善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 蒼牡丹(チュンチュ×トンマン)

BSフジの善徳女王を見てたら、どーもトンマンとチュンチュの話が書きたくなってきました。毒気が溜まるからでしょうか。うーん…。狂おしいぐらいの衝動(?)だったので、以前書いた、『片羽根の鳥』『狂い狂い廻りつつ』のケジメ(?)的な話を書いてみました。

※この話は最終回でピダムの乱が終わった後、チュンチュが「陛下はお亡くなりになった」としてトンマンを軟禁している話です。イタイです。書いてる本人ですらワケわからん話です。要注意です。

* *


 青い牡丹――。
 夢から引き戻されたトンマンの双眸に映ったのは、現には有り得ないはずの花だった。

「美しいでしょう?」

 けれど、次いでかけられた声がこれが現実であることをトンマンに知らしめた。
 珍しく彼女の目覚めに居合わせているチュンチュを見て起き上がろうとするトンマンを制すると、チュンチュは医師を呼んでまず脈診を受けさせた。医師は市井の者であるらしく、着ている物は粗末な麻の衣だ。
 一先ず異常はなかったのか、チュンチュに頷いてみせた医師が去ったのを確認してから、トンマンは一息ついて言葉を紡いだ。

「私は……気を失ったのか」
「はい。お倒れになったと伺い、馳せ参じました。……痛みはありませんか?」
「……大丈夫だ」

 トンマンは痛くないとは答えなかった。どうせ痛みがあろうがなかろうが、大した問題ではない。それよりも大切なのは――。

「……今はまだ昼だろう?」
「はい」
「こんなところで何をしているのだ。政務に戻れ」
「用事が済めば、戻ります」

 相変わらずの口調で彼をたしなめようとするトンマンに一瞬瞳の闇を濃くしたチュンチュは、飾ってあった衣を手に取った。目覚めてすぐにトンマンが目にした、青い牡丹の刺繍が施されているものだ。
 チュンチュの微笑とは対照的に、トンマンは怪訝そうにその衣を睨んだ。美しいが香りのないつまらぬ花――即位して間もない頃に唐の皇帝から牡丹の絵を使って揶揄されて以来、彼女にとって牡丹ほど鬱陶しい花はない。ピダムは……彼はトンマンより激しく怒り、以来神経質なほどに牡丹を嫌って、トンマンに見せまいとするあまり庭園の牡丹を根こそぎ引っこ抜かせてトンマンを呆れさせたものだった。

「美しいでしょう。青い牡丹。……まるで、夢のように美しい花です」

 チュンチュがそれを知らぬわけがない。しかしチュンチュは微笑んだままトンマンを起き上がらせて、肉の薄い膝の上に衣を置いた。それは、まるで雲が晴れ渡り、掌から紺碧の穹が広がっていくような錯覚をトンマンに覚えさせた。

「考えてみれば、叔母上にこのような物を贈ったことはありませんでした。いつもいつも、似たような寝衣ばかりお召しです」

 お召し下さいますか、と結んでチュンチュは静かにトンマンを見つめた。その眼差しは、優しげでいながらも隙なくトンマンの様子を探っている。もしかしたら、トンマンが倒れたから来たのではなく……本当は、明るい場所でこの衣を見せたいが為にわざわざ日のあるうちに来たのではなかろうか。

「…………美しいな」

 一寸の沈黙の後にトンマンの乾いた唇から溢れ出た応えは、飾り気のない、率直な感想だった。
 考えてみれば、これまで十年以上もの間、贅を尽くした衣ばかりを着てきたのに、どんな衣を着ていたのかとんと思い出せない。覚えているのは肩から全身を押し潰さんとする礼装の重さばかり。最上の物ばかりを身につけてきたはずなのに、記憶に残ってるのは……どんな衣だったか覚えているのは砂漠でソファと暮らしていた頃に着ていた物と、郎徒の装束だ。公主の装束と言えば……。

「……姉上……」

 その一言に、チュンチュの目が細まった。

「……母上がどうなさいました?」
「姉上は……こう言った美しい物がよく似合っていた。美しくて、愛らしくて……姉上を見て、公主とは普通の人間とは違うんだな、と思った。話せば分かり合えるが……こう言った物に関してはどうしようもない。私はとうとう豪奢な装束に着られたまま終わった」
「……まるで、すでに死んでいるかのような口振りですね」
「そうだな。生きてはいるが、人生は終わっている」

 ふっと口元を歪めるようにして笑って、トンマンは視線を青い牡丹からチュンチュへと転じた。

「これはお前の妻なり恋人なりに贈れ。私が袖を通すには勿体ないほどに美しい品だ」
「勿体ない?」

 嘲るように吐き捨ててチュンチュは笑みを濃くした。

「いいえ、これは叔母上にこそ相応しい品です。青い牡丹が似合う方は叔母上以外にはいらっしゃいません」
「……何?」
「お召しにならずとも構いません。どうしても着て頂きたくなったら、これ以外の衣を隠してしまえば良いのですから」
「チュンチュ……?」
「では」

 それで話は全てだったのか、衣擦れの音と共に腰を上げると、チュンチュは振り返ることなく立ち去った。

「…………」

 残されたトンマンは、青い牡丹に指を伸ばし……何かに阻まれたかのようにつと手を止めた。

(…………ピダムと暮らせていたら……きっと、こんな動きにくい物は二度と見なかったんだろうな)

 チュンチュが去ったからか、気の緩みと肩を並べるようにして胸の痛みが増していく。痛みを堪える力もないトンマンは、再び夢の世界に引き摺り込まれた。





「どうだ?」

 チュンチュの前に平伏す医師は、冷ややかな下問に一筋の汗が背を伝うのを感じていた。

「恐れながら……もはや、手の施しようがございません」
「……あと如何程持つ」
「気力が絶えれば、数日内に峠を迎えられるでしょう」
「儚いものだな」

 酷薄な微笑でそう呟くチュンチュを前にした医師の面に、さっと緊張が走る。この冷徹な青年が誰であるか、あの女人が誰であるかを心得ている者が、あの女人が崩御したその時、生き長らえることが出来るのか――。保身の為にも、医師は手を尽くしてトンマンに薬を与え、滋養に良い物ばかりを食べさせてきたが、とうとう来るべき時が来たことを感じずにはいられなかった。
 ところが医師の予想に反してチュンチュは医師を責めることもなく下がらせると、顔を歪ませた。

(……一体私は、叔母上に生きていて頂きたいのか、それともいっそ、死なせて差し上げたいのか)

 始まりは、復讐だった。情を裏切り、覇業を貶めたことへの復讐の為に叔母を幽閉し、嘲笑うように身体を持った。三韓一統など関係のない、美しい庭と調度品に囲まれた部屋で、叔母の言う「犠牲にした幸せ」とやらを何一つ欠かすことなくくれてやった。欲しいと言われれば、玉でも絹でも花でもくれてやるつもりで叔母を囲った。望まれれば、愛を囁いてやった。
 それをむなしいとは思わなかった。そうすることを、彼の心が必要としていた。

(私は……叔母上を骸にしたくなかった。私がこれから歩む道を貶めたまま逝かせたくなかった)

 女の幸せ。誰かを恋い慕う幸せ。それが、三韓一統に懸ける情熱に勝るものなのだと……そんなことを言う叔母を滅茶苦茶にしてやりたかった。滅茶苦茶にして、まっさらにして、正気を取り戻させてやりたかった。あの男が残した、叔母を蝕む甘美な毒を、残らず消し去ってしまいたかった。
 けれども、気付いた。

『頭だけで、策略だけで、人を動かせると思うな』
『お前には慈悲の心はないのか。彼らには彼らの苦衷がある。王座にある者は、それを察し、受け入れる器を持たなければならない』

(慈悲……)

 それは、怨親平等――怨敵を憎まず、愛する者を縛り付けないことだと言う。護国仏教だと言いながらも、芬皇寺を始めとする寺院を建立し、仏教に接するうちに、叔母はその言葉を頻繁に口にするようになった。戦場では不退の覚悟を持ち、平時は怨親平等を貫くこと――それが覇道を行く者に相応しい姿であると、叔母は考えていた。

(だが……私はそう考えなかった)

 だからこそ、貴族達は反乱へとひた走った。あの時は、どうせ王室に忠誠を尽くすつもりなどない輩を叔母が甘やかしたが為に反乱が起きたのだと解釈していたけれども、少しずつ見えてきた。……叔母が彼らを許そうとも、後継者が許さないのであれば、彼らに未来はない。未来を摘み取る者に、どうして忠誠など誓えるだろう。
 ふっとチュンチュは笑った。苦み走った自嘲だった。

(私が欲しいのは……誰かの愛情ではない。誰かと傷を舐め合うことでもない。欲しいのは……この手に掴めるものだ。この手をすり抜けず、確かに手に入れられるものだ。そして、その中でも最も貴ばれるべきもの。……三韓一統だ)

 青い牡丹。この世にはない花。手に入ることなど出来ない花。
 彼が欲しいものは、そんなお伽噺の産物ではなかった。本当に、欲しいものは――。


* *


 そこは、血のように紅い梅の咲いている、こじんまりとした寺だった。
 衣擦れの音の代わりに聞こえるのは、小さな雀とよく肥った鶏達の囀り。耳鳴りもなく、せせらぎが優しく囀りにその音を重ねている。
 筆を手に写経をしていたトンマンは、麗らかな春の日に誘われるように外へ出た。すると、すぐに黒尽くめの後ろ姿が見つかった。

「ピダム――」

 ところが、トンマンが呼び掛けても彼は振り返らなかった。山の向こう、空の彼方をじっと見つめたまま、動かない。

「ピダム……」

 見慣れないその後ろ姿に暫し逡巡してから、トンマンはそっとその背に寄り添った。あの夜のように彼の温かさを感じたくて、腕を伸ばした。

「……ピダム」

 そうして、彼の身体をぎゅっと抱きしめて安らかな心地でその名を呼んだ、その時。

「……まだですか?」

 ――トンマンの腕を、生暖かい血が伝った。

「…………」
「まだ……待たなければいけませんか?」

 背に頬を当てたままその言葉を聞いたトンマンは、辺りの景色が変わっていくのを目を細めて眺めた。花弁が落ち、草木は枯れて、土埃が渦を巻いて沸き上がる。空からは塵のような雪が降っていた。

「……これ以上は待てないか」
「いいえ。……待ちます」
「待つのか」

 ふわりと微笑んで丸太のように動かない彼を抱きしめたまま、トンマンは目の前を落ちていく雪をふっと吹いた。そうすれば、途端に景色は小さな寺へと帰る。

「チュンチュが衣を寄越した」
「……」
「清々しい顔をしていた。いつも何かを隠すように夜にしか現れなかったのに、白昼にやって来て……私を見る、その顔が……よく似ていたんだ」

 ――姉上が、私を見た時の、顔に。
 そう呟いてトンマンは笑った。懐かしいあの顔。

「ピダム……」

 どうしてももう一つの懐かしい顔を見たくて、トンマンは初めて彼の頬に手を伸ばした。
 冷たい風に晒され続ける、氷のような肌――。
 その先にある顔を、トンマンは見ずに来た。もし、彼の顔を見たら。もし懐かしくて恋しい彼の顔を見てしまったら、きっと……二度と、夢から覚めずにいただろうから。夢の世界で夜明けを迎えていただろうから。

「ピダム、こちらを向いてくれ」
「……宜しいのですか」
「…………うん」
「――」

 弾かれたように振り返ったピダムの顔は血に塗れていた。トンマンは黒い瞳から流れる紅い涙を震える親指で拭くと、あの山道でそうしたようにピダムを抱き寄せた。

「つらかっただろう……」

 ――待っているのが一番つらいことだとわかっているのに、待たせた。他でもない、トンマンの心残りをなくす為に彼を待たせた。

「長い間待たせて……待たせてごめん、ピダム。…………本当に……本当に、ごめんね……」

 その時初めて、トンマンは夢のピダムの鼓動を聞いた。トクン、と小さく響く声を聞いた。……そして、ようやく己の身がその腕の中に溶けていくのを感じた。



* * *

エリザベートかこれ。

……と自分で自分に突っ込まずにはいられない話ですね…。

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  1. 2011.01.09(日) _23:57:20
  2. SS(ドラマ設定IFもの)
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