善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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SS 破鍋襲来・中

間が空いてしまった上に、思ったよりも長くなってしまいました…!ぬおお、すみませんー!

そして、すー様のブログにて、先日チャットで盛り上がった花郎イケメン大会が更新されております。皆様、→のリンクからどぞー!


* *


 その日、修行と狩りを終えたアルチョンとヒョンジョンが帰宅したのは、申の刻だった。

「お母さんただいまー! なー、今日は鴨狩ったから、鴨鍋にしよう!!」
「奥方様、ただいま戻りました」
「母さーん、見てこれ鴨……あれ?」

 いつもなら、この時間、トンマンは読書をするか弓の稽古をしている。しかしおかしなことに、今日のトンマンは居間にも庭にもいない。
 ヒョンジョンとアルチョンは顔を見合わせ、首を傾げた。

「今日はなんかあるって言ってましたっけ?」
「いや……」
「――おかえり、ヒョンジョン。アルチョン殿もご苦労様です」
「母さん!」
「奥方様」

 そこへふらりと現れたトンマンは、ここ数日と比べると見違えるほど明るい笑顔でヒョンジョン達のところまで駆け寄り、わっとヒョンジョンを抱きしめた。そのヒョンジョンの鼻先を、ついぞ母からは感じたことのない臭いが掠める。何処かで嗅いだような気もしたが、それよりも母の態度が奇怪で、ヒョンジョンはおたおたした。

「か、母さん!?」
「ヒョンジョン、なんて可愛いんだ」

 背の高い母にきつく抱きしめられ、ついでに頬擦りをされ、挙げ句の果てには頬に口づけまでされたヒョンジョンは、恥ずかしさのあまり真っ赤になった。父が母に同じことをするのは嫌と言うほど見てきたが、母がこんな態度を取るのは見たことがない。
 チラッとアルチョンを見上げると、彼もヒョンジョンと同じく、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「母さん、止めろってば……! さ、酒臭……って、酒!? 母さん酒飲めたの!?」
「!」
「細かいことは気にするな。それより、ほら、お母さんに顔を見せてごらん。こうしてみると、本当に赤ん坊の頃と変わんないなあ……可愛いぞヒョンジョン!」
「ぶ……っ! し、師匠、師匠っ!! 父さん、父さん呼んできて下さいっ!!」

 母を突き飛ばすわけにもいかないヒョンジョンが半泣きになって叫ぶやいなや、これは非常事態だとやっと我に帰ったアルチョンは診療所へとひた走った。





 切羽詰まった顔をしたアルチョンが一言「奥方様が」と言えば、とんでもない事態が起きていると言うことは伝わるものだ。
 おかげで目の色を変えたピダムは、最後の患者の包帯はアルチョンに放り投げて一目散に家に帰った。

「トンマン、どうしっ……」

 ……しかし、彼の目に映ったのは、想像していたものとは大きく異なっていた。

「あ! 父さん、これ、何とかしろってば……!」
「そんなに嫌がらなくてもいいだろう、ヒョンジョン。小さい頃はこうするときゃいきゃい笑ってたのに……」
「だから、オレはもう赤ん坊じゃないって!!」
「私にはあの頃と同じくらい可愛い」
「…………」

 なんとトンマンは、ヒョンジョンの顔を自分の胸に押し付け、よしよしと息子の頭を撫で、あやすように背を叩いていた。……確かに、ヒョンジョンが赤ん坊の頃にきゃいきゃい喜んでいた姿勢である。
 だが、もうその息子は人並みには育ち、身長はまだ母より低くても、体つきなどはその母とほとんど変わらないくらいなのだ。赤ん坊扱いされて喜ぶ年ではないし、第一、せっかく独り占め出来るようになった柔らかい胸を再び息子と奪い合うなどと、冗談ではない!……と、些か見当外れの怒りをもって、ピダムは無言でヒョンジョンを剥がしにかかった。
 が、困ったことに、トンマンが離そうとしない。

「何をする。邪魔だ。どこかに行っていろ、ピダム」

 しかも、思いっきり邪険にされ、ピダムの心を支える柱にはヒビが入った。

「じゃっ……邪魔……?」
「そうだ。私はヒョンジョンと仲良くしているのだから、お前は邪魔だ。大体、こんな時間に何をしているんだ。無理して帰ってこなくてもいいんだぞ。ヒョンジョンがいるし、アルチョン殿もいる」
「…………」
「ちょっ……!? ちょっと、か、母さん、何言ってんの!?」

 ビシッと凍りついた空気の真ん中で、ヒョンジョンは一人おろおろと母を見上げ、次いで、いつになく顔を強張らせた父を見て蒼くなった。……母も父も、かつて見たことのない、虎のような眼をして睨み合っていたのだ。
 ちなみにその眼は、かつて二人が宮中にいた頃にはよく見せていた眼なのだが、ヒョンジョンがそんなことを知る由もない。

「……トンマン、いきなりどうしたんだ?」
「別に私には何もない。ピダム、お前こそ、近頃は家にいない時の方が楽しそうじゃないか。だから帰らなくていいと言っている」

 もはや、二人はお互いに人前ではあまり名前を呼ばないようにしようと約束をしたことも忘れて、冷ややかな応酬を続けていた。そしてそんな両親に挟まれ、泣きたい気分になっていたヒョンジョンに救いの手が現れたのは、ピダムの手がヒョンジョンではなく、トンマンにかかった時だった。

「ヒョンジョン、来いっ!!」
「し、師匠……っ!」

 ……後に、ヒョンジョンはこの時のアルチョンが武神と仏の融合した姿に見えたと語ったが、兎にも角にも、二人が手に手を取って部屋を脱出した瞬間、居間からは壮絶な破壊音が鳴り響いた。

「触るなこの浮気者っ!!」

 ガシャーンと何かが割れる音が響き、それに驚く間もなく次々にガタン、バタンと椅子が倒れ卓が引っくり返る音が続いていく。……思わずヒョンジョンは縮み上がって、アルチョンの袖を掴んだ。

「離せ馬鹿っ! 女ったらし!!」
「いつ私が浮気したり女ったらしになったって言うんだ! それより、そこ皿が割れてる! ほら、危ない……!!」
「触るなスケベ! 馬鹿っ!! 離せと言っているだろう!!」
「そんなこと言ったって、怪我するだろ! トンマンが!!」
「その前にお前のその綺麗な顔を不細工にしてやるっ!!」

 ……ヒョンジョンとアルチョンの知る限り、トンマンは冷静沈着かつ賢い女性だった。たまに怒る時も、あくまで理性を保っている――そのような印象が二人の中にはあった。
 しかし、ぎゃーぎゃーと喚く声には、理性など砂一粒分もなかった。

「ピダムの嘘つき!! バカ犬っ!! ドスケベ!! もういい、私だってアルチョン殿を侍らせて、ヒョンジョンと浮気してやるー!!」

 あまりの出来事に呆然としていた二人は、その叫びを最後に、反射的に家を飛び出していた。……それ以上何も聞いてはいけないと言う切実な危機感が、二人を動かしたようだった。





「浮気者……馬鹿……」

 暫く乱闘にも似た騒ぎが続いたが、さすがに酔いが回り過ぎたのかあるいは疲れたのか、とうとうトンマンは両手で座布団を抱えたままその場にしゃがみ込んだ。子供のように、ひっく、ひっくとしゃくり上げて泣いている為か、細い肩が揺れている。
 間一髪のところで皿やら花瓶やら座布団やらを避け続けたピダムは、先程までの冷ややかなな眼差しはどこへやら、泣いているトンマンに手を伸ばすと、有無を言わせずきつく抱きしめた。

「離せと言っているだろう!」
「離さない」
「離せ浮気者……!」
「離さないし、私ほど身持ちの固い男はいないって!!」
「嘘つき」
「それは、否定出来ないけど……」

 でもトンマンだって嘘つきだろ、と涙を舐めながら顔中に口づけを繰り返していると、ふいに、トンマンもピダムの方を向き……ごん、と容赦なく頭突きをした。

「っ……トンマン、何を怒ってるんだよ!?」
「……身に覚えはないのか」
「ない!!」

 躊躇いなく放たれた宣言を聞き、キッと顔を上げたトンマンは、いきなりピダムの胸ぐらを掴むと彼の唇に自分のそれをぶつけた。

「……………………もう何日も、こうしてくれなかっただろう」

 勢いが良すぎたのか、歯が当たった痛みに少々押し黙った後、トンマンはピダムを問い詰めた。どう言うつもりだ、私に飽きたのか、と引き続き胸ぐらを掴んだまま問いを重ねるトンマンに押されたピダムは、瞳を潤ませて彼を睨むトンマンを暫し呆然と眺めてから、やっと口を利いた。

「……トンマン、寂しかったの?」
「寂しくなんかない。ヒョンジョンも、アルチョン殿もいる」
「じゃあ、なんでそんなに哀しそうに泣いてるのさ」
「ピダム、そんなことより質問に――」

 質問に答えろ、と怒鳴りかけたトンマンの頭に手を這わせると、ピダムはきつくトンマンを抱きしめて口を合わせた。餓えていたかのように何度も角度を変えて、余すところなく唇を重ねていく。やっと離れた時には、すでに二人の唇が赤く潤んでいるほどに。
 ピダムはその艶を帯びた唇にうっすらと微笑を湛えて、尚も口づけを重ねながら囁いた。

「私がトンマンに飽きることなんて有り得ないって、知ってるだろ」
「……知らない。お前はすぐに周りに揺さぶられるじゃないか。そして、その度に……私も揺さぶられるんだ。お前が……離れるんじゃないかと……」

 徐々に言い澱むトンマンの震える吐息ごと唇を奪うと、ピダムはさらにトンマンを強く抱きしめた。背がしなり、トンマンは少し苦しそうに眉を顰めたが、ピダムは構わなかった。それよりも、どうすればトンマンがいつものように明るく笑ってくれるのか――それだけで頭は一杯だった。
 やがて、その気持ちがピダムの手を不穏に蠢かせると、それと察したトンマンは離れようと身体を捩った。

「ピダム、止めろ」
「なんで」
「そう言う意味で言ったんじゃない」
「じゃあどう言う意味で言ったの」
「それは……」

 もっと家にいて、もっと私と話をしろと言う意味だ!――と、そう言い掛けて、ふと、それは我儘な願いなのだろうかとトンマンは口籠った。
 ピダムの言う通り、冷静になって考えてみれば、確かに今更彼が自ら浮気をするとは思えない。そんな器用な男ではない。だと言うのに家に縛りつけるのは、ピダムの為にならない。むしろ、自身に必要なのは――。
 そこで閃くものがあったのか、じっとピダムを見上げてトンマンは唇を開いた。

「……ピダム、私も何か習い覚えるか、働くかしたい。外に……出たい」

 とうの昔に隣家の兄妹は大きくなって遊べる年頃ではなくなり、ヒョンジョンの面倒もアルチョンが見るようになった。また、ヒョンジョン自身も育ち、トンマンの手をあまり必要としなくなっている。最近では、アルチョンと一緒に家事を手伝うくらいだ。……明らかに、一人でいる時間が増え、トンマンは暇を持て余すようになっていた。

「トンマン、急にどうしたの!?」

 一方、ピダムはその申し出に驚愕して冷静さを失った。未だに、トンマンが「家を出たい」と言うとすぐに大袈裟なくらいに心配し、引き止め始めるのがピダムなのだ。これまであの手この手でトンマンを一人で家の外に出さないようにしてきた彼らしく、今回もピダムは慌てて唇を合わせ、襟元に手を滑り込ませた。

「寂しがらせてごめん。もうそんな風に思わせたりしないから……」
「ピダム、違うと言っているだろう」
「トンマン、愛してる。愛してるから……私には、トンマンだけだから」

 散らばる破片で怪我をしないように素早くトンマンを持ち上げると、ピダムは寝室に入り、その身体を寝台に横たえた。先刻とは違って、一連の動きにはもはや余裕など欠片もない。窓から差し込む陽光を見てまだ昼間だと我に返ったトンマンが止めようとしても、全く聞かなかった。

「トンマン、浮気なんて絶対にしないし、まず考えたこともない。それに、そもそもトンマンにしか欲情しないから、他の奴を抱くなんて有り得ない」
「ま、真っ昼間から、なんてことを言うんだ」
「だって、トンマンが誤解してるから。浮気者とか、女ったらしとか」
「それは……!」

 ――お前が料理屋の店主と親しげにしているから、とトンマンは口にしかけて、咄嗟にその言葉を飲み込んだ。
 代わりに口をついて出たのは随分と甘みのある悲鳴で、それを機に、ピダムの影が覆い被さり、トンマンも陽光など気にしている場合ではなくなった。




* * *

まだ続きます。
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  1. 2010.11.25(木) _00:05:23
  2. 連載外伝~幸せ家族計画~
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