善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 井戸端会議

久々のアルチョン付きの家族もの、息子のヒョンジョンが12、3歳です。ヒョンジョンがますます殺伐としてきているので(笑)、ご注意下さい。
トンマン、ピダム、アルチョンはいつも通りです。


* * *


「今日、奥さんとお話ししましたよ。お身体の調子が悪いと伺っていましたけど、お元気そうで……それに相変わらずお綺麗で、見惚れちゃいました」

 ことの始まりは、ピダムの診療所に来ている子供の母親が口にした、この一言だった。





「トンマン、トンマン!!」

 日が傾く道を駆けて駆けて家に辿り着いたピダムは、トンマンと「出来るだけ名前は呼ばないようにしよう」と約束したことも忘れて、家に入るなり大声で妻の名を叫んだ。
 昨日は寝込んでいた――正確には、くしゃみを一度だけした為に、夫に布団に押し込まれた――妻が、病み上がりに外を出歩いているなどと、彼にとっては許容出来ることではない。溺愛と過保護もここまで来ると才能だな、と昨夜もアルチョンに呆れられた通りの才能を遺憾なく発揮したピダムは、昨日も妻の看病と称してろくに仕事をしなかったくせに、その日の診療も早々に切り上げて家に戻ってきていた。
 ところが、傍迷惑なその声に望んだ答えが返ってくる前に、荒々しい洗礼が彼を待ち構えていた。

「帰ってくるなりうるさいんだよこの妻バカがあっ!!」

 現在絶賛反抗期中のヒョンジョンは、父に手加減なしの飛び蹴りをお見舞いした。
 勿論、ピダムは避けた。……ピダムも、まだまだ息子に負けてやるつもりはない。
 一方、軽やかに着地したヒョンジョンは、大きく舌打ちして父親を睨みつけている。その反抗的な眼差しに、ピダムは笑顔で応対した後、柱が軋みそうな怒声を浴びせた。

「お前こそ、父親に向かってバカとはなんだ!!」
「ハッ! バカをバカって呼んで何が悪いんだよ! それに、あんたなら母さんがいないことぐらい、匂いでわかるだろーが!!」

 ピダムの名誉の為に弁解しておくと、ここで言う「匂い」とは、トンマン本人の匂いではない。日が暮れる頃にはトンマンはいつも夕食の支度をしている為、台所から良い匂いがするので、ヒョンジョンはそれを指して言ったのだ。

「誰が「あんた」だ、お父様と呼べ、お父様と!!」
「はん、誰が! もうジジイのくせしてガキみたいに何かってぇと「トンマントンマン」なくせに! バーカバー……いてっ!!」

 そして、トンマン不在の場合、近頃頓に酷くなったこの醜い言い争いを止めるのはアルチョンの役目となっている。
 よってこの日もアルチョンはヒョンジョンに拳固を加えてその頭を掴むと、無理矢理ピダムに頭を下げさせた。どうせ「謝れ」と口で言っても、ピダム相手には意地でも謝らないのがヒョンジョンだ。

「ヒョンジョン。いくらピダムが父親としては多々情けない部分があるにしても、この家の大黒柱だ。敬意を払え」
「…………はぁい」

 ピダムとしては、彼の言うことには何一つ素直に従わないくせに、アルチョンの言うことには渋々ではあっても従うことの方がよほど父親としての矜持を傷つけられる行為だったが、文句を言っても、また罵倒の応酬になるだけである。
 暇ならそうしても構わなかったが、それよりも今はトンマンだ。

「トンマンは?」
「奥方はいない。まだお帰りではないようだ。てっきりお前と一緒かと思っていたが……違ったようだな」
「こっちには来てない。そっちは……」
「山から戻った時には、もういらっしゃらなかった」

 今日は天気が良いからと、アルチョンとヒョンジョンは早朝から狩りに出ていた。土産は、猪と兎だ。猪は食用の為にご臨終だったが、兎はヒョンジョンが母トンマンへの手土産として捕まえたので、まだ生きている。行李の中で、かさかさ動いていた。
 その兎を一瞥して軽く息を吐くと、アルチョンはあっさりとした様子で腕を組んだ。

「仕方ない。そのうち戻って来られるだろうから、今日の夕餉は我々で用意しよう。ちょうど猪鍋にするつもりだったのでな」
「早く作りましょーよ、師匠! 腹が減りました。……父さんも、どうせ腹ペコだろ? 鶏じゃないけど我慢しろよ」

 トンマンの『教育』が効いたのか、今では鍋程度なら自分で用意出来るようになったアルチョンと、こと肉にかけては調理の上手いヒョンジョンは、台所へ向かう決意を固めたようだ。
 ――家の中が荒らされた様子もないのだし、それならきっと、トンマンもちょっとどこぞの家か店へ出掛けているだけだろう。そもそもトンマンは、家の中に篭っているより、人のいるところへ出向くのを楽しむ性格だ。

「……」

 しかし彼女の夫だけは、やはり、大人しく待っていることが出来ないらしい。

「鍋が出来るまでには戻って来い!」

 アルチョンの見送りを受けながら、ピダムは急いで来た道を戻り始めた。





 その頃、トンマンの目の前にある卓には、色取り取りの菓子が並び、ほかほかと温かな茶の湯気が立ち上っていた。

「わかる! 私も、男ってどうしてこう、無神経なんだろうと思うことが度々あるんだ。こちらが他所でどんな評価を受けているか、全く気にしてくれないところなんかは、特にそう」
「そうなんです。悪妻悪妻って言われ続けるこちらの身にもなって欲しいと常々頭を痛めています」
「妻に落ち度がなくても、夫が変人だと苦労する……不条理とはこのことだ」
「はい……」

 言葉尻が消えかかったかと思えば、二人はそれぞれにお茶を飲み、菓子を食べている。どうやら、話の内容の割には、落ち込んではいないらしい。それよりも、お互いの家の中では喋れないことを堂々と喋ることで、むしろ気分爽快、お菓子も美味い、と言った様子だ。

「美味しい! これ、どこで売っているの?」

 案の定、三つ目の菓子を一口齧った途端に、トンマンは目を輝かせて目の前の女性にそう訊ねた。近場で手に入るようなら、買い物に行くつもりのようだ。
 ……ピダムは知らなかったが、すっかり家事にも慣れ、女王時代とは打って変わって所帯染みたトンマンは、昼間ピダムがいない間、あちこちに出掛けてあれこれと買い物を楽しんだり世間話に花を咲かせたりと、割合主婦生活を楽しんでいた。

「私が作りました」

 トンマンの喜びようを見てこちらも嬉しそうに笑った女性は、穏やかに微笑むと、物静かに、淡々と答えた。その様子は、どこか、懐かしい人をトンマンに思い起こさせる。

「邸の女主人が菓子を作っても大丈夫なの?」
「はい。女主人とは言っても、本物の主人が万年不在なので、そう呼ばれているだけです」
「そうか。全く……アルチョン殿も、少しは帰れば良いのに……」
「帰ったら、私と手合わせをすることになっているので、怖いのでしょうね」
「手合わせ? あのアルチョン殿と?」
「はい」

 大概私が勝ちます、とのたまった彼女は、剣胼胝で硬くなった手をしっかりと握ってみせた。……確かに、勝てそうな気もする、とトンマンは思った。そしてついでに自分の掌も見て、ほんの少しだけガッカリもした。彼女は今、武芸の達人二人と達人の卵と暮らしているのに、その誰もがトンマンとは手合わせをしてくれないのだ。
 それでもたまに一人で弓の稽古をしていると、アルチョンがやって来て指導してくれることもあるが、大抵すぐに「お疲れになります」と止めさせられるし、ヒョンジョンはトンマンの弓矢を奪って「ねーお母さん見て! オレ、すっごく上手くなったから!」と褒めて褒めて攻撃に走り、ピダムに至っては「危ない」と弓矢毎取り上げて隠そうとする。男三人が互いに腕を磨き合っているのを目の当たりにしていながら、自身の武芸の上達は全く結びつかないのだ。
 こんなに勿体無いこともないな、と落ち込んだトンマンに、アルチョンと手合わせをすると言う彼の妻は、父譲りの持論を展開した。

「父も一人で修行することが多かったと聞いています。何より、心身を研ぎ澄ますことが肝要だそうです。ですから、私も、修行は一人で致します」

 彼女の父ムンノは、確かに、一人で心身を鍛えることが多かったとトンマンもピダムから聞いていた。ピダム自身、頼まれない限りは人前で修行をしようとはしない。

「そう言うものなのかな」
「はい」

 ムンノの娘らしくはっきりと答えると、夫を奪った相手であるにも関わらず、トンマンに対して爽やかな笑みを見せ、床に置いていた包みをドンと卓の上に置いた。

「奥方様、どうか、今月も主人を宜しくお願い致します」

 包みの中身は、夫アルチョンの為の筆やら服やら下衣やらである。アルチョンは着る物に対して無頓着な為に気付いていなかったが、彼がトンマンのところに居候するようになってからと言うもの、毎月毎月彼の妻は細々とした身の回りの物を届けに来ているのだ。
 いつもはアルチョンの不在を狙ってトンマン達の家に現れる彼女は、今日ばかりはトンマンの要請により町の宿屋に泊まり、そこで心行くまで彼女と話をしていた。

「こちらこそ。アルチョン殿がいるおかげで、とても助かっているの。ヒョンジョンも、もうピダムや私の言うことは聞かなくなっているから……」
「男は育てにくいですね」
「育ってからも面倒な気もするけど」
「仰せの通りです」

 顔を見合わせると、二人はニヤリと笑った。





「アルチョンも自分の家に帰ればいいのにな」
「うん……」

 今やすっかり「トンマン捜し」に慣れたピダムはトンマンがお喋りを楽しんでいる部屋に乱入すると、一緒にいた女人の正体を追及した後、さっさとトンマンを連れて帰路についていた。

「そりゃ、ヒョンジョンは日に日に生意気になっていくけどさ。別にその気になれば私だってヒョンジョンの教育ぐらい出来るし」
「……うん」

 いつも通りのピダムの話に適当に相槌を打ちながら、トンマンはアルチョン夫婦のことを考えていた。

『今夜はこの宿に泊まるの?』
『はい』

 ――今夜、まだここに留まっているなら。会おうと思えば、会えないことはない。
 これまで、口止めされていた為にトンマンはアルチョンにもピダムにも何も言わずにいたが、ピダムにも知れたのだ、アルチョンも知っても良いだろう。

(今夜、使いだと言ってアルチョンをあの宿に遣わそう)

 ヒョンジョンも、たまには母屋で寝かせればいい。
 片や、トンマンが眉を寄せて余所事を考えていると気付いたピダムは、年相応に我慢を覚え……たなどと言うことはあるはずもなく、荷物を片手で抱え直すと、さっとトンマンと手を繋いだ。

「ん? 何? あなた」
「何でもない」
「片手では荷物が持ちづらいんじゃないか」
「これくらい、大したことないよ。……良いから、早く帰ろう。今日は猪鍋だって」
「あ! ご、ごめん、すっかり夕餉のことを忘れてた」
「いいって、たまには!」

 行こう、とトンマンの手を引くと、ほんの少しだけ遠回りをしながらピダムは猪鍋と息子とその教育係が待つ家へ向かった。



* *

この夜、宿とトンマンの家の二ヶ所で一騎打ちが行われたそうです。宿の方は請求書がアルチョンに飛んでいき、家の方はトンマンの怒号で収まったそうです。
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  1. 2010.10.29(金) _22:32:30
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
  3.  コメント:4
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管理人のみ閲覧できます

  1. 2010/10/30(土) 10:40:49 
  2.  
  3.  
  4. [ 編集 ] 
このコメントは管理人のみ閲覧できます

まりん様へ

  1. 2010/10/31(日) 20:04:02 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
まりん様こんばんはーv

そうですね、ヒョンジョン……反抗期ですね(笑)
でも、ピダムのことを嫌っているわけではないんです。彼はもうアルチョンよりピダムの方が強いことも知っていて、だからこそピダムを一方的にライバル視してイライラしていると言うか…。
ムンノとピダムの関係に似ている感じです。

ただ、ピダムはヒョンジョンのことを恐れてはいなくて、子供が突っ張ってるぐらいにしか考えていないので、ムカッときても、ヒョンジョンほど深刻には捉えてない…と言う感じでしょうか。
そのうち、ピダムもヒョンジョンの攻撃を避けられなくなって、愕然とする時が来ると思います(笑)

アルチョンは、実は奥さんに弱いところもある……と言うか、「女相手に本気で…」と考えるところがあるので、大概勝たせてしまうようです。
たまにアルチョンが勝っちゃうのは、奥さんの計略により本気で戦わざるを得ない時ですねw

ありがとうございます、これからも更新頑張りますー!

一家の生活感でてますな!

  1. 2010/11/02(火) 23:22:41 
  2. URL 
  3. りば 
  4. [ 編集 ] 
ジジイのくせしてトンマントンマンうるさい!!てヒョンジョン君言うてますが、そんな自分もまだまだお母さんお母さんwなくせにww自分は別格なのかvかわええですねv

ヒョンジョン君、まだまだ甘えっ子でも、この二人の子供で独立心が全くなかったら育て方が悪かったと言う事になりますんで、とっとと自立して広い世界を見てこいよ♪とも思います。どんだけ彼が恵まれていることか。愛しあってる両親から生まれても誕生を隠され遠ざけられた母親と、愛のない結婚の末、両親ともにかえりみられなかった父親の間に生まれた子が、健康的に反抗期迎えてるのを見ると感無量ですー。あと所帯染みたトンマンにも(笑)

あとアルチョン嫁のムンノ娘、ピダムに対しては何も感慨ないんですかね。父の武道を最も濃く受け継いだ兄弟子というか、そういう存在なのに。ま、どっちも自分一人で修行するタイプだから関係ないんですかねー?

りば様へ

  1. 2010/11/03(水) 23:38:12 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
お母さん子ですからねw
でも、ピダムとは違って(笑)、アルチョンが来てからはだいぶ母離れしたようです。この話でも、ヒョンジョンは母の心配はさほどせず、意識は夕飯に飛んでますからw

ヒョンジョン単独メインの話になるので書くかどうかはわからないんですが、これから間もなく、ヒョンジョンは秘かに稼いだお金を持って家出、徐羅伐に「男になる」旅に出る予定です。んでそこで、昔のトンマンと同じようにユシン息子@顔はヨンモ似、性格はユシン似の美少年と出会い、年上の彼にこてんぱんにされて(父親とアルチョン以外に勝負で負けたのは初めてw)……と言う話はなんとなく考えています。
あくまで健康的に(笑)、ライバルと競い合って成長していくキャラになって欲しいですね。ヒョンジョンは性格はトンマン似、能力はピダム似、のイメージなので。

所帯染みたトンマンは実は今回一番書きたかったネタでしたw

ムンノ娘は、わりとムンノ似……なので、ムンノがソルォンさんやチルスクをさして意識していなかったように、武道が関わろうと、関心のない相手には本当に関心がない、と言う設定にしています。
なのでピダムのこと、ムンノが死んだ時のことはトンマンからは聞かされていますが、本人には興味がない…と言う。これでも夫アルチョンを信頼しているので、夫が生かした存在なら、と恨みもないようです。天然(笑)


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