善徳女王の感想と二次創作を中心に活動中。

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リレー連載『偽りが変化(か)わるとき ~砂漠編』  by 緋翠

リレー連載第14話ですーv
今回は管理人・緋翠担当です。区切り方とか文章に癖があるので、最初から読んで下さっている方は、そろそろ本文を見ただけでどちらが書いたのかお察し頂けるのではないかと思います!(そうか?)

この辺では茶葉が問題になっていますが、ドラマでトンマンが煉瓦状に固めたお茶は、韓国語の字幕では「甎茶」と表記されています。ただ、「甎」の俗字は「磚」なので、日本語バージョンでは「磚茶」と表記されていると言う…。
どちらがよりしっくり来るんでしょうか。


* *


 子供のすることだと思っていても、剣捌きを見ると目の色が変わってしまうのは、やはりこの身に染み付いた性だろうか。
 ピダムが駆け、跳躍し、木剣を振り上げる様がいやにゆっくりと見える。思わず目を眇めたチルスクはいつの間にか、まだまだ脇も甘く、隙も多い少年の鍛錬を花郎としての目で観察していた。
 まだ身体が出来上がっていない少年であるピダムの剣は、力には欠けているものの、勢いと素早さはある。体力があるからか、動きに無駄も多かったが、身体能力の高さは一目でわかった。良い師に出会い鍛えられれば、チルスクとも打ち合えるような剣の使い手になるだろう。何より、黙々と鍛錬を続ける様が彼の上達を保証している。

「兄さんったら、また剣の稽古ばかりして」

 一方で、娘はチルスクとは違う風に感じたらしい。

「兵士にでもなる気なのかな。最近、見回りする兵士が増えてるし」

 盗賊が現れたわけでもないのに、諸侯が変わってから街中を歩く兵隊が増えた、とぶつぶつ愚痴を溢すトンマンを見下ろすチルスクの眼に、瞬時に警戒の色が走る。チルスク自身はこの地を治める諸侯が長江の畔からやって来たことをすでに知ってはいたが、この娘も世の動きに並々ならぬ関心があるのだろうか。
 けれどもトンマンはチルスクに特に真新しい情報をもたらすことなく、ピダムに声をかけていた。

「兄さん! ちゃんとお湯は湧かした? 灯りの火は?」

 それなりの速さで振り下ろされている木剣を怖れる様子もなくつかつかと近付いていく娘をチルスクが注視していると、さすがに木剣の届く位置程度は心得ているのか、トンマンはちょうどギリギリ間合いに入らない位置でぴたりと止まった。
 妹の声にすぐさま木剣を止めたピダムは、慣れた様子で木剣を背後に回した。

「ちゃんとやったって! それより、危ないから近付くなっていつも言ってるだろ。それより、どこに行ってたんだ? 厩舎か」
「うん。『あれ』も見てきたんだけど、完成まであとちょっとみたい」
「そうか。じゃあ、商人達の滞在中に何とかなるかな」

 あれ、とは一体何のことだろう。
 客人であるにも関わらず、ピダムにしっしっと手で追い払われたチルスクは、埃っぽい風に煽られて吊るされた木が立てる乾いた音に入り交じる二人の声に後ろ髪を引かれつつ宿に入った。



 ところが、「今日はもうこれで手伝いは終わりだろう」と言うチルスクの願望はあっさり破られた。荷物を置き、砂を払って部屋で喉を潤していると、またしても娘が彼を呼びに来たのだ。

「今から朝御飯だから、手伝って! 『あさ』! 『ごはん』!」
「……なんだ?」
「ローマ語で、朝と、御飯って意味だよ。どっちも大事でしょ?」
「…………」
「生活の中で覚えていくのが一番だから」
「……」

 白い歯を見せて笑うトンマンに従って階下に向かいながら、チルスクは小さな小さな声で二つの言葉を繰り返した。……この様子では、どうやら卓に座って筆を手に懇切丁寧に教授される、などと言うことはまず有り得ないだろうと判断して。



「あれ? チルスクじゃないか。君もお手伝いかい?」
「……」

 階下では、すでに商人達が自分達の朝餉を台所から運んでいた。昨日は旅の疲れからか朝が遅かった為に気付かなかったが、カターン曰く、この宿に泊まる者達は皆朝は台所へ自分の食事を取りに行くのだと言う。

「私達は王様でも貴族様でもないからね。じゃあ」
「!」

 またしても尻を叩いて行こうとするカターンの手をすり抜け、チルスクは台所へ足早に去った。いい年をして潔癖な反応を見せるチルスクをからかってご機嫌のカターンは、仲間達の待つ卓へ腰掛けた。
 台所へ入ると、ピダムが料理を豪快に大皿によそっている隣で、トンマンは何かを煮込んでいた。見ると、粥に似た料理だった。

「あ、おじさん! そこに水差しがあるから、皆についできてくれる? それが終わったら、一緒に朝御飯食べようねー」
「俺達の分がなくならないように上手くつげよ!」
「…………」

 人使いが荒い子供達に見送られて再び広間に戻ると、チルスクはきちんと量を計算して水をついでいった。つがれる方も、宿屋の者ではなくとも水差しを持っていれば手伝いをしているのだとすぐに察して、さっと器を差し出してくる。
 そのついでに、覚えたばかりのローマの言葉で挨拶をしてみれば、ちゃんと通じて挨拶を返され、チルスクはホッと胸を撫で下ろした。どうやら、嘘を教えられたわけではないようだ。
 その時、台所から膳を手にトンマンが出てきて、二階へと上がって行った。

「……?」

 目を細めてその後ろ姿を見つめるチルスクの耳に、カターンの言葉が入ってくる。

「おかみさんは今朝も調子が悪いみたいだね。トンマンもピダムも、気掛かりだろう」
「……よく倒れるのか?」
「ああ、ちょっとでも無理をすると身体が参っちゃうんだ。トンマンとピダムが小さい頃は、働き過ぎてしょっちゅう倒れてたって聞いてる。二人が必死になって鍛えたりお金を稼ごうとするのも、母親に楽をさせる為さ」
「……」
「優しくて健気なところが親子でそっくりだよ」

 慈愛たっぷりに語るカターンの差し出す器に水をつぐと、チルスクは仄かな吐息をついてまた卓の間を歩いた。
 昨日もこの一家について好意的な意見をたくさん聞いたものだったが、カターンの言葉はそれらの評価をさらに強固にした。この好意的な商人が一家を何くれとなく気遣い、格別な配慮をしていることは事実で、それ故に贔屓しているところもあるのだろうが、今のところ彼が知り得る範囲では、このオアシスに住まう者達も宿に逗留する者達も、皆一家が多幸に恵まれるよう望んでいる。
 チルスクもまたそれを望んで、親子ほども年の離れた娘の言うなりにその手伝いを続けていた。



 二階の端にある部屋に入ったトンマンは、膳を引っくり返さないようにそうっと母の枕元へ置くと、自分の体温と母の体温を計り比べた。朝、起きた時は微熱があったが、今はもう熱は下がったようだ。
 額にあてられた掌の感触で目が覚めたのか、ゆっくりと瞼を上げたソファにトンマンは嬉しそうに顔を綻ばせた。

「母さん、おはよう。ご飯食べれる? お粥持ってきたの」
「トンマン……ごめんね、忙しいのに……」
「大丈夫! 母さん、起きられる?」
「ええ……」

 起き上がったソファは、膝の上に膳を置いて粥を飲んだ。その粥は、甘かったり苦かったりどろどろとした液体になっていたりと、少々不出来だ。
 以前から病が篤くなる度にソファに粥を作っていたトンマンだったが、他のことは大抵出来るのに、粥を作るのだけは下手なのだ。何故かと言うと、食べやすいようにと煮込み過ぎ、身体にいいからと薬草を入れ、体力がつくからと甘いものも惜しみなく入れてしまうからだった。
 一度味見をしたピダムは正直に「不味い」と言い掛けたものの、あまりにトンマンが熱心な様子なので言い出せなくなったと言う。ソファもまた、トンマンの粥が身体にいいことは確かなので、味については何も言わなかった。ただ、微笑んで「ありがとう」とトンマンの頬を撫でた。ソファにとっても、それが一番の治療法だった。

「……そう言えば、宿はどう? 熱も下がったし、これを食べ終わったら私も行くわ」

 幾らか粥を口にして咽も潤ったソファは、安堵したのかきらきらと瞳を輝かせているトンマンにそっと話しかけた。

「いいのいいの! 手は足りてるよ」

 トンマンは笑ってソファの肩に上着をかけたが、ソファは頷かなかった。子供達が病弱な彼女に気を遣ってばかりいることを、彼女もまた、よくわかっているのだ。

「でも、今はお客さんも多いし……」
「大丈夫だってば! 一昨日からいるあの大きなおじさんにも手伝ってもらってるから、安心して」
「え?」

 ――まさか。
 大きなおじさん、と聞いて、ふいにその姿が浮かび上がった。鶏林から来たと言う、一人の男。

「……トンマン、お客様に手伝わせては駄目よ」
「ううん、あのね、おじさんには、ローマの言葉を教える代わりに手伝ってもらってるの。だから大丈――」
「いいえ、それでも駄目よ。止めなさい……!」
「母さん?」

 突然意気込んだソファに驚いたのか、少し仰け反ったトンマンを見て、ソファははたと我に返った。
 ――余計なことを言って、怪しまれでもしたら……。
 あの男がチルスクだとしても、まだ彼女がソファだと確信はついていないに違いない。何せ、ソファが連れて逃げた赤子は一人だ。兄のピダムがいる以上、あの男はソファの正体に確信は持てないはずだった。
 それなら。それならば、余計なことは言わない方がいい。

「……ごめんね、トンマン。なんでもないの。まだ朝御飯を食べてないんでしょう? 戻って、ピダムと食べなさい」
「母さん……?」
「ほら」
「……うん」

 トンマンは少しだけ母の様子を訝しがっていたが、結局は言われるままに階下へ戻った。
 一階では、早々に食事を終えたカターン達が、今日こそは諸侯から茶葉の売買の許可をもらわなければならないと意気込んでいた。
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  1. 2011.01.18(火) _00:41:58
  2. リレー小説『偽りが変化(か)わるとき』
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