善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

.

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --.--.--(--) _--:--:--
  2. スポンサー広告
  3. [ edit ]

SS 全てを奪う、その刹那

<追記>
予約投稿にしてたら、時刻を間違え思わぬ時間に投稿していました(汗) 夜っぽい話なので、改めて夜に投稿し直しました。混乱させてしまってすみません…!

最終回特集第四弾!
第三弾の続き?みたいな話です。そこまで露骨ではないのでパスワードはかけませんでしたが、性的な描写があるのでご注意下さい。

んでもって、この話は、太一の続編を希望して下さっている方向けの話でもあります。多分書いた時期が同じなので、内容リンクしてるのかと…。太一の前後の話としてお読み頂けるといいなーと思います。
※太一と違って、この話はあれこれ手を加えています。


* *


 確かに近付いてくる足音と悲鳴をトンマンは静かに聞いていた。玉座に坐し、瞼を伏せて“彼”がやって来るのを待っていた。
 一つ、二つと悲鳴が増え、消えていく。それは、トンマンに最期の挨拶をしてから、彼らの『忠誠』の為にピダムの前に立ちはだかった者達のものだった。
彼らの断末魔が響くその度に、便殿に走る緊張が、彼女の苦痛に拍車をかけていく。カチカチと鳴る音に一瞬瞼を上げたトンマンは、チュクパンが震える手で剣を抜こうとするのを制して、再び眼を閉じ意識を集中した。
 ……思えば、初めて“彼”が剣を振るうのを見た時。あの時も“彼”は血塗れになりながら嗤っていた。――今も、嗤っているのだろうか。

「――」

 悲鳴が途絶え、荒々しい足音が間近に迫る。
 ゆっくりと瞼を上げれば、そこには返り血をたっぷりと浴びた“彼”――ピダムが佇んでいた。
 これまで見たことのない皮肉っぽい笑みを浮かべ、血の滴る剣を肩に担いでいる。片眉を上げて辺りを見回した彼は、やっと見つけたトンマンの姿を見て乾いた唇を舐めた後、チュクパンと剣など使えぬ侍官と女官しかいないのを見て、鼻先で嗤った。

「……てっきりアルチョン辺りが飛び掛かって来ると思っていましたが」

 言葉を継ぎながらも、ピダムはトンマンを見ようとせず、一歩一歩近付いてくる。トンマンはそんな彼を静かに見詰めていた。
 やがて自身の間合いに玉座が入ったところでピダムは歩みを止めた。
 それでもまだトンマンを見ようとはせず、何故だか苛々として落ち着きがない。不審に思い目を凝らすと、剣を握るピダムの手が微かに痙攣していることに彼女は気付いた。

「…………ピダム」

 声を掛ければ、ピダムはビクッとその肩を震わせた。瞼を下ろして小さく息を吐き、クルクルと指先で剣を回して握り直してから、意を決したようにトンマンを見て、切っ先を彼女へと向ける。

「ピダム公! 止めて下さい!!」

 思わずチュクパンが叫んだが、トンマンはそれを制してピダムを見た。彼女へと刃を向けた彼の瞳は、淡く揺らいでいる。

「私の望むことは一つだ。…………“トンマン”」

 ――名を呼ばれたのは、一体何年振りだろう。
 ところが僅かに瞠目するトンマンにさらに言葉を継ごうとしたピダムの手から、剣が滑り落ちた。玲瓏とした金属音が響き、二人の間に沈黙が下りる。
 ……ピダムの手は、剣を握れないほどに震えていた。

「……っ」

 強く拳を握ってピダムは震えを止めようと奥歯を噛みしめた。けれども力を入れれば入れるほど手が震えて、どうにもならない。
 その時、今度は彼の首筋に切っ先が当てられた。

「――……」
「陛下!」
「ピダム、よく見ておけ。これが……お前の為したことの結末だ」

 首を斬られるかと覚悟を決めたピダムは、反射的にトンマンを見た。しかし、トンマンの瞳から流れる涙を見た瞬間、ピダムはトンマンへと飛び掛かった。――トンマンが斬ろうとしたのは、彼の首ではなく、彼女自身の首だった。

「陛下!」

 チュクパンと女官の悲鳴が上がる中、ピダムは素手で刃を掴むと、彼女の手から剣を奪って放り捨てた。頭を打った為か、気を失ったトンマンを揺さぶり震える声で叫ぶ。

「トンマン!!」

 刃よりも鋭く彼女を切り裂く悲鳴を、トンマンはぼんやりと感じていた。

(これが、私がこの世で聞く最後の声であればいい)

 愛の絆の脆さに絶望していた心を救う、この声。この声に誘われて死へと旅立てるなら、どんなにか幸せだろう。彼女に付き従ってきた者達を裏切らずに、この罪深い謀反人の腕に抱かれて逝けるなら、どんなにか――。

 しかし、トンマンの願望は打ち砕かれた。

「……今から、私が神国だ」

 その夜、目覚めたトンマンを前にしたピダムは、包帯を巻かれた手で蒼い頬に触れながら告げた。

「もう、あなたは愛を分ける必要はない。あなたの愛する神国とあなたの愛する男は、たった今、一つのものになった」

 ピダムは腕を伸ばし、何よりも、誰よりも欲する彼女の腕を、傷を負った手で掴んだ。強張った身体を引き寄せ抱きしめると、微かに震える彼女を安心させるようにゆっくり背を撫でて囁く。
 ――もう、もうあなたは苦しむ必要はない。国か、人か?……そんなことであなたが悩む必要は、もはやなくなった。

「トンマン。あなたは私のものだ」

 そうして告げられた言葉は、トンマンの心を荊の鎖で優しく包み込んだ。

* *

 これまで殺した誰よりもか細く柔らかい肌を、これまで掴んだ何よりも強く抱き締める。苦しそうな吐息を浚うように唇を合わせ、微かに残った呼気すらも奪う。そうして楔を打ち込むように肉をぶつけ合う行為は、なんておぞましくて、魅惑的なのだろう。
 快楽と苦痛の狭間で揺れるトンマンを見詰めながら、ピダムは幾度も心の中で呪文のようにその言葉を繰り返した。

 ――私の、トンマン。
 神国の王である私だけが触れることが出来る、私だけを愛するトンマン。
 誰にも捨てられることのない、全てを手にする最高の地位を……そして至上の愛を、私はついに得た。

「は……ぁ……」

 やっと自由に息が出来るようにしてやると、絶命寸前の獲物のような弱々しい息がトンマンの紅く膨らんだ唇から漏れ出た。もはやその肢体はぐったりとして、ただピダムの与える刺激に応えるのみだ。
 その様を見て、ピダムは互いの唾液で光る唇を満足げに舐めた。

「トンマン、愛してる……」

 優しい言葉とは裏腹に荒っぽく穿てば、熟れた果実が弾けるような音が響く。それを繰り返しながら、ピダムは惜しみなくトンマンへも快楽を贈った。

「ぁ、やっ……あぁ……っ」

 その強烈な感覚に彼女が息を飲むと同時に、より一層強くなる繋がりにピダムの目が遠くなる。まだ楽しんでいたいと言う思いが迸る熱情と交叉し、背筋が震える。火照った肌と肌をより強く合わせると、ピダムは熱情に従うことを選んだ。
 その衝撃に合わせて身を震わせる可憐な面へと手を回し、互いに荒い吐息を整える間もなく口付ける。触れ合った頬から彼女の涙が伝わり、熱を帯びた頬を冷ましていく。やっと満足して唇を離せば、トンマンは泣き腫らした瞳で力なく彼を見詰めていた。それに、ピダムはにこっと無邪気な笑みを浮かべた。

「トンマン、最高の気分だ……」

 その言葉にトンマンが一瞬だけ打ちのめされたような表情を浮かべたが、すぐに彼女は瞼を閉じ、頬に、首筋にと唇を這わせるピダムから顔を背け、切ない吐息を零した。気力を振り絞ったのか、震える白い手がピダムの細く引き締まった鞭のような身体を押している。

「ピダム…………もう、だめ……」
「……駄目だ。まだ離してあげない」

 けれどもピダムは、まだまだ物足りないと言わんばかりにトンマンの肌に幾つも血の印を刻んでいく。もはやトンマンの肌はまるで病的なまでにピダムが刻む印で彩られている。その印が増えるたびにトンマンはピダムの狂気を感じ、鎖で縛られていくような感覚を覚えた。
 絶望と哀しみの淵に落とされそうになる自分を叱咤しながら、トンマンはまだ余韻の残る身体へと押し入ってくるピダムの熱と胸を焼く苦痛を感じて、手の甲で唇を押さえた。
 ところがそれに目敏く気付いたピダムがすぐに手を取り払ってしまう。代わりに与えられた降り注ぐ雨のような口付けに翻弄され、トンマンは脳裏がけぶる感覚を再び味わった。止め処なく与えられる刺激は、彼女から正気を奪っていく。

「トンマン…………トンマン、愛してる……」

 どんどん痛みが増して意識が朧げになり、もはやピダムの声も霧の向こうから聞こえるようだ。
 しかし、それでもトンマンの身体はすでに彼女のものではなくなったかのようにピダムの熱情を受け入れていた。

「ピダ、ム……」

 その名を呟けば、彼はくしゃっと破顔する。本当に嬉しそうに笑って、強引なそれではなく、優しい口付けをトンマンに与える。
 そしてそれを受け止めるたび、トンマンはさらに涙を溢れさせるのだ。玉座も名誉も自由も彼に奪われ、囚われた家臣達の命を楯に脅され、自決すら許されずにこうしておぞましい行為を続けているのに。だと言うのに、それでも彼を愛し続けている自分を嫌悪し、その一方で、全ての重荷から解放された喜びに震えるのだ。

 あと何回、こうして彼を受け止められるだろう。
 あと幾夜、彼を愛せるだろう。

 自身に残された時間が少ないことを知るが故に、トンマンはより一層ピダムを拒めなかった。
 どうせ何もしなくても死んでしまうと言うなら、せめて……せめて、彼の孤独を満たして、それで人生を終えたかった。……二度と、彼が愛に苦しまないように。



 激しさを増すばかりの交合が終わりを告げるより早く、トンマンは気を失った。その、ほとんど息をしているかどうかも定かでない華奢な身体を、ピダムは震えながら抱きしめていた。

(……どうして。どうして…………どうして抱きしめるたびに、儚くなっていくんだ……?)

 共に高みへと昇り、いつもピダムより先に意識を失くす彼女を、彼は毎夜その腕に抱きしめる。そうして抱きしめるたび、ピダムは恐怖に慄いて涙を浮かべた。
 今、彼女には神国と言う重荷もなくて、ただピダムを愛し、彼に愛されている。ゆっくりと日々を過ごし、望んだ暮らしをしているはず。
 なのに。なのにどうしてだろう、トンマンの身体からは日々生気が失われているようにピダムには思われてならなかった。

『先王陛下のお身体は……もう……』

 ピダムが王になったあの日、気を失ったトンマンを診た医師の、あの言葉。それを聞いた時、ピダムは激昂して医師を締め上げた。
 ――トンマンが死ぬ? やっと手に入れた彼女が、死ぬ?
 そんな馬鹿な話があって堪るか、ふざけるなと怒りに任せて医師を怒鳴りつけた。
 死なせない。トンマンを死なせたりはしない。何を犠牲にしてもいい、彼女から死を取り除けと命じたピダムに、彼は諭すように告げた。

『全力を尽くします。しかしそれでも……春を越せるかどうか……』

 今は真冬だ。春までと言ったら、数ヶ月しかない。たった、数ヶ月。
 ピダムは鼻で嗤った。
 数ヶ月? 何千、何万の夜を重ねようと手にした彼女と過ごせるのが、あとたった数十夜?
 ――それはピダムにとって、あまりにも短く、儚かった。
 それからピダムは、夜毎、トンマンが応える限り彼女を抱いた。
 己は房中術に長けたあのミシルの息子だ。俺が抱けば、愛して愛して抱き続ければ、きっとトンマンは生き続ける。俺が生きている限り、ずっと。そう考えて、トンマンを抱き続けた。
 けれど、幾ら抱いてもトンマンの身体はますます小さくなっていく。ピダムの腕の中で気を失い、一日のほとんどを眠りの中で終えてしまう。

(俺は…………喪うのか……?)

 ――何よりも欲するトンマンを。
 喪失の恐怖。それは何よりも激しくピダムの心を蝕んだ。

「違う……違う…………」

 もう、春はすぐそこまで迫っている。雪化粧の下では、梅の蕾がはち切れそうに膨らんでいる。
 そうして梅が咲いて、桃が咲いて、桜が咲いて。その全てが散る頃には、トンマンの命も散ってしまうと言うのか?

(そんなこと……そんなことはない。あってはならない)

 だが幾ら打ち消しても、ピダムの怖れは消えない。
 神国の王となり、神国となり、彼女を手に入れた。今度こそ何も怖れず、ただ迸る情熱のままにトンマンを愛し、無二の存在として彼女に愛され続けるはずだった。それなのに。

「嫌だ……っ」

 ――喪いたくない。トンマンだけは、喪いたくない。
 トンマンを抱きしめるピダムの手は、大きく震えていた。



* * *

『太一』の続編希望が多いのですが、この通り、あとはひたすら暗くなっていくだけなので、続編は勘弁して下さい…!私には皇帝ピダムと皇后トンマンの幸せは書けません(汗)
関連記事
スポンサーサイト
  1. 2011.01.26(水) _23:00:24
  2. SS(ドラマ設定IFもの)
  3.  コメント:2
  4. [ edit ]

<<BS版最終回を見ました。 | BLOG TOP | SS 灯火>>

comment

  1. 2011/01/26(水) 11:32:09 
  2. URL 
  3. なぎ 
  4. [ 編集 ] 
こんにちわ。
続けての更新お疲れ様です。そして、ありがとうございます。
緋翆様の創作を心待ちにしている読み手の一人として、今すごく幸せな時間を過ごしています。

如何しても、何をしてでも手に入れたかったトンマンをその腕に抱くことが出来ても、結局は自分の手でトンマンの寿命を縮めてしまってるピダムが憐れで愛おしいです。


なぎ様へ

  1. 2011/01/26(水) 23:57:36 
  2. URL 
  3. 緋翠@管理人 
  4. [ 編集 ] 
優しいお言葉ありがとうございます。なぎ様、またまたこんばんは!

続けての更新とは言っても、この辺は以前から用意していたものなので、実はさほど大変ではなくて(笑) とりあえず、最終回特集と銘打って、最終回ショックのままに春先に書いたSSを手直しして放出しています。

暗い上に何の救いもない話なのに、こんなピダムでも愛おしいと言って頂けて……ピダムの代わりに御礼申し上げます(え)……いやすみません、ありがとうございます!最終回特集、あと少し続くので、最後までお楽しみ頂ければ幸いですv


 管理者にだけ表示を許可する
 




PAGE
TOP

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。