善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by 緋翠

リレー小説第12話、管理人緋翠のターンです。

ぬおおおお、まさかの遅れっぷり!(汗) つ、次はもっと早く書きたいです…! お待たせしてしまって申し訳ありません。
今回は、ドラマの内容をもじりつつ、ちょっと違う展開を取ってみました。あわよくば、チルスクとソファにも一筋の光が見えたらいいなー見えなくても仕方ないけどさー的な…(は?)


* * *


「おい。用心棒の話はどうなった」

 いつものようにまたまた二人で市へ油を買いに出ていたトンマンとピダムは、その帰り道で巨大な炭……もとい、長身のチルスクに捕まり、詰め寄られていた。ちなみに、詰め寄られているのはトンマンで、ピダムはと言えば、妹とのお喋りを邪魔されて腹が立ったのか、チッと舌打ちしている。

「あー……あはは、おじさんごめんごめん! 昨日は皆酔っ払ってたから、つい……」
「……ならば、今日、話を通すんだな?」
「うん、勿論!」

 晴れやかな笑顔でトンマンは応じたが、今一つ信用ならないと考えているのか、チルスクの愁眉は開かない。
 それもそのはず、昨日もこの子供の口車に乗せられて、半ば騙された形でチルスクの宿は決まってしまったのだ。しかも、子供よりは信用出来るだろうと用心棒の件を母親に話そうとしても、よほど臆病なのか、そそくさと逃げられて埒があかない。……いや、臆病なだけではなく、やはりチルスクと話をしたくない理由があるのだろうか?
 その時、愛想笑いを浮かべる妹を押し退けて、兄ピダムが前に出た。

「おいオッサン。ったく、オッサンも男だろ? 大の男が小娘相手に何ネチネチ言ってんだよ。任せるって決めたなら、ドーンと構えて待ってろっての!」
「兄さん!」

 またしても妹可愛さから客相手に偉そうな態度を取る兄を、トンマンはえいっと蹴った。勿論、軽く。

「……」

 しかし、チルスクはと言えば、その言葉に黙り込んでいる。元が武人であるからか、やはり小娘相手に絡むなど言語道断だと思ったのかもしれない。
 が、チルスクの面持ちが殊勝なものに変わったのを見過ごさなかったピダムは、悪戯を思いついたかのように口の端を上げると、自分の持っていた油の壺を素早くチルスクに押し付けた。

「兄さん、何してるの!」
「まあトンマン、聞けって。なあ、オッサン、暇なんだろ? ならさ、ちょっと手伝ってくれよ」

 続いて、妹から油の壺を取り上げて抱えると、ピダムは誰かを彷彿とさせる黒い瞳でチルスクを小突いた。

「商人ってのは、働き者を喜ぶ。用心棒が腕っぷしも強いだけじゃなく、マメに働く奴だってわかったら、高く雇ってくれると思うぜ」
「……」
「それにさ、俺達の手伝いをしてくれるんなら、道々会う奴らにオッサンのこと紹介してやっから! 腕の立つ剣豪だって」

 内緒話をするかのように擦り寄ってきたピダムは鬱陶しかったが、確かに彼の指摘した通り、チルスクは暇を持て余していた。市に溢れる珍稀な品々も、物欲のない彼にとってはガラクタ同然。砂漠を越えて疲れた身体も、一晩ゆっくりと休んだおかげですっかり元気になっている。

「……力仕事を手伝ってやるだけだ」
「それで十分! おいトンマン、酒も買ってこうぜ」
「えー? 今日はお酒は安くなかったよ」
「大安売りってことは滅多にないんだし、いいだろ? オッサンに持ってもらえるんだぜ」
「別に私だって持てないわけじゃないし……」
「いいからいいから!」

 尚もトンマンはお金が、とぶつくさ言っていたが、重労働が減るのは魅力的らしい。結局ピダムの言う通りチルスクに酒と油を持たせると、トンマンは安くなっていた干し肉を買った。



「母さん、ただい……」

 ――ところが、帰宅早々三人の目に入ったのは、炊事場で倒れているソファの姿だった。

「母さん!!」
「母さんっ!」

 トンマンとピダムは荷物を放り出して駆け寄ると、踞るようにして倒れていたソファを仰向けにさせた。

「トン……げほっ、げほっ!」
「発作だ」

 意識はあることを確認すると、ピダムは立ち上がって外へと走った。

「医者を呼んでくる。トンマン、オッサンに手伝ってもらえ!」
「うん」

 ソファを膝に抱えたトンマンは緊張した面持ちではあったが冷静に頷くと、酒と油の壺を置いて近寄ってきたチルスクにまずは竈の火を消すよう頼んだ。
 理由はわからなかったが、言われた通りにチルスクは火を消した。母親はぐったりとしたまま、ヒュー、ヒューと呼吸の度に風が通ったかのような音を鳴らしている。記憶が定かなら、肺を傷つけられた兵が同じ音を出しながら息をしていた。

「おじさん、母さんを抱えてくれる? 部屋に運ばないと……」
「……ああ」

 肺を傷つけられているのだとしたら、それは生まれつきか、あるいは何かの病にかかっているのか、あるいは……火に巻かれたことがあるのか。
 訝しがりながら母親の身体を抱き上げると、トンマンの案内に従ってチルスクは彼らの部屋に入った。母親は意識を失っているのか、チルスクが睨むように眺めても身じろぎ一つしない。

「ここに寝かせて」

 トンマンの声にはたと我に返ると、チルスクは彼女の敷いた布団の上に丁寧に母親を横たえた。

「……身体が弱いのか」

 手慣れた様子で母親の袷を寛げて息がしやすいように体勢を整えてやる娘を見下ろしながら、チルスクは一人言のようにぽつりと呟いた。けれども、それを聞き逃さずにトンマンは頷いた。唇を、ぎゅっと噛みしめて。

「おじさん、ローマに行きたいって言ってたよね。……本当は、私もローマに行きたいの」
「……」
「ローマには凄くいいお医者様がいて、ローマでなら母さんの病気も治せるって……。だから、母さんがもう少し元気になったら、あたしと兄さんで母さんをローマに連れていくの。たっぷりお金を稼いで、いいお医者様に診せて、母さんを元気にするんだ」
「…………そうか」

 チルスクを見ることなく、まるで自分自身に誓うかのように真摯な口調で語られた話にチルスクが頷いた、その時。外からピダムの医者を急かす声が聞こえてきて、チルスクは部屋を出た。

(肺をやられた女……ローマ……)

 不気味な鼓動の高まりが、彼の脳裏に警鐘を打ち鳴らす。
 記憶に残る侍女と同じ体格の女……あの女、ソファには息子はいなかった。しかも、弟ならまだ逃亡中に産んだのだと説明もつくのに、兄とは。……まさか、正体を隠す為に拾ったのだろうか。女手一つでは赤子一人育てるのも難儀であろうに、わざわざもう一人幼子を抱えたのか? チルスクの目を誤魔化す為に? ……わからない。
 第一、ムンノはどうしたと言うのか。先程のトンマンの話からして、少なくとも子供達の意識にムンノはない。あれほど強固に赤子を守り通したムンノが、ソファと赤子を手放すなどと言うことは有り得ないはずだ。それなのに……。
 思慮を重ねるチルスクの瞼の裏に、ふと先程見たトンマンの横顔が映った。

『だから、母さんがもう少し元気になったら、あたしと兄さんで母さんをローマに連れていくの。お金を稼いで、母さんを元気にするんだ』

 ――優しい子供だと思った。
 似たような話が世の中には山積していることも知ってはいたが、その子供の目は夢を語っている目ではなかった。近い将来、その言葉通り母親をローマへ連れていくのだろうと、チルスクでさえ感じ入るほどの意志の強さがあった。

(彼らが、ローマへ行ければいい)

 母親の正体がソファではないかと疑うのと同じくらいはっきりとした気持ちで、チルスクは子供の言葉が真実になるよう願った。



 夜になり、出歩いていた商人達が戻って来ると、トンマンは早速カターンに声を掛けた。隣には、無論、チルスクもいる。
 けれどもカターンは、トンマンが用心棒の件を口にする前にわっとトンマンを抱きしめて、彼女の頭を撫でた。

「トンマン、今そこで聞いたよ。母さんが倒れたんだって? 大丈夫なのかい?」
「おじさん……ありがと、もう大丈夫だよ! 今は落ち着いて、上で寝てるから」
「いや、トンマン、心配だろう? ついててあげた方がいい。今夜は、皆で宿を手伝うよ」
「いいのいいの! ちゃんとお代ももらってるのに、旅人を休ませてあげられないなんて、うちの名折れだもん。それより!」

 そこでトンマンはチルスクの袖を引っ張ると、カターンの前に彼を突き出した。

「見て見て、すっごく逞しくて、強そうでしょ?」
「うわあ……トンマン、誰だい?」
「用心棒志願のおじさん! ほら、おじさんもなんか言って!」
「……ローマに……っ!?」

 が、そこで唐突にカターンに抱きしめられ、ついでに尻を揉まれた為に、チルスクは危うく抜刀しかけた。
 そんなチルスクに対して、カターンはと言えば。

「うん、いい身体をしてる。これなら、いい用心棒になりそうだ。尻の引き締まった男は頼りになるんだよ」

 と言ったことをローマ語で捲し立て、トンマンに微笑みかけた。
 そして、トンマンもまた、ローマ語で「良かった! この通りちょっと無愛想だけど、優しいおじさんだから!」と太鼓判を捺して、カターンと手を打った。
 二人だけの会話を終えたカターンとトンマンはチルスクへと向き直ると、今度は先程と同じように鶏林語で話した。

「出発までまだ日にちはあるから、その間に簡単な言葉ぐらいは喋れるようになっておくと便利だよ」
「……わかった」
「良かったね! あ、そうだ。じゃあおじさん、あたしがローマ語を教えてあげよっか? 宿の手伝いをしてくれるお礼に」

 してくれた、ではなく、これからも手伝いが続くことを暗に仄めかしたトンマンに、ほんの少しだけ頬を引きつらせつつもチルスクは頷いた。……いきなり人の尻を揉むような男に習うよりは、口の達者な子供に習った方がまだマシだと考えて。
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  1. 2010.12.15(水) _00:01:12
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