善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

RhododendRon別荘

.

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --.--.--(--) _--:--:--
  2. スポンサー広告
  3. [ edit ]

SS 満月の夜、君は恋人になる

何個か前の記事で書いた現代パロディ、愛犬ネタの方です。
お試しと言うことで一話に収めようと思ったら、と、とんでもない長さになってしまいました(汗) もしかしたら、携帯からだと最後まで見れないかもしれません…(滝汗) ではでは!


* *


『オッパ、今日もお疲れ様です。今日は暑いくらいでしたけど、スーツのオッパは汗だくになったりしてませんか? 私は……』

 新緑の季節である5月の、とある夜。チョンミョンは夕食の後に出す予定のレアチーズケーキを作りながら、恋人ヨンスにメールを打っていた。

『オッパ、早く来てね。待ってます。』
「うん、送信っと。サラダも出来たし、いい加減トンマンを呼ばないと……」

 今日はちょっとしたパーティをする予定だ。準備をしようにもやはり一人では手が足りない。――ところが。

「きゃあああああっ!!!!」

 チョンミョンが廊下から二階に声をかけようとした時、一戸建てのキム家に突如として女の悲鳴が木霊し、事態は急変した。

* *

 その悲鳴が響く十分前、チョンミョンの双子の妹であるトンマンは、自室にてその日退院したばかりの愛犬ピダムとじゃれ合っていた。

「ピダム、くすぐったいってばぁ」

 やっと遠慮なく遊べるのが嬉しくて興奮気味のピダムは、主人であるトンマンの上にのし掛かって、頬も顎も額も唇もペロペロと舐めている。床に転がっているトンマンもまた、きゃはは、と笑うばかりで、ピダムを止めようとはしない。
 さらに。

『トンマン、トンマン、退院したらいっぱい遊んであげるって言った!!』

 どう言うわけだか、入院中からトンマンにはピダムの気持ちがはっきりと伝わるようになっていた。……所謂テレパシーと言うヤツだが、トンマン本人はと言うと、そうとは気付いていない。ただ、ピダムの気持ちを大切にしようと決めたから、今までわからなかった細かい心情もわかるんだろうと大雑把に受け止めている。

「うん、遊んであげるから。ピダム、いっぱい頑張ったもんね……偉い偉い」
『うんー!』

 ――ちょうどこの1ヶ月前の、トンマンの誕生日の日。双子の姉チョンミョンと共に友人達に成人したお祝いをしてもらっていたトンマンは、交通事故に遭った。帰宅後、ピダムにせがまれて夜の散歩に出た為だ。けれども、ちょうど突っ込んでくる車の真正面にいたトンマンはかすり傷で済んだ。……その代わりに、トンマンを庇って車に牽かれたピダムは、生死の境をさ迷う重傷を負ったのだ。
 今夜は、かつて二人の家庭教師だった獣医ミシルのおかげで何とか一命を取り留め、1ヶ月の入院生活を経てやっと退院したピダムの快気祝いをする予定だ。二人の両親であるペクチョンとマヤは長期出張の為に不在だが、後程チョンミョンの恋人ヨンスと二人の従兄アルチョンや、ピダムを病院に運ぶ時に車を出してくれた幼馴染みのユシン、さらにはミシルも来る予定である。

「ピダム、後でまた遊ぶから、ちょっと待ってて。そろそろ姉さんを手伝わないと、怒られちゃう」

 トンマンが起き上がると、途端にピダムははち切れんばかりに振っていた尻尾をペタッと床にくっ付けて、キュウンと鳴いた。

『お祝いなんかいらないのに……』
「そんなこと言わないの。それに、皆のおかげでピダムが無事帰って来れたんだもん。お礼をしないと!」
『トンマンと遊びたい……』
「それはまた後で! ちょっと待っててね、今ブラッシングしてあげるから……あれ? ブラシ、まだカバンの中?」
『……』

 ピダムはカバンを漁るトンマンの背を拗ねた目で見つめながら、タイミングを測った。どの瞬間になら飛びついても怒られないだろう、喜ばれるだろう?
 ウズウズと時を待っていると、不思議なことになんだか身体が変な感じがした。パチパチと瞬きを繰り返していくうちに、トンマンがどんどん小さくなっていく。

「あれ? おっかしいな、ここに入れたはずなのに……」

 そうしてトンマンが小さく、可愛く思えた瞬間に、ピダムはトンマンへと飛びかかった。ところが。

「きゃっ!?」
「わっ!!」

 目測を誤ったのか、予想したよりも強くトンマンにぶつかってしまい、二人は床を転がった。

「もう、ピダム!! 病み上がりなのに無茶しちゃ………………」

 ベッドにぶつかってなんとか止まったトンマンは、上にいるピダムを叱り飛ばそうとした。今日は大人しくしなきゃダメだと、そう言おうとしたトンマンは、しかし、目の前にいる『男』を見て凍りついた。

「いたた……ごめんトンマン、なんか間違え……トンマン? 大丈夫? どこかぶつけた? 痛い?」
「…………」
「トンマン?」

 フリーズしているトンマンを、心配そうに眉尻を下げた『男』が気遣う。さらにその男は、いつもピダムがしているようにトンマンをペロリと舐めた。

「……っ!!!」

 そしてその瞬間、一気に解凍されたトンマンは、思いっきり悲鳴を上げた。

「きゃあああああっ!!!!」
「えっ!?」
「嫌ーっ!! 離れろ変態!! ピダム、ピダムどこー!!」
「俺ピダム、ピダムだってば!」
「嫌っ!! 今すぐ退けこの痴漢!! ピダムっ! ピダム助けてーっ!!!」
「いてっ、痛い、トンマン痛いって……!」

 半狂乱になって悲鳴を上げながら、トンマンは彼女の上に乗っかっている男を容赦なく殴った。
 けれども最終的に騒動に終止符を打ったのは、階下からフライパン(大)を持参したチョンミョンだった。

「トンマン、だからピダムだって……」
「今すぐ妹から離れなさいこの痴漢っ!!」
「ぐっ!!」

 ボカッと後頭部をフライパンで殴られた『男』は、くたりと気を失った。
 やたらとデカイその男を姉妹で力を合わせて押し退けると、トンマンはなんとか脱出して、また悲鳴を上げた。……なんとその男は、素っ裸だったのだ。
 妹とは違って恋人もいる為か男の裸に免疫のあるチョンミョンは、ひとまず掛け布団を男に被せると、妹に向き直った。

「トンマン、大丈夫? 何もされてない?」
「だ、大丈夫……。それより、ピダムは……」
「ピダム? いないわよ。どうしたのかしらね、トンマンの悲鳴を聞いても駆けつけないなんて……」

 トンマンに拾われてこの家に来た仔犬の時から、ピダムは何をおいてもトンマンの危機には駆けつけた。蚊を潰し、ゴキブリを退治し、足を滑らせたトンマンの下敷きになり、果ては車に牽かれたが、それでもトンマンがぎゅっとピダムを抱きしめて「ピダムありがとう! 大好きー!!」と言うだけで、彼の世界は薔薇色らしかった。

「どこに行っちゃったんだろう……ついさっきまで、じゃれてたのに……」
「それに、この痴漢もどこから入ったのかしら? 窓には格子があるし……しかも、服はどこよ? こいつ、全裸で歩いてきたの?」
「ピダム……」

 急に暑くなったから変な奴が湧いて出てきたのかしら、とチョンミョンが溜め息を吐いて通報しようと携帯電話を取り出したその時、トンマンはふと姉の袖を引っ張った。

「どうしたの?」
「姉さん、あれ……ピダムの首輪」
「えっ?」

 振り返ったチョンミョンは、トンマンが指差しているものを見て目を丸くした。

「……なんでこの痴漢男がピダムの首輪をしてるの?」
「……」
『俺ピダム、ピダムだってば!』
「…………」
『トンマン、だからピダムだって……』
「トンマン!? 危ないわよ」
「……」

 ふらふらと倒れている男に近寄ると、トンマンはそっと男の背中を見た。もし、ピダムなら。ピダムなら、背中に傷痕があるはず。
 ……そうして傷痕を発見したトンマンは、腰を抜かしてその場に座り込んだ。

「私の可愛いふわふわのもこもこが……」
「トンマン?」
「姉さん……これ、ピダムだ……」
「…………え?」
「やだ……ピダム、ピダムなの。これ……この痴漢男……間違いなくピダムだ!」
「えっ!? ト、トンマンあなた、何言って……」
「どうしよう……ピダム、ピダム!! 死んじゃダメ――っ!!」

 トンマンは我を忘れて『男』を揺さ振った。すると。

「……死なない……今日は鶏を食べて、トンマンと一緒に寝るんだ……」

 呻るように『男』がそう呟いて、今度こそ動かなくなった。
 そして、それを見たチョンミョンは。

「…………ミシル先生に電話ね」

 これは間違いなくピダムだと確信して、すぐさまミシルに連絡し、その夜来る予定だった面々にパーティの中止を連絡した。



「事故死の次は撲殺なんて、つくづく苦労の多い犬ね」

 ちょうど仕事が終わっていたこともあり、すぐさま駆けつけてくれたミシルは、全裸のピダムを見ても騒がなかったし、トンマン達の話を聞いても彼女達の精神状態を疑わなかった。何故なら、ピダムにはまだ彼女が執刀した時の手術痕が残っていたのだ。
 女三人でなんとか床に転がされていたピダムをトンマンのベッドに寝かせると、ミシルは巨大なたんこぶに片眉を上げた。

「……すみません」
「痴漢だと思ったので……」
「いいのよ。あたしだって同じことしてたわ、きっと。ま、ちょっと疲れたけど、イイもの見ちゃったし」

 犬の時から思ってたけどイイ身体してるわねえ、とあっけらかんと笑って、ミシルは氷嚢をトンマンに手渡した。

「起きたら、あれこれ教えてやるといいわ。最初に教えるべきは……服を着ることと、トイレね。特にトイレはちゃんと教えないと、全裸より厳しいわよ」
「はい。……姉さん、父さんのパジャマ、着れると思う?」
「うーん……ダメだったら、明日、買いに行かないと……」
「まあ、多少ちんちくりんでも気にしないんじゃないの? 犬だったんだから。それより、なんか食べるものない? お腹空いちゃって……」

 治療も終わったとあってもうピダムには興味がないのか、乱雑に髪を掻き上げながらミシルは姉妹の会話をぶった切った。昔、姉妹の家庭教師をしていた頃も、勉強に集中出来ない二人に対してミシルは容赦なくお喋りを中断させたものだ。
 とは言っても、よく周囲の様子を見ているミシルは、神妙な面持ちでピダムを見下ろしているトンマンには声を掛けずに、チョンミョンの肩を抱くようにして居間へと向かった。

「レアチーズケーキを作ったんですけど、あとはまだ途中で……」
「じゃ、ケーキね。あの二人の分も切り分けといてやって」
「はい」
「それにしても……」

 勝手知ったる様子で冷蔵庫を開けてビールを取り出すと、ミシルは壁に寄り掛かって階段を見ながらふっと口の端を上げた。

(……どうするのかしらねえ、明日から。ま、男の一人くらいいた方が安全だし、いっか)

 元が飼い犬なのだから、姉妹を襲う心配もない。だが。

(今日は泊まっていって、様子を見た方が良さそうね)

 面白いものが見れそうだし、と笑うと、ミシルは缶を傾けてビールを飲んだ。



「……」

 一方、自室でピダムと二人きりになったトンマンは、こちらを向いて寝ているピダムへと恐る恐る手を伸ばし、その頬を撫でてみた。
 手に返ってくるのは、柔らかな毛並みの感触ではない。自分の頬と、そう変わらない感触だった。

「ふわふわのもこもこが……」

 それに、ガクッとトンマンは落ち込んだ。おまけに横たわる身体はどう見ても180cmはありそうで、いくらトンマンが長身とは言っても、とても抱き上げられそうにはない。実際、無理だった。

「どうしよう……」

 ふいに、トンマンの脳裏に、初めてピダムと出会った時のことが蘇った。



『キュイン……キュイーン……』

 ピダムと出会ったのは、トンマン15才の冬だった。誰が捨てていったのか、公園に捨てられた五匹の仔犬。その中で最も気性が荒く、兄弟達が拾われようとする度にその手に噛みついた為に、「狂犬」として最後まで残ったのがピダムだった。
 その話を家族から聞いたトンマンは、何かに突き動かされるように公園へと走った。日も落ち、空も曇って暗い夜に、微かな鳴き声を頼りに段ボール箱を探して、中にいる仔犬へと手を伸ばした。しかし。

『キュィイン!!』
『いたっ』

 仔犬は兄弟達が帰ってくるのを待っているらしく、何度トンマンが手を伸ばしても、頑なにはね除けた。真冬の空からは深々と雪が降ってきているにも関わらず。
 そして仔犬のその頑なさに負けず嫌いを刺激されたトンマンもまた、頑強に諦めなかった。

『わかった。気の済むまで待ってあげるから、こっちに来て。寒い……った!』
『キュイン、キュイン!!』

 仔犬のピダムとしては精一杯の反抗らしい小さなキックを繰り出され、結局ピダムを懐に入れることは諦めたトンマンはその場にしゃがみ込んだ。こうなれば、根比べだ。万全の対策とは言えないが、コートは着ている。一晩いたら凍死するかもしれないが、その前に仔犬が音をあげるだろう。チラッと仔犬を見たトンマンは、ポケットからハンカチを出すと、警戒心たっぷりに彼女を見ている仔犬に無理矢理それをかけた。

『キュィイ……?』
『フェアじゃないから、かけてあげる。凍死しちゃダメだからね!』
『キュイッ。キュイッ。キュィン……』

 仔犬ピダムはかけられたハンカチを振り払おうとしたが、やがて諦めたかのようにペタッと座った。考えてみれば、捨てられてから何も口にしていないのだ。体力のない仔犬は、動くだけで辛いだろう。なんだかちょっとだけこの可愛げのない仔犬が可哀想に思えて、トンマンが声をかけようとした、その時。

『トンマン!』
『ユシン……?』
『キュイ……?』

 お隣さんでもあり、幼馴染みでもあるユシンが走ってきて、トンマンを叱り飛ばした。

『何やってるんだよ!! 凍死する気か!』
『そんなわけないでしょ! 見ての通り、我慢比べしてるの!! 私が勝って、こいつを連れて帰るんだから!』
『そいつ、狂犬だって言うじゃないか。やめとけ! 第一、トンマンお前、朝顔だって育てられないくせに、犬なんか飼えっこないだろ!』
『う、煩いな!! 大丈夫だもん、朝顔と違って、犬はお腹減ったら文句言うもん!』
『キュイン!?』

 犬のピダムには言葉はわからなかったが、なんとなく、飼い主としてこいつは不味い、と思ったらしい。一瞬緩みかけていた警戒心を再び剥き出しにし始めたピダムを見て、トンマンはぎゃあぎゃあとユシンに向かって怒鳴った。

『もう! せっかくあとちょっとで丸め込めそうだったのに、ユシンのせいでおじゃんじゃない!』
『人のせいにするな!! それに、僕はお前を連れて帰りに来たんだ! チョンミョンが心配してる!』
『じゃ、帰って姉さんに伝えといて。こいつに勝ったら帰るからって!』
『トンマン!! グダグダ言ってないで、大人しく言うこと聞け!』
『それはこいつに言って! とにかく、あたし、帰らないから!』
『……! 勝手にしろ!』

 言っても聞かないトンマンに堪忍袋の緒が切れたのか、ユシンは踵を返して走り去った。臭いでそれを感じたピダムは、チラッとトンマンを見上げて、その赤くなっている頬や鼻を見た。膨れっ面をしていたが、本当に寒いらしく、手袋をしていない手はブルブルと震えている。

『……キュイン』

 帰ればいいんだ、そう思って、ピダムは鳴いた。けれどもトンマンはそれを無視した。代わりにピダムが入っている段ボールを横にして、屋根をピダムに作ってあげると同時に、降参する気になったら自分からこっちに来て、と命令して。
 やがて、ピダムは臭いでユシンが戻ってきたことを感じた。姿は見えなかったが、どこかにいるだろうことはわかった。喧嘩別れしたにも関わらず、トンマンが心配になって戻ってきたらしい。

『……』

 なんだかそれが、ピダムには悔しかった。悔しくて、いつの間にか、トンマンの足に擦り寄っていた。

『勝った!!』
『……』

 そうして、なんだかな、と思いつつも、ピダムはトンマンに拾われていった。拾われて、喧嘩と和解を繰り返しながら、幸せになった。



 チョンミョンが持ってきたチーズケーキにも手をつけずに、トンマンはピダムが目覚めるのを待った。

「ピダム……もう、擦り寄ってこられても可愛くないくらい大きくなっちゃったんだね……」

 頭を撫でているだけでは物足りなくなって思わず声を掛けると、ピダムはその声にピクリと反応して、目蓋を上げた。目の前にトンマンがいるとわかったのか、キュインと鳴く……のではなく、深く安心した声で呟く。

「トンマン……」

 が、そのまま首を伸ばして顔を舐めようとするので、一先ずピダムを「めっ!!」と叱り飛ばしてから、トンマンは鏡をピダムの前に置いた。

「……? 誰、これ」
「ピダム」
「え? 違うよ、俺はもっと艶々した黒毛のイケメンだ。それに、こいつ人間。トンマン、こいつ誰?」
「犬の美醜はわかんないけど、今の顔もわりと王子様みたいだよ。……あのね、ピダム。ピダム、自分の手……じゃないか、足、見てごらん」
「?」

 言われた通り足を――ちなみにそれは、人間で言うところの手だったが――見たピダムは、暫し手を引っくり返したり握ったりを繰り返した後、ばさっと掛けられていた布団を剥いで自分の身体を確認した。

「……嘘」
「ピ、ピダム、隠して隠して!」
「に、人間だ! 俺、人間になってる! トンマン、なんか全身スースーする!!」
「そ、それは毛がないからで……って、前、前隠してってば!!」
「トンマン、どうしよう……っ」
「きゃあっ」

 パニックに陥ったピダムは、犬だった時と同じようにトンマンに抱きついた。とにもかくにも落ち着きたいのか、トンマンの匂いを嗅ごうとして、「鼻が利かない!!」と更なる混乱に陥っている。うわーん、と泣き出したピダムは、確かに犬だった時とよく似ていて、思わず相手が全裸の男であることも忘れてトンマンはピダムを撫でた。

「だ、大丈夫だから。落ち着いて、ピダム」
「こんなんじゃ走れない! それに、尻尾! 俺の自慢の尻尾が消えたっ!!」
「ピ、ピダム、重いっ……」
「うわぁあ…………あ」

 ところが、散々騒いだかと思うと、突然ピタリとピダムは停止した。

「…………」
「ピ、ピダム? 大丈夫? 心配しなくても、ちゃんと面倒見るから……」
「……トンマン」

 じーっとトンマンを見つめること、数秒。何事かと身構えるトンマンに、唐突にピダムは切り出した。

「トンマン、前に、「ピダムが人間だったら恋人になってもらうのにー」って言ってた……」
「え?」

 言われてみれば、確かに昔々……と言うか高校生の時、懐いてきたピダムが可愛くて、そんなことを言ったことがあった。が、勿論冗談だ。
 しかし、どうやらピダムはそうは思っていなかったらしい。

「トンマン、恋人欲しい?」

 キラキラとした瞳で訊ねられて、トンマンはうっと詰まった。……ふわふわのもこもこはなくても、ピダムの瞳は犬の時と同じようにトンマンの庇護欲を駆り立てる。

「恋人欲しい? 欲しいなら、俺、なるよ!!」
「…………。えっ!?」

 が、その申し出には、さすがのトンマンも身を引いた。あれは冗談であり、ピダムへの愛情表現の一つであって、本気でピダムと恋人同士になりたいなどとは考えたことがない。
 そしてピダムもどうやら、『恋人』と言うものを盛大に勘違いしているらしかった。

「一緒にご飯食べて、遊園地行って、相合い傘! 今なら出来るよ!」

 良かった、人間になってもトンマンを喜ぶ顔が見れる、と興奮したピダムは、『いつも通り』にその喜びを表現した。『いつも通り』に、ペロペロとトンマンの顔中を舐め、へへっと笑ったのだ。
 ――だがそれは、トンマンにとってはちっとも『いつも通り』などではない。

「……っ!!」
「トンマン、嬉しい? 嬉しい? 偉い? 俺、偉い?」
「っ…………いやぁああっ!! ピダムごめん、でも離れて変態っ!! バカ犬ーっ!!!」

 ……そうしてその夜、トンマンとピダムの五年来の関係には、大きな大きなヒビが入ったのだった。



* * *

長い!(汗)すみません、お試しと言うことで一話にしたら、とんでもない長さに…。
個人的には恋愛ものと言うよりはペットものとして書きましたが(恋愛は、この話ならユシンとでも出来そうな気が!笑)、自由にお楽しみ頂ければ何よりです。
とりあえず、ずっと全裸でスマン、ピダム。(全くだ)
関連記事
スポンサーサイト
  1. 2010.12.23(木) _00:26:57
  2. SS(パラレル系列)
  3.  コメント:0
  4. [ edit ]

<<お役立ち本と花郎世紀。 | BLOG TOP | 連載番外 蕾が開く夜に<微修正>>>

comment


 管理者にだけ表示を許可する
 




PAGE
TOP

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。