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善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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連載 蕾の開く頃16

うわああ暫く更新してないと思っていたら、3ヶ月振りだったとは…! すみませんすみません…orz
今日は大好きな51話! 楽しみですv 好きなシーンがカットになってませんように…(笑)


* * *


 宮医の家ではなく、村外れに馬を繋いできていた二人は、しんと静まり返った夜道を歩いていた。勿論、ユシンはチュンチュの一歩後ろを、付き従うように歩いている。今回の件は護衛すらろくに連れて来られないほどに内密な訪問だった為、チュンチュの警護はユシン一人に委任されていると言って良かった。

「田舎は静かですね」

 ピダムと別れ、暫く歩いた時、それまで口を閉ざして思索に耽っていたチュンチュがふいに口火を切った。

「ここなら、叔母上も心穏やかに暮らせるでしょう。あまりに澄んでいて、面白味には欠けるが……徐羅伐のような毒気はありません」
「……はい。平穏、無事に」

 そこで、ぴたりとチュンチュが足を止めた。振り返った顔には、いつものように微笑を湛えている。

「手間を掛けました、『義兄上』」

 そうして放たれた言葉に、ユシンは双眸を丸くした。
 ――義兄上?
 チュンチュにそのように呼ばれたのは、初めてだった。チュンチュはユシンの妹ムニと婚姻した後も常に彼を「ユシン公」、あるいは官位で呼び、私的な呼び方は一切しなかったのだ。
 ユシン自身、身分の高いチュンチュから義兄扱いされることなど全く期待していなかった為に、思わず言葉を失った彼は、咄嗟に話題を変えた。

「……陛下は……お元気でしたか」

 今回、トンマンに会わなかったのはユシン自身の意志だった。チュンチュはせっかくだから会って行ったらどうだと、ピダムへの悪戯半分で勧めたが、ユシンは頑なに応じなかったのだ。
 ――考えてみれば、復耶会の砦にいた頃でさえ、数度しか顔を合わせていないのではなかろうか。
 ユシンが毎日欠かさず善徳王の『遺影』に祈りを捧げていることを知っているチュンチュからすれば何とももどかしい話だったが、当人はそれで良いらしい。よって、チュンチュも口の端を軽く上げて答えた。

「お元気でした。よく食べよく眠っておられるのか、頬がふっくらなさっておいでですよ」

 相変わらず色白ではあったけれども、明らかに血色は良くなり、唇は紅の必要性を感じないほどに健康的な色をしていた。女達の拙い化粧を見て嫌気が差しているうちにいつの間にか化粧に煩くなったチュンチュとしては、心底ピダムが羨ましくなった。チュンチュにもたくさん女はいるが、ああまで上等な女はなかなかいない。ピダムには勿体無いくらいだ。
 実際には、トンマンより美しい……もしくはトンマンに負けず劣らずの佳人を数多独り占めしておきながら図々しくも自らの境遇を嘆くと、つとチュンチュは眼を細めた。ぷらぷらと歩みながら、歌うように呟く。

「それにしても、つまらぬものだ。叔母上もピダムも、私にはつまらぬ者になってしまった」
「チュンチュ公?」

 訝しげに訊ねるユシンを振り返りもせず、一人言のように言葉を綴っている。

「かつてミセンが言っていた。一度でも酒、女、博打、このいずれかにのめり込んでしまったら、そう簡単には抜け出せないと。三韓一統……戦いや権力と言うものは、まさにそれだ。酒のように味わい深く、女のように気紛れで、博打を打っているかのように気分が高ぶる」
「……」
「金? 私の命? そんなもの……一国を動かす力に比べれば、小さなものだ」

 こうして、人は権力に溺れ、毒されていく。深みにはまり、何をしようと抜け出せなくなる。だから。

「……叔母上には、勝てないな」

 きっとチュンチュは、一生この誘惑から逃れられない。妻子を喪おうと、権力を集め、いずれ我が身が朽ち果てる時まで三韓一統を望み続けるだろう。……それが、チュンチュと言う存在だから。





「陛下!!」

 彼の人にしては珍しく、ピダムはドカドカと足音を立てて帰ってきた。そして戸の外で、陛下陛下と続けて喚いた。
 無論、「陛下」などと誰かに聞かれては一大事である。慌てて閂を上げたトンマンは、開口一番不用意な発言をする恋人を睨みつけた。

「ピダム、陛下と呼ぶなと――」

 ところがその不用意な恋人はと言うと、トンマンに荷物を持たせると、荷物ごと彼女を抱き上げ、後ろ手に閂を下ろしたではないか。

「ピダム?」

 そのまま寝室に入ったピダムはトンマンを寝台の上に下ろすと、思いっきり顔を顰めたまま荷物を取り上げ、ぎゅっと彼女を抱きしめた。些か見苦しいことに、首筋に鼻先を埋めて、他の男の臭いがしないか嗅いでいる。

「何だ?」

 驚いたトンマンは反射的にピダムを退かそうとしたが、構わずに嗅ぎ回ったピダムはとうとうトンマンのものではない臭いを感じ取って顔を上げた。

「チュンチュが陛下に触れましたか」

 突然放たれた問いにトンマンは少々面喰らったものの、すぐに、もしや化粧に気付いたのだろうかと考え直し、赤くなった。……当然、ピダムは盛大に勘違いした。

「陛下の肌に……私のトンマンに、あのガキが、触ったんですか」

 ――ん? ガキ?
 ピダムが何だかおかしな言葉遣いをしている、と首を傾げつつも、再びトンマンは頷いた。確かにチュンチュは、化粧をする時、トンマンの頬に触れたのだ。理由は、肌の健やかさは触れてみないとわからないから、だっただろうか。
 恥じらいながらも頷いたトンマンを見たピダムは、先程チュンチュを始末しなかったことを悔やんだ。奥歯を噛みしめ、歯軋りしながら悔やんだ。それと同時に、チュンチュを受け入れたトンマンにも腹が立った。

「私以外の者が来ても戸を開けてはいけないと言ったのに、どうして開けたんですか!!」

 恥ずかしさでろくにピダムの顔を見れずにいたトンマンは、その怒声に弾かれたように顔を上げた。

「ピダム。いきなりどうした」
「どうしたって……陛下こそ、何も思わないんですか! チュンチュに騙されたんでしょう!?」
「何っ?」

 ――ひょっとして、本のことがバレたのか!?
 あたふた狼狽するトンマンを見て、やはりチュンチュに良いように言いくるめられてとんでもない目に遭わされたのだと確信したピダムは、一度ぎゅっとトンマンの肩を掴んだ後、踵を返して出ていこうとした。

「ピダム!?」
「止めないで下さい。これまでは陛下の甥だからと大目に見てやりましたが、もう我慢出来ません。殺してきます」
「殺すって……誰をだ?」
「チュンチュです」
「ピダム!」

 驚きつつも素早く立ち上がってピダムの腕を掴むと、トンマンは殺意漲る黒い眼を見て、彼が本気であることを悟った。……これは、きちんと話をしなければ、本当にチュンチュを殺しにいきそうだった。

「ピダム、何か誤解があるようだ」
「何の誤解があるんですか。あのクソガキが陛下を……!」
「ピダム、クソガキじゃない。チュンチュだ。それにチュンチュは、私に化粧をしてくれただけで……」
「けしょう?」
「うん。その……いつもと違うと、思わないか。顔色とか、唇とか……」

 そこでトンマンが再びもじもじと恥じらいだした為に、ようやくピダムも「けしょう」が「化粧」であることを理解した。ついでに、言われてみればトンマンの顔がいつもとほんの少し違うような気もした。……よくは、わからなかったが。

「どうだ?」

 おかげで、そう聞かれても何を答えて良いやら、ピダムはさっぱりわからず硬直した。彼からすれば、トンマンは常に一番綺麗で、一番可愛い。
 それでも期待を裏切るような真似も出来るわけがなく、ピダムは取り敢えず見たままを答えた。

「綺麗な赤です」
「そうか」

 ところが舞い上がっていたトンマンは、「綺麗」と言う言葉が聞けただけでも満足したのか、嬉しそうに顔を綻ばせた。なんとなくそれにつられたピダムも、笑った。笑って彼女を見下ろし……ようやく、着ている物が、彼が家を出た時とは違うことにも気が付いた。

「陛下」
「うん?」
「その赤い裳は……どうなさったんですか?」

 目の覚めるような赤い裳は、必ずしもトンマンに相応しいとは言えない代物だったが、紅潮している今のトンマンには、まるで誂えたようによく似合っていた。艶めかしく裾を彩っている牡丹の刺繍からは、本物の花香が感じられそうである。

「これは……」

 女らしく見えるようにとチュンチュがくれたんだ、と言い掛けて、トンマンは口を噤んだ。……もしその通り述べたら、ピダムはとんでもなく調子に乗って、トンマンをからかい倒すのではなかろうか。

「チュ、チュンチュが来たのにいつまでも寝間着でいるのは申し訳ないから、着替えたんだ。正装として着ていた赤い衣の方が、チュンチュは見慣れているし……」

 少々どころかかなり苦しい言い訳だったが、ピダムはあっさり納得した。

「そうですね。陛下の寝間着姿を知っているのは、私一人で十分です」

 実際にはピダム一人どころか、チュンチュだけではなくユシンやアルチョンも漏れなく知っていたが、生憎と、ピダムは知らなかった。トンマンも、知らせるつもりはなかった。
 とにかくチュンチュの身の安全を確保する為にも、今夜はピダムには眠ってもらった方が良いだろう。上衣の下に着ている薄い衣が見えないように衿を寄せながら、トンマンは胡散臭い微笑をピダムに向けた。

「ピダム、実はチュンチュが酒も置いていってくれたんだ。一緒に飲まないか?」





 実のところ、ピダムが酒豪かそうでないのか、トンマンは良く知らない。ピダムと出会ってからのトンマンは、郎徒時代のように誰かと気楽に杯を交わし、どちらかが酒に飲まれるまで飲む、と言うような酒の嗜み方が出来ない立場になってしまっていたからだ。
 よって、頬を赤くしてへらっと笑み崩れているピダムの膝に抱え上げられたトンマンは、三杯ほど杯を干した辺りからおかしくなってきたピダムを見て、やっと、ピダムは酒豪ではないらしい、とまた一つ彼のことを知っていた。

「トンマン、いいにおい……うまそう……」

 身体に悪いから酒はいけないと渋ったピダムは、じゃあ代わりにお前が飲んでくれとしつこくトンマンに頼まれた為に、断れずに続けざまに杯を傾けた。今やもはや酒はどうでも良くなったのか、トンマンの背と腰に腕を回して抱きしめながら、文字通り、彼女の襟首を、歯は立てずにはぐはぐ噛んでいる。たまに口にする感想は、ほぼ匂いと味、触感に関するものだ。……どうやら日頃「綺麗」「美しい」と言うのは、その方が喜ばれるから言っているだけで、本音は此方らしい。
 それはそれで嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちになったが、ごくたまに「可愛い」が入るので、トンマンはそれで良しとすることにした。ピダムなりに誉めているようなのに、咎めるのも申し訳ない。
 ところがその時、衣に隠れている部分ももっと味わおうとしたらしいピダムがトンマンの上衣をずらして、首を傾けた。

「……なに、これ」

 白い上衣の下に、何やら赤いヒラヒラとした紗が隠れている。

「あ」
「……」

 何か察知したのか、黙々とピダムは上衣を剥いだ。そして現れた、白い肌がうっすらと透けて見える赤い紗を前にして顔色を変えた。

「なに……なに、何ですか、これ? まさか……まさか、チュンチュの前にこの格好で出たり……してませんよね?」
「え? あ、いや、実は今着ているものは、チュンチュがくれたものなんだ」
「それで?」
「それで……着たところを見たいと言われたから……見せた」

 よもや機嫌良く酔っているピダムが「チュンチュを殺す」と血迷うわけもない、と安心しきっていたトンマンは、恥ずかしさと肌寒さもあって、ピダムの胸に寄りかかった。酔ったピダムはちょうど良い温かさだ。
 ピダムも、トンマンの予想通り、チュンチュを殺しに行くような真似はしなかった。しかし、やはり予想とは異なる態度も見せた。

「……トンマン」
「うん?」

 温かいどころか、いつの間にやら高熱でもありそうなほどに熱い掌をトンマンの頬に添えると、ピダムは熱を孕んだ唇をトンマンの赤い唇に合わせ――。

「ピダム……?」

 不思議そうに彼を見つめる瞳に、呟いた。

「……我慢出来ない」
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  1. 2010.11.04(木) _19:05:30
  2. 隠居連載『蕾の開く頃』
  3.  コメント:2
  4. [ edit ]

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comment

花婿衣装の出番はいつ・・・(笑)

  1. 2010/11/05(金) 21:55:47 
  2. URL 
  3. りば 
  4. [ 編集 ] 
ピダムがとりあえず紅の「色」を褒めるってのが、王女承認式を思い出してガクッとしつつピダムらしいなーと笑えますw無粋な男ですが、まあ粋の道に連れ込まれても当のトンマンが「?」な人ですしねー。

隠居してしばらくたったこの頃のトンマンって、穏やかに暮らしてるゆえの健康美も勿論ですけど、宮殿暮らしの時には仕事最優先で男性化してたのが、ここにきて夫婦生活もして幸せで、てことでこれまでになく女性ホルモンがぶあ~っと出て、かつてない美しさが出てるんじゃないのかなーと思います。

木〇佳乃さんももう結婚秒読み状態の時バラエティに出てましたけど、もともと綺麗な人が、内側から輝くように綺麗で、あ~結婚するんだなー、幸せなんだなと納得してしまうような、光を放ってるような美しさだったんで。

で、まあバカップル状態(失礼)な二人ですけど、こういう時期って二人で並んでると別にイチャイチャしてなくても二人の空気、てのができてて周囲の空気の色を変える程ではないかと。だからチュンチュもユシンも二人揃ってるとこは見なくて良かったねというか。ただ人の二人には興味ない、関わってはいけないと思う二人にしても。単体で幸せそうなとこ見るのとはワケ違うと思うので。

で、この先は独占欲全開なんでしょうか。他の誰にも見せない、自分しか知らないトンマンの姿を余す所なく味わおうと・・・て何口走ってんだかー。(笑)とっとと帰ってカットだらけ51話でも見てきますー。ううっ。

りば様へ

  1. 2010/11/06(土) 12:51:32 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
花婿衣装は……もうちょっとお待ちをw きっとそのうち床に転がった荷物に気付いてくれると思います(笑)

ピダムにも一応「綺麗」とかそう言った美意識はあると思うんですが、化粧とかはまずわからんだろなwと。トンマン自身、どう考えても多少のオシャレはしても、細かい化粧とかネイルとかそう言うところにこだわる人ではないんで、これからも二人して無骨な道を歩んでいってもらいます(笑)

女性ホルモン、絶対出てますねー!
女王時代も後半とかは、もうそれこそいくらお手入れしてもお肌は荒れるわ老け込むわ……てな感じだったでしょうし、だからこそ、より一層きらきら輝いているんじゃないかなーと私も想像しています。だから近所のちびっ子に天女扱いされると言うか。子供は正直なのでw
佳乃さん、今すっごく綺麗ですよねー! 結婚式用にエステに通う人もいますが、本当に幸せならエステなんぞいらんな、とつい考えてしまいます(笑)
そして子供を産んだら一気に母ホルモンが出てまた変わる、と言う……女って面白いですね。

ユシンはバカップル状態はまだ未経験なのでそう言うことはわかってなさそうですが、チュンチュは多分、わかって個別面談したんだと思います。宮医から届く手紙から、なんとなく想像して。まあ、イチャイチャしてる叔父叔母夫婦に対して「ケッ、やってらんねー」とも考えてそうですが(笑)
こう言うバカップルな雰囲気もこの時期限定なので、暫くはこの雰囲気で頑張ります!

この後は……独占欲全開と言うか、ちょっと事故が重なって、トンマンが「うわあああああ」状態になる予定です(何)
カットだらけ……キツイ!(机をバンバン叩いて)BSだけだと、あちこち話が千切れてて、「ん?」って感じになること多いですもんねー。


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