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善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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お題09.今日は僕が作るよ

お題08よりも先にこちらが浮かんだので、『お題09.今日は僕が作るよ』を。
これはゲームのアシュヴィン云々と言うより、管理人の好きな戦国武将さま方のエピソードを参考にした感じですが…。


***


 東の王とも呼ばれる、とある部族の長が来ると言う。それも、アシュヴィンの即位を祝う為に。
 そんな知らせが千尋の下に届けられたのは、そのアシュヴィンが皇の位についてからすでに一年は過ぎた頃の事だった。
 無論、今さら何を、とは言えない。
 一年もの間アシュヴィンは、幾ら八雷とは言えただの次男坊であり、父を手にかけ、兄を追い遣った彼への服属を良しとせぬ常世の者たちを抑える為に東奔西走していたし、千尋もその手伝いと、謂れ無き中傷を鎮める為に苦労していた。
 このように不安定な事極まりない国に来る物好きな長もそうはいないだろうし、裏を返せば、東の王が腰を上げたと言うことは、それだけ常世の情勢が対外的に見ても安定している事を示していた。
 要は、喜ばしい事なのだ。
 当然、若き皇妃である千尋はまだ苦しい財政の中でも東の王を歓待できるよう心を尽くすつもりでいた。もちろんアシュヴィンもそのつもりである。
 が、一体どうやってその王を喜ばせればよいのか。
 困っていた千尋は、アシュヴィンに意見を聞こうと、夕暮れの根宮を彼を求めてさ迷っていた。

「台所…?」

 ところが結果として得た答えは、千尋の予想を大きく裏切っていた。

「なんだ、何か用か?」

 そして、今。千尋は包丁片手に鮮やかな手つきで魚を捌いていく夫を前に、呆然としていた。

「今度の持て成しは贅を極める。…まあ、この苦しい財政状態ではありがたくない話だが、持て成せば、その分、東の俺への…しいては常世への印象が良くなるからな」
「う、うん」

 結局、千尋から用件を聞いたアシュヴィンは、魚を捌き、それを焼きながら、千尋に話を始めた。その間も、千尋の意識はついついアシュヴィンの手元に引き寄せられてしまい、彼女はその度に首を振ってアシュヴィンの話へと意識を戻さなければならなかった。

「とは言っても、好印象だけでは足らん。前皇の代で途絶えてしまったかの国との交易を俺は再開させたい。それも、こちらに分が良いようにしてな」

 話しながらも彼の手は止まらず、何やら今度は汁物を作り始めている。

「何せ、俺は父と兄を屠った野心家だ。向こうもある程度警戒しているだろう。馬鹿に見せようとは思わんが、これを機に、少し甘く見られたい」
「甘く…?」
「そう。野心家の、向上欲旺盛な若き皇と交易など、向こうに警戒心ばかり持たれそうだからな。それでは困る。俺は対外的には、『家臣に祭り上げられた人の良い次男坊』でありたいのさ」

 その家臣を焚きつけた張本人が何を、と千尋は思わないでもなかったが、どうやらアシュヴィンも千尋の思うところはわかっているらしい。「だから」と付け加えると、菜っ葉を細かく刻み始めた。

「俺の趣味に料理と言うものがあるんだ」

 その言葉に驚いたのは、千尋だ。

「しゅ、趣味だったの!?」

 趣味と言うが、千尋はこれまでこの夫が台所に立つ姿など見たことが無い。
 千尋は幾度かアシュヴィンに乞われて「昔いた国の料理」と言うものを作ったが、アシュヴィンはその料理に対して口煩い事は言わなかったし、「美味しい」と言う以外は至って普通の反応だった。むしろ、リブの方があれこれと不思議がって聞いてきたくらいだ。
 その夫の趣味が、料理だとは。
 呆気にとられている千尋に、アシュヴィンはにやにやと笑っている。

「何だ、意外か?」
「き、決まってるでしょう!そうなら、早く言ってくれればいいのに…」

 私の作るもの、不味いものもあったでしょ。千尋が肩を落とした。
 が、アシュヴィンは千尋のその様子に一度手を止めると、彼女に触れぬまま、そっとその耳元に顔を寄せた。

「お前にだけ、良い事を教えよう」
「えっ?」
「…俺は、『饗応の為の料理』を作るのが、趣味なんだ」

 その言葉の意味を、千尋は一瞬はかりかねた。
 ところがアシュヴィンは言うだけ言うと、再び料理を再開してしまう。後は自分で考えろ、とでも言いたげに。
 アシュヴィンは私的な場では千尋に甘い事この上ないが、こう言った、政治的な問題が絡んだ事については、極力彼女自身に考えさせるようにしている。それが、彼が千尋に求めているのがただの女の可愛さだけでなく、その実力も含まれている事を千尋に教えていて、彼女も期待に応えようと奮闘する。

「…あ」

 そうして考える事、数秒。
 千尋にも、アシュヴィンの言わんとしている事が理解出来たらしい。

「…って事は、私も何か一品作る?」

 問いかけると、アシュヴィンは満足そうに唇の端をつり上げた。

「さすが、我が皇妃殿は察しがいい」

 ご褒美とばかりに降ってきたのは、『優しい皇』にしては、些か強引なキスだ。
 しかもそれをたっぷりと楽しんだ後、その『人の良い皇』は再び『饗応の為の料理』に熱中し始めた。あれこれと食材を引っ張り出しては、これがいい、あれは駄目だなどと呟いて、メモまで取っている。凝り性な彼の人らしく、例えそれが嘘八百な表面の為であっても、手を抜く気はないらしい。

「…これのどこが、人の良い次男坊、なのかしら」

 結局、椅子に座ってその様子を眺める事になった千尋は、少しばかり血色の良くなった頬に手をあてて、ほう、と溜め息をついた。
 そうして、一体自分は何を作ろうか、と決して多くは無いレパートリーの中で、知恵を絞った。
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  1. 2008.10.24(金) _14:30:48
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