善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 昼下がりのひと時

ええと、今回はピダムの剣ネタと、トンマンの短気な腹黒?ネタな感じです。(言葉が…)
では!


* * *


 雪が溶けて流れた小川に花弁が一片、二片と散っていく。つい先程までその花弁を追い掛けようとしていたヒョンジョンは、今では花吹雪を見つけて喜んでいた。

「ぅあっぱ! ぱ! ぱぁ!」
「そうそう。ヒョンジョン、くるくる綺麗だなあ」

 そのヒョンジョンが腕の中から落ちないよう気をつけながら、トンマンは剣の稽古を続けるピダムへちらりと視線をやった。その瞳は雪解けのせせらぎと同じように澄んで、静かだ。
 一方、ピダムはと言えば、散る花弁を舞い上げるように跳躍と回転を繰り返している。剣筋の美しさも含めて、その姿はまるで一服の絵のようだった。
 ――同じ稽古でも、ユシン公とは随分と違うものだな。
 年齢を感じさせない翔ぶような姿を見ながらふと可笑しさが込み上げてきて、トンマンは小さく笑った。ひたすら岩を打ち下ろすユシンの修行が目に焼き付いているトンマンとしては、何度見てもピダムの修行は真新しく、また面白く見えるのだ。

「うっあ、ぱぁ、ば!」

 それはヒョンジョンも同じようで、雪が溶けてからと言うもの、毎日のようにピダムが稽古をする様を見せるようねだった。さらに近頃ではピダムの真似をしているのか、今もピダムが動く様子を見ながらブンブンと手を振り回している。
 母親に似ればあまり剣の腕は期待出来ないと思っていたが、この様子だとピダムのような……あるいはムンノのような剣の達人がまた一人生まれるのだろうか。きゃっきゃきゃっきゃとふくふくとした顔に満面の笑みを咲かせているヒョンジョンを見詰めて微笑むと、トンマンはそっとヒョンジョンに話し掛けた。

「もう少し大きくなったら、お父さんとお稽古しような、ヒョンジョン」
「っぱ! う、ぶぶ」

まだヒョンジョンは言葉は正確に理解してはいないようだったが、母が楽しそうなことはわかる。母の腕に抱かれて父の剣舞を見ると言う最高の贅沢を心行くまで堪能するヒョンジョンには、この瞬間こそがまさに春爛漫だった。





 ヒョンジョンはそうしてピダムの剣舞を楽しんだ後は、興奮して騒いで疲れるからか、いつも決まって昼寝をする。その日もその通りのようで、トンマンがお乳をあげながら寝かしつけていると、柔らかい胸元に埋もれたまま、大してぐずることもなくヒョンジョンは眠りについた。

「幸せそうに眠ってるなあ」

 そんなヒョンジョンの顔を、身体を拭い終わったピダムが覗き込む。つん、と日に焼けた指がまだ白い頬をつつくと、母の胸に逃げ込むようにヒョンジョンはもぞもぞ動いた。

「ピダム、せっかく寝ついたんだから、起こすな」
「起こさないって。ただ、羨ましいだけ」

 何が羨ましいかは、聞くまでもなかった。すでに何度かそのことで喧嘩もしているのだ。
 よって今回もトンマンは、ヒョンジョンを撫でた後トンマンの胸の際に口づけをしたピダムに呆れた様子で吐息を漏らすと、小さな息子を下ろすべく、巨大な駄々っ子に背を向けた。

「トンマン」

 しかし、一日のほとんどを息子の世話に費やしているトンマンとは違って、朝から晩までありとあらゆる家事をこなしているはずの巨大な駄々っ子には、生憎と昼寝は必要ない。ついでにトンマンよりも遥かに元気の余っているその駄々っ子は、彼女も息子と一緒に昼寝を始めてしまうのではないかと危惧しているのか、トンマンが寝た子を起こさぬように恐る恐る息子を寝台に寝かしつけたのを見届けるや否や、ガバッと後ろから抱き着いた。正面からいかないのは、気配を悟ったトンマンに睨まれるのを怖がっている為だ。
 トンマンはそんなピダムに構っているどころではなく、まずは緩みきった袷を直すことに気を取られているようだったが、それすらもピダムが阻もうとするものだから、徐々に苛々としてきたらしい。

「ピダム、一度離れてくれ」
「もうちょっとだけ」
「駄目だって。ヒョンジョンが寝ている間にやりたいことがあるんだ」
「私もヒョンジョンが寝ている間にやりたいことがあるんだけど」

 話を続けながらも、ピダムは益々トンマンに引っ付いている。ヒョンジョンに影響されてか、近頃のピダムの甘えん坊振りには拍車が掛かっていた。

「ピダム、駄目だってば!」

 やっとのことでトンマンが引き剥がすまでにかなり手間はかかったが、駄々っ子の割には臆病なピダムは、トンマンが本気で怒る前に渋々彼女を解放した。

「何? したいことって」
「弓の稽古だ」

 さも当然とばかりに箪笥から袴を取り出して髪もきりりと結い上げるトンマンを暫し呆然と目で追ってから、ようやっとピダムは我に返って着替えに行こうとするトンマンを押し留めた。

「弓? どうして?」
「どうしてって……肩が凝ったから、久し振りに弓の稽古がしたくなったんだ。ピダム、暫くヒョンジョンを見ていてくれ」

 泣き声が聞こえたら戻ってくる、とさっさと出て行こうとするトンマンは、ピダムが何故トンマンを止めようとしているのかさっぱり理解していない。

「でももう長らく弓を握ってすらいないじゃないか。危ないよ、いきなり」
「うん、だから始めは矢を撃たないようにする。肩を解さないといけないし」
「いや、そうじゃなくて、ただでさえ疲れが溜まってるんだから……ほら、肩を解すなら、私が解してあげるからさ」
「大丈夫だ。せっかくこんなに晴れてるんだし、家の中に篭ってないで、ちょっと体を動かしたい。いい昼下がりが勿体無いからな」

 このままではせっかくヒョンジョンが寝て、トンマンも元気そうなのに、離れ離れになったまま昼下がりのひと時が終わってしまう――。それは勿体無さ過ぎると切羽詰ったピダムは、問答無用でトンマンを再び抱きしめた。

「ピダム?」

 しかしトンマンは、そんなピダムを抱きしめ返すのではなく、よしよしと頭を撫でるばかり。……ここ最近、トンマンはピダムの宥め方とヒョンジョンのあやし方を混同している節があった。

「なんだ、一体。昨夜、怖い夢でも見たのか?」
「いや、そうじゃなくて……」

 ヒョンジョンじゃないんだから、と若干肩を落としつつ、くじけそうな何かを精一杯立て直して、ピダムは少しだけ腕の力を緩めてトンマンと目を合わせた。雰囲気も何もあったものではない以上、ここまでくれば目に物を言わせるしかない。

「……昼下がりの一時に出来ることって、他にもあると思うんだけど」

 けれどもトンマンはそんなピダムをきょとんとした瞳で見返した後、ようやっとピダムの言いたいことを悟ったのか、仄かに苦笑してピダムの頬を包み込んだ。共に暮らし始めた頃とは少し違う甘さを含んだ香りが、ふんわりとピダムの鼻腔を擽る。

「ピダム……」

 ――が、ピダムがぼーっとその優しい香りに夢中になっていられたのは、ほんの数秒のことだった。

「お前は毎日修行をしているのだから鬱屈とすることもないだろうが、私はこの半年、運動と言えばヒョンジョンを持ち上げて、抱えるぐらいしかしていない。このままだと肩も背もおかしくなりそうだ。今すぐ体を引き締めたい」

 それは言い換えれば、ピダムがいつまでも若々しい体を維持しているのに対し、ろくに体を動かしていない自分はこのままではどんどん見苦しくなるばかりだ、そんなの嫌だ、と言うトンマンにほんの一欠片残った女心の表れだったが、妙なところで鈍感な彼女の夫は、妻の言いたいことを少しも理解していなかった。

「じゃあ、一日だけでいいから、ヒョンジョンを宮医に預ける? そうしたらお互いにやりたいことが全部出来るし――」
「ピダム!!」

 そしていつも通り、またしても彼は妻の堪忍袋の緒の強度を試すようなことを言い放ってしまっていた。

「何を言ってるんだ! ヒョンジョンを一日誰かに預けるなんて、そんなことを考えていたのか!?」

 そんなことをしたらヒョンジョンは寂しがって一日中泣き明かすに決まってる、と続けて叫ぶトンマンを前にして、ピダムはようやく失言に気付いて青くなって謝り倒した。

「ご、ごめん、預けたいなんて思ってないから」
「じゃあなんでそんなことを言い出すんだ! 父親なのに、一日息子と会えなくても構わないの!?」
「と、トンマン、起きる、起きるって……!」
「一日自由に過ごしたいんだったら、ピダム、お前が出て行け!!」

 ……その一言にピダムが霹靂に遭ったかのように打ちのめされた瞬間、火がついたようにヒョンジョンが泣き出し、穏やかな昼下がりの一時は、一転して修羅場へと変わった。両親の不和と殺気立った母の様子にぎゃんぎゃんヒョンジョンは泣き喚いたし、ピダムはふらふらと家の外に出て行き、やっとのことでヒョンジョンを泣き止ませ、腹が立ったからと言って言い過ぎたと反省したトンマンが息子を抱えたまま探しに来ても尚、広大な庭の一角で蹲っている。

「ピダム?」
「…………」
「あの、出て行け……なんて、本気じゃないぞ。ごめんね、つい興奮してしまって……」
「あぶぶぁ?」

 しゃがんでピダムの隣に座ったトンマンを援護するようにヒョンジョンも父の髪を掴んで引っ張ったが、ピダムも本気で落ち込んでいるらしく、反応がない。この様子では、泣きもしただろう。
 だがこれでも、初めて大きな喧嘩をした頃に比べればマシになっていた。以前は、喧嘩をしただけでピダムは裏山へと去ってしまい、酷い時は日が暮れるまで帰ってこなかったのだ。日が暮れれば帰ってくるのは、トンマンを一晩一人にしておいたら暴漢か獣に襲われるかもしれない、と危惧しているからで、戸の外で番犬宜しく物音一つ立てずに夜を明かしていたこともあった。

「ピダム、中に入ろう?」
「あぶ、ぶぁば!」
「…………」

 しかし、「ピダム、お前が出て行け!」の衝撃は生半可ではなかったらしい。二人掛かりで説得してもなかなか動き出さないピダムに困り果てたトンマンは、よいしょ、とヒョンジョンを抱え直すと、ピダムの手に自分の手を重ねた。もう日が翳ってきた為か、その手は少し冷たくなっている。ところが。

「…………このままだと、私は風邪をひくぞ」
「!」

 明らかに自分の手の方が冷えていると言うのに、その一言にピダムは勢い良く面を上げた。

「寒気がするの? 大丈夫? ほら、ヒョンジョンは私が抱くから、中に入って上に何か着ないと!」

 流れるように捲くし立ててヒョンジョンをトンマンから取り上げると、ピダムは白い繊手を鷲掴みにして家の中へと向かった。――それを見ながら、トンマンはこの手が有効なのか、とまた一つ夫の操縦方法を覚えて満足げに微笑んだ。



* *

いつも通り手間がかかる夫で以下略。
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  1. 2010.10.11(月) _15:35:14
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
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