善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS これぞミセンの最終極意 巻之五

長くなりました…!
女王時代の話は幾つも書いてきましたが、こんなにハッピーで能天気な話を書いたのは初めてではないかと思われます(笑) 読んで下さる方にも気楽にお楽しみ頂ければ幸いですv


****

「はっ、離せ……っ!」

 一瞬、あまりのことに事態を把握出来ずにいたトンマンは、正気に返った途端に抗い始めた。
 けれども寝台に腰掛けたまま抱きすくめられた為に、脚は動かない上に腕も動かない。腕を外そうにも、ピダムとでは所詮元々の力が違う。襟首に顔を埋められているせいで、頭突きも出来ない。武器も何も持っていないトンマンは、強い抱擁から逃れようと足掻くあまりに声を荒げた。

「し、侍衛――っ!!」

 ところが、咄嗟にアルチョンを呼んで、それにピダムが怯んだ隙に逃げ出そうとしたものの、その作戦はどうやら不味かったらしい。横合いから滑り込んできた何かが素早くトンマンの口を塞いで、悲鳴を奪った。





「陛下……!」
「え?」

 幾つもの壁に阻まれたトンマンの声は、到底アルチョンには届くはずはなかった。がしかし、地獄耳の陛下一筋の侍衛府令は、どれほどに微かであっても、それが主のものである限り、悲鳴を逃しはしなかった。
 素早く腰を上げたアルチョンは、すぐさま見張りの手を逃れて主の元へ突撃しようとした。

「いけません、アルチョン公」
「陛下の悲鳴が聞こえました! 退いて下さい」
「例え悲鳴が聞こえたとして、だから何なんですの? まさか、ピダム公に陛下を傷つける甲斐性があるとお思いなのかしら?」

 メセンがおっとりとした口調でさらりと毒を吐くと、さすがのアルチョンも僅かに気圧される。確かにピダムにトンマンを襲う甲斐性があるなら、こんな面倒な事態にはなっていないはずだった。だがそれでも、放ってはおけない。

「陛下がお呼びだ。声を聞かないことには引き下がれん」

 メセンを押し退けて部屋を飛び出そうとしたアルチョンだったが、伊達にメセンも父ミセンの信頼を受けているわけではない。ふいに立ち上がったその時から眩暈を感じていたアルチョンは、部屋の入り口へと歩こうとして、いつの間にか倒れていた。

「……ごめんなさいねぇ、アルチョン公」

 心底申し訳なさそうにアルチョンの傍へ膝をつくと、メセンは侍従を呼んでアルチョンを寝台へ寝かせた。

「やると決めたなら、徹底的に。非情なほどに、隙もなく。それが、伯母様の教えですの。ゆえに、わたくしも精一杯やるだけですわ」

 それでも、袖から小瓶を取り出したメセンは、ふうと疲れきったように嘆息した。

「……それにしても、アルチョン公はどう言うお身体をしているのかしらん」

 小瓶には二人分の睡眠薬が入っていたと言うのに、一杯になっていたはずの小瓶は、今では空っぽになっていた。





 はたと我に返ったトンマンは、ピダムの手が両頬に回った為に自由になった両手で、思いっきりピダムを突き飛ばした。

 ――私は、今、何をしていたのか。

『……私の恋人は、陛下にだけは隠してはおけません』

 その人差し指を唇に当てただけでトンマンの悲鳴を塞いだピダムは、互いの体温が伝わりそうなほどにすぐ傍で、断固とした口調で囁いた。そうして、声を上げられなくなったトンマンの瞳を、見たことのない深い色をした強い眼差しで見下ろした。

『私の恋人は、陛下しかいらっしゃいません』

 その眼差しに、トンマンは射すくめられたかのように動けなくなった。気がついた時には、頬を包み込むようにピダムの手が添えられていて、唇が重なっていた。ピダムの動作はその一つ一つが遅く、逃れようと思えば幾らでも逃れられたのに、金縛りに遭ったかのように動けなくなっていた。
 触れ合った唇は、小刻みに揺れていた。どちらのものが震えているのかはわからなかった。ただ、あまりにピダムの顔が間近にあって、目も開けていられない。奥歯を噛み締めたまま、トンマンは暫し硬直していた。

「……出ていけ」

 しかしそれも、過去のことだった。我に返ってピダムを押し出したトンマンは、彼から顔を背けた。
 だが、ピダムは出ていかなかった。
 ピダムはトンマンの脚から落ちてしまった布袋を取り上げると、雪で冷やしていた布を代わりに痣の上に置いた。トンマンはそのひんやりとした感触に、小さく震えている。

「……陛下」

 ピダムが呼び掛けても、もうトンマンは出ていけとは言わなかった。歩けない為に自ら立ち去ることも出来ず、真っ赤になったまま顰めっ面であらぬ方向を睨んでいる。その頬に、ピダムを押し出した時に乱れた髪が僅かにかかっていた。それを避けながら、どうやら拒まれはしないらしいと悟って、ピダムは眦を緩めた。
 そのまま、今度は柔らかい沈黙が二人を包み込んだ。

「……私は、謀られたのか」

 ややあってから、トンマンが自嘲するように小さく笑って、ぽつりと呟いた。

「陛下」
「思えば……ソルォン公達が、ピダムに女が出来たと私の前で喜んでみせるなど、おかしかった。わざと思わせ振りなことを言ったり……らしからぬことばかりだった。第一、先程のご婦人は……」
「メセン娘主ですか」
「メセン娘主、か。彼女は、どう言う……」
「知りません。ミセン公が任せろと言うので任せたら、メセン娘主が来ました。幾らか話もしましたが……わけのわからないことばかり言われました」
「わけのわからないこと?」
「何を言えば陛下は喜ぶとか、こう言う服を着ろとか。そんなことを言われ続けたので、疲れました」

 ピダムらしい子供のような感想にトンマンは思わず笑った。

「例えば?」
「例えば……」

 手をそっと差し伸べると、ピダムは指の背でトンマンの頬を撫でた。

「今宵は、まるで……雪の中に咲く牡丹のように艶やかです、陛下……」
「…………それから?」
「それから……」

 今度はトンマンの手を取り、その指を愛おしげに撫でて口づけを落とす。

「――ローマングラスよりも美しい、この宝石のような手に口づけを」
「……他には?」
「他には…………これは、私が考えたものですが」
「うん」

 ピダムが前屈みになると、徐々に二人の眼差しが近くで交わり始めた。今度は呆然としているわけではなく、トンマンもしっかりとした意思を保ったまま近づくピダムを見つめていた。

「――愛しています、陛下」

 再び重なった唇は、今度は互いを分かつことはなかった。


**


「それで? では、ピダムは昨夜、陛下と一夜を共にしたのか?」

 翌日の夜、ミセンは菓子を頬張る娘にずずいっと迫っていた。
 メセンは一寸黙した後、兎のように愛らしい口元を微笑とも一文字ともつかぬ形に歪めて答えた。

「はい、一夜を共になさいました」
「よぉし!」

 期待をしていたとは言え、まさかこんなにトントン拍子でことが進むとは考えてもみなかったミセンは、快哉を叫んで、久方ぶりに高らかに笑った。

「エ~っへっへっへ! ほら、ご覧なさいソルォン公!! やはり陛下も女です。どんな女でも、嫉妬と言う仮面を被れば別人になるものです」

 しかし、これでピダムは王位に近づいた、と喜色満面の父に、娘は水を差した。

「ですが、恐らく陛下とピダム公は、お父様がお考えになっておられるような夜を送ってはおられませんわ」
「あっはっはっはっ……………………え?」
「確かに同じ部屋で、しかも二人きりで一晩過ごされましたけど、契ってはおられませんわね」
「…………………………………………な、何だと? では、一晩一緒にいて、何をしていたのだ」
「お察しするに……腫れてしまったおみ足を冷やしながら、お喋りに興じておられたんじゃないかしら」

 とにかく契りは交わしておられません、と断言する娘に、ミセンはさらに迫っていった。せっかく手間隙をかけたのに、また水泡に帰されては堪らない。

「どう言うことだ。きちんとピダムと陛下を一つ部屋に閉じ込めたのだろう?」
「はい。アルチョン公には眠って頂きました」
「ならば、何故! 据え膳食わぬは男の恥だ!」

 どこが据え膳よ、ったくこれだから女が切れないんだわ、と父に呆れながらも、メセンはおっとり微笑んで、小鳩のように首を傾げた。

「陛下が酷く足を痛めてらっしゃると言う時に、ピダム公が陛下に無理を強いるような真似をなさるかしらん?」

 ……まもなく、扇に用いられた孔雀の羽が全て抜け落ちてしまいそうなほどに重い溜め息が、ミセンから放たれた。ソルォンは、そんなミセンを見て少しだけ笑ってしまいそうになったが、眉間に力を入れてグッと堪えた。





 アルチョンはグレたかった。正直、彼の性格に少しでも弛んだところがあるなら、彼は盛大にグレていただろう。
 けれどもアルチョンはアルチョンであるからして、やはり「グレる」などと言う幼稚な選択肢は有り得なかった。ただ、その代わりに、アルチョンは常にも増して厳しい、冬の荒れ海のような顔をしてピダムを睨んだ。

「陛下はもう御休みになられた。謁見は明日にしろ」

 それでも目の前の幸せがダダ漏れている男は、先程まで見せていた姿とは打って変わって、前髪も後ろ髪も下ろした姿で間男よろしく中に入れてもらうのを待っている。どうやら追い返されると言う可能性は欠片も考えていないようだった。……そして。

「司量部令をお通しするようにとの仰せでございます」

 ――他の誰でもなく、昨日はピダムを殺してやるとでも言い出しそうな雰囲気だったと言うのに、宮殿に戻ってからも、宮医ではなくピダムに治療をさせている陛下が一番問題だ!……と、今すぐにでもその陛下の前にすっ飛んでいって叱り飛ばしたいところをなんとか抑えて、アルチョンは足取り軽く王の寝室に向かう間男……もとい、ピダムを見送った。……不思議なことに、その唇は優しく弧を描いている。
 翌日になっても翌々日になっても、さらにはトンマンの怪我が治ってからも、結局アルチョンはトンマンをピダムのことで叱ったりはしなかった。その代わり、以前よりもさらに、王の体調や健康について口煩い侍衛府令が誕生したのだった。


 そして、噂の恋人達はと言うと。

「陛下、さっきより腫れが引いています」

 トンマンの足を固定していた包帯を解いたピダムは、丁寧にトンマンの脚を拭いながら、朗らかに笑った。

「さっきって……一刻でそんなに変わるものなのか?」

 そう言うトンマンの顔は怒るどころか綻んでいたが、ピダムは真面目に答えた。

「はい。触った時の感触が違いますから」
「私は……よくわからないが」
「陛下がおわかりになっていなくても、私がわかっていればいいんです」

 怪我のことは私にお任せ下さいとはにかむピダムは自分が宮医の仕事を奪っていることに気付いているのか、その後も半月ほど昼夜問わずトンマンの寝室に立ち入る特権を得た。ちなみにトンマンは、一日中時間を作っては「治療」に現れるピダムの為に、出来るだけアルチョンを扉の外に置くようになったと言う。

 最後に、一つ付け加えるとするなら、ピダムの恋模様の行く末に悩まされていたミセンは、やっと枕を高くして眠れるようになったそうな。



***

以上、ちっちき様リクエストの「トンマンを諦めて別の女性と結婚しようとするピダム」でした!
……すみませんすみません(汗)
話の内容がリクエストと全く違うものになってしまっていることは心得ております。偏に私の力不足で、どーしてもトンマン以外の女性と結婚しようとするピダムが浮かびませんでした…! ちっちき様すみません(汗) 中身は別物ですが、こんな話でもお楽しみ頂ければな…と思います…!

ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました!
ドラマとは打って変わって(笑)、ハッピーでお気楽な女王陛下と司量部令をお楽しみ頂ければ幸いですv

あ。ヨンチュン公は引き続き何も知らないまま、実家から戻った妻を迎えたと思います(笑)
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  1. 2010.09.05(日) _00:01:21
  2. SS(ドラマ設定IFもの)
  3.  コメント:2
  4. [ edit ]

<<9月4日に頂いたコメントへの返信 | BLOG TOP | リンクを一軒追加しました!>>

comment

やった!

  1. 2010/09/05(日) 05:19:58 
  2. URL 
  3. すーさん 
  4. [ 編集 ] 
焦れったい二人が、『恋人』になってホッとしました。

メセンさん、お疲れさまでした。

叔母上の教えを守っての、手際良い段取り………惚れそうです(笑)


ヨンチュン公も幸せに、メセンさんの掌の上で転がされてる様が浮かびます。


たまに、メセンさんに髪や衣装を替えてもらって、陛下に誉めてもらうピダムがいるといいな(でろ~んとなってるピダムに「ここはニヤケないで!」とかビシバシと)(笑)


幸せそうな陛下に乾杯したいです。
(^^)/▽☆▽\(^^)

すーさん様へ

  1. 2010/09/05(日) 23:18:19 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
安心して頂けて私もホッとしました!(笑)

本当に焦れったいですよね…! メセンと言う軍師と、トンマンの怪我と言うシチュエーションをつけても五話もかかるとはw 本筋を追いかけるのに夢中で、ヨンチュンとメセンとか、ユシンやチュンチュとの絡みが入れられなくなりました(笑)

メセンは……と言うか、ミシル一族の娘は多かれ少なかれ恋の手解きを受けてるだろうなーと考えておりまして。メセンはその中でも特に腕が立つ(?)設定にしてみました。
すー様、どうか惚れて差し上げてください。これでヨンチュン公とライバルです!(笑)

ああ、確かにメセンは嫌がりつつも、「ああ、もう嫌!」とぶすったれつつも、ピダムを教育しそうな気がします。あの恋愛音痴には、ムンノよりも厳しい師匠が必要ですしw

私も珍しくほわほわと幸せなトンマンを書けて楽しかったです~v また次の作品も頑張ります!
幸せそうなトンマンにカンパーイ!v-272v-314


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