善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

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『第一美花郎比才』第肆話 十花十色・上

遅くなってしまってすみません!(汗)
第一美花郎比才、第四話です。うーん、年内に終わる気がしませんorz


* *


 ついに、嘉俳の日――第一美花郎比才の日がやって来た。
 通常の比才とは異なり、宴も催されるとあって、月城ではなく、南山城の西にある鮑石亭にてその比才は開催されることとなった。ちなみに、比才の規則は以下の五つである。

 一つ、花郎は、如何様にもその身を飾ることが出来る。
 一つ、花郎は、比才終了まで一切の武力闘争を行ってはならない。
 一つ、花郎は、その花郎に最も高値をつけた女人と一日清遊へ赴かなければならない。
 一つ、優勝した花郎は、新たに旗もしくはそれに類する名誉を手にする。
 一つ、比才の収益、また、花郎達に賭けられた金銀あるいは財物は、全て皇室に奉納される。

 このうち、三つ目の項目を知らされていなかった花郎達は狼狽したが、あまり接する機会のない貴族の女達と知り合える機会とあって、大きな反発は起こらなかった。……そう、ごく一部を除いては。



 そのごく一部――簡単に言えば、無名之徒の花郎ピダムは、これから身支度を整えようとするトンマンを捕まえて盛大に抗議した。

「公主様!! これ、なんですか!? 聞いてません! 清遊に行くのは優勝した者だけのはずでしょう!?」
「…………」
「清遊なんて嫌です。俺……いや、私は、この比才には出ませ――」
「ピダム」

 そのトンマンはと言えば、今日が舞の稽古の成果を見せる日だとあって、常とは比べ物にならないほどに張り詰めた面持ちでいる。冷ややかにピダムの名を呼ぶと、トンマンは甘さの欠片もない、戦闘意欲に溢れた眼差しでピダムを睨んだ。

「どうしても出たくないと言うのであれば、無理強いはしない。お前が出なくても、ユシン郎やアルチョン郎、ウォリャ郎が稼いでくれるだろうからな。だが、一つ言っておく。今日の比才に出る気がないのなら、比才が終わるまで、私の前に現れるな」
「――」

思いもよらぬ、強く厳しい口調だった。それに硬直していたピダムは、つんと顔を逸らして立ち去ろうとするトンマンの前に回り込んで叫んだ。

「出ます!! 公主様、絶対に出て、優勝します!!」



 ひらひら、ひらひら。花郎達の控え室を囲む幡幕の間を、孔雀の羽根が舞っている。

「ええと、白虎飛徒、白虎飛徒は……」

 その羽根の源――孔雀の羽根で拵えた扇を揺らしながら、チュンチュはこそこそと花郎達の控え室を見て回っていた。彼が探しているのは、優勝候補筆頭と謳われる白虎飛徒のテナムボと、その父ミセンだ。
 実を言うと、チュンチュがここに来た本当の目的はピダムに会うことだったのだが、どう言うわけだか本番前のこの大事な時に、ピダムは自分の天幕にいなかった。最後の飾り付けをしようとやって来たと言うのに、一体どこで何をしているのか。多少は手加減してやるつもりだったが、もはやこれは、チュンチュの好きなようにピダムを飾り立てていいと言うことか。

「チュンチュ公!」

 どうしようかな、とほやほや悩んでいたところで、騒々しくミセンが現れた。

「いや~チュンチュ公、こんなところにお出でになるなんて、どうしました」
「ああ……ミセン公がいらっしゃると伺ったもので」
「それはそれは! 失礼しました、さあ、こちらへ。チュンチュ公はこの鮑石亭は初めてでしょう?」

 私がご案内します、とミセンはチュンチュを誘うと、いつも通りちらちらとチュンチュの様子を窺いながらも饒舌に語った。

「今日の見物はなんと言っても、嘉俳! 女達の宴に我々が加わるなど、初めてですよ。こればっかりは、公主様に感謝しなければいけませんね。エ~ッヘッヘッヘ!!」
「聞くところによると……ミセン公は、その公主様に舞をご指南申し上げたとか」
「はい、チュンチュ公。おかげでこの一月はいつになく忙しく、チュンチュ公とのお時間が減ってしまって……」

 取り繕うようにミセンは眉尻を下げ、大きく扇を振った。偽りだらけのその仕種にチュンチュはふっと微笑むと、心の内は綺麗に覆い隠して快活に笑った。

「いいえ、私もこの一月、野良犬に懐かれて大層騒がしく過ごしましたから」
「野良犬……ですか」
「ああ、それよりミセン公。せっかくですから、一つ、賭けませんか?」
「賭けを?」
「はい」

 ――この子供、一体、何をするつもりだ?
 ミセンの瞳の奥が尖っていくのを心地良く感じながら、チュンチュは何にも気付かぬ無邪気な子供の仮面を楽しんだ。この仮面で遊ぶのも、いつまでになるかわからない。貴重なひと時ひと時を、チュンチュは楽しみたかった。

「私は比才を最初から見るのは初めてなのです。ミセン公、その記念に、比才の優勝者が誰になるか、賭けようではありませんか」

 そして、チュンチュの機嫌を損ねるわけにはいかないミセンは、自身の息子に対する自信もあって、秘かにチュンチュの申し出を快諾した。ミセンは、テナムボに。――そしてチュンチュは、ピダムに賭けた。



 その頃、トンマンは鮑石亭の一室で身支度を整えていた。
 チョンミョンにも仕えていた侍女チョソンとソファは、硬い表情を崩さないトンマンに苦笑しながらも、トンマンが自ら美しく着飾ることを要求したのはこれが初めてとあって、気合を入れて化粧を施している。
 まず、夜の薄暗い中でも白く肌理の細かい肌が美しく映えるように、水に溶かした白粉を、顔だけでなく首、胸元、手足に塗り、頬には濃くなり過ぎないように紅を重ねていく。剣舞を披露する以上、目元は凛々しさがあった方がいいだろうと、上目蓋に太く、長く墨を引き、その上から衣裳に合わせて濃淡をつけて紅を刷くと、どちらかと言うとまろやかな印象のあるトンマンの顔は、きりりと引き締まった。

「ソファ様、額に紅い印を二つお付けしても宜しいですか?」
「ええ」

 今回は化粧に一切口を出さないことに決めているトンマンは、チョソンが額に続いて唇にも鮮やかな紅を塗り始めても、何も言わなかった。いや、言っている余裕がなかった。

(……出来る。私は、きっとやり遂げられる。大丈夫だ、大丈夫だ。よし!!)

 拳を握り締めて気を高めていたトンマンは、二人の「出来ました、公主様」の声と共に目を開けた。

「……」
「公主様、お綺麗です。きっと、嘉俳にいらっしゃる娘主様達の誰よりもお綺麗ですわ」
「公主様……本当にお美しいです」

 ここぞとばかりにトンマンの美貌を誉めるチョソンと、感慨深くトンマンを見守るソファにぎこちない微笑で応えると、トンマンはいつもとは違う風に結われている髪に手をやった。舞の動きが映えるように、高いところで結って背に流す髪型は、初めてだ。

「チョソン」
「はい、公主様」
「この髪型で、笠は被れますか?」
「…………え?」

 が、二人の願いとは対照的に、トンマンは出来るだけ化粧をした顔も髪型も、人に見られたくはないらしい。

「薄布を垂らした笠があるでしょう? 今日は一日、あれを被って過ごします」
「公主様……! どうしてですか? お綺麗なのに……」

 二人の力作を明るい日の下に晒すつもりはないらしいトンマンに、侍女二人はうろたえた。何が気に入らなかったのだろう? それとも……恥ずかしいのだろうか?
 しかし、二人の予想をまたしても裏切ってトンマンは剣を握り過ぎた為に胼胝の出来た手で強く裳を握った。……裳に少々皺が出来たが、そこのところはもはやどうでもいいようだった。

「化粧について、あれこれ言われたくありませんから。今日は、比才の日です。踊りの衣裳も、袴だけ裳の下に穿いておいて、繻は比才が終わってから着ます。袖が長くて不便です」
「…………」
「……公主様……」

 どこまでもお洒落は二の次、まずは任務遂行、と闘志を燃やしている公主を前に、侍女二人は何度目になるかわからない哀しみを覚えて互いを見遣った。



 主を飾り立てることに熱意を持っているのは、侍女達だけではない。花郎に仕える郎徒達も、競うものが何であれ、比才とあっては黙っていられなかった。

「ユシン郎、さあ、仕上げです。これを顔に塗って下さい」
「……なんだ、これは?」

 チュクパンが差し出したいかにも怪しい液体を前にして、ユシンは若干身を引いていた。昨夜も、妻ヨンモに慎ましく「これを比才の前にお飲み下さい。お役に立てれば光栄です……」と嗅いだことのない臭いのする飲み物を渡され困っていたが、どうやら妻だけではすまないらしい。

「兄上、これを唇に塗って下さい。唇がぷるぷるになると聞きました!」

 ユシンの末の妹ムニまでもが、近頃少女達の間で流行っているのだと言うわけのわからないものをユシンに差し出し、すでにテプンに何か塗られた唇にさらにわけのわからない液体を重ねている。
 ちなみにユシンの隣でも、新羅の奴らに負けて堪るかとやる気に溢れているソルチと、義兄弟となったウォリャの美貌に参っているらしいポヒがウォリャにあれこれ助言をしていた。……いや、助言だけでなく、手も出していた。

「やっぱり、ウォリャ郎は髪を垂らしている方が素敵ですっ」
「ウォリャ郎、よくお似合いです!」
「……ああ」

 ユシンの為に、と参戦したものの、今一つやる気のないウォリャは、気だるげな様子でちらっとユシンを見た。彼の隣では、鉢巻を外したユシンが、どう言うわけだか父ソヒョンの鎧を纏っている。

「父上よりも、兄上の方がこの鎧が似合うわっていっつも思っていたの! でしょう? チュクパン、コド」
「はい、ムニ娘主様。とてもよくお似合いです」
「ユシン郎、出世したみたいですね! それになんだか老け……」
「コラ!」
「いいえ、コド、そこよ!! 花郎達の中でも数少ない既婚者である兄上の魅力は、大人の魅力なの! だから、渋~い男の色気で攻めるのよ。小童達とは違うって!」

 末っ子の愛らしさで父親を口説き落として鎧を借りてきたムニは、その愛らしい頬たっぷりに自信に満ち溢れた笑みを湛えた。……そんな妹の評価を聞きながら、ユシンはこっそり、私は花郎達の中でもかなり年少なのだが、と誰も言ってくれない事実を思い出していた。



「アルチョン郎はやはり郎粧です! 郎粧をして髪を下ろして花郎の鎧を纏えば、アルチョン郎に敵う奴なんかいませんよ!!」

 アルチョンの郎徒ヤンギルは高らかにそう宣言したが、当のアルチョンはと言うと、当日になっても郎粧に対しては慎重だった。

「ヤンギル。郎粧とは、花郎の死に化粧だ。それを、いくら比才とは言え、軽々しく……」

 けれどもそんなアルチョンに仕えて早十年、彼の性をよく知り尽くしているヤンギルは、殺し文句を発動した。

「アルチョン郎!! ユシン郎やポジョン郎に勝ちたくないんですか? 比才で優勝したくないんですか?」
「…………無論、目指すは優勝だけだ」
「なら、郎粧を!! 大丈夫です、テナムボ郎やウォリャ郎も強敵ですが、郎粧を施したアルチョン郎は無敵ですよ!!」
「…………」

 その言葉には答えず、アルチョンは白粉を手に取った。郎粧は、誰かの手を借りるべきものではない。花郎が、己の手で施すものなのだ。



「……凄いな」

 ミセンが去った後の白虎飛徒の天幕では、テナムボが父の置いていった『秘密兵器』を見て、目を丸くしていた。その『秘密兵器』は、テナムボですら初めて見る、非常に希少価値の高いものだ。それを手に入れる為に幾らかかったのか、聞くのも恐ろしい。

(叔母上は本気だ。優勝しなければ……絶対に、優勝しなければ……)

 この一ヶ月、テナムボはありとあらゆる訓練を受けた。美しさも色気も、女の気を惹く為の要素は全て鍛え上げられた。一時は、「そんなに手がかかってるなら、あの難攻不落のトンマン公主を落とせるか試してみたらどうだ」とハジョンがからかうほど、テナムボはその全てをこの比才に注ぎ込んでいた。

『花郎は、如何様にもその身を飾ることが出来る』

 ――比才の条項の一つであるこの文言に全てを懸けてここまで来た。あとは、優勝するだけ。抜かりなく、勝ちを得るだけだ。
 深く深呼吸をすると、テナムボは柔らかく微笑んで『秘密兵器』に手を伸ばした。



 テナムボの対抗馬としてチュンチュが選んだ男ピダムは、トンマンに対してやけっぱちで優勝を宣言したものの、気合いに欠けていた。
 優勝は万が一の話だが、見も知らぬ女と清遊に行かなければならないのは、ほぼ確実である。……もし、一票も彼に票が入らなければ、清遊に行く必要もなくなるが、ピダムはそれはないだろうと考えていた。何せ、トンマンが太鼓判を捺したのだ。彼は、女に人気があると。

「……はあ」
「……」

 そんなピダムを前にしたチュンチュは、すっと目を細めた。……すでに彼は、ミセンと賭けてしまったのだ。負けるつもりはない。

「なあ」
「…………」
「おい、何をそう悲観しているんだ? 私が信じられないのか? この私が見てやったんだ、自信を持って比才に望めばいいのに」
「……お前のことは端から信用してない」
「つれないなあ」

 くすくす笑って、チュンチュは身支度を終えたピダムを繁々と眺めた。すらりとした体躯を引き立てる簡素な装いも、よく手入れの施された艶々とした黒髪も、申し分ない。あとは……本人のやる気だけだった。やる気があれば、ピダムは勝てる。

「ああ、そう言えば……比才の条項が一つ増えていたな」

 やる気を出させるのも仕事の内かな、とチュンチュは微笑んだ。小鳥のように、首を傾げて。

「清遊が不満なのか?」

 そしてチュンチュの予想通り、清遊と言う言葉が出た途端にピダムの眦がぴくりと引き攣り、片眉が上がった。



* *
まだまだ続きます。
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  1. 2010.12.28(火) _21:32:49
  2. 中篇『第一美花郎比才』
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