善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by saki

※本日二本目の記事です。


リレー連載第7弾、今回はsaki様のターンです。
今回のお話、個人的にすっごくツボなシーンが満載で幸せでございますv こう言うシーンが読みたかったんだなーと、saki様のおかげで気付けた気がします。ああ、話を進めたいけど進めるのも惜しい…!(笑)


****


昨夜、兄に大きな精神的打撃を与えたことも知らず妹は意気揚々と砂漠に客引きに出かけて行く。これが平常ならば何がなんでもどんな手を使っても引き止めようとするだろうピダムは半分魂が抜けたように妹を見送っていた。
それでも辛うじて太陽が中天を過ぎたら引き返すという約束だけは取り付けていたのは流石というべきかもしれない。


+++++


箒を片手に宿の食堂の掃除をしていた(一応、昨夜妹に言われた通り今日は宿の手伝いをするつもりはあるらしい)ピダムの頭では今ぐるぐると昨夜の妹の言葉が手を繋いで踊っていた。悪態だったとはいえ自分から振った話でこうもまざまざとトンマンと自分の考え方の違いを目の当たりにするとは思っていなかったのだ。
彼としては、妹と母と営むこの宿でずっと3人暮らしていくのだとある意味閉鎖的でそして夢のような考えを持っていたから尚更だった。あくまでも仮定の話でトンマン自身の口からも結局は嫁には行かない(行けないといった方が正しいのかもしれないが)と確かに聞いたにもかかわらず、それを聞いた時ピダムは頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けたのだ。
けれどトンマンはそんな兄の様子に気付く様子もなくソファへの贈り物に神経を注いでいたので、色糸を放り出しもそもそと自分の掛布に逃げ込んだピダムに気がつくことはなかった。


+++++


肩を落しながらも黙々と掃除を続けるピダムは傍目から見てもなかなかに異様だった。その理由を止めるのも聞かず客引きにトンマンが出かけて行ったせいだと思った客がその背に声を掛ける。それは昨日よってたかってピダムを弄り倒していたカターンの商団護衛の1人モスクだ。けれど近くにカターンや他数人の姿は無い。彼らは今幾つかの集団に分かれてそれぞれに仕事や休みをとっている最中だった。

「なぁ、ピダム。そんなにトンマンは信用ならないか?お前よりよっぽどしっかりしてるし、砂漠のことも良く知ってるだろう?」
「・・・はっ?おっさん、なんだいきなり?」
「いや、なんだじゃないだろう。お前、今どんな顔してるか分かってるか。」

・・・と黙したピダムにモスクはそら見たかとその背を叩く。が、ピダムは違うと首を横に振った。

「あぁ。悪い。そうじゃないんだ。・・・・・というか今俺がトンマンを信用してないとか言わなかったか?そんなことある訳ないだろう。あれはこの俺の妹なんだぞ。何をするにしてもま上手くやるに決まっている。しかし、それと心配するしないはまた別だがな。トンマンは頭も良いし度胸もある。機転も利く。それにこのオアシス一可愛い。いや、待て。西域や隋を併せても一番かもしれん。」
「・・・おぉい。こっち帰ってこい、ピダム。」

背負っていた暗雲は一体何処への勢いで自分の妹のことを語り出すピダムにモスクは苦笑いだ。
どうやらトンマンに関する何かで悩んでいるのは確からしいがそれと妹のことについて話すのは全くの別であるらしい。さて、一時的に浮上した気分のまま更に妹のことについて口を開こうとしたピダムはガタガタっと響いたけたたましい音に首を向けた。
宿中に聞こえたかというその音は食堂から続く厨房から聞こえてきたようだ。続いて微かに聞こえた母の声にピダムはさっと表情を亡くす。
何故なら厨房には料理用とはいえそれなりな数の刃物があるからだ。下手に転ぶなりぶつかったりしてソファに何かあってはたまらない。ピダムは持っていた箒をモスクに押しつけると何時もよりも幾分慌てた様子で厨房へと駆け込んでいった。

「母さん、無事か!?一体何やって―――」
「ピダム。ごめんね、驚かせて。でも大丈夫よ、少し届かなかっただけなのよ。」
「・・・あのなぁ。そういう時は俺に言えって、いつも言ってるだろ?俺が居なくてもトンマンに言ってくれ。頼むから。」

床に散らばった大小様々な籠の真ん中でソファはくヘタリと座り込んでいた。
籠は少し高めの棚に纏めて片付けてある。ソファの背丈では台を持って来たとしても少しばかり届かない。しかしそれをいうならばソファよりも背の小さいトンマンは尚更無理そうなものなのだが、そこはやはりというか器用にも棚に体重をかけて実に危なげなく取ってしまうのだ。そうなれば確実に取り損なうだろう母よりも妹の方に信を置かざるをえない。
ピダムはひょいひょいと籠を拾い纏めると未だ座りこんだままのソファの手を引き手近にあった椅子に座らせた。

「おい、ピダム。お袋さん大丈夫か?」
「あぁ、ちょっと籠に驚いただけだ。」

なかなか戻ってこないピダムにすわ大事かと顔を覗かせたモスクに大丈夫だと手を振る。

「ピダム。あなた、また。すみません。お客様に箒なんて持たせてしまって。」

慌てて立ち上がろうとするソファをやんわり押さえてモスクはカラカラと笑った。

「いやいや。良いですよ、ソファさん。どうせ居残り組の俺らは暇なんですから。ついでだ。外でも少し掃いてきますわ。っと、そうだ。なんか今日のピダムは元気がない。砂漠に似合わずじめついてましてね、こちとらからかいがいがない。」

カカッと笑い去って行くモスクの背に余計なことを言うなとピダムの怒声がぶつかった。


+++++


去って行く男の背に思い付く限りの悪態をついている息子にソファは目尻を下げる。
本当に困った子だというように。仮にも宿屋の息子だ。そうそう客相手にこのような態度をとる子でもない。トンマン同様、ピダムもカターンの商団護衛たちに懐いているからだ。かの商人の人徳がそうさせるのか彼の率いる商団員はおおらかで人の良い人間が多かった。

「それはそうと母さん。籠なんて何に使うつもりだったんだ?」

見下ろされる瞳にソファは勝手を指差した。

「昨日、カリの材料をいただいた中にいくらか豆もあってね。少し戻してお昼にでも出そうかと思って。」

この位の袋にひとつあるの、と示されたのは小さめだが両の手で抱えるほど。
ピダムは黙ったまま籠をひとつ持って勝手に寄るとソファが指した袋からざらざらと豆を移して戻ってきた。

「他には?」
「そうね。お芋と鳥の炊合わせでもしようかしら。」
「芋は裏だな。鳥は干してあったのがあったよな?」

確認を取られたのでソファが頷くとピダムは豆の入った籠を渡し外に出ていった。その背を見送ってソファは立ち上がり流しに籠を置くと水を注ぐ。暫くおいておけば水を吸って元の色つやを取り戻すだろう。

「母さん、芋こんだけありゃ足りるだろ。鳥は一応3羽とってきた。足りなきゃいってくれ。」
「ありがとう、ピダム。」

くるりと包丁を回し芋をひとつ取る。ピダムは手慣れた手つきでそのまま皮を剥き始めた。あっという間に3つ4つと白い姿になり別の籠の中へと放り込まれていく。
ソファも椅子に戻り包丁を手に取る。ピダムに比べると少し遅いがそれでも澱みなく芋は次々と剥かれていく。昼食の下ごしらえを始めて暫くピダムが何かを言いたそうに時折ソファの顔色を窺いだした。

「・・・・・なぁ、母さん。」
「なぁに?」
「・・・・・・あのさ。」
「えぇ。」
「・・・・・・・・・」
「どうしたの?」

ピダムが口ごもるなんて珍しい。よほど言い難いことでもあるのだろうかとソファは手を止めピダムを見る。
ピダムはクルクルと芋を剥きながら口をもごもごさせていた。傍らにある籠に放り込まれた芋は既に山になり今にもこぼれ落ちそうだったがピダムはそれに気付いた様子もない。ソファは苦笑して彼の名を呼んだ。

「あのさっ!母さんはトンマンが嫁に行くと思うか!?」

と、同時にガバッと顔を上げたピダムと目が合う。その言葉は奇しくも昨夜カターンに言われたことと似ていてソファは自分の表情が強張るのを感じた。
けれどそれはほんの僅かな時間だ。瞬きするほどの時間もないほどの。昨夜とは違いその言葉に過去が過らなかったのは余り見たことのないピダムの表情を見たからだ。

「・・・だからさ、トンマンが言ったんだ。『嫁には行かない』って。俺や母さんが心配だから嫁には行かないって。でも、俺たちが大丈夫だって思ったら嫁に行くって。なぁ、母さん。俺はずっとこの宿を母さんとトンマンと続けていくもんだと思ってた。ずっとずっと3人で暮らしていくんだと思ってたんだ。・・・・・・・・・でも、トンマンの考えは違うんだ。違ったんだ。なぁ、母さん。そりゃ、俺は馬鹿やってることもあるけど兄貴だし。妹に頼られたいとか守りたいと思ってる。けど、もしそれでトンマンが離れて行くことになるんなら・・・・俺、どうしたら良いんだ?」

それは今にも泣き出しそうな歪んだ顔。ソファは立ち上がるとそっとピダムを抱き締めた。トントンっと軽く背も叩いてやる。落ち着くように、ゆっくりと。

「・・・そうね、ピダム。トンマンもいつかはそうなるのかもしれないわ。女の子ですもの。」

その言葉に、あぁ。母も俺とは違う思いだったんだとピダムはソファの腕の中で俯いた。ソファの心臓の音がすぐ近くから聞こえる。トクン、トクンっと。
母の言葉は彼が望んだものではなかったけれど、それでもこの腕の中は心地良くとても安心できた。だからピダムは存外素直に彼女の声を聞いていた。

「でもね、ピダム。あの子も私もあなたの家族なの。たとえあの子に何があっても私に何があったとしても、それは変わらないわ。だからあなたはあなたのままで思うようにすればいい。」

それに、とソファは一度ピダムから身を離し彼の顔に手を添え目を合わせるとニコリと笑った。

「あなたがそう簡単に認めるとも思えないわ。」

その言葉にピダムは目をしばたたかせる。が、すぐに誰ともつかぬその相手に(本音をいえば永遠に現れてくれなくても一向に構わない)向かってピダムはニヤリと口角を上げると不敵に笑んだ。

「当たり前。トンマンは俺の妹だからな。そんじょそこらの下手な奴には当然やらん。俺に勝ってからにしろと叩き出してやるさ。」

どうやらいつもの調子を取り戻したらしい息子にソファは苦笑する。そしてもう一度ピダムを抱き締めた。

「いつか本当にそんなことをしたらトンマンと喧嘩になるわね。だからほどほどにしておきなさい。わかった?私の可愛い困った息子。愛しているわ。」
「俺は俺のまま、思うようにしろって言ったの母さんじゃん。」

決して止めろとは言わない母にピダムはからりと答えた。胸の中にあった渦巻く感情はだいぶ影をひそめていた。
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  1. 2010.09.20(月) _22:57:06
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