善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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『第一美花郎比才』第弐話 花摘み

二十万打記念の花郎イケメン選手権、第二話です。
……すでにオールキャラは無理な予感がしてきましたw


* * *


「いーち。にーい。さーん……」

 トンマンとミシルの主催する会議が行われている頃のこと。宮中の一角では、気だるい掛け声と共に、ぽか、ぽか、と木刀が緩く木に打ち下ろされる音が鳴っていた。

「よーん。ごーお。ろーく……」

 その隣には、漆黒の花郎の装束に身を固めた青年が、冷めた目をして立っている。気の抜けた素振りを続ける少年をじろりと睨んでいた青年――ピダムは、はあ、と思いっきり嘆息すると、手にしていた木刀の端で少年を小突いた。
 それだけでよろけた少年――チュンチュは、若干怯えて背を仰け反らせつつも、負けじとピダムを睨み返している。

「な、何をする」
「そりゃこっちの台詞だ。おい、真面目にやれよ。それとも、またボコボコにされたいか?」

 いつもなら、例え不真面目であろうとも、言う通りに素振りさえしていれば怒らなかったピダムだ。それが珍しく苛々しているとあって、チュンチュはおやと笑みを深めた。……思い当たることは、一つしかない。

「なんだ、今日はいやに機嫌が悪いと思ったら……そうか、わかったぞ。公主様が主催する列仙閣での会議に呼ばれなかったから、拗ねているんだな」
「おい、誰が拗ねるってんだ。ガキが知ったかぶりするな」
「私に言わせれば、お前は私よりもずっと「ガキ」だ」
「へえ? 言うじゃないか」

 よっぽど殴られたいんだな、と凶悪な笑顔を浮かべると、ピダムは大きく振りかぶった。さすがにその拳に慣れたチュンチュは、それを見た瞬間、さっと後ろに飛び退き、てれてれと愛想笑いを浮かべ始めた。

「なあ、そうカリカリすることはないんじゃないか? お前なら、美貌を競う比才でいいところまでいけそうだ」
「おべっか言ったって無駄だ。第一、俺は生まれてこの方「美しい」なんて言葉とは無縁でね。勝てるわけがないだろ。ったく、武術比才なら優勝間違いないってのに」
「……ふうん」
「なんだよ」
「いや。お前、自分の顔を鏡で見たことはあるのか?」
「あ? 鏡? なんだそりゃ」
「……見たことがないんだな」

 ――ならば無理もない。
 ピダムに気付かれないようにこっそり笑うと、チュンチュは悪戯を思いついたかのようにさらに笑みを濃くした。

「なあ」
「なんだ」
「お前には郎徒がいないのだろう? ならば、助言者を探すべきだ」
「助言者? 何の」
「美しさのさ。お前のように美的感覚に乏しい奴は、良い助言者を持ってこそ、本来の輝きを放てる」

 訳がわからないのか、ピダムは顔中を歪めてチュンチュを見た。

「なんだそりゃ」
「言いたいことは簡単だ。優勝したいなら、お前が一番親しくしている女に意見を聞くべきだと言うことさ」
「……親しくしている女?」

 と言われても、思いつくのはただ一人だ。そしてそのたった一人の彼女は、ピダムの美しさ向上になどとんと興味がないように思われた。

「…………やっぱお前はガキだな。何もわかってない」
「そうか?」

 したり顔で微笑を湛えているチュンチュに腹が立ったピダムは木刀で彼をつつき回すと、改めて決意した。
 ――やはり、第一美花郎比才なんて、柄じゃない。それに、万が一優勝すれば、彼を「落札」した女と一日清遊に行かなければならない。そんなの、冗談じゃない。

(……今回ばかりは勘弁して下さい、って頼み込めば、公主様もわかってくれるだろ)

 彼女は優しいのだ。ユシンやアルチョンのように優勝する可能性がある者はともかく、ピダムのように優勝とは縁遠い者なら不参加でも許してくれるに違いない。
 ……自らの容姿の良さについて全く理解していないピダムは、チュンチュの助言を勘違いしたまま、その稽古を終え、公主宮に向かった。



「ユシン郎には絶対に出場してもらうつもりです」

 かつて、郎徒であった頃を髣髴とさせる悪戯っぽい表情をしたまま、トンマンは未だに参加を渋るユシンを真っ直ぐに見つめた。

「ヨンモ娘主や、その父であるハジョン公、さらには上大等の立場になってみて下さい。夫、あるいは娘婿が他の女に落札されるなど、顔に泥を塗られるようなものです。……ですから、ユシン郎の美しさにつけられた値段がどれほど高騰しようと、絶対にヨンモ娘主はユシン郎を落札します。それは確かです」
「……はい」

 短く応じながらも、ユシンは、あれ、今目の前にいるのは本当に数ヶ月前には「結婚なんて……」と泣いていた女性だろうか……とちょっと気が遠くなるのを感じた。が、確かに彼の前で「ミシルの右腕に経済的打撃を与えられる」とほくそ笑む女性は、ユシンが愛する女性だった。それだけは間違いなかった。
 よって、ユシンは全ての感情を拳に押し込め、平静を保った。

「わかりました、公主様。郎徒達にも意見を聞き、美を磨くべく鍛錬を重ねます」
「お願いします、ユシン郎。頼りにしています」

 その頼り方が、一時は駆け落ちもしかけた男女の間柄として正しいかどうかはともかく、トンマンは清流を思わせる微笑を崩さなかった。
 そして困ったことに、ユシンはまだ、そんなトンマンが好きなのだ。百済との戦いで、泥水の中で敵兵に弓を射て彼を助けたトンマンを見た時のときめきは、凄烈に彼の懐を焼いている。それは、例えヨンモと夫婦になり、夜を重ねてもなかなか薄れはしなかった。

「ユシン郎? どうかしましたか?」
「……いえ、公主様。それより――」

 だがそんな感情は、表に出すべきものではなかった。現に、トンマンはもう前だけを見ている。ユシンのことを以前と変わらず信用してくれてはいたが、元々ユシンほどあったかどうかも定かではない恋心は、薄れつつある。

(……これが、私の選んだ未来だ)

 それでも、奥歯を噛みしめずにはいられない自らを省みて、公主宮を出たユシンは目を細めた。彼が次に行くべき先は、郎徒の訓練場だ。

『ウォルヤ郎にも必ず出場してもらいます。彼には私よりユシン郎の説得が効果的ですから、ユシン郎、宜しくお願いします』

 ウォルヤ郎は整った顔立ちですから、と照れるでもなく微笑したトンマンを想って、改めてユシンは自らに言い聞かせた。

(……これが、私の選んだ未来だ)



 一方、ミシルに呼び出されたテナムボは、伯母と父に髪を解くよう命じられ、ついでに上半身を裸にされていた。

「どうです姉上。私の自慢の息子だけあって、まるで私の若い頃のように美しいでしょう」

 彼の前では、ミセンが身を乗り出して姉に息子の美貌を主張している。それに対し、ミシルはと言えば、唇には薄く笑みを湛えているものの、その瞳は余すところなくテナムボを見定めていた。

「……テナムボ、後ろを向きなさい」
「はい」
「そう、この背筋力はどうです! 女達の悲鳴が聞こえるようですよ」
「そうね……身体は良いわ。我が一族に恥じない色男振りです」
「ありがとうございます、璽主様」
「だが、身体だけです。仕草も眼差しも、無骨そのもの。それでは女は惹かれないわ」

 はあ、とひじ掛けに凭れ掛かって嘆くと、ミシルはテナムボを追い払った。

「ミセン。テナムボには妻はいるの?」
「いいえ、姉上。まだ……」
「それが原因かしら。ちっとも自分の魅力をわかっていないようね」

 このままでは、大元神統の名が廃る――。
 いくら大元神統が女の血脈であるとは言え、ミシルに仕える花郎達が美しさにおいてトンマンに仕えるそれらに負けるのは許し難い。最悪、セジョンに散財してもらうと言う手はあったが、ミシルには、比才と銘打つもので不正を働くつもりは毛頭なかった。

(何としてでも、テナムボやポジョンの美しさを磨かせなければ……)

 嘉俳の日まではまた日にちがある。突貫工事になるにしても、ギリギリ間に合う日数だ。

 ――このミシルは、トンマン、お前に負けはしない。

 ミシルはふっと微笑むと、彼女とは違って自らの美貌に無頓着な公主に宣戦布告した。



 息抜きがてら庭園に出ていたトンマンは、突如として現れたピダムの為に息抜きどころではなくなっていた。

「何? 今度の比才には出たくない?」
「はい、公主様。今回ばかりは勘弁して下さい」

 数日前にトンマンが比才のことを打ち明けた時、ピダムはユシンやアルチョンのような拒絶反応は示さなかった。だと言うのに、いきなりどうしたと言うのだろう。

「何故だ? 前回の風月主比才では途中参加の為にいらぬ恨みも買っただろうが、今回は正式に参加出来るんだぞ」
「正式だろうがそうじゃなかろうが、どっちだっていいです。前は武術を競うやつだったから、俺……私が勝てると踏んだだけで、今回のは……出るだけ無駄です」
「何故そう思う」
「だって、美しさなんて。そんなもの、私には無縁ですよ。公主様だってご存知でしょう」

 ピダム曰く、ユシン郎やアルチョン郎みたいに金のある家に生まれ育ったなら美しいものもわかるだろうし、美しくもなれるだろうが、自分のようにボロを着て育った人間は、美しさなんてものとは無縁です――と言うことらしい。
 そのピダムの見解を聞いて、トンマンは呆気に取られた。
 確かに金持ちは美しい物を多く身に纏う。それは事実だ。しかし、人間には生まれ持った容姿と言うものもある。

「ピダム。私は、お前が美しさと縁がないとは思わない」

 まずピダムの思い込みを直す為に一言告げると、トンマンは距離を置いて控えている侍女達を呼んだ。

「はい、公主様」
「皆に一つ聞きたいのです。……ここにいるピダム郎は、花郎の名に相応しい美貌の持ち主ですか?」
「は……」
「公主様!」
「いいから黙っていろ、ピダム」

 あまりに直球過ぎる公主の下問は寸の間侍女達を凍りつかせたが、許しを得てちらりと顔を上げると、一様に赤くなって頭を下げた。

「どうですか? 率直に答えて下さい」

 ややあってから、この中では最も長く宮中にいる侍女が前に出た。

「公主様、ピダム郎は、花郎の中でも特に容貌麗しいと宮中では噂されております。まさしく花のようだと……」
「ええ?」
「そうですか。ありがとう、下がっていて下さい」
「はい、公主様」

 侍女達を下げて二人きりになると、改めてトンマンはどうだと言わんばかりにピダムを見た。

「そう言うことだ。ピダム、自信を持て。あの通り、お前は女に人気がある」
「……そんなの、公主様じゃないなら意味ないのに……」
「え? なんだ?」
「いえ……。それに、美しさ云々だけじゃなく、万が一優勝したら、落札した女と一日清遊に行かなければならないんでしょう? 嫌です」

 出場するだけ無駄だと言いながら、優勝した場合の心配をすると言うのもおかしかったが、トンマンはユシンやアルチョンが優勝した場合の「奉仕」について文句を言わなかったことを不思議に思っていたくらいだったので、さして動揺するでもなく再び説得を始めた。

「景色のいいところにちょっと出掛けるだけだ。嫌なら、喋ったりしなくてもいい」
「でも、丸一日も見知らぬ女と過ごすなんて嫌です。それとも公主様も一緒に来てくれますか?」
「そう言うわけにはいかない」
「でしょう? それに、私には名誉も旗も必要ありません」

 本当に嫌なのか、ピダムは強硬に不参加を主張し続けた。思わずトンマンもぐぐっと詰まったが、優勝候補に逃げられるわけにはいかない。

「じゃあ、代わりに欲しい物はないか? 旗より安い物なら用意出来る」
「……旗より安いかどうかはわかりませんが、欲しいものはあります」
「なんだ?」
「それは……」

 暫し躊躇った後、ピダムは意を決したように告げた。

「公主様、お願いです。比才が終わるまで、私の助言者になって下さい。美しさを私に教えて下さい。……私には、そう言った助言をしてくれる人がいないんです」

 さすがにトンマンもそれにはなかなか応じなかった。彼女は主催者だ、依怙贔屓になってしまう。
 けれども縋るように見つめてくるピダムに根負けしたのか、あるいはピダムと言う優勝候補を失うのは惜しかったのか、最後には渋々ではあったが頷いた。散々、「私に聞いてもあまり参考にはならないと思う」と忠告してから。

 ――何としてでも、稼がなければならない。

 結局のところ、今のトンマンを突き動かすのは、その一念のみだった。


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  1. 2010.11.30(火) _22:02:03
  2. 中篇『第一美花郎比才』
  3.  コメント:2
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<<11月29日と30日に頂いたコメントへの返信 | BLOG TOP | 『第一美花郎比才』第壱話 公主の妙案>>

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管理人のみ閲覧できます

  1. 2010/12/01(水) 00:10:14 
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このコメントは管理人のみ閲覧できます

りえ様へ

  1. 2010/12/01(水) 23:26:13 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
りえ様、こんばんはー!そしてありがとうございますv
二十万打は遙かブログだった頃の地味な積み重ねもあるので、一概に善徳女王関連とは言えないのですが、善徳女王を取り扱うようになってから物凄くカウンターが回るようになり、「これもドラマが人気だからだ!」と大変嬉しく思っておりますv

二十万打SSも、ギャグとトン&ピと腹黒トンマンの狭間で頑張ります(笑)
ピダムが自分の容姿に無頓着だったかはドラマでは言及されてなかったと思うのですが、『友達』の前で鼻ほじってる奴なので、まあそうだろうなーとw

私も最近はSSを書くのが気晴らしになっています…ので、読んで下さる方にも楽しんで頂けるよう、地道に頑張ります!


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