善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 羽衣女房3

イルジメ二話完全版、後半だけ見ましたがなかなか面白かったですv またじっくり見よう。

お返事は後程! 拍手もコメントもお待たせしてしまってすみません…!


* * *


 「殺生はいけない」と諭すトンマンに渋々従いテナムボをその部下ごと追っ払ったピダムは、家に入るやすぐさまトンマンを隅々まで見回し触って、何かおかしなところはないか確認し始めた。

「大丈夫!? あいつに触られたり撫でられたり変なことはされてないよな!?」
「ピダム、大丈夫だ。何もされていない」
「あの野郎、次に会った暁には二度とこの家に近寄らないようよーくわからせてやらないと……!」
「え?」

 鬱陶しいほどしつこいその手を大人しく受けていたトンマンは、しかし、やっと落ち着いたらしいピダムがテナムボへの怨みを口にした途端に不思議そうにピダムを見つめた。

「どうしてもうここへ来てはいけないんだ? 私の初めての客人だ。今日は急用があったのかあっさり帰ってしまったが、今度はちゃんと話を――」
「駄目だ!!」
「何故?」

 トンマンは心底ピダムの怒りようが疑問であるようだった。ピダムに鎮静作用があると言う茶を注いで飲ませながら、可愛らしく小鳩のように首を傾げている。

「私を訪ねて来た者の話を聞くことの何が、そんなにお前を怒らせる? お前を訪ねて来る者は、お前と話をするのに」
「えっ? だって、それは……」
「それともさっきの人間はお前の仇か? ならば、私も妻としてあの者と一戦交えなければ」

 初めてピダムと出会った時、雷撃を落とす練習をしていた勇ましい見習い天女は、シャキッと背筋を伸ばして、眉間に皺を寄せてピダムを睨んだ。けれどもそれすら愛らしく見えるほどにその天女に惚れ込んでいる彼女の夫は、ひしと妻を抱きしめて頬擦りし始めた。

「ピダム? どうした、寒いのか?」
「いや! 可愛い可愛いお嫁さんが可愛くて可愛くて嬉しいんだ」
「うん?……文章がおかしなことになっているぞ?」

 益々顰められたトンマンの眉間に唇を落とすと、すっかりテナムボへの怒りは他所へ押しやったらしいピダムは、くすぐったそうに身を捩るトンマンを抱きしめあちこちに愛情の証を残していった。花が雨に濡れるように防ぎようもないその口づけを受けながら、トンマンはほんの少しだけ先刻彼女を訪ねてきた青年のことを考えた。
 ――私に用とは、一体何だったのだろう?
 そうは見えなかったが、まさか姉の使いだろうか。いつも出歩いてばかりとは言え、さすがにこんなに音沙汰がないことも珍しい。姉が心配しているのだろうか。

「……トンマン?」

 トンマンの意識が自分ではなく他の何かに向けられていることに敏感に勘付いたピダムが、探るように眼を細めているのに気付くと、トンマンはふっと笑ってピダムの頬に指を滑らせた。

「いや……そろそろ、姉上に連絡を取らなければならないと思ったのだ」
「えっ?」

 夫婦となってから……いや、出会った時から、トンマンは一日一回は「姉上」と口にしている。それは事実だったが、それらは「姉上がそう言ってた」だの「姉上が教えてくれた」だのと言った類いのもので、その姉と接触しようとするのはこれが初めてのことだ。
 ――実家が恋しくなるとは、夫が嫌になったのか。
 ピダムの背を冷たい汗が伝った。

「トンマン、なんで連絡なんかする必要があるんだ? トンマンに用があるなら、向こうから捜しに来るだろ?」

 普通の夫婦ならば、夫は妻の実家に挨拶ぐらいはするものなのだが、自分がしたのは略奪婚だと言う自覚があるピダムは――勿論、それを悪いとは思ったことはない――トンマンの実家、つまりは人間ではない人々に対し、本能的に警戒心を抱いていた。人間なら彼の敵ではないが、相手が刃の通じない連中ならば、用心に越したことはない。
 いくら試しても燃やすことも斬ることも出来ず、結局は隠すしかなかった羽衣のことを思い出す度、ピダムの危惧は一層強まった。

「……まあ、それもそうだな」

 ピダムの焦りをわかっているのかいないのか、トンマンはにっこり笑うとよしよしとあやすようにピダムの背を撫でた。


* *


 さてその頃、命からがら逃げ出したテナムボは、部下達となんとか一息ついていた。

(いっ……一体、何者だあやつは……っ!?)

 天女疑惑のある妻よりも、あの尋常ならざる腕前の夫の方がよっぽど人間離れしている――。徐羅伐十花郎として最上の武に接してきた彼にとって、たかだか農夫だか樵に命の危機を感じるなど、この上ない衝撃だ。それでもなんとか呼気を整えながら拳を握った時、ふと掌に硬い感触がしてテナムボは訝しげに拳を開いた。

「これは……」

 そこには、立ち去り際に無意識の内に拾っていた火珠があった。あの男が何者か知りたくて、考える前に手を伸ばしたのだろう。
 火珠はあの家と同じく、ただの村人が持つには贅を凝らした品であるように見えた。詳しいことは父に聞いた方が早いかもしれないが、武芸に傾倒しているテナムボにでさえ、火珠を彩る石や飾りは大宮(王の宮殿)にあっても遜色ないように見える。
 そうして何とはなしに火珠をひっくり返した時、そこに彼が会いに行った女人の顔が映った為に、テナムボは目を丸くした。





 その火珠を持って急ぎミセンの元へ取って返したテナムボは、ミセンに事の成り行きを説明すると、火珠を父へと差し出した。一時その姿は見えなくなったものの、そこには再びあの女人の姿が映っている。ちらちらと男の手が入るところを見るに、今は夫婦で過ごしているのだろう。

「…………」
「父上、やはりこの女人は只者ではないようです。確証はありませんが、天女かもしれません」

 生真面目に意気込むテナムボとは対照的に、ミセンは難しい顔をして黙りこくったままだった。孔雀の羽根をあしらった扇を持つ手が止まっていることからして、真剣に思考を練っていることはまず間違いない。
 ……理由はどうあれ、父の真摯な姿を目の当たりにして、テナムボは少しホッとした。
 けれどもその安堵も束の間、ミセンはバサバサと大仰に自らを仰ぎ始めると、いつも通りの高笑いをした後、口の端を片方だけ上げて笑った。

「どうやら夫婦仲は良いようだな。だがそれよりも、この女の美しさ! こんな火珠からでもわかる肌の艶、滑らかなぬばたまの黒髪、豊穣の美!! これだ、これぞまさに私の求めていたものだ。例えこの女が天女ではないとしても、この女ならば最後の女にしてもいい」
「……は、はい」

 あれ、やっぱり天女探しなんてしない方が良かったんじゃないか、と一瞬過ぎった疑問を頭を振って飛ばして、テナムボはそっとミセンに続きを促した。

「あの、父上、それでは……」
「エヘン、そうだな、そろそろテナムボ、お前も夜這いの仕方の一つや二つ、覚えても良い頃だ。今回はこの父自ら指南してやろう」
「よっ……夜這い、ですか……」

 しかしミセンが夜這いと口にした時テナムボの頬に差したのは朱ではなかった。むしろ真っ青になって、テナムボはそれは止めた方がいいと率直に反論した。……夜這いなど、あの夫がいる限りは百人単位の軍でも連れて行かない限り難しそうだ。

「何? そんなに獣染みた男なのか、この女の夫は」
「獣染みた……と申しますか、とにかく国仙にも劣らぬ腕前であることは確かです」

 国仙ムンノと並ぶと言われては、ミセンとしても無茶は出来ない。大きな溜め息を溢すと、戸棚を指差してそこを開けるようテナムボに促した。

「父上、これは……」
「催眠剤だ。それを酒に溶かしてその野獣に飲ませ、眠った隙にこの美女にお目にかかろう」

 上手くそやつに酒を飲ませろ、と息子の肩を掴んで囁くと、ミセンはいそいそと鏡で自分の顔を確認し始めた。どうやら、美女に逢う以上、きちんと身支度は整えておきたいらしい。

「……はい」

 手にした丸薬を握りしめ、テナムボはしっかりと頷いた。


* *


 それから三日が経った。
 そしてトンマンに客人が現れた翌日やっと火珠をなくしたことに気付いたピダムは、その日も火珠が見つからなかったことを嘆いていた。昼間、いつものように村人達からせしめた……もとい、もらった酒を飲みながら、ずっと妻に慰められている。

「ピダム、そんなに落ち込むな。火珠がなくても、私がこの通り元気なのはわかるだろう?」
「でも……私がいない間にまたこの間みたいな悪漢が来たら、どうしようかと思うと……気が気じゃないんだ」

 いつの間にやら悪漢扱いされ、テナムボとしては抗議もしたいところであったことは間違いないが、トンマンは肯定も否定もしない。ただ、悪漢とやらの定義は何なのだろうなあとぼんやり考えながら、ピダムより速い調子で淡々と杯を傾けていた。
 ピダムもそれに気付いたのか、こちらは酔って頬を紅くしながら、こてんとトンマンの膝に倒れ込んだ。

「どうした? どこか痛いのか?」
「ちがうちがう……。それよりさ、トンマンってどんだけ飲んでも酔わないよな。天女さまだからか?」
「うーん……どうだろう。昔は酔って姉上に叱られることもあったのだが……」

 ――もしや、いつの間にか私は見習いではなく、一人前の天女になったのだろうか!?
 はたと思い至ったトンマンは、輝くばかりの笑顔でピダムを見下ろした。

「ピダム、どう思う? 私は一人前の天女になったと思うか!?」

 ところが膝の上から返ってきたのは、鼾混じりの寝息だけ。

「ピダム? 寝たのか? 床の上で寝てはいけないぞ」
「……」
「ピダム、ピダム」
「かー……」

 ぺちぺちトンマンが頬を叩いても、ピダムが起きる気配はない。どうやら相当深い眠りに就いてしまったらしい。
 全く困ったものだと杯を置くと、トンマンはピダムがいつも彼女にするようにピダムを抱えて持ち上げようと踏ん張った。……が、一人前の天女にも怪力はないのかあるいはまだ半人前なのか、何度試してみても少しも持ち上がらない。ではそれならとピダムの両足を抱えてその身体を引き摺ろうと試みた時、ほとほとと戸が叩かれた。

「こんな時間に客人とは珍しいな。道に迷ったのか?」

 警戒心と言うものに乏しいトンマンはあっさりとピダムの足を下ろすと、小走りに玄関に駆けていき、戸を開いた。

「何用だ……ん?」

 そして戸の外に立っているテナムボを見て、長い睫を瞬かせた。暗いこととテナムボの格好が違う為に刹那わからなかったが、暗がりでも白く映える美貌の青年はまだ記憶に新しい。

「お前は、確か、この前の……」
「覚えているのか」
「ああ。夜道をわざわざご苦労なことだな。用件はなんだ?」

 嬉しそうに眦を下げたトンマンは、ふんわりと淡い光を纏い輝いている。昼間はまだしも、夜になればその光は顕著で、テナムボもその光を見てトンマンが天女だと確信した。それと同時に、この邪心のない天女を父の悪癖の餌食にすることに躊躇いが湧いたが、待ちわびている父を裏切るわけにはいかない。
 一度深く呼吸をして心を落ち着かせてから、テナムボはトンマンに頭を下げた。

「あなたを待っている人がいる。私と一緒に今すぐにその人に会ってくれないか?」
「今すぐに?」
「今すぐにだ。案じずとも、朝までには帰れる」

 ……かどうかは彼の父親次第だが、薬の効力が切れるまでに帰さなければ、野獣の夫が何をするかわかったものではない。父には申し訳ないが、あの夫と戦う為に郎徒達だけでなく兵まで引き連れていくなどと、さすがに勘弁してもらいたい。

「そうか、急を要する用件なのだな。わかった、ピダムに置き手紙を書いてくる。起きた時私がいなかったら泣くかもしれないからな」

 暴れるの間違いではないかと口を挟みたいところを堪えて、テナムボはトンマンが大の字になって眠る夫に「いってきます」と囁くのを見守った。
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