善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 天に輝くもの

ぽつぽつ書き溜めたチュンチュ話です。
いつも通り、絶賛病んでる若干意味不明なチュンチュで、チュンチュ→トンマン風味なので、ご注意ください…!(※やらしー表現は皆無です)


* *


 憎い。あの女が、憎い。私の欲するものを纏う彼女が、憎い――。

「チュンチュ……」
「……」

 目の前に現れたその人は、思い描いていたよりもずっと華奢で、愛らしかった。

「っ……私は、あなたの叔母で……あなたの母、チョンミョン公主の妹なんだ……」

 あくまで彼の立場から己を紹介する彼女を見て、チュンチュはすぐに悟った。ああ、この人も私を憐れな幼い子としか思っていないと。
 ――幼いから、優しくすれば靡く。
 そう、安易に考えていると、すぐにわかった。
 ――愚かな女。
 いや、大人は誰しもが愚かなのだろう。誰しもが彼を幼子のようにしか思っていない。愚かなのは、自分達の方かもしれないなんて、考えもせず。
 現に、今こうして涙が溢れて銀砂のように煌めく瞳も、彼の身体に回された腕も、何もかもが頼りなくて。この細腕でどうやって郎徒をやっていたのかわからないぐらい、彼女は脆い身体をしていた。
 そして、彼女からはあの香りがした。
 母と別れたあの日、肺を満たした清涼な香り。私の母の部屋に暮らして、私の母と同じ香りを纏った女が、今、私の帰還を涙を流して喜んでいる――。

「何故、この部屋をお使いになっていらっしゃるのですか? 他にもいい部屋がたくさんあるでしょうに」

 吐き気がした。あまりに同じものが多いが故に、ただ一つの差異が強い不快感を伴う。
 それがわからないのか、眼下の人はまだ彼を憐憫の眼差しで見ている。

「そうだったな。ここは、お前の母の部屋だ。もしお前が気になるなら、すぐに他の部屋に移ろう」
「……」
「そうだ、体が弱いと聞いていたけれど、大丈夫だったか? 長旅で疲れてはいないか? 至らない身だが……お前の母がしてあげられなかったことは、私が全てするつもりだ」
「――」

 何故、この人は柔らかい羽根で喉を擽るような言葉の羅列が最も煩わしいとわからないのだろうか。怒りに戦く身にとって、優しげな言葉ほど邪魔なものはないのに、何故それがわからないのか。
 その答えは、一つ。結果的に、この人にとっては、己が姉の死は都合がいいものだったからだ。
 双子が揃っている限りは双子への反感ばかりが強まっただろうに、双子の片割れが死したことで、民も臣下も変わった。「二人とも殺さなくてもよいではないか」と、どこかで哀れみ、是が非でも殺してしまおうとは思わなくなった。それは、この人にとっては好都合だったはず。決して太陽と望月が同じ天に浮かばないように、片割れが死してこそ、残った者は何一つ欠けることなく甦ることが出来るのだ。
 勿論、悲しみはしたかもしれない。止めどなく零れる涙を偽物だとは言わない。だが、それが怒りのない涙であればあるほど、それは彼の怒りを深める毒にしかならなかった。

「来年、来年、来年……」

 消えた太陽の残骸は、今もなお綺羅綺羅しく輝き、その光で彼の胸を抉る。それを、どうしてもこの望月の人に知らしめたかった。

「最初のうちは、もう母に会えないのではないかと不安になりました。ですが、段々、腹が立ってきました。母に会えたなら、まずはこの怒りをぶつけてやろうと思っていました。……ところが、やっと戻ってこられたと思ったら、怒りの矛先となるべき人は、もうこの世にはいなかった。笑える話でしょう?」

 喉が震えたのか、声が揺らめいて、視界が滲んだ。

「チュンチュ……チュンチュ、待ってくれ。私の話を聞いて欲しい――」
「あなたが毎日毎日母の霊廟で祈っていると聞きました。そして、私の面倒を見てもくださるんですね」

 それを悟られまいと嗤ったのに、彼女が明らかに慌てたから、私は一時、平静を喪った。
 ――この人にだけは、愚かな公子として接することさえしたくない。
 私の太陽の代わりに現れて、太陽然としている、この望月だけは……この人だけは、決して私の太陽にするものか。

「今、この場ではっきりと申し上げます。あなたが私の母の栄光を奪うなど、決してあってはならないことです。そして、母チョンミョン公主の代わりになれるのは、あなたではありません。それは、私、キム・チュンチュです。――トンマン公主。あなたは、チョンミョン公主のものは、何一つ獲ることなど出来ません」
「――……」

 容易く籠絡出来るはずの甥からの痛烈な拒絶は、彼女の母親面を引き剥がし、粉塵に帰させるだけの力があったらしい。
 恐れと絶望を孕んだその貌を見て、彼の心には微かな悦びが湧いた。それはきっと、彼の抱く憤怒と憎悪に比べれば、とてつもなくちっぽけで……この上なく待ち望んできた、最上の悦び。

「あなたは、私と同じように遥か彼方からこの国へ戻ってきたそうですね。……いったい何が、あなたをここへ連れ戻したのですか? そして……いったい何が、私をここへ連れ戻したと思いますか?」



 ――あの時から、すでに私はこの時が来るのを知っていたのかもしれない。
 記憶にある母の腕よりも細く、少しだけ遠慮がちな腕の中で、チュンチュはその小さな肩に頭を預けた。

『母に会えたなら、まずはこの怒りをぶつけてやろうと思っていました』

 確かにそう思っていた。怒って、復讐して、己が泣いたのと同じだけ泣かせて。子供相手だからと嘘をつき続けた母に、その惨さを知らしめてやりたかった。
 けれど、その後。その後まで、いつまでも憎んでいたかったわけではない。例え罵っても、憎んでも……それでも、あの腕に抱きしめて欲しかった。懐かしい香りのする肩に顔を埋めて、もう遠い記憶の中に埋もれてしまいそうな声に、優しく慰められたかった。……憎いと思うだけ、恋しかった。

(会ったこともなかった人なのに……)

 母の妹だから、会った瞬間から――いや。会った瞬間どころか、会う前から、すでにもうこの人が恋しかったのだろうか。
 あの時、彼女を知る人から話を聞いて、知れば知るほど、憎らしくなった。苦労した、賢い、優しい、朗らか、負けず嫌い……耳に入る言葉からは温かな人柄しか伝わってこなかったから、癪に障った。

(まるで、母上がいなくても、トンマン公主がいればそれでいいと……いや、その方がいいと言われている気がした)

 愚かで悪辣な女であればいいと願っていたのに、全て打ち砕かれてしまった。どれだけ揺さ振っても、侮蔑すべきところが顔を出すことはなく……今も、こうして幼子のように泣き出した彼を、いつまでも撫でてくれている。
 ――母上に逢いたい。
 今でも、ずっとそう思っている。この十年、恋焦がれてきた人に逢いたい――その想いは、そう簡単に消えるものではない。

(でも、もし、母上が生きていたら……この人には会えたのだろうか……?)

 頼もしくて、傷つき易くて、彼と同じように遠くから故国へ戻ってきたこの人に、こうして心をさらけ出すことなど、あっただろうか。

(……考えるまでもなく……そんな日は、きっと来なかった)

 母に逢いたい。それは変わらない。
 ただ、そう思うのと同じくらい、この人にも逢いたかったと、今、チュンチュは心の底からそう叫べた。そして、少しだけ、希った。遠い国から来た、故国を失っていたこの彷徨人にとって、己が故国になれればいいと。彼がいるから、彼女はこの国を故国と思えるようになればいい――そう、思った。

**

 あれから、十年。
 彼が故国を見失っていたのと同じだけの年月が流れて、彼は今、再び故国を見失おうとしていた。

『チュンチュ。どうか、ピダムを傍に置きたいと願う私の心を、理解してくれ』

 ――かつて、母も同じようなことを言っていた。

『お前の安全は確保した。だから、どうか理解してくれ。私の決断を、理解してくれ――』

 そうチュンチュの心に訴えた母は、とうとう彼の心を引き裂いたまま死んでしまった。あれから二十年が経ち、今度は叔母が彼に同じことを訴えた。お前の安全は確保してある、だから私の決断を理解して、従えと。……私は死ぬかもしれないが、お前は生き残れと。

(……またか)

 女がそのようなことを願う時ほど、恐ろしいことはない。そのことを、この二十年でチュンチュは学んだ。だから、わかる。

(叔母上は、そう長くは生きられなくとも良いとお考えらしい……)

 それだけピダムとの婚姻が政治的に危ういものであるなら、婚姻などしなければいいのに、それでも婚姻をすると言う彼女の心が、チュンチュにはよく理解出来ない。無論、政治的に彼女が望んでいることはわかる。わかるけれど、何故その恐ろしい選択をさして躊躇いもせずに終えてしまうのか、そこがわからない。きっと、これから先もわからないことの一つだろう。
 だからこそ、恐ろしかった。わからない、得体の知れないことが、恐ろしかった。人はピダムを得体の知れない存在のように言うけれど、チュンチュには、彼女の方がよほど得体の知れぬ化け物だ。

(何故、敢えて自分が死ぬことを選ぶのだろう。獣は皆、自分が死ぬことは最後まで選ばないものだ)

 時には、花郎のように、敢えて死にに行く者もいるが、それには名誉と言う確かな恩賞があるから、死ねるのだ。それがなければ、誰だって犬死などしようとは思わないだろう。

(愛とやらの為に死ぬのは、犬死と変わらない)

 そこには、名誉などありはしない。残るのは、その人を囲む無防備な人々を斬り裂く、独善的な刃だけ。
 そして、チュンチュは確信していた。ピダムは、犬死はしない男だと。

(……尤も、己の名誉などを気にする男ではないが)

 彼にとっての恩賞は、愛する女の心身と、彼女の名誉だ。つまり、その心身を手にした今、ピダムはただ、彼女の名誉の為にのみ死を選ぶはずなのだ。己の愛する女が最上の女であることを、証明する為にのみ、喜んで死ぬだろう。それは、チュンチュも理解出来る。名誉が残るなら、それは犬死ではない。
 しかし、彼女が求めるものは、きっと名誉ではないのだろう。何か、彼の理解出来ないものの為に我が身を危うくするのだろう。

『至らない身だが……お前の母がしてあげられなかったことは、私が全てするつもりだ』

 それなら、チュンチュが望むことは一つだけなのに。たった一つだけなのに、十年を経ても、その一つを彼女はまだ理解してくれない。

 ――私が即位するその時まで、どうか、私の天にいて欲しい。

 その横にどんな星が連れ添っていようが、咎め立てるつもりはない。もう、太陽だの月だのと言うつもりもない。天に輝いているものさえあれば、彼はその明かりに照らされた大地を一人で歩いていける。煌々と明るかろうが、薄暗かろうが、奈落の底に堕ちることはない。そう、彼はもう母なるものを必要としてはいないのだろう。
 それでも、天に輝くものを手放したくはない。

(だから、ピダム。お前には、お前の望む通りに、陛下の名誉の為に死んでもらわなければならないんだ)

 彼らが抱く天に輝くものは、一つだけ。
 だから、誰かがそれを攫おうとするなら、その不届き者に贈るものは、一つだけ。……例えそれが天に輝くものが望んだことだとしても、不届き者は地に在る者であって、天に輝くものではない。例え血飛沫が舞おうと、天に輝くものは、穢れなきまま、そこに在り続けることが最も名誉なことなのだから。
 もし。もし地の果てに沈んでしまいたいなら、為すべきことは一つだけ。

『母チョンミョン公主の代わりになれるのは、あなたではありません。それは、私、キム・チュンチュです。――トンマン公主。あなたは、チョンミョン公主のものは、何一つ獲ることなど出来ません』

 そう、天に輝くものをもう一つ増やせばいいのだ。彼を、天に引き上げればいい。そうすれば、太陽の代わりに無理をしてきた月は、やっと地の果てに身を横たえることが出来るだろう。……そうなった時、太陽が月を手放すかは、太陽にしかわからないことではあるけれど。






********

たまに書きたくなる意味不明チュンチュでした。←
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  1. 2012.06.16(土) _00:00:00
  2. SS(ドラマ準拠)
  3.  コメント:2
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comment

男の矜持

  1. 2012/06/16(土) 09:55:13 
  2. URL 
  3. テヤン 
  4. [ 編集 ] 

緋翠様へ

こんにちは~(^o^)/
お久しぶりです。
チュンチュ主役のこのお話、良いですね~
うっとりしながら拝読させて頂きました。
特に後半の 「彼らが抱く天に輝くものは、一つだけ」の辺りが最高です。
チュンチュがピダムを追い込んで死に至らしめた理由というか、想いがひしひしと伝わって来て。
愛憎だけでない、男の矜持の為の戦いでもあったのだと。
犬死にではなく、最高の女と知らしめる為の死なら喜んで受け入れる、そんなピダムを馬鹿にしながらも、反面リスペクトもしていたのかなぁと。
色々考えながら読める凄い面白いお話でした!
意味不明な話ではないと思いますよ~
トンピ以外の人間があの時(ピダムの乱前後)にどんな風に二人を思い、行動したのかってドラマではあまり描かれていないので、もっと読みたいなぁって思いました。
再びのチュンチュ話、お待ちしています。
ありがとうございましたm(__)m





テヤン様へ

  1. 2012/06/17(日) 16:55:32 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
テヤン様、お久し振りです!こんにちは~v東京は梅雨には珍しい晴れ模様ですね(*´∇`*)

> チュンチュ主役のこのお話、良いですね~

ありがとうございます!チュンチュの話は書く時は楽しく書いているんですが、どうも読み返すのが恥ずかしい話が多くて、これもその一つになったみたいで…(ノ∀`)(笑) なので、テヤン様に励まして頂いて、ホッとしましたv(*´∇`*)

今回書いてみて思ったのは、チュンチュの場合、トンマンやピダムとは違った意味で「耐える」ことが多かったんだな…と言うことでした。自分の力をフル活用することを許されない時期が長いと言うか…。なので、ピダムを追い込むのも、「自分の力をフル活用出来る立場(玉座)を獲るに値するのは、その野心がある私であって、その野心がないピダムではない」とも思ったのかなーとふと思いました。なんとなく(笑)

> 犬死にではなく、最高の女と知らしめる為の死なら喜んで受け入れる、そんなピダムを馬鹿にしながらも、反面リスペクトもしていたのかなぁと。

リスペクトと言うか、そう言うピダムだからこそ、自ら「陛下が本当にお前を愛していると思うのか?」と急所を突きに行ったんじゃないかなぁと思いました。トンマンもピダムも命懸けなら、チュンチュも命懸けでピダムを追い込まなければならないわけで、チュンチュの覚悟をそこまで引き上げたのは、トンマンとピダムの覚悟なんだろうな、と。
……纏めると、トン&ピとチュンチュの関係はやっぱり堪らんと言うことですね!(笑)


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