『三韓地勢』は、彼の人生を賭けた野望であることに。
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  2. SS(ドラマ準拠)
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