善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 羽衣女房4

saki様リクエストの「絵姿女房のトンマン&ピダム版」四話目です。
今回は六話完結になりそうな予感が…。


* * *


 トンマンを連れた一行は、目立たぬように篝火は最小限に抑えながら、一路、とある館を目指していた。そこは、さすがに太守の館で何か騒動があっては不味いと考えたミセンが出入りの商人ヨムジョンに用意させた館で、ミセンが人妻と逢い引きを重ねる時の為の館と言ってほぼ間違いはない、と言う場所だ。
 さて、テナムボが用意した輿に乗ったトンマンは、今からそのような場所へ行くとは考えもせず、にこにこ笑っている。それよりも初めて乗る輿の揺れが面白いらしく、機嫌良くテナムボに話し掛けていた。

「私に会いたいと言うのは一体誰なのだ? お前の友か? 家族か?」
「父だ」
「そうか。もしや、話とは人の親としての心得についてだろうか」

 ――もしそうなら、私も近い将来人の親になる予定なのだから、しっかり話を聞いておこう。トンマンは心の中でうんうんと頷いた。
 そして、そんな、あまりに無邪気なトンマンと接している内に、テナムボの口も軽くなってきたらしい。

「あの」
「なんだ?」
「私は、あなたが天女だと聞いたのだが……それは、真か?」

 トンマンは思いもよらぬ問いに幾度か瞬いたが、すぐに柔らかく笑って頷いた。

「ああ、私は天女だ。ピダムから聞いたのか?」

 その答えをはぐらかしながら、テナムボはとりあえずやれることはやったと安堵の息を吐いた。


 館に着いて輿を降りたトンマンは、やはり何の疑いも抱かずにテナムボについて行く。通された部屋の豪勢な設えを見ても、少しも狼狽えることなく、彼女を迎えたミセンを見た。

「私に話があると言うのはお前か?」
「そうですよ」

 ミセンはトンマンの口調にも怒る様子はなく、まるで公主にでも接しているかのように丁重にトンマンを座らせると、早速テナムボを追っ払った。生真面目ではあっても、女慣れしていない口下手な息子がいては、何が起こるかわかったものではない。

「よくぞお出で下さった! ささ、まずは一献。私のもてなしを受けて下さい」
「ああ」

 ちょうど夕餉を終えてから時間が経っていたこともあって、トンマンはミセンが勧めるままに酒を飲み、たっぷりと用意された食事に箸をつけた。
 しかも、一口食べてみればなかなかに美味とあってか、ミセンのことなど忘れたかのように立て続けに皿を空にしていく。あまりに見事なその食べっぷりにミセンが呆気に取られている間に、その細い身体のどこに入るのか、ほとんど全ての皿を空にしてから、ようやくトンマンはそのまろみを帯びた微笑をミセンに与えた。

「もてなしをありがとう。美味しかった!」
「そ、そうですか」
「では、話を聞こう。話とはなんだ?」

 あまりの大食に仰け反っていたミセンはその微笑のおかげでなんとか気を取り直すと、やっと本題に入る決意を固めた。……予想より遥かに食事の時間が長引いた為にすでに夜明けも近かったが、我儘を言ってはいられない。
 ピシリと背筋を伸ばして待つトンマンから視線を逸らすと、意識的に愁いを帯びた眼差しを湛えてミセンは手を組んだ。

「実は……」

 語り出す声も、明らかに先程までの軽薄なそれと違っている。苦悩の深さを示しているかのようなその声を耳にしたトンマンも、隣に座るミセンを気遣わしげに見つめた。

「……あなたに助けて頂きたいのです」

 そうしてミセンが語った話にトンマンは聞き入った。……ミセンが心の中で「よし、来たっ!」とまるで釣り人のように拳を振り上げたことは、露知らず。





 ――愛妻トンマンが、他所の男と親しく話をしていることに勘づいたのだろうか。

「トンマン……おかわり……」

 東雲が陽光を引っ張り上げようと奮闘している頃、むにゃむにゃと寝言を口にしながら寝返りを打ったピダムは、隣で眠っているだろうトンマンへと手を伸ばした。それは毎朝恒例の、目覚めの近い彼の習性だ。

「……? トンマン……?」

 ところがいくら手探りで撫でても、掌に返ってくるのはひんやりとした硬い床板の感触だけ――。その事実に気付いた途端、ピダムは薬の効力を吹き飛ばして瞬時に覚醒した。

「トンマン? トンマン!」

 ――いない。いつも小鳥のように小さな寝息を立てて眠っている彼女がいない。白兎のように丸まって眠っているトンマンが、いない!
 何故だかいつもより気だるい身体や重い頭には頓着せずに、跳ね起きたピダムは家中を引っくり返してトンマンを探した。
 あまりに落ち着きなく走り回ってしまった為だろうか、彼がトンマンの置き手紙に気付いた時には朝日がすっかり昇ってしまっていたが、反省をしている場合ではない。しかも、明るくなった部屋の中でピダムが見つけた手紙には、たった一言「行ってくる」としか書かれていなかった。
 どこへ、何をしに行き、いつ戻るのか。
 そんなことはいくら紙を改めても全く記されておらず、ピダムはなんとか昨夜の記憶を掘り起こした。手掛かりは、そこにあるはず――。いつになく頭を働かせて昨夜の会話を全て蘇らせたピダムは昨夜、トンマンが姉に連絡を取らなければと言っていたことを思い出すと、急ぎ剣を手に馬に飛び乗った。





 一方、夫が半ば錯乱しているとは知る由もないトンマンは、肩を落とすミセンにすっかり同情していた。

「そうか、悪い鬼に呪いをかけられて……」
「はい……。これも、我が身の至らなさが招いたこととは言え、妻にも悲しい思いをさせていることがやりきれず……」
「私もピダムが『妻に触れられない呪い』などかけられたら、怒りのあまり鬼に一騎討ちを申し込んでいたに違いない」

 その若干勇まし過ぎる発言にミセンは些かギョッとしたが、持ち前の面の皮の厚さがその動揺は綺麗に覆い隠している。全ては世の美女達との愉悦の為と思えば、ミセンに不可能はなかった。
 おまけに、現在進行形で彼の傍には滅多にお目にかかれぬほど麗しい天女がいるのだ。夢に出てきた恐ろしい天女とは顔形の完全に異なる彼女を前にして、ミセンの士気が上がらぬわけがなかった。

「そして、その鬼が申したのです。呪いを解くには……」
「鬼を退治すれば良いのだな!」
「そうなので………………え?」

 何か違うぞおい、とミセンが気付いた時には、トンマンはその華奢な両手でしっかりとミセンの手を取り、頷いていた。

「任せておけ。まだ私は一人前とは言い難いが、鬼退治はいずれしたいと思っていた。何、退治出来なくても、話をすれば上手くこちらの要求を飲ませることも出来る。鬼が人間に呪いをかける時には大概理由がある。安心しろ、要は駆け引きだ」
「え……あ、いや、その」

 天界に住まう清浄なる天女と言うよりは、下界の汚濁にまみれたヨムジョンを思い起こさせるトンマンを前にして、ミセンはようやく「あれ、何か間違えた気がする」と悟り始めた。

「よし、そうと決めたらさっさと事を進めよう。今からピダムに羽衣を返してもらって来る。お前も出掛ける支度をしてくれ。その鬼の住処は……」
「ま、待って下さい!」
「どうした?」

 鬼などと口から出任せ、けれども天女を前にして他の天女に脅されたとは言えないミセンは、鼻息荒く立ち上がった天女の背に手を回して座らせると、香炉の蓋を開けた。
 すぐさま辺りに甘い香気が立ち込め、その香気を吸ったトンマンも大人しくなる。人間の女が吸えば、木天蓼を与えられた猫のように蕩けてしまうと言う、ミセンの秘密兵器だけあって、ただの丸薬では何の効果もなかったトンマンにもさすがに変化が見られた。

「おかしいな……頭に霞がかかっているかのようだ」

 天女たるトンマンには、基本的には体調不良と言うものはない。眠りは必要とするが、病も怪我も、滅多なことでは味わうことなどないのが天女なのだ。
 慣れぬ感覚にトンマンが眉を顰めていると、すかさずミセンが彼女を寝台へと誘導した。

「それはいけません。さあ、どうぞお休み下さい。鬼と話をするのは、体調を整えてからにしなくては」
「む……」

 確かに、明晰な頭脳がなければ、鬼と戦うのは無謀である。ミセンに勧められるままにトンマンは横になった。

「このような感覚は、初めてだ……。何か変な物を食べたのかな……?」
「私も相伴に預かりましたが、特にこれと言って変わったことは……」
「……そうか。すまない、少し休めば良くなる。一刻を争う時に申し訳ないが、今暫く待ってくれ」
「はい」

 いつもの高笑いはどこへやら、しっとり微笑んで頷くと、ミセンは香炉を手に取って枕元へ置いた。

「気分が良くなる香です。たっぷり吸い込んで下さい」
「わかった……」

 言われた通りに目蓋を閉じたまま深呼吸をするトンマンを見下ろし、ミセンはそっと口の端を上げた。手にした扇で、ゆっくりとトンマンへ香気を送りながら。





 愛の成せる技か執念の引き寄せた業か、夜明けと共に家を飛び出したピダムは、太陽がまだ朝日と呼ばれるうちにトンマンと出会った場所へとやって来ていた。哀れ、馬はピダムが飛び降りた瞬間に意識を失って倒れ込んだが、同情する暇も余裕も性格の良さもピダムにはない。一目散にトンマンの羽衣を隠しておいた木へとピダムは登った。
 ちなみにその大樹は下から登るには無理のある木で、ピダムはまずその隣の木に登り、そこから近くの巨石へ飛び乗り、それから件の大樹へ飛び移った。手間は掛かるが、これも偏にトンマンへの執念……もとい、愛ゆえだ。

(まさかとは思うけど……いや、ここに隠したのはトンマンが羽衣を見つけられないようにする為だ。まさか、見つかるわけが……)

 胸の皮を破って飛び出しそうな鼓動に震える手を木の幹に開けた穴へと伸ばし、ピダムはごくりと唾を飲み込んだ。もしここに羽衣がなければ、トンマンを捜すことは難しくなる。
 あってくれ、どうかあってくれと念じながら伸ばした指先が羽衣と思しき何かに触れた、その時!

「天誅――っ!!!!」

 まるで霹靂に遭ったかのような衝撃と共に、ピダムは手にした布を握ったまま吹っ飛ばされた。



* * *

ちょっと今回は短めです。
やらしーミセンは書いててなかなか楽しいですね!(笑)
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  1. 2010.10.21(木) _20:51:05
  2. SS(パラレル系列)
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