善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS これぞミセンの最終極意 巻之三

続きです。
さて、帰宅したら善徳女王を見よう! 今日はトンマンとチュンチュの回ですから!(笑)


****

 トンマンの行動を後押しするかのように、雪は止んでいた。陽も落ち、真冬の澄んだ空では、綺羅綺羅しい星々が瞬いている。
 けれども、美しい夜空を愛でている余裕はトンマンにはなかった。

(お忍びでピダムを追いかけてきてしまったが……どうしよう?)

 居ても立ってもいられず、こうして飛び出してきてしまったものの、いざピダムに会ったら何を言えば良いのか、トンマンにはさっぱりわからない。それに、形はどうあれピダムの休日の邪魔をするなどと、主としてあまりに酷い所業ではなかろうか。訓練の鬼だったユシンでさえ、郎徒の宿舎には用事がない限りは立ち入らず、おかげでトンマンもチョンミョンに会いに行ったり、チュクパン達とお喋りしたり、自由な時間を過ごせたと言うのに――。

「陛下。到着致しました」

 ところが時間と言うものは無情なもので、トンマンが悶々としている間に輿は目的地にきちんと辿り着いていた。恐らく、アルチョンがアルチョンらしく無駄のない行動を取っていたからだろう。

「陛下、ピダムを呼んで参りましょうか」
「……いいえ。輿を降ります」
「かしこまりました」

 アルチョンが顎で促すと、さっと扉が開いて冷たい風がトンマンの胸元を撫でた。輿の中ではわかりにくかったが、外は凍てつくような寒さだ。供回りは僅かではあったが、寒い中、特に用事もないのにこんなところまで輿を担がせたのかと思うと、久方振りに申し訳ない気持ちになった。

「陛下、お手を」

 足場が悪いからと差し出された手に手を重ねると、アルチョンの助けを得てトンマンは立ち上がった。まだ身体は痛かったが、それを顔には出さなかった。
 きちんと雪が掻き分けられている道を進むと、徐羅伐の貴族達の邸のように飾り立てられていない、粗末な邸が見えた。その入り口まで先に着いたアルチョンは、ドンドンと遠慮なく戸を叩いた。

「開けろ!」
「あぁ全く、こんな時間に誰っ――」

 運の悪いことに、こんな時でも一番戸に近い場所にいたサンタクは、戸を開けた瞬間二度も驚く破目になった。

「しっ、侍衛府令ッ!?」
「司量部令に会いに来た。通せ」
「こ、困りますよッ! 司量部令は、誰も通すなって――」
「朕もですか?」
「へっ?」

 朕って一体……と目を丸くしたサンタクは、笠に掛かっている紗を少しだけ上げた女人を見て、腰を抜かしかけた。

「陛下!!」



 それからは、滑らかに話が進んでいった。
 トンマンとアルチョンだけでなく、供回りの者達まで邸内に通され、トンマンには温かい飲み物が給仕されたし、サンタクはピダムを呼びにすっ飛んでいった。客間の丸い椅子に座ったトンマンは、立っているアルチョンにはバレないように手を握ったり解したりして気を紛らわせようとしていた。

(なんて言おう。雪見がしたくて……いや、雪は宮殿でも見られるな。ピダムに恋人が出来たと知って、お祝いに…………いや、祝辞を述べるなら休み明けで構わないだろう。それなら……)

 トンマンが持ち前の頭脳を延々と空回りさせているその時、とうとうピダムが慌ただしく戸を開いて部屋に飛び込んできた。


**


「司量部令! 司量部令、大変です!!」

 その少し前、相変わらずメセンにあれも駄目だこれも駄目だと言われ続けてすっかりやる気をなくしていたピダムは、サンタクの声を聞いても不貞寝をしたままだった。

「……なんだ」
「いっ、いいい今、そのっ、あのっ、徐羅伐からっ……!」
「……徐羅伐からなんだ?」

 今日一日、待てども待てどもトンマンからの使いが来ることはなく、ピダムは落ち込んでいた。やはり、私がいなくても陛下は何とも思わないのか、と。
 ……しかし、身体と言うものは正直で、午後からずっと何もかもに背を向けていたにも関わらず、徐羅伐、と聞いただけで起き上がってしまう。思わず沓を履きながらサンタクを中に呼び入れると、落ち着きのない側近はわたわたとピダムの耳元に信じられない言葉を囁いた。

「――」
「い、いかが致しましょう? お会いにならぬわけには……」

 サンタクの言葉を聞き終える前に、ピダムは無言で立ち上がった。
 ――陛下が、トンマンが、来た!
 サンタクの言葉を理解した途端に、どす黒かった世界は数えきれないほどの色彩に溢れて、燦然と輝き始めた。嬉しさのあまり、今の自分が髪をほどいて着衣を崩している状態であることも忘れて駆け出そうとしたピダムの前に立ちはだかったのは、サンタクに続いて部屋に入ってきたメセンだった。

「ピダム公。まさか、そのお姿で陛下にお目にかかるおつもりかしらん?」

 うふふ、とおっとりと微笑みながらも、昼間、メセンの教育から「飽きた」と逃げ出したいとこの襟を掴んで直すと、メセンはピダムをドンと押して椅子に座らせた。

「絶好の機会ですのよ。完璧な姿で、陛下を虜になさらなければ。「ああ、ピダム公はこんなに素敵な殿方だったかしら……私ったら、今までその魅力に気付かなかったなんて、なんて愚かなの……!」と陶酔させるのです」

 ……メセンは、トンマンが郎徒出身であることは知っていた。が、そのトンマン像はヨンチュンと言う純朴な夫を通して得た為か、少々実物からはみ出たり、引っ込んだりしていた。
 心ならずも男装を強いられ、様々な苦難に遭い、一人寂しさを抱えて夜毎涙で袖を濡らしながらも、その細い肩に国を背負う可憐な陛下――。……確かに間違っているとは言えなかったが、些か乙女調に変化しているトンマン像は、近頃、上将軍ユシンとの悲恋と、司量部令ピダムとの秘めた恋、さらには侍衛府令アルチョンの一途な忠節と密やかな片恋と相俟って、徐羅伐在住の貴族の妻女達に急速に広まっていた。きゃあきゃあと四人の関係(たまに、そこに火将軍ウォリャが入ったりもする)を噂し、誰それとこんなことがあったらしいと盛り上がるのは、今や徐羅伐の女人が顔を合わせた時の常である。
 しかし、噂されている当の本人達や宮中の男達は、そんなことは知らない。

「大丈夫です、このままで……!」
「ピダム公、負けてはいけませんことよ。先程偵察して参りましたら、アルチョン公もいらっしゃって――」
「……アルチョン?」

 それでも、ピダムは彼女達の期待を裏切るような真似はしないのだ。……こと、嫉妬と言う面においては。

「…………」
「ピダム公、陛下のご様子をご覧になったら、必ずお衣裳のご感想を申し上げて下さいませ」

 さっさと部屋を出ていってしまったピダムの後を追いかけ、髪を直しながらメセンは忠告を繰り返した。今夜、気を引けなかったらピダムの秘めた恋はおしまいだ。……秘めたと言うには宮中の者全てが知っている恋だったが、想いを寄せられている当人だけは気付いていないのだから、女達は敢えて、「秘めた恋」と称していた。

「陛下」

 待ちきれなかったかのように荒々しく戸を開けて客間に入ると、ピダムは確かにトンマンがそこにいるのを見て、にまにまと笑みを浮かべた。……どうやら、抑えきれない喜びがだらしない笑みとなって顔から溢れたらしい。

「ピダム――」

 ところが、そんなピダムを見て少し綻んだトンマンの顔は、ピダムの背後にいるメセンを目敏く見つけた瞬間に再び硬直した。おまけにピダムの姿ときたら、宮中にいる時とは全く異なっている。綺麗に流れる長い前髪も、半分だけ縛られ馬の尾のように垂らされた後ろ髪も、絹の黒衣ではなく上等な麻で織られた衣も、その全てが、ピダムのすらりとした体躯と整った顔立ちを引き立てていた。
 ――これまで見たピダムの中で、一番見目が良いピダムだ。
 その、否定しようのない事実に呆然とすると同時に、トンマンの中ではふつふつと怒りも湧いた。

「――逢瀬の邪魔をして悪いと思っています」

 トンマン自身、考えていたよりずっと冷ややかな声が、唇から放たれた。
 その刺々しさに、ピダムの顔からも笑みが消えた。トンマンの声は、比才が終わった後、八百長をしようとしたピダムを咎めた時よりも遥かに冷たかった。

「陛下」
「司量部令が清遊に出たと聞いて、つい雪見をしたくなりました。少し休んだら、発ちます」
「陛――」
「そちらの方は、ミセン公のご息女ですか」

 ピダムの呼び掛けを一切顧みずに話し続けるトンマンにピダムは真っ青になったが、ヨンチュンの話からてっきりもっと可愛らしい嫉妬をぶつけてくるかと思っていたメセンもまた、驚いていた。女王の静かな声は、明らかに憤怒に満ち満ちている。メセンを憎らしく思ってもいるだろう。それなのに、その姿は王としての威厳に溢れていて、誰も口を挟めない。

「はい、陛下」

 礼を取って跪きながら、メセンは心の中で父を足蹴にした。
 ――陛下がまるでミシル伯母様のように扱い難い方だなんて、聞いてないわっっ!

「ミセン公は本当に御子に恵まれていらっしゃいますね」

 一方、にこやかに、にこやかにと必死で自分に言い聞かせながらメセンを見下ろしたトンマンは、想像していたよりも年長の……正直、トンマンよりも明らかに年上のメセンを見て、内心首を傾げていた。

(てっきり、もっと若い娘だと思っていたが……夫に先立たれた未亡人だろうか? 確かにピダムは子供っぽいから、これくらい落ち着いた女人の方が良いのかもしれないな……)

 きっと彼女はトンマンとは違って、優しくピダムを受け止め、励まし続けたのだろう。実の母を亡くし、数多の仕事に忙殺されているピダムは、こう言った淑やかな美女の温かい心遣いこそ欲しかったに違いない。
 ミシルの死後、トンマンに捨てられることを恐れていると涙を流したピダムを思い出して、ぎゅっとトンマンは震えている手を握りしめた。……ピダムがやっと見つけたであろう幸せを壊すような真似は、出来ない。

「侍衛府令」
「はっ」

 信じられないとばかりにピダムの顔を睨み続けていたアルチョンに声をかけると、トンマンは小さく寂しい微笑を浮かべた。

「行きましょう。今から戻れば――……っ!」

 けれども立ち上がったまさにその時、うっかり強打した方の足に力を入れた為に、痛みに耐えかねたトンマンは息を飲んで崩れそうになった。

「陛下!」

 アルチョンが声を荒げて手を伸ばす。しかしそれより早く駆け寄ったピダムが、トンマンを抱きしめるように抱えて、素早く椅子に戻した。

「陛下、足を怪我されたのですか」
「何でも、ない。大丈夫だっ……」
「失礼します」

 今度はピダムがトンマンの声を遮って裾を捲りあげると、細い脛にある大きな赤黒い痣が目に入った。

「陛下……!」

 声を上げたアルチョンや、厳しい眼差しで睨んでくるピダムから視線を逸らすと、トンマンは不貞腐れたような口調で言い訳した。

「大丈夫だ。これくらいの傷、郎徒時代に幾らでも……っ!」
「少し触れられただけでそんなに痛がっておられるのに、何を馬鹿なことを仰っているんですか」

 ピダムは遠慮なくトンマンを抱き上げると、アルチョンに鋭い眼差しで訊ねた。

「宮医はいるのか」
「いや、いない。お忍びだ」
「ちっ……!」

 トンマンを寝台に丁寧に下ろして座らせると、ピダムはメセンへ視線を移した。ところがそこにいたはずのメセンがいない。理由は、すぐに知れた。

「あまり種類はないのですが、怪我に効く軟膏がありました」

 サンタクに薬箱を持たせて戻ってきたメセンは、おっとりとした風情はどこへやら、きびきびとした仕草でトンマンの前に跪いているピダムの隣に薬箱を置かせた。

「それから、今、外に汚れていない雪を取りに行かせています。お湯は……必要かしら?」
「いや。代わりに布と酒を持ってきてくれ」
「わかりました」

 息の合った様子で手当てをするピダムとメセンを前に、トンマンは何も言えなかった。アルチョンも、布地を裂いて包帯を作る為にメセンに付いて行ってしまうと、益々トンマンは肩身が狭くなった。ピダムはまだ厳しい顔をしている。

「ピダム」
「黙っていて下さい。話は後で聞きます」

 やけに、湿った布が傷口に滲みた。
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  1. 2010.09.02(木) _20:24:27
  2. SS(ドラマ設定IFもの)
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