善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 枯野の花

さえ様リクエストの、「最終回で死に行くトンマンを見送るユシン」です。
た、ただ、ちょっと話がズレていると言うか…トンマンを追悼するユシン、と言った方が正しいかもしれません。
枯野の花


***

 徐羅伐を一望するそこは、決してトンマンと言う人間には相応しくなかった。彼女にはもっと、青々とした緑に囲まれた水辺のような場所が似合う。そう、思っていた。思っていたのに。
 ……絶壁の上に座るトンマンは、まるで吹きつける厳風に煽られてさらさらと飛んでいく砂粒のように、脆く、枯れ果てていた。

『トンマンは可哀想な子なの……』

 力なくトンマンの手が落ちた瞬間に思い出されたのは、トンマンと同じように、彼の目の前で旅立ってしまった一人の女性の言葉だった。
 初めてユシンを男として恋慕してくれた彼女は、公主であり、友であり、母であり、姉だった。彼女もまた、咲き誇る花畑が似合う可憐な女性だったのに、みすぼらしい洞窟で果てた。ユシンの手を掴んで、ひたすらに妹を、息子を案じて、苦しみながら死んでいった。

『ユシン公……今からでも……一緒に、逃げましょうか……』

 ――女王ではなく、トンマンと言う一人の女性としての、最後の言葉。
 もし。もしそうだとわかっていたなら、もっと違う答え方があったのではないか。畏れ多いと畏まるのではなく、トンマンの友として……かつてトンマンを愛した一人の男として、何かかけてやるべき言葉があったのではないか。

 けれどもユシンは、チョンミョンが死んだ時と同じように、彼女達を送り出す場に一人立ち会いながらも、彼女達を助けることは何も言えなかった。
 ただ、黙ってそこにいるだけ。臣下としての言葉は口に出来ても、男として、友として、彼女達が望んだものは何一つ与えてやれなかった。
 ――わかっていたはずなのに。彼女達の心をひた向きに見つめれば、きっと、わかったはずなのに。

『トンマン…………私の、トン……マン……』

 彼が、最期に欲しいものを与えたように。彼が、最期に彼女に最も尊い幸せな笑顔を浮かべさせたように。
 きっと、彼女達が欲しかった、聞きたかったであろう最後の言葉は、あったはずなのだ。ユシンに見せてもらいたかった気持ちが、あったはずなのだ。

 しかしユシンには、それがわからなかった。
 ユシンに出来たことは、ただそこにいることだけ。彼女達の最後の言葉を心に刻み付け、その最期を見つめるだけ。……チョンミョン、トンマン。彼が守ろうとしてきた者達が掌からすり抜け消えていくのを、眺めているだけ。

 流れた涙がゆっくりと枯れた大地に落ちていったその時、誰かがユシンへと駆け寄った。息を切らせて走ってきたその人物は、肘掛けから落ちたまま動かない手を見て、呼気を震わせた。

「また……間に合わなかったか」

 ユシンの隣で拳を握りしめて震えているのは、アルチョンだった。
 そして彼もまた、ユシンと同じように運命を繰り返していた。――ユシンが命の消える刻を見届けるよう運命づけられているなら、アルチョンの運命は「間に合わない」ことだった。

 鎧ではなく、侍衛府令としての装束のまま現れたアルチョンは、剣をその場に打ち捨てると、跪いた。垂れ下がったままのトンマンの手を震える手で取り、そっと膝の上に揃えるように置く。

「ユシン」

 その手に確かにあの指輪が輝いているのを見たアルチョンは、彼に何の断りもなくトンマンと宮殿を出たユシンを責めることなく、トンマンの顔を見ることも出来ぬままに口を開いた。

「……このような場所にいらっしゃっては、陛下のお身体に障る。宮殿へ……お戻り頂こう」

 ユシンは、ゆっくりと頷いた。

「……そうしてくれ」

 彼女は、死して後も王なのだ。戻る場所はただ一つ、宮殿だけだった。
 アルチョンは小さく頷くと、躊躇いなく彼女の身体に腕を回して、丁寧にその身体を抱いて持ち上げた。ピダムの死を見届けた彼女が倒れた時と同じように、女王を抱き上げるアルチョンの腕には迷いはなかった。そうして彼は、主を守ってきた。誰よりも近い場所で。

「……ユシン、チュンチュ公がお待ちだ」

 すれ違い様、アルチョンが囁いた言葉に振り返ったユシンは、アルチョンの視線の先で佇む青年を見て、息を飲んだ。一体、いつから……あそこにいたのか。

「私が来る前からあそこにいらっしゃる」

 ユシンの心を読んだかのように告げると、アルチョンはトンマンと共に、用意した大きな輿にその身を消した。
 二人が乗った輿がいなくなってから、ようやくユシンのところへとやって来たチュンチュはユシンを見ることなく、トンマンが座っていた椅子の後ろに立って、そこから見える空を見つめていた。

「ここへいらしたのは、陛下がそのようにお命じになったからですか」
「……はい」

 チュンチュはそれ以上何も訊かなかった。ただ最期にトンマンがそうしたように空を見上げて、涙すら流さない。
 そうして、チュンチュはユシンへと振り返った。その顔は、彼にしては珍しく、歪な微笑を湛えていた。泣き出しそうなのに、その眼は乾ききっていた。

「ユシン公」
「……はい」
「チョンミョン公主が遺し、陛下が託されたもの……それは、この私、キム・チュンチュが受け継ぎます」

 歪んでいたチュンチュの微笑が少しずつ滑らかさを取り戻して煌めいた。

「ユシン公。あなたが陛下に捧げていた忠誠は、明日からはこの私のものです」

 それは、新たに後継者に指名されたスンマンを無視した不遜な物言いだった。
 しかし、ユシンはチュンチュを薄情だとも、不敬だとも思わなかった。
 今、彼の目の前にいる青年は、かつての女王と同じ眼差しをしていた。まるで、枯れ野に咲くただ一輪の花のように孤独で、壮絶な決意を秘めたその眼差しを、ユシンはよく知っていた。
 だから、理解出来た。目の前にいる青年が、今、どれほどに張りつめた気持ちで立っているのかが。

「……すでにこの身は、神国に捧げております。私は、神国の主となるべき方に従うのみです」

 だがそうとわかっていても、すでにユシンの忠誠は個人に捧げることの出来るものではなくなっていた。

『私が選んだ、私の王だ!』

 ――やっと、わかったのだ。

 枯れ野に咲く一輪の花を守るには、枯れ野がこれ以上荒らされることのないように守ればいいと思っていた。
 しかし、花を守る為には、枯れ野にいてはいけなかったのだ。その花だけを育てたければ、守りたければ、肥えた土地へと移してやらなければならない。そうしなければ、どう頑張ってもいずれ花は枯れてしまう。少し、目を離した隙に。
 ……けれども、ユシンが守りたいものは、花一輪ではなかった。
 彼が望むのは、枯れ野を草原に変えることだった。例え孤独に耐え忍ぶ花を枯らしてしまったとしても、土を耕し、花が遺した種を蒔いてたくさんの花を咲かせることが、彼に託された使命だった。

 それだけが、ただ一輪の花を枯らせてしまったユシンに残された、ただ一つの道だった。

「お許し下さい、チュンチュ公」

 ――それだけが、その花を愛し、大切に思ってきた、ただ一つの証だから。

 やつれたユシンの頬を、涙すらも凍てつかせる風が静かに撫でていった。



****

短いです。……なんか、ユシンの話は短くなりがちで…申し訳ありません(汗)
しっかし、最終回ネタはいけませんね! ドラマを見返す勇気がないので一生懸命記憶を探るのですが、それだけで涙が(笑) 自分が非常に危ない人間だと自覚させられますw
さ、さえ様、こんな感じで宜しいでしょうか…!? ちょっとしんみりして頂けたら大満足です(笑)
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  1. 2010.08.21(土) _00:02:54
  2. SS(ドラマ準拠)
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