善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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連載 蕾の開く頃14

昨夜、トンマンの台詞と表情の確認がてら61話をざっと見たら、またしても泣いてしまった管理人(笑) やはりトンマンの台詞も表情も、その何もかもが悲しかったので、ついつい連載が恋しくなってしまいました。
と言うわけで企画作品ではありませんが、連載の続きです。
うーん、この調子じゃやはり最終回は見れないですね…! 感動が少ない吹き替え版を待とう(笑)

昨日もたくさんの拍手をありがとうございました! 頂いたコメントへの返信は次の記事にて致しますv


***

 こじんまりとした居間に通されたチュンチュは、穏やかな、それでいながら塵一つも見過ごさないような鋭い眼差しで周囲を見回した。
 配下の者に命じて叔母の生活に支障が出ないよう、惜しまず良いものを取り揃えさせはしたものの、こうして叔母の暮らす家を目にするのは初めてなのだ。チュンチュは全ての物を目に焼きつけ、不満があれば直ちに命じて直させるつもりだった。
 ひとまず一通り目を通したチュンチュは、「悪くはない」とその家にある調度品を評価した。華美ではないが、どれも作りが丁寧だし、趣味もいい。これなら長持ちするだろう。

「チュンチュ」

 まるで子供が初めて目にしたものに興味を覚えるようにあちこち見て回るチュンチュが可笑しくて、トンマンは屈託のない笑みを浮かべて甥を呼んだ。初めて会った時よりもずっと背は伸びていたし、声には深みがましていたが、それでもやはり彼女にはチュンチュは小さな小さな、可愛い甥っ子だった。
 トンマンの声に振り返ったチュンチュは、ふと茶目っ気のある愛らしい笑みを浮かべて、軽くその腕を広げてみせた。

「昔のように、抱いて下さいますか?」

 それに花が咲き零れるように笑ったトンマンは、もうすっかり彼女よりも大きくなった甥を思いっきり抱きしめた。いつぞやと同じように、他のどの男とも違うチュンチュ特有の薫香で肺を一杯に満たして、腕の中にいる青年がもう何人も子供のいる大人の男だと言うことも忘れて、トンマンは背に長く垂れている艶やかな髪を撫でた。
 ピダムが見れば頬を引き攣らせてチュンチュの首根っこを捕まえ引き剥がしそうなその抱擁を、チュンチュもまた、心の底から味わった。他のどんな女も彼に与えることの出来ない安心感や、子供に返ったかのような開放感――今となってはとても貴重になったそれを精一杯感じようと、頸を縮めて華奢な肩に顔を埋めた。
 叔母が女王になった以後は与えられなくなったその抱擁は、もうこの先二度と味わえないかもしれないものだ。とても貴くて、待ち焦がれたものでもあるのに。
 ……決してチュンチュは周囲の人間にそうとは悟らせぬよう努力していたが、この約半年と言うもの、かつてない規模の反乱によって崩れた王権を確立するのに、チュンチュもかなり苦労していた。苦悩は眠りを妨げ、疲労は頭の回転を鈍くしたし、尖った神経は些細なことにも苛立ちを覚えもした。

 幾度か引き締まった背を撫でた後、低く落ち着いた声音でトンマンは囁いた。

「来てくれてありがとう、チュンチュ」
「……はい」
「会いたかったから……凄く嬉しい」

 トンマンの声は少しだけ震えていた。それは、初めて出会った時と同じ。あの時と同じように感極まったトンマンは、涙は流さず、丸い瞳を溢れてしまいそうなほどに潤ませていた。
 鼓膜を震わせるその声だけで、家を守る妻達でさえ宥めることの出来なかったささくれ立った心が滑らかになっていくようで。涙が出そうなほどに、安らかな心地になれて。……全てのものを包み込み、許してくれるようなその温もりは、どんな女からも得られないものだった。

「……会いたかったです」

 生涯でただ一度だけ、涙を見せた相手だった。
 一人で耐え抜いてきた悲しみも苦しみも憎しみも、この女性にだけは隠さずにぶつけてきた。
 それがどれほどにこの人を傷つけているか、それを考えもせず、全てを受け入れてくれるのだと思い込んでいた。その器がどれほど大きいか試すどころか、その大きさを考えもせずに甘えた。
 ――子供だった。彼女の前では、常にチュンチュは小さな子供に戻った。
 ピダムを始末するよう叔母に迫る時ですら、チュンチュはこの温かくてちっぽけな懐の持ち主がどれほどに苦しんでいるかなど、考えなかった。叔母の心に侵食したピダムを排除し、今度こそ己が正真正銘叔母の右腕となり、三韓一統を進めるのだと信じて疑わなかった。

「チュンチュ」

 そんな、もうずっと見せなかった幼い一面を見せるチュンチュが可愛いやら可笑しいやら、トンマンは何度もゆっくりとその名を口にした。
 その時、不思議なことに、チュンチュとは全く似ていないはずのピダムが思い出された。
 考えてみれば、ピダムもそうだった。涙を流す時、弱い心を見せる時、彼らは決まって小さな子供のようにトンマンの胸に抱かれた。尤も、普段の態度は全く違うものだったし、トンマンに抱きしめられる時も、ピダムは力一杯抱き返してくるのに対し、チュンチュはトンマンに寄りかかるだけ、抱きしめようとはしなかったが。

「チュンチュ、そろそろ腕が痺れそうだ」

 抱きしめているのも幸せだったが、顔が見えないのも寂しくて、戯れるように囁くと、チュンチュはゆっくりと顔を上げた。その顔には、彼らしい深みのある笑みが湛えられている。

「叔母上のお身体を害わせては、本末転倒ですね」
「この程度では壊れないぞ」
「ご自分でたった今、腕が痺れると仰ったではありませんか」

 ふふっと笑うと、そっとトンマンから離れてチュンチュは少しだけ首を傾げた。

「ああ、そうです。この間お送りした物は、まだお持ちですか?」

 その問いに、トンマンははたと思い出した。――そうだ。チュンチュかスンマンに直接会うことがあったら、文句を言おうと思っていたのだった!

「……処分に困る物を贈ってくれたな」

 つと目の据わったトンマンを前にしても、一向にチュンチュは動じない。

「叔母上のお役に立つ物をお送りしたはずですが」
「確かに酒と化粧の道具は私が望んだものだったが……他の物は、頼んだ覚えがない」
「ええ。頼まれはしませんでしたが、絶対にお喜びになると思い、差し上げました」

 美貌の甥はけろりと応じて、もう一度問い直した。

「お送りした物はどちらにございますか? 今宵は、その贈り物を叔母上に使って頂きたくて、お邪魔したのです」

 ――ピダムを、遠ざけて。
 心の中でこっそり付け足したチュンチュは、トンマンが彼に背を向けてその贈り物を取りに言った瞬間、大きくほくそ笑んだ。たっぷり癒された後には、とても愉快な時間が待っているのだ。こんなに楽しい夜は、生まれて初めてだった。



 ピダムはユシンが差し出した物を手にしたまま、大きく眉を寄せて突っ立っていた。

「……私はこんな派手な色のものは着ない」

 やっと出た言葉はそれのみだったが、ユシンは特に気分を害したようには見えなかった。代わりに、淡々と渡した装束について説明した。

「それはそう何度も着るものじゃない。婚儀の際に新郎が着るものだ」
「ああ、なるほどな。貴族の婚儀なんて見たこともないから知らなかった。へえ、こんな派手なものを着るのか」

 白地に赤い模様が入った婚礼装束には、なんと金糸で刺繍が施されている。
 しかし金糸にも衣裳にも興味のないピダムは、軽く口笛を吹いて適当にそれを眺めると、もう見終わったと言わんばかりにさっさとユシンに突き返した。

「ほら、返すよ。ひょっとして、ユシン、お前また結婚するのか?」

 あまりに頓珍漢なその反応は、暫しユシンを黙らせた。

「……私にはヨンモがいる」
「ああ……そう言えばそうだったな」
「それから、これはお前のものだ。お前の為に用意させた」
「私の為?」

 理解出来ないのか、ぽかんと口を開いているピダムに嘆息すると、ユシンは苦々しく切り出した。

「お前は陛下と暮らしておきながら、陛下を生涯独り身にしておく気か?」



「やはり、叔母上はご自分で化粧はされないのですね」

 わかりきったことだとは言え、いざ目の当たりにするとさすがにチュンチュも込み上げる可笑しさを抑えられなかった。――トンマンに贈った化粧道具一式は、見事なまでに使われていなかったのだ。
 しかしトンマンにはトンマンの言い分があるようだった。

「こんなにたくさん種類がなければ、私だって試してもみた」

 贈ってもらったのは嬉しいが、まさかこんな立派な物が来るとは思わなかったんだとぼやくトンマンを鏡の前に座らせると、チュンチュは瓶の一つを手に取った。

「チュンチュ?」
「確かに叔母上が困惑するのもわかります。ですが、これくらい用意した方が安全だと思ったのです」
「どう言う意味だ?」
「だって、実際に叔母上のお顔を見ないことには、どの色がお似合いかわかりませんから」

 にこっと頼もしげに微笑むと、早速チュンチュはトンマンには訳のわからない液体を繊細な手つきでトンマンの顔に塗り始めた。

「くすぐったい」
「駄目です、大人しくしていらして下さい」

 久方振りの化粧である上に、チュンチュの手つきは女官のそれよりも遥かに柔らかかったので、まるでしなやかな葉で擽られているかのようだった。それでもチュンチュがやたらと真剣な顔で何が似合うかと悩んでいるので、トンマンは甥の思索の邪魔をしない程度に口元を緩めた。

「まさかチュンチュが化粧をするとは思わなかったな。家でも妻にしてあげるのか?」
「昔はしてやりました。気に入られる程度に」
「今は?」
「今は必要がありませんから」
「それは残念だな」

 苦笑するトンマンをチュンチュは不思議そうに見つめた。

「化粧をするお前はなかなか良い顔をしているし、何より、賢いお前が自分の為にこうも悩んでいると思うだけできっととても喜ぶと思うが」
「悩む顔なら見飽きているかもしれません」
「そんなことはないだろう。お前はあまり人に弱味を見せようとはしない」

 悩んでいないとは思わない。ただチュンチュは、あまり溜め込み、澱むような真似はすまいとトンマンは確信していた。
 例えるなら、チュンチュはすでに振り下ろされた刃のようなものだった。振り下ろされた刃のように、どこまでも鋭く、残忍に物事を進めることが出来た。狙った獲物を間違いなく仕留め、息絶えさせると言うことにおいては、チュンチュに勝る者はいなかった。
 そして、あまりに迷いのないその姿が心配で、トンマンは彼から王位を取り上げた。ピダムに取っ手が必要だったように、チュンチュには振り下ろされた刃を受け止める鞘が必要だと感じて。そして、チュンチュが誰よりも明晰な頭脳を持つが故に、彼の上に立ち、鞘となれるのは王だけだったのだ。
 スンマンを選んだのも、彼女なら賢明な鞘になるだろうと思ったからだった。チュンチュの見てきた異国をも知る上にしっかり者の彼女なら、アルチョンと一緒に、身の内に激情を抱えるこの甥を守り、時に我を忘れて激情に身を任せてしまうこの甥から神国を守ってくれると信じて、トンマンは聡明でからりと明るい従妹に重荷を負わせた。
 ――だが、惨いことをしたのかもしれない。チュンチュにも、スンマンにも。
 トンマンの瞳が憂いを帯びたことに気付いたのか、チュンチュはわざと少し大きな声で話題を変えた。

「叔母上、私が何故化粧を出来るかご存知ですか」
「それは……知らないな。ポリャンやムニに習ったのか?」
「まさか」

 トンマンに目蓋を下ろすよう促し、細い筆で目元に彩りを添えながら、チュンチュは囁いた。

「私が化粧を覚えたのは、母に気に入ってもらいたかったからです」

 その言葉に思わず目蓋を上げたトンマンに、チュンチュは目を閉じているようわざときつく命じた。渋々再び目蓋を下ろしたトンマンを見るチュンチュの目が、ふいに遠い日々を懐かしむように、愛おしげに細められた。

「まだ小さかった私は、あろうことか母に取り入る為に化粧を覚えました。武芸に秀でて父の二の舞になるのは嫌でしたし……でもわかりやすい特技を身につけ、二度と母に捨て置かれぬようにしようと考えたのです。幼い私は」

 幼いチュンチュは必死だった。来ぬ母を恨んで復讐心を育む反面、母が恋しくて仕方ない心を慰めようと、母に気に入られるような技を幾つも磨いた。
 ――もう捨てられたくない。騙されたくない。
 異国で独りぼっちだったチュンチュの心は悲鳴を上げ続け、研ぎ澄まされていったのだ。



****
チュンチュの話が続いてすみません(汗)
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  1. 2010.08.08(日) _08:09:41
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
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